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ヴォルフ



歌曲

メーリケ歌曲集(抜粋)
MS: ファスベンダー p: ティボーデ

レビュー日:2022.7.26
★★★★★ ヴォルフの「メーリケの詩による歌曲集」から25曲を選んでの名演奏
 フーゴ・ヴォルフ(Hugo Wolf 1860-1903)の代表作の一つとして知られる「メーリケの詩による歌曲集(Lieder nach Texten von Eduard Morike)」は、ドイツの詩人、エドゥアルト・メーリケ(Eduard Morike 1804-1875)の詩に基づく一連の歌曲群を指す。メーリケの詩は、ロマン派の作曲家たちによって、多くの歌曲が編まれているが、中でも、ヴォルフのものは名高い。
 当盤は、ドイツのメゾソプラノ、ブリギッテ・ファスベンダー(Brigitte Fassbaender 1939-)と、フランスのピアニスト、ジャン=イヴ・ティボーデ(Jean-Yves Thibaudet 1961-)によって、1992年に録音された選集となる。収録曲は以下の通り。
1) 第27曲 新年に(Zum neuen Jahr)
2) 第28曲 祈り(Gebet)
3) 第10曲 散歩(Fussreise)
4) 第15曲 旅先で(Auf einer Wanderung)
5) 第33曲 ペレグリーナ第1(Peregrina I, "Der Spiegel dieser treuen")
6) 第34曲 ペレグリーナ第2(Peregrina II, "Warum, Geliebte, denk ich")
7) 第36曲 さようなら(Lebe wohl)
8) 第12曲 隠棲(Verborgenheit)
9) 第23曲 古画によせて(Auf ein altes Bild)
10) 第25曲 眠る幼な子イエス(Schlafendes Jesuskind)
11) 第29曲 眠りに(An den Schlaf)
12) 第7曲 捨てられた女中(Das verlassene Magdlein)
13) 第14曲 明け方に(In der Fruhe)
14) 第46曲 ヴァイラの歌(Gesang Weylas)
15) 第13曲 春に(Im Fruhling)
16) 第39曲 考えてもみよ、ああ心よ(Denk' es, o Seele!)
17) 第17曲 園芸師(Der Gartner)
18) 第8曲 出会い(Begegnung)
19) 第9曲 飽くことを知らぬ恋(Nimmersatte Liebe)
20) 第2曲 少年と蜜蜂(Der Knabe und das Immlein)
21) 第51曲 ある結婚式(Bei einer Trauung)
22) 第48曲 こうのとりの使い(Storchenbotschaft)
23) 第52曲 問わず語り(Selbstgestandnis)
24) 第4曲 狩人の歌(Jagerlied)
25) 第44曲 炎の騎士(Der Feuerreiter)
 ヴォルフの歌曲の自然謳歌的な雰囲気や神秘的な要素を存分に湛えた素晴らしい録音と思う。ティボーデのピアノは、美麗で、音色そのものの美しさで聴き手を魅了するが、各曲の性格に沿って、壮麗であったり、耽美であったりと、絶妙なコントラストを演出している。ティボーデのピアノは、ファスベンダーの劇性の表出と瞑想的な表現に冴えた歌唱と、間断なく呼応することで、一つ一つの歌曲に、聴き手の想像力をかき立てる働きかけのある要素が盛り込まれている。そのため、1曲1曲は、おおむね短い作品であるにもかかわらず、とても聴きでのある内容となっている。
 個人的に特に好きなのは「眠りに」であり、その静謐で神秘的な雰囲気は、透明な青で彩色された夜の世界を彷彿とさせる。ティボーデのピアノの音色に、青を想像させる抑制的な力が働いているおり、それでいて透明な輝かしさが保たれていることが、まるで星の輝きを思わせ、ロマンティックなのだ。
 冒頭に「新年に」を配したプログラムも魅力的で、聴いていてとても流れが良い。有名な「散歩」「隠棲」「春に」なども、その曲の魅力を存分に引き出しているし、「明け方に」なども、ピアニスティックな効果が横溢している。
 曲集中、もっとも有名で劇的な「炎の騎士」が末尾に置かれているが、ここでも、ファスベンダーとティボーデは、力強くかつ清廉な響きを繰り広げており、鮮やかに帰結する。
 録音の品質も高く、ヴォルフの作品に馴染みたい人にとって、まず紹介してみたいアルバムの1枚です。


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