江差線 失われた風景 2013.06.20-22

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 江差線2014年5月12日、江差線の木古内-江差間42.1kmが廃止となった。いろいろと思うところのある廃止である。管理人は2013年6月に江差を訪問し、江差線に乗った。木古内駅が近づいて、目に飛び込んできたのは北海道新幹線のための異様に巨大な高架橋である。新幹線に並行する在来線は、開業時にJRの経営から分離することが政治的に了承された過程で、江差線の木古内-五稜郭間は経営分離することとなったが、その煽りを食う形で、その末端部があっさりと廃止されることになった。

  これは北海道だけの事象ではなく、全国的に新幹線と並行する路線は各地で分離、あるいは廃止され、地方自治体の財政を圧迫したり、生活基盤が失われたりしている。その光景は、都市部への集中で、地方の衰退を象徴し、その行く末は、全体のゆるやかな衰退でしかないと思える。新幹線という強力なモルヒネによる一過性のカンフル効果に縋り付くしかない実情がある。

 管理人には在来線への思い入れが強い。北海道新幹線は札幌まで延伸する計画を持っている。しかし、当該路線の9割はトンネルだ。いま、在来線を利用して北海道に来る人は、函館湾の沖に美しく湾曲する海岸線を眺め、その先の函館山を道しるべに北海道の玄関口である函館に近づくのを見るだろう。札幌に向かうならば、大沼に映る駒ヶ岳の優美な姿、そして有珠山をはじめとする火山群に囲まれた絶景を眺めながら内浦湾を半周し、海に突き出した絵鞆半島の工業地帯と白鳥大橋を目にするだろう。そして、樽前山、風不死岳、恵庭岳といった美しい山々を見て、札幌に入っていく。紀行作家の宮脇俊三氏はその過程を、町に近づくための「序曲」であると評した。序曲のないオペラは、どうも本腰を入れて聴く気がしない。序曲にはオペラで使われる様々な動機が提案される。町へ近づくときに目にする風景には、その町とは切っても切れない様々な因果関係や土地の成り立ちを示す。そこに日常との差を感じ、旅情が生まれる。しかし、新幹線にはその感覚がない。長い闇を通り、札幌の地下ホームにたどり着く。通勤に利用する地下鉄のような感覚は、ビジネス的でノルマ的なものでしかない。そんな新幹線が、次々と在来線を追いやっていく。

 江差線の廃止部分は、「並行在来線」ですらなかったわけである。しかし、新幹線の開通の2年も前に、露と消えるように無くなってしまった。その路線は、旅情をたっぷりとはぐくんでくれる美しい車窓を持っていた。木古内から稲穂峠を越える急峻な山間を登る。夏場なら、新緑のカーテンをくぐり続けるような景色を堪能できる。分水嶺を越えると、山に囲まれた地に神明の趣深い駅舎がある。ここからは日本海に注ぐ「天の川」に沿って列車は走る。天の川は、小さな沢に端を発し、やがて古代の雰囲気を色濃く残すように大きく蛇行する川となる。上ノ国に至り、天の川が海へと消えていくと、今度は江差まで、広大な日本海を眺めて進んで行く。時間帯によっては夕陽に染まる金色の海を見晴らすことができた。

 本ページでは、そんな江差線を惜しみつつ、管理人が2013年6月にかの地を訪問した様子を、写真でまとめてみた。江差線の魅力の一端でも伝えることができたなら幸いである。


1.江差駅にて(2013年6月20日) 8.江差にて(2013年6月20,21日)
2.江差から木古内へ(2013年6月20日) 9.駅めぐり 上ノ国~渡島鶴岡(2013年6月21日)
3.木古内から函館へ(2013年6月20日) 10.函館にて(2013年6月21,22日)
4.函館駅と函館市電(2013年6月20日) 11.最後にもう一度江差線(木古内-江差)の線形をたどって(2013年6月22日)
5.函館から木古内へ(2013年6月20日) 12.江差から北へ・・檜山海岸の景色(2013年6月22日)
6.木古内から湯ノ岱へ(2013年6月20日) 13.檜山海岸風景(2016年9月24日)
7.湯ノ岱から江差へ(2013年6月20日) 1965年6月 江差線の時刻表
地形図で見る廃線区間 14.北斗市運動公園にて(2016年9月23日)


