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ウェーバー



交響曲

交響曲 第1番 第2番
マリナー指揮 アカデミー室内管弦楽団

レビュー日:2018.4.23
★★★★★ 録音機会の少ないウェーバーの交響曲ですが、爽快で楽しい曲です
 ネヴィル・マリナー(Neville Marriner 1924-2016)指揮、アカデミー室内管弦楽団によるウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826)の下記の2きょくの交響曲を収録。
1) 交響曲 第1番 ハ長調 op.19
2) 交響曲 第2番 ハ長調
 1982年の録音。
 ウェーバーが生涯に遺した交響曲は2曲だけで、その2曲がいずれも作曲者が20代になったばかりの1806~07年に書かれたハ長調の作品。どちらも演奏機会は少なく、録音も多くはないのだが、私は魅力的な作品だと思う。マリナーの録音は、やや古くなったとはいえ、対抗録音の少なさもあって、今なおこれらの楽曲の代表的な録音と言えるだろう。
 2曲の交響曲は、ともに古典的な4楽章構成の作品。モーツァルトのパリ交響曲(第31番)を下地としたと言われる1番の方がやや有名らしい。
 その第1番は、冒頭から活気にあふれた主題が提示され、ダイナミックに盛り上がる。確かにパリ交響曲、それにハフナー交響曲を彷彿とさせる闊達さで、金管、木管が鮮やかに絡んで、実に爽快な聴き味だ。ヴィヴィッドな主題も明快で魅力的といって良いだろう。随所で顔をのぞかせる木管楽器の重奏は、この作曲家の健康的な作風を明敏に示している。マリナーの演奏は、そんな楽曲の「生きの良さ」をシンプルに貴んだスタイルで、鮮やかだ。中間2楽章ではオーボエの扱いの上手さが特筆されるが、この楽器特有の情感を中心に、簡明に描かれた音楽が品の良い装飾で彩られていて、実に楽しい。終楽章はエネルギッシュな躍動感に満ちており、スピード感に溢れたマリナーの運びがことのほか頼もしい。各楽器の出番が設けてあるのも心憎い。モーツァルトのパリ交響曲を彷彿とする喜びを随所に見つけられる楽曲であり、演奏である。
 第2番も第1番と性格的な親近性が高い作品で、逆に言うと没個性的かもしれないが、心地よく音楽に身をゆだねられる。ただ、この楽曲の構成を俯瞰してみると、第1楽章、第2楽章の演奏時間がそれぞれ10分弱、5分弱なのに対し、第3楽章、第4楽章の演奏時間がそれぞれ1分半、2分半と極端に短いのは、なんとも不思議である。第2楽章のほの暗い牧歌調の情緒に浸るまでは、いっぱしの交響曲といった風情なのに、その後続となる2つの楽章が、つながりに不自然さはないとは言え、ずいぶんと短小で、あれ?という感じで切り上げられてしまう。あるいは、なにか作曲上の都合のようなものがあったのか、謎を感じさせるが、いずれにしてもマリナーの指揮は健康的でヴィヴィッドな魅力に満ち溢れている。
 CD化に際しても、LP時代の規格のままで、収録曲を増やさなかったため、当盤の収録時間は45分を満たない短いものとなっているが、ウェーバーの交響曲の魅力的な部分を、存分に味わわせてくれるスリリングな演奏となっており、私には、お気に入りの一枚となっている。

交響曲 第1番 第2番 ピアノ協奏曲 第1番 第2番 ピアノ小協奏曲 歌劇「オイリアンテ」 序曲 歌劇「アブ・ハッサン」 序曲 劇音楽「プレチオーザ」 序曲 歌劇「幽霊の支配者」 序曲 歌劇「オベロン」 序曲 序曲「歓呼」 歌劇「魔弾の射手」 序曲
マリナー指揮 アカデミー室内管弦楽団 p: レーゼル ブロムシュテット指揮 クーン指揮 シュターツカペレ・ドレスデン

