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ヴェーベルン



現代音楽

管弦楽のための変奏曲 交響曲 管弦楽のための5つの小品 カンタータ 第1番 第2番 眼の光 管弦楽伴奏による3つの歌曲
ブーレーズ指揮 ベルリンフィル BBCシンガーズ S: エルツェ B: フィンリー

レビュー日:2026.7.13
★★★★☆ 十二音技法に基づくヴェーベルン作品を精緻に再現した記録
 ピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez 1925-2016)がベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と録音した、ヴェーベルン(Anton Webern 1883-1945)作品のシリーズの末尾を飾る「第3弾」で、以下の楽曲が収録されている。
オーケストラのための5つの小品(5 Pieces for Orchestra) op.10
 1) 第1曲 きわめて静かに、そして繊細に (Sehr ruhig und zart (Bewegt))
 2) 第2曲 活発に、そして繊細に動いて (Lebhaft und zart bewegt (Langsam. Sostenuto))
 3) 第3曲 きわめて緩やかに、そしてまったく静かに(Sehr langsam und auserst ruhig (Sehr bewegte Viertel))
 4) 第4曲 緩やかな四分音符(Langsame Viertel)
 5) 第5曲 アラ・ブレーヴェ(Alla breve)
管弦楽伴奏による3つの歌曲(3 Lieder fur Stimme und Orchester)(遺作) op.post
 6) 第1曲 かすかな香り(Leise Dufte)
 7) 第2曲 来たれり日(Kunfttag)
 8) 第3曲 山々の穏やかな輝き(O sanftes Gluhn der Berge)
交響曲 op.21
 9) 第1楽章 静かに歩む速さで (Ruhig schreitend)
 10) 第2楽章 変奏曲(Variationen)
11) 眼の光(Das Augenlicht)(混声合唱と管弦楽のための)
カンタータ 第1番 op.29
 12) 第1曲 きらめく生命の稲妻(Zundender Lichtblitz)
 13) 第2曲 小さな翼を清らかな言葉に休めて(Kleiner Flugel Ahorn)
 14) 第3曲 温かい風が運ぶ香りは(Tonen die Worte)
15) 管弦楽のための変奏曲(Variations for Orchestra)op. 30
カンタータ 第2番 op.31
 16) 第1曲 静かな沈黙のなかに(Schweigt mir vom Retter)
 17) 第2曲 深い命に深く沈み(Tief verenkt)
 18) 第3曲 神の言葉の響きが聞こえる(Schopft aus den Gottern)
 19) 第4曲 軽やかな群れをなす夜の光(Leichteste Burden)
 20) 第5曲 愛にあふれる救い主よ(Freundlich Erretter)
 21) 第6曲 豊かな心から解き放たれて(Gelockert aus dem Schose)
 ソプラノ; クリスティアーネ・エルツェ(Christiane Oelze 1963-) 6,7,8,13,17,18,19,20,21)
 バス; ジェラルド・フィンリー(Gerald Finley 1960-) 16.18,20,21)
 合唱; BBCシンガーズ 11,12,14,18,19,20,21)
 1996年の録音。
 ヴェーベルンは新ウィーン楽派の一人であり、それまで200年以上続いた調性に基づく音楽から離れ、十二音技法による音楽、そして旋律ではなく、「音の点」が空間に散りばめられた「点描主義」と呼ばれる技法による音楽を書いた。当盤に収録されている楽曲は、いずれも、その立脚点に基づくもので、時代的には後期ロマン派~近代でありながら、便宜上「現代音楽」に分類されることが多い。聴いた感触も「現代音楽」であり、かつ、そう呼ばれるジャンルの音楽に、大きな影響を及ぼした作品である。
 ただ、それらの作品を聴いて、学術的な面白味や、音色の不思議さ、そして「音楽」を経て「哲学」へ思いを巡らせるといった思索性はあるものの、その音楽そのものから、大きな感情の動きが得られるか、というと、少なくとも私の場合はそうではなく、それは多くの音楽ファンに共通することだと思う。正直に言って、感覚的につかめない部分がすごく多いのである。
 ブーレーズは、これらの作品をよく研究し、演奏した。このアルバムから聴く響きは、非常に精緻でありながら、無感情と表現するより、色彩的な感覚を刺激する部分が多く、そういった意味で、ヴェーベルンの意図は、良く再現されているのだと思う。
 「オーケストラのための5つの小品」は、 5つの曲すべてが1分前後というヴェーベルンの「極小主義」の代表。管弦楽はトゥッティを用いず、フルート、マンドリン、ギター、グロッケンシュピールなどが音符をリレーし、その音色の変化で音響を構成する。ブーレーズの演奏は、一つ一つの音の音響美の極限を繊細に追及したもの。
 「管弦楽伴奏による3つの歌曲」は、初期に書かれた未発表作品で、そこにはロマン派の残り香も感じられる。ドイツの象徴詩人ゲオルゲ(Stefan George 1868-1933)の詩がテキストに用いられている。エルツェの透明感あふれるソプラノとロマン派の残照を思わせる退廃性が描き出される。
 「交響曲」はタイトルこそ「交響曲」であるが、演奏時間は10分程度であり、その音響楽器も各パート1人ずつの室内楽編成による。使用される音列(旋律とは言い難い)は、中央を境とする線対称のいわゆる回文構造を持っている。ブーレーズは、その対称性を音価や音色において、厳密な再現性を求めており、繊細なガラス細工を思わせる響きになっている。
 「眼の光」は、ヴェーベルンと親交の深かったヨーデ(Hildegard Jone 1891-1963)の詩に基づく作品。4声部によるコーラスも含めて、十二音技法に点画的な描写性、基づくポリフォニーが構築される。点があつまって構成される音が、輝きを感じさせ、不思議な神秘を宿している。
 2つのカンタータは、静謐さをベースとしながら、第1番では激しさを、第2番では神秘的な要素を併せ持つ。ブーレーズの意図に忠実な2人のソリストの透明な声が、楽器とともに巧妙に全体の形を作る。
 「管弦楽のための変奏曲」はヴェーベルンが最後に完成させたオーケストラ曲で、8分弱の演奏時間の中に主題と6つの変奏が織り込まれている。メロディを扱う変奏ではなく、音の間隔やリズム・パターンの変化により、色調変化を思わせる音響の変容が描かれる。ブーレーズの繊細な要求に応えるオーケストラの高い技術により、ふさわしい姿で奏される。
 いずれも、完成度の高い演奏であり、ヴェーベルンの意図がおそらく理想的に再現されていると考える。ただし、これを音楽として楽しんだり、親しんだりというという一般的な概念からは離れた芸術作品であることも確かで、正直に言うと、私もヴェーベルンの作品だけで構成されたCDを1枚聴きとおすのは、かなりの集中力と、消耗を伴う。芸術的成果の高さは感じられるが、聴き手にとっては、耳に厳しい、ハードルの高い「音楽」である。


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