1.江差駅にて(2013年6月20日)

2013年6月20日江差駅の朝 駅前にあった江差の町並み案内。江戸時代以来の歴史があり名所も多い。 江差駅の単線折り返しのホーム
駅名標 駅は町の南端にある。北を望む。 江差駅の待合室。
江差駅に入線する普通列車。 江差8:09発の普通列車 運転席
中吊り広告。「知られざる江差線の旅」の字が見える 江差駅を出発 出発すると、右手に江差の住宅街を見ながら、高台を走る。

2.江差から木古内へ(2013年6月20日)

日本海を臨む。(江差-上ノ国) 日本海にそそぐ椴川(とどかわ)を渡る。(江差-上ノ国) 上ノ国を出ると、天の川沿いに開けた水田地帯を走る。(上ノ国-中須田)
天の川、水門が見える。(桂岡-宮越) 天の川の渓谷美。(宮越-湯ノ岱)
廃止区間で唯一交換が可能だった湯ノ岱駅。かつてはこの駅を始発・終着とする列車もあった。駅前は比較的大きな集落があり、利用者も多い。
湯ノ岱駅を出てすぐ右手に見える集落。(湯ノ岱-吉堀) 木古内駅が近づく。水田の向こうに工事中の北海道新幹線の高架橋が見える。(渡島鶴岡-木古内)


3.木古内から函館へ(2013年6月20日)

海峡線延長区間に入る。札苅駅 泉沢駅。木古内-五稜郭は単線電化区間であるめ、交換可能な駅は、長大な貨物列車がすれ違う規格となっている。
函館湾越しに函館山ぎ見える。右2枚は望遠撮影。(釜谷-渡島当別)
瀟洒な渡島当別駅の駅舎。 函館湾の美しい景色。(渡島当別-茂辺地)
函館湾の美しい景色。(渡島当別-茂辺地) 太平洋セメント上磯工場を大きく迂回する。(茂辺地-上磯)
上磯駅。人口4万8千人の北斗市の代表駅。 久根別駅
五稜郭機関区周辺 函館 10:21着


4.函館駅と函館市電(2013年6月20日)

函館駅 せっかくなので、函館市電に乗って観光 
函館市電 相馬株式会社の社屋 公会堂から見る函館港と函館湾
路地 函館市電の風景。1970年代の函館市電の様子はこちらから。


5.函館から木古内へ(2013年6月20日)

13:15函館発木古内行普通列車で江差へ 五稜郭駅 すれ違う列車
再び函館山を見る。(茂辺地-渡島当別) 北海道南岸の風景。(茂辺地-渡島当別)
北海道南岸の風景。(茂辺地-渡島当別) 釜谷駅
木古内14:18着 行き交うディーゼルカーたち。かつては松前線がこの駅から分岐していた。 駅名票 横には騒がしい看板がある
木古内駅に停車する特急白鳥


6.木古内から湯ノ岱へ(2013年6月20日)

木古内14:44発& 渡島鶴岡駅。駅前には公園がある。 田園風景を進む。(渡島鶴岡-吉堀)
吉堀駅 吉堀駅からは分水嶺(稲穂峠)を越えるための登りとなる。深い緑の中を行く。新鮮な空気が満ちる。(吉堀-神明)
木古内川の浸食による急峻な地形。(吉堀-神明) この付近は人家はなく、鉄路に沿う道路もない。廃止後は立ち入れないだろう。(吉堀-神明) 峠を越えた森閑たる山中に神明駅がある。小さな集落の唯一の交通機関といったところ。
神明駅 天の川に沿って進む。(神明-湯ノ岱)
北海道らしい田園風景を進む。(神明-湯ノ岱) 湯ノ岱の温泉施設が見える。(神明-湯ノ岱) 湯ノ岱駅
湯ノ岱駅前の様子 湯ノ岱駅。駅員がいる。


7.湯ノ岱から江差へ(2013年6月20日)