レビュー日:2018.4.27
★★★★★ これはお得!ウェーバーの美しい音楽に浸れる3枚組Box-setです。
 Brilliant Classicsレーベルより、既存のウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826)作品を収録した3つのアルバムをまとめて再発売されたもの。良心的で、内容も優れた廉価Box-setとなっており、オススメだ。収録内容は以下の通り。
【CD1】
1) 交響曲 第1番 ハ長調 op.19
2) 交響曲 第2番 ハ長調
ネヴィル・マリナー(Neville Marriner 1924-2016)指揮 アカデミー室内管弦楽団 1982年録音
【CD2】
1) コンツェルトシュテュック ヘ短調 op.79
2) ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 op.11
3) ピアノ協奏曲 第2番 変ホ長調 op.32
ピアノ: ペーター・レーゼル(Peter Rosel 1945-) ブロムシュテット(Herbert Blomstedt 1927-)指揮 シュターツカペレ・ドレスデン 1984年録音
【CD3】
1) 歌劇「オイリアンテ」 序曲
2) 歌劇「アブ・ハッサン」 序曲
3) 劇音楽「プレチオーザ」 序曲
4) 歌劇「幽霊の支配者」 序曲
5) 歌劇「オベロン」 序曲
6) 序曲「歓呼」
7) 歌劇「魔弾の射手」 序曲
グスタフ・クーン(Gustav Kuhn 1945-)指揮 シュターツカペレ・ドレスデン 1985年録音
 モーツァルトのパリ交響曲(第31番)を下地としたと言われる交響曲第1番は、冒頭から活気にあふれた主題が提示され、ダイナミックに盛り上がる。確かにパリ交響曲、それにハフナー交響曲を彷彿とさせる闊達さで、金管、木管が鮮やかに絡んで、実に爽快な聴き味だ。ヴィヴィッドな主題も明快で魅力的といって良いだろう。随所で顔をのぞかせる木管楽器の重奏は、この作曲家の健康的な作風を明敏に示している。マリナーの演奏は、そんな楽曲の「生きの良さ」をシンプルに貴んだスタイルで、鮮やかだ。中間2楽章ではオーボエの扱いの上手さが特筆されるが、この楽器特有の情感を中心に、簡明に描かれた音楽が品の良い装飾で彩られていて、実に楽しい。終楽章はエネルギッシュな躍動感に満ちており、スピード感に溢れたマリナーの運びがことのほか頼もしい。各楽器の出番が設けてあるのも心憎い。モーツァルトのパリ交響曲を彷彿とする喜びを随所に見つけられる楽曲であり、演奏である。
 交響曲第2番も第1番と性格的な親近性が高い作品で、逆に言うと没個性的かもしれないが、心地よく音楽に身をゆだねられる。ただ、この楽曲の構成を俯瞰してみると、第1楽章、第2楽章の演奏時間がそれぞれ10分弱、5分弱なのに対し、第3楽章、第4楽章の演奏時間がそれぞれ1分半、2分半と極端に短いのは、なんとも不思議である。第2楽章のほの暗い牧歌調の情緒に浸るまでは、いっぱしの交響曲といった風情なのに、その後続となる2つの楽章が、つながりに不自然さはないとは言え、ずいぶんと短小で、あれ?という感じで切り上げられてしまう。あるいは、なにか作曲上の都合のようなものがあったのか、謎を感じさせるが、いずれにしてもマリナーの指揮は健康的でヴィヴィッドな魅力に満ち溢れている。
 コンツェルトシュテュックは、私がウェーバーの作品の中でもっとも好きな曲。切れ目なく演奏される4つの部分からなっていて、それぞれ、第1部は騎士を戦場に送り出した姫君の嘆き、第2部は姫君がさいなまされる恐ろしい妄想、第3部は騎士達の帰還、第4部は姫君の喜びを表現したとされる。ロマン派らしい情景的で情緒に溢れた佳作で、旋律の美しさ、森を感じさせる雰囲気に、存分に浸ったもの。レーゼルの演奏は、名盤として知られるブレンデルに比べると、とても真面目で内省的な面をじっくり丁寧に弾きあげた感じであり、聴き手によって、それぞれ一長一短もしくは好みが分かれるかもしれない。私は、全般に豊かなロマンの薫りがあふれるブレンデル盤を愛聴しているのだが、当盤のレーゼルのいかにも落ち着いた土の薫りのするような響きも捨てがたい魅力を持つものだと感じる。特に穏やかなシーンでの色調のシックな深みは、オーケストラの滋味に満ちた響きとともに、存分にデリカシーを感じさせるもので、この曲の魅力を良く伝えているものに違いない。有名なオクターヴのグリッサンド奏法も、十分な発色があって、好ましい。
 初期の作品といって良い2つのピアノ協奏曲の演奏は、これらの作品に捨てがたい風雅なものがあふれていることを示す。いずれも堅実で手堅い表現でまとめられているが、それがこの音楽の持つ古典的な調和性を鮮やかに描き出している。雄弁さより管弦楽との緊密さに配意したソロは、大人しい印象もあるが、常に響きは美しく、バランスが取れている。例えば第2協奏曲の緩徐楽章のような、弦楽器陣の暖かな音色に、レーゼルのピアノは馴染むように溶け込んでおり、ウェーバーの楽曲の規模にふさわしい表現に感じられる。
 オペラ指揮者として堅実な仕事をこなしているグスタフ・クーンによる序曲集は、収録曲集が7曲と多くはないが、均整の取れた表現をベースとしながら、序曲らしい活力を感じさせる好演ぞろいといったところ。クーンは、これらもの楽曲を一つ一つ特徴づけるような方法は用いず、むしろ普遍的なアプローチで純器楽曲としての正しい在り方を示すような方法を心掛ける。シュターツカペレ・ドレスデンが、よい音でこれに応える。ウェーバーの音楽には「森の響き」がある、と良く形容されるが、当盤は、いかにもドイツ的な中声部の充実した安定感のある響きで、それは土地にしっかり根付いたような力強さと結びつく印象を与える。全体にトーンは柔らかめかもしれないが、不用意に音が混ざることはなく、その配合はよく計算された中庸の美を示すものとなっている。
 「オベロン」序曲では、童話的な不思議さをたたえた不安と活力の交錯が鮮やかに描かれている。「幽霊の支配者」序曲では、このオーケストラらしい高度な調和を保った緊迫感があり、聴き手の気持ちを満たしてくれる。もっとも有名な「魔弾の射手」は、厳かな雰囲気を壊すことなく劇的な高揚を得ている。
 以上のように、3種の録音ともに作曲家ウェーバーの魅力を存分に味わわせてくれる薫り高いもので、廉価なセットとしては、十分過ぎるくらいに充実した内容といって良い。


