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ヴィエニアフスキ



協奏曲

ヴィエニアフスキ ヴァイオリン協奏曲 第1番 第2番 伝説曲  サラサーテ ツィゴイネルワイゼン
vn: シャハム フォスター指揮 ロンドン交響楽団

レビュー日:2022.6.23
★★★★★ ヴィエニアフスキの「ヴァイオリン協奏曲 第1番」の魅力を教えてくれる録音
 イスラエルのヴァイオリニスト、ギル・シャハム(Gil Shaham 1971-)と、アメリカの指揮者、ローレンス・フォスター(Lawrence Foster 1941-)指揮、ロンドン交響楽団の演奏で、下記の楽曲を収録したアルバム。
1) ヴィエニアフスキ(Henryk Wieniawski 1835-1880) ヴァイオリン協奏曲 第1番 嬰へ短調 op.14
2) ヴィエニアフスキ ヴァイオリン協奏曲 第2番 ニ短調 op.22
3) ヴィエニアフスキ 伝説曲 ト短調 op.17
4) サラサーテ(Pablo de Sarasate 1844-1908) ツィゴイネルワイゼン op.20
 1990年の録音。
 投稿日現在ですでに30年以上前の録音だが、私には思い入れのある録音であり、最近あらためて聴いてみて、感慨深かったので、レビューに書いてみる。
 私がこの録音に思い入れがあるのは、当盤を通じて、ヴィエニアアフスキのヴァイオリン協奏曲第1番という佳曲を知ったからである。第2番の方は、わりと有名で、古今、様々なヴァイオリニストが取り上げて、録音してくれるのだが、当盤が出た当時、他の録音と言えば、やはりイスラエルの名手であったパールマン(Itzhak Perlman 1945-)のものがあったくらいではないだろうか。私は、パールマンの録音を持っていなかったので、当録音を通じて、はじめてこの曲を知ったのであるが、「なんと美しい曲だろう」というのが、とにかく第1印象。冒頭から、ロマンティックな気分に満ちているが、やがて提示される第1主題は、典雅でありながら、ドラマを内包していて、そのメランコリーを湛えた情感が、抗いがたい魅力を持っている。シャハムのヴァイオリンがまた巧い。艶やかで、鋭さを抑え、とても清々しく伸びやか。またところどころ、決然たる音をキメて、楽曲の起伏を整える。確かに、この第1楽章は浪漫的なとりとめなさを持っていて、それは楽曲の欠点とも言えるのだけれど、シャハムの名演にかかると、途端にそれが魅力いっぱいのものに思えてくる。終盤にある豪華なカデンツァも美麗そのもの。第2楽章の抒情性、第3楽章の舞曲的な展開、ともに聴かせどころ満載で、いったいなぜ、世のヴァイオリニストたちは、さほどこの楽曲を取り上げないのか、私はいまだに疑問なのである。あるいは、このシャハムの演奏が、素晴らし過ぎるから遠慮しているのだろうか。
 ヴァイオリン協奏曲第2番は、遥かに知られた作品であり、確かにすぐに提示されるメロディは魅力的だし、第1番より構成感が落ち着いたものとなっていて、座りの良い音楽である。こちらもシャハムの演奏は美しく、フォスターの棒のもと、情熱的な暗さを宿したオーケストラのバックとよく呼応して、運動的な美観に優れた演奏を繰り広げる。決して、技巧的で素早しい耳にキツイ音を響かせない。もともとのメロディがもつ芳醇な香りを、自然発揚的に引き出し、十全に情熱的な歌を響かせる。第3楽章の技巧的な音の祭典は、躍動感に満ちて、エネルギッシュだ。
 伝説曲も美しい一品。まずオーケストラがこの曲特有の神秘的で霧の立ち込めるような雰囲気をよく作っているが、そこから導かれるヴァイオリンは、これまた雰囲気に満ちている。中間部の重音が連続する部分で、自在に軽重を操って、伸縮自在に色彩豊かな音を手繰る様は、まさに名人の芸と言って良い。
 末尾に収録された超有名曲「ツィゴイネルワイゼン」は、当アルバムでは、アンコール・ピース的な立ち位置となるが、こちらもシャハムの技術の素晴らしさ、激しいにもかかわらず、音がとげとげしくならない美観が維持されていて、感嘆させられる。


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