湯ノ岱15:20発 天の川(湯ノ岱-宮越) 宮越駅。木造の待合室。
宮越駅駅名票 宮越-桂岡間 桂岡駅
桂岡駅にて 桂岡-中須田 中須田駅
中須田駅ホーム 上ノ国駅ホーム 上ノ国駅
上ノ国駅の引込線。おそらく使用されていないのだろう。 日本海に出る。北海道内で、車窓から日本海を眺められる区間は少ない。(上ノ国-江差) 鴎島が見え、江差が近づく。(上ノ国-江差)
江差駅手前で、高台に上がる。(上ノ国-江差) 江差駅に入線。 江差15:51着
江差駅ホーム 片道1,790円 有人駅以外から乗車の場合、ワンマン運転のため整理券方式になる。行きの整理券。


地形図で見る廃線区間

国土地理院発行5万分の1地形図 1973年編集「江差」 
江差駅付近 駅は町の南の外れにあった
国土地理院発行5万分の1地形図 1976年編集「上ノ国」
上ノ国駅付近  上ノ国は集落形態としては分散。
役場は天の川を超えた反対側。
国土地理院発行5万分の1地形図 1976年編集「上ノ国」
中須田駅付近
国土地理院発行5万分の1地形図 1976年編集「上ノ国」
桂岡駅、宮越駅付近
国土地理院発行5万分の1地形図 1976年編集「上ノ国」
湯ノ岱駅付近
国土地理院発行5万分の1地形図 1973年編集「木古内」
神明駅付近
国土地理院発行5万分の1地形図 1973年編集「木古内」
吉堀駅付近
国土地理院発行5万分の1地形図 1973年編集「木古内」
渡島鶴岡駅付近


8.江差にて(2013年6月20,21日)

歴史ある港町、江差には古くからのお店も多い。 江差港。江戸時代の軍艦開陽丸。中を閲覧できる。 防波堤を伝って、鴎島へ徒歩で渡れる。
鷗島には、遊歩道が整備されていて、気持ちの良い散策路となっている。
鴎島から見る江差の街並み。 海の中を行く散策路。


9.駅めぐり 上ノ国~渡島鶴岡(2013年6月21日)

上ノ国駅。人口5千人の上ノ国町の代表駅。商工会との共用の駅舎。 右はかつて使用されていた側線
中須田駅 桂岡駅
桂岡駅には草に覆われた引込線跡があった。 宮越駅
天の川を渡る橋梁(宮越-湯ノ岱)。渓谷が美しい。 宮越-湯ノ岱間。写真奥が湯ノ岱。 湯ノ岱駅
湯ノ岱駅
湯ノ岱駅 神明駅。時間が止まったような静かな駅。
吉堀駅
渡島鶴岡駅。駅前が公園になっている。


10.函館にて(2013年6月21,22日)

赤レンガの倉庫街 函館市電 カレーが有名な五島軒
相馬邸。邸宅内部は有料で一般公開されている。屋内の写真撮影は禁止されている。 函館市東岸。陸繋島のなだらかな砂州の湾曲が良く見える。
立待岬。函館山の南岸は人を寄せ付けない断崖絶壁。 函館山中腹からみた函館市街。 函館市電
五稜郭タワー 五稜郭タワーから眺める函館市街。 五稜郭タワーから五稜郭を俯瞰。
復元された箱館奉行所。 箱館奉行所の内部。一般公開されている。


11.最後にもう一度江差線(木古内-江差)の線形をたどって(2013年6月22日)

江差線線路。吉堀-神明間
江差線線路。湯ノ岱-宮越間。 湯ノ岱-宮越間にあった駅を模したモニュメント。その名も「天の川駅」。北海道夢れいる倶楽部によって敷設された。列車は停車しないが駅名票を掲げていたこともあり、ファンにはちょっと知られた存在だった。
立ち寄ったときは、駅名票はなかった。 第2天の川踏切


12.江差から北へ・・檜山海岸の景色(2013年6月22日)