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管弦楽曲

歌劇「魔弾の射手」 序曲 歌劇「オイリアンテ」 序曲 歌劇「アブ・ハッサン」 序曲 劇音楽「プレチオーザ」 序曲 歌劇「幽霊の支配者」 序曲 歌劇「オベロン」 序曲 序曲「歓呼」
クーン指揮 ドレスデン・シュターツカペレ

レビュー日:2018.4.25
★★★★★ 曲数は少ないけれど、演奏は充実しているウェーバーの序曲集
 オペラ指揮者として堅実な仕事をこなしているグスタフ・クーン(Gustav Kuhn 1945-)指揮、シュターツカペレ・ドレスデンによるウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826)の序曲集。収録曲は以下の通り。
1) 歌劇「オイリアンテ」 序曲
2) 歌劇「アブ・ハッサン」 序曲
3) 劇音楽「プレチオーザ」 序曲
4) 歌劇「幽霊の支配者」 序曲
5) 歌劇「オベロン」 序曲
6) 序曲「歓呼」
7) 歌劇「魔弾の射手」 序曲
 1985年の録音。
 ウェーバーはオペラ、劇音楽のジャンルで優れた功績を残した作曲家であるが、純器楽作品にも魅力的な作品を数多く書いており、その序曲も、馴染みやすいシンプルさとドイツ古典的な教養を感じさせるもので、優れた内容を誇っている。そのため、「序曲集」という形で製作されるアルバムも多い。
 当盤は7曲を収録している。収録時間が53分と短く、それであれば、ほかにも収録してほしい曲があったと感じさせるところが心残りとなってしまうのであるが、収録された内容は、均整の取れた表現をベースとしながら、序曲らしい活力を感じさせる好演ぞろいといったところ。
 クーンは、これらもの楽曲を一つ一つ特徴づけるような方法は用いず、むしろ普遍的なアプローチで純器楽曲としての正しい在り方を示すような方法を心掛ける。シュターツカペレ・ドレスデンが、よい音でこれに応える。ウェーバーの音楽には「森の響き」がある、と良く形容されるが、当盤は、いかにもドイツ的な中声部の充実した安定感のある響きで、それは土地にしっかり根付いたような力強さと結びつく印象を与える。全体にトーンは柔らかめかもしれないが、不用意に音が混ざることはなく、その配合はよく計算された中庸の美を示すものとなっている。
 「オベロン」序曲では、童話的な不思議さをたたえた不安と活力の交錯が鮮やかに描かれている。「幽霊の支配者」序曲では、このオーケストラらしい高度な調和を保った緊迫感があり、聴き手の気持ちを満たしてくれる。もっとも有名な「魔弾の射手」は、厳かな雰囲気を壊すことなく劇的な高揚を得ている。
 曲数は少ないとはいえ、序曲集のようなアルバムでしばしば感じられる内容の薄みとは無縁の、立派な彫像を感じさせる音楽であり、中央ヨーロッパの音楽の伝統を良心的に示す1枚といって良いと思う。


