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ヴィオッティ



協奏曲

ヴィオッティ ヴァイオリン協奏曲 第22番  ブラームス ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲  ドヴォルザーク  森の静けさ
vn: テツラフ vc: T.テツラフ P.ヤルヴィ指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団

レビュー日:2026.7.9
★★★★★ 友情と追悼の意が込められた味わい深い録音
 このアルバムは、2022年に、52歳の若さで亡くなったドイツのピアニスト、ラルス・フォークト(Lars Vogt 1970-2022)への追悼の意を込めて、彼と親交の深かった3人のアーティスト、クリスティアン・テツラフ(Christian Tetzlaff 1966-)、ターニャ・テツラフ(Tanja Tetzlaff 1973-)、パーヴォ・ヤルヴィ(Paavo Jarvi 1962-)を中心に製作された。収録曲は下記の通り。
1) ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897) ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 op.102
2) ヴィオッティ(Giovanni Battista Viotti 1755-1824) ヴァイオリン協奏曲 第22番 イ短調 W22/G.97
3) ドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904) 森の静けさ op.68-5
 1,2)のヴァイオリン独奏を、 クリスティアン・テツラフ、1,3)のチェロ独奏を ターニャ・テツラフが担い、パーヴォ・ヤルヴィ指揮、ベルリン・ドイツ管弦楽団の演奏で、2022年にスタジオ録音されている。
 選曲の意図について補足したい。ブラームスの二重協奏曲は、ブラームスが書いた最後の「管弦楽作品」であるとともに、親友ヨアヒム(Joseph Joachim 1831-1907)との和解の切っ掛けとなった作品であり、「永遠の友情」の象徴となるものだ。この曲が書かれる前、ヨアヒムは、妻アマーリエ(Amalie Joachim 1839-1899)が、ブラームスの楽譜出版元であるフリッツ・ジムロック(Fritz Simrock 1837-1901)と不倫関係にあると一方的に疑い、離婚訴訟を起こす。ブラームスはアマーリエの無実を信じ、アマーリエに励ましの手紙を送ったのだが、こともあろうにアマーリエはその手紙を裁判で証拠に使用したため、ブラームスとヨアヒムは絶好状態となる。しかし、その後、ブラームスは、ヨアヒムに、「以前の様に、作曲に助言を欲しい」と手紙を出す。そして書かれたのがこの「二重協奏曲」であり、2つの独奏弦楽器というスタイル自体が和解の証であったとされる。
 ヴィオッティのヴァイオリン協奏曲は、時代的に、モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)とベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827)の同ジャンルの名曲の間に書かれたものだが、ブラームスは、この曲を熱愛し、「二重協奏曲」にもその旋律を引用している(カデンツァの終盤で、ヴァイオリンとチェロが合流し、2オクターブにわたってユニゾンで上行し、そのままオーケストラのトゥッティへ至るところ)。また、ブラームスはヨアヒムが演奏するのを聴いて、この曲に惚れ込んだとされる。
 ドヴォルザークの「森の静けさ」は、それらの流れとは別に、単にそれ一曲だけで、哀悼を感じさせる佳作である。
 当盤の演奏についてであるが、個人的にとても良いと思ったのがヴィオッティのヴァイオリン協奏曲第22番である。ヴィオッティは、後に「フランス・ヴァイオリン楽派」を形成するロード(Pierre Rode 1774-1830)やクロイツェル(Rodolphe Kreutzer 1766-1831)を育てた人物であるが、彼がこの曲を書いた時代は、ちょうどヴァイオリンの弓が現代と同じ「トゥルテ・モデル」へと進化し、より強力で伸びやかな音が出せるようになった時であった。第22番はヴィオッティが、ヴァイオリンという楽器の表現能力の飛躍を踏まえ、それを最大限活用すべく書いた傑作であり、ベートーヴェンにも多大な影響を与えたものだ。テツラフの演奏は、この作品を古典派の典雅な作品としてではなく、初期ロマン派の傑作として、スケール大きく描き出している。両端楽章におっけるイ短調の暗い情熱的な旋律は、メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn 1809-1847)やシューマン(Robert Schumann 1810-1856)の協奏曲を思わせるようなロマン派的な緊迫感をもって激しく描き出される。フレーズの切り口もエネルギッシュでダイナミックだ。第2楽章の旋律も存分に歌い上げており、その様はベルカントと形容したいほど。またパーヴォ・ヤルヴィ指揮のオーケストラも、豊かな厚みを持ちながら重力を感じさせるスウィングがあり、情熱に満ちている。ロマン派のスタイルを積極的に取り入れた演奏は、この作品にふさわしいヴォルテージで聴き手に迫る。
 他の2曲も、もちろん悪くない。ブラームスの二重協奏曲では、第1楽章の深刻な諸相と、第2楽章の暖かな抒情のコントラストが明瞭だ。特に第2楽章における独奏ヴァイオリン、独奏チェロとオーケストラが作り出す優しい抒情は、聴く側にも「追悼」というイメージがあるからかもしれないが、奥行きの深い感動を呼び起こす。第3楽章は、演奏によって、大きく印象が異なる音楽ではないと思うが、それでも、躍動的で、オーケストラの表出力にも十分なものがあり、過不足ない。
 末尾のドヴォルザークの「森の静けさ」は、ターニャ・テツラフの追悼の意が切々と伝わってくるような静謐さがある。亡き人への感謝と別れの感情がチェロという楽器を通じて、聴き手に届けられる。


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