北海道の日本海側を通る道路は函館-小樽を「日本海追分ソーランライン」、小樽-稚内を「日本海オロロンライン」とよび、その美しい風景で知られている。訪問時は最後の未通区間だった道道740号線が開通したこともあり、江差から岩内までソーランラインを通ってみた。
北海道の日本海側は、小樽以外に大きな都市はなく、ひたすら自然の中を道路が伸びている。江差以北の檜山海岸は、周辺人口も少なく、すれ違う車もまばら。
せたな町の海岸。 利別川 瀬棚の三本杉岩。この二本から少し離れたところにもう一本があり、せたな町のランドマークとなっている。



13.檜山海岸風景(2016年9月24日)

国道228号線(松前町北部の海岸)。 上ノ国町、大澗ノ崎から、江差方面を望む。 江差町の鷗島。
乙部町、突符岬付近。 せたな町大成区の長磯海岸は奇岩、奇景が連続する。こちらは有名な親子熊岩。 せたな町大成区太田の風景。北海道の日本海側で最後に道路が開通した個所。正面の山は天狗岳(508m)。特徴的な要望で、江戸時代の松浦武四郎らの紀行文にも登場する。
せたな町の海岸。かつては函館線国縫駅を起点とする瀬棚線の終着だった。 せたな町の三本杉岩。 島牧村の海岸に沈む夕陽。
落日風景。島牧村にて。

1965年6月 江差線の時刻表

 江差線の姉妹線とでもよぶべき存在の松前線を併せて掲載した。函館―江差間を、毎日「おくしり」「えさし」「ひやま」の3つの準急が往復していた。3つの準急の中では「えさし」に松前行の準急「松前」が併結している。そのため、木古内駅での停車時間が5~7分と長めになっているが、上ノ国駅を通過するダイヤにより、タイムロスをいくぶん取り返していた。
 普通列車に目を転じると、江差-湯ノ岱、吉堀-木古内といった、興味深い区間運転列車が存在している。また、現在駅前に北斗市役所がある清川口駅は、当時は普通列車の中にも通過するものがあった。
 準急列車の停車駅は、江差線木古内駅、上ノ国駅、江差駅、松前線渡島福島駅、渡島吉岡駅、松前駅の6駅で、現在は特急が停車する五稜郭駅も通過扱いだった。他に自治体の代表駅でも、上磯駅、渡島知内駅は通過扱いとなっており、対照的に自治体の代表駅ではない停車駅の渡島吉岡駅と対照的である。
 なお、松前線の「碁盤坂駅」はのちの「千軒駅」。

 江差線、松前線沿線の人口を、1970年と2014年で比較すると、下記の通り。
  人口 1年あたりの人口増加率
  1970年 2014年 1970-1990年 1990-2014年
   江差線沿線  函館市 322,497 271,424 0.09% -0.88%
北斗市 34,375 47,011 0.78% 0.64%
木古内町 10,401 4,852 -1.24% -2.55%
上ノ国町 10,275 5,082 -1.23% -2.18%
江差町 14,896 8,746 -0.89% -1.84%
  松前線沿線
(1988年廃止)
知内町 7,213 4,748 -0.58% -1.43%
福島町 11,334 4,687 -1.42% -3.04%
松前町 18,624 7,977 -1.36% -2.91%

 1970年当時から江差線の江差-木古内間沿線より、松前線沿線の方が、人口が多く、利用者も松前線の方が多かった。線名の区分の関係で、松前線は1988年に廃止となっている。しかし、松前線廃止後、松前町、福島町では、江差線沿線に比べて人口減少が激しくなり、鉄道の廃止が過疎化に拍車をかけたことがわかる。なお知内町には、海峡線の開通により、湯ノ里駅付近に新設された知内駅により、鉄路は存続していた。(しかし、知内駅は、新幹線工事のため、2014年に廃止された。)


14.北斗市運動公園にて(2016年9月23日)

 道南いさりび鉄道の上磯駅から近い北斗市の運動公園には、かつて太平洋セメントで、原料である石灰石の搬送に使用されていた日本セメント上磯鉄道5号電気機関車が静態保存の上、展示してある。運転席に上がれるようになっており、運転席からは、かつてこの機関車が活躍していた太平洋セメントのプラントを遠望することができる。その間を道南いさりび鉄道の線路が通っており、貨物列車も行き交う。