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協奏曲

ピアノ協奏曲 第1番 第2番 ピアノ小協奏曲(コンツェルトシュテュック)
p: デミジェンコ マッケラス指揮 スコティッシュ室内管弦楽団

レビュー日:2004.2.14
★★★★☆ ロマン派の森の響き
 ウェーバーのピアノ協奏曲(第1番、第2番、ピアノ小協奏曲)を収録。
 オペラの作曲家として名を馳せるウェーバーだが、初期の作品の中に愛らしいピアノ協奏曲集がある。
 当盤はハイペリオンによるロマン派のかくれたピアノ協奏曲を発掘するシリーズの10作目。まさにロマン派協奏曲の入り口という感じであるが、やはり古典性が色濃い。しかし、すでにウェーバー特有の狩の音色、森の響きが聴かれ、なかなか美しい表情のある佳作となっている。
 なお、ピアノ小協奏曲はかつてブレンデルがシューマンとのカップリングで録音し、フアンの間では、佳曲として愛好された。
 ピアノのデミジェンゴの技巧も確か。

ピアノ協奏曲 第1番 第2番 ピアノ小協奏曲(コンツェルトシュテュック)
p: レーゼル ブロムシュテット指揮 ドレスデン・シュターツカペレ

レビュー日:2018.4.16
★★★★★ ウェーバーのピアノ協奏曲の魅力を堅実に表現した良心的録音
 ドイツのピアニスト、ペーター・レーゼル(Peter Rosel 1945-)とブロムシュテット(Herbert Blomstedt 1927-)指揮シュターツカペレ・ドレスデンによるウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826)のピアノと管弦楽のための作品集。収録曲は以下の通り。
1) コンツェルトシュテュック ヘ短調 op.79
2) ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 op.11
3) ピアノ協奏曲 第2番 変ホ長調 op.32
 1984年の録音。
 いきなり私事で恐縮だが、ウェーバーのコンツェルトシュテックという曲には思い入れがある。かつて、私の家には、父が所有するブレンデル(Alfred Brendel 1931-)とアバド(Claudio Abbado 1933-2014)によるシューマンのピアノ協奏曲のLPがあった。そのシューマンは、当時から名演と称賛された録音だったのだが、私はむしろ、その裏面に収録されたウェーバーの「コンツェルトシュテック」の美しさに魅入り、それこそ何度も聴いたものだ。
 この楽曲は、切れ目なく演奏される4つの部分からなっていて、それぞれ、第1部は騎士を戦場に送り出した姫君の嘆き、第2部は姫君がさいなまされる恐ろしい妄想、第3部は騎士達の帰還、第4部は姫君の喜びを表現したとされる。ロマン派らしい情景的で情緒に溢れた佳作で、旋律の美しさ、森を感じさせる雰囲気に、存分に浸ったものだ。
 なので、この曲を聴くと、どうしてもそのことを想起してしまうのだが、この演奏も良い。ブレンデルに比べると、とても真面目で内省的な面をじっくり丁寧に弾きあげた感じであり、聴き手によって、それぞれ一長一短もしくは好みが分かれるかもしれない。私は、全般に豊かなロマンの薫りがあふれるブレンデル盤を愛聴しているのだが、当盤のレーゼルのいかにも落ち着いた土の薫りのするような響きも捨てがたい魅力を持つものだと感じる。特に穏やかなシーンでの色調のシックな深みは、オーケストラの滋味に満ちた響きとともに、存分にデリカシーを感じさせるもので、この曲の魅力を良く伝えているものに違いない。有名なオクターヴのグリッサンド奏法も、十分な発色があって、好ましい。
 初期の作品といって良い2つのピアノ協奏曲の演奏は、これらの作品に捨てがたい風雅なものがあふれていることを示す。いずれも堅実で手堅い表現でまとめられているが、それがこの音楽の持つ古典的な調和性を鮮やかに描き出している。雄弁さより管弦楽との緊密さに配意したソロは、大人しい印象もあるが、常に響きは美しく、バランスが取れている。例えば第2協奏曲の緩徐楽章のような、弦楽器陣の暖かな音色に、レーゼルのピアノは馴染むように溶け込んでおり、ウェーバーの楽曲の規模にふさわしい表現に感じられる。
 これらの楽曲にさらに雄弁な要素を期待する人には、デミジェンコ(Nikolai Demidenko 1955-)盤も素晴らしいが、このレーゼル盤もまた、渋くも捨てがたい魅力を持っている。

クラリネット協奏曲 第1番 第2番 クラリネットと管弦楽の為の小協奏曲
cl: マイヤー ブロムシュテット指揮 ドレスデン国立管弦楽団

レビュー日:2015.10.8
★★★★★ マイヤーのクールでありながら美麗なクラリネットが堪能できます
 ウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826)が生涯に書いたクラリネットと管弦楽のための3作品を集めたアルバム。クラリネットはザビーネ・マイヤー(Sabine Meyer 1960-)、ヘルベルト・ブロムシュテット(Herbert Blomstedt 1927-)指揮、ドレスデン国立管弦楽団の演奏で、1985年録音のアルバム。収録されている曲目は以下の通り。
1) クラリネット協奏曲 第1番 ヘ短調 op.73
2) クラリネットと管弦楽のための小協奏曲 ハ短調 op.26
3) クラリネット協奏曲 第2番 変ホ長調 op.74
 ウェーバーのこれらの楽曲は、他の作曲家の有名なクラリネットのための楽曲がそうであるように、とある奏者との出会いから生まれた。その人物は、ハインリヒ・ヨーゼフ・ベールマン(Heinrich Joseph Baermann 1784-1847)である。ウェーバーは、彼のクラリネットの妙技に感心し、クラリネットと管弦楽のための小協奏曲を書いた。その後、ベールマンがこの曲を演奏するのを聴いたバイエルン王マクシミリアン1世(Maximilian I 1756-1825)は、いたく感動し、ウェーバーにさらなる作曲を薦め、2曲の協奏曲があいついで書かれることとなった。
 ここでクラリネットを奏しているマイヤーは、ある年齢以上の世代にとっては、ある時期、カラヤン(Herbert von Karajan 1908-1989)とベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が対立する原因となった存在として知られる。(カラヤンがマイヤーの入団を薦めたが、オケがこれに反発した)。いずれにしても、帝王はマイヤーの才能(と美貌)をいたく気に入っていたと言われている。
 当録音で聴くマイヤーの演奏は、それは見事なもので、おおよそ技術的な原因により、テンポや、その他の表現が制約を受けているように思われるところは一切ない。全般にとてもなめらかでスムーズな音色は、クールな印象で、この楽器特有の華やかさは、それほど強調されていないが、しかし、とても気高い美しさを感じさせる。
 楽曲は、第1番の暗い森の中のような序奏が、彼の代表作である「魔弾の射手」を彷彿とさせるが、全般に先人たちの偉業の功績を踏まえながら、ロマンティシズムを湛えた音楽。特に、私には、第1番の第1楽章悲劇的要素はモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」、第2楽章の甘美さには、やはりモーツァルトのクラリネット協奏曲への憧憬のようなものが感じられるがいかがだろうか。第3楽章の古典的なロンドは、楽しげな楽想で、洒脱な味がある。
 小協奏曲は、実質的には3楽章構成の協奏曲という体裁になっているが、ウェーバーがクラリネットという楽器の特性をよく研究して書いた意欲作であり、魅力的だ。ウェーバーにはピアノと管弦楽のためにも、同じくらい魅力的な「小協奏曲」と題する楽曲を書いていて、これを彷彿としながら私は楽しんだ。
 協奏曲第2番は第1番の雰囲気からは一転して、伸びやかで明朗な音楽。やはり第2楽章に全曲のハートの部分があり、ここで聴き手はマイヤーのクラリネットにいよいよ酔うことが出来る。
 ブロムシュテットの指揮は、古典音楽の美意識に貫かれた中庸を重んじた演奏。独奏、オケとも十分な貫禄さえ感じさせる、正統的名演。


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室内楽

ヴァイオリンのオブリガートつきのピアノのための6つの段階的ソナタ 第1番 第2番 第3番 第4番 第5番 第6番 ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとピアノのための四重奏曲
vn: ファウスト p: メルニコフ va: ボリス・ファウスト vc: シュミット

レビュー日:2013.11.12
★★★★★ このような作品があったとは!ウェーバーの室内楽の発見
 イサベル・ファウスト(Isabelle Faust 1972-)のヴァイオリン、アレクサンドル・メルニコフ(Alexander Melnikov 1973-)のフォルテ・ピアノを中心とした2011年録音のウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826)の室内楽作品集。収録曲は以下の通り。
1) ヴァイオリン・ソナタ 第6番ハ長調 op.10-6
2) ヴァイオリン・ソナタ 第3番ニ長調 op.10-3
3) ヴァイオリン・ソナタ 第4番変ホ長調 op.10-4
4) 四重奏曲(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとピアノのための) 変ロ長調 op.8
5) ヴァイオリン・ソナタ 第2番ト長調 op.10-2
6) ヴァイオリン・ソナタ 第5番イ長調 op.10-5
7) ヴァイオリン・ソナタ 第1番ヘ長調 op.10-1
 なお四重奏曲では、イサベル・ファウストの兄であるボリス・ファウスト(Boris Faust)のヴィオラと、ヴォルフガング・エマニュエル・シュミット(Wolfgang Emanuel Schmidt)のチェロが加わる。
 私はウェーバーの室内楽をこのアルバムで初めて聴いた。ウェーバーという作曲家の名は、今日では「魔弾の射手」などのオペラの作家として知られる。また、ピアノ・ソナタにも美しい作品があるのだが、私は、そもそも彼が「ヴァイオリン・ソナタ」というジャンルに作品を遺していたとは知らなかった。
 しかし、聴いてみると、なんとも愛らしい素敵な作品で、私はずいぶん繰り返して聴いてしまった。これらのヴァイオリン・ソナタはモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)の同ジャンルの作品の延長線上にあるものととらえて問題ないと思う。つまり、全体的にピアノに主導的な役割が与えられていて、ヴァイオリンはその対になる部分を担当している。全体としては、そのような古典的なスタイルで整えられているが、旋律の持つ自由な歌の希求には、ロマン派の萌芽が感じられてならない。つまり、この時期にこそ誕生しえた貴重なソナタであると思う。
 ソナタ第5番の第1楽章、主要な主題をすべてピアノで歌い上げてからヴァイオリンが登場する様子に、このソナタたちの背景が象徴されている。一方、簡素なものであっても憂いを含んだ主題、例えばソナタ第1番の第2楽章など、いかにもロマンティックな要素を感じる。
 演奏も素晴らしい。ファウストは多彩な音色を使って、この音楽の“楽しさ”を存分に伝えてくれる。例えばソナタ第3番の第1楽章など、とても分かり易い箇所ではないだろうか。メルニコフの快活なピアノがまた絶妙だ。ピアノの主導的な役割を満足させる主張に満ちた前進性に溢れたピアニズム。運動美を活かしながら、旋律線の微笑ましい膨らみや喜びを存分に表現している。フォルテ・ピアノであるが、楽曲の遊戯的な性格が音色に良くあっていて、いかにも楽しげに響くのは好ましい。元来、重い音が不要な楽曲なのだ。
 四重奏曲も充実した楽曲で、ウェーバーとしてはヴァイオリン・ソナタよりも「やや上級な音楽」を目指したような気配がある。ちょっとした気品や香気を漂わすところが多くあり、そういった美点を的確に拾ったこの演奏は理想的といっていい内容ではないだろうか。いままで、これらの曲に録音がほとんどなかったのが不思議になる様な、魅力に満ちたアルバムとなっている。


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器楽曲

ウェーバー ピアノ・ソナタ 第2番  シューベルト ピアノ・ソナタ 第9番
p: ルイス

レビュー日:2019.4.8
★★★★★ ウェーバーと、シューベルト初期のソナタの魅力を深く掘り下げた名演
 ポール・ルイス(Paul Lewis 1972-)のピアノで、以下の2作品を収録したアルバム。
1) ウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826) ピアノ・ソナタ 第2番 変イ長調 op.39
2) シューベルト(Franz Schubert 1797-1828) ピアノ・ソナタ 第9番 ロ長調 D.575
 2017年録音。
 ルイスは、シューベルトの主要なピアノ作品を一通り録音しており、それらはいずれも素晴らしい内容だったが、このたびはあまり演奏される機会の多くはないソナタ第9番を取り上げてくれた。加えて注目したいのは、ウェーバーのピアノ・ソナタ第2番が一緒に収録されたことである。
 これらの2作品は、シューベルトのソナタが1817年、ウェーバーのソナタが1816年と、非常に近い時期に書かれている。そして、このウェーバーの作品は、作曲当時に従来の古典派ピアノ・ソナタとまったく異なる聴き味で、ずいぶんと人気を集めたらしい。現在の知識でかえりみえれば、それは、ピアノ・ソナタというジャンルにおける「ロマン派の幕開け」といってよい。
 しかし、この作品、現在ではあまり録音される機会がない。私がかつてこの曲を聴いたのは、ディーノ・チアーニ(Dino Ciani 1941-1974)の2種の録音で、そのロマンティックでさすらうような楽想に酔ったものである。
 思えば、ウェーバーのピアノ・ソナタ第2番には、シューベルトのピアノ作品に通じる要素が多い。第1楽章の序奏的な冒頭からゆっくりと情景を蓄えていく歩みは、シューベルトの最後のソナタを思わせるし、第2楽章の憧憬的な付点のフレーズは、どこかシューベルトの「ピアノ連弾のための幻想曲」を思い起こさせる。それに、第4楽章で繰り返される反復も、いよいよシューベルトっぽいではないか。
 そんな作品だから、シューベルトを得意とするルイスが弾いたら、素晴らしいに決まっているのである。ルイスは落ち着いた足取りで、ロマンティックな揺らぎの中から、きらめき出すメロディを巧みに掬い取る。格別に個性的なことをするわけではないが、音楽の情感はいつのまにか深まり、色彩的な広がりを獲得していく。その過程は、ロマン派の音楽を聴く喜びに直結している。また、甘味のある主題であっても、過度に甘ならない規律性が同時に会って、その構造的な解釈は、全体をわかりやすくしてくれる。第2楽章では、情感豊かなメロディが奏でながら、場面転換をくっきり描き出していくし、第3楽章では活力豊かな運動美を盛り上げる。第4楽章はとてもスムーズ。もっとメリハリの強さを望む人もいるかもしれないが、ルイスの演奏からは、高貴な香りが感じられ、私はそれがこの楽曲に相応しいと感じる。
 得意のシューベルトももちろん良い。右手のフレーズ、上昇、下降の明瞭な強弱に併せて左手が醸し出すアクセントの妙は、ともすれば平板になりがちな音楽に、陰影を与え、聴き手の心に働き替える力が強まる。もちろん、楽曲自体は、シューベルトの後期のソナタたちと比べると、単純で、旋律自体の魅力も今一つかもしれない。だが、ルイスは、他の演奏では見過ごしてしまうような細かい部分で、美しいニュアンスをもたらし、肉付き豊かな表現を導く。第2楽章のオクターヴ音、第4楽章の明朗さ、いずれも音楽的な作法の中で、もっとも効果的といって良いアクセントが施されていて、充実した響きに満ちている。
 ウェーバーの知られざる佳曲との組み合わせ、そしてシューベルト初期作品の解釈の掘り下げと、いずれもルイスらしい知的センスで、一つの魅力的なアルバムを形作っている。


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