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ヴィラ=ロボス



器楽曲

「赤ちゃんの一族」第1組曲「お人形たち」 ブラジル風バッハ 第4番(ピアノのための)~第1曲:前奏曲(序奏) オリオン座の3つの星 野生の詩
p: フレイレ

レビュー日:2015.11.16
★★★★☆ ヴィラ=ロボスの野性味あふれる楽曲の性格をよく伝える録音
 ブラジルのピアニスト、ネルソン・フレイレ(Nelson Freire 1944-)による同郷の作曲家、ヴィラ=ロボス(Heitor Villa-Lobos 1887-1959)のピアノ独奏曲集。収録曲は以下の通り。
「赤ちゃんの一族」第1組曲「お人形たち」
 1) 陶磁器の人形(Branquinha)
 2) 紙人形(Moreninha)
 3) 粘土の人形(Caboclinha)
 4) ゴム人形(Mulatinha)
 5) 木の人形(Negrinha)
 6) ぼろ人形(Pobrezinha)
 7) 道化人形(Polichinelo)
 8) 魔女の人形(Bruxa)
9) ブラジル風バッハ 第4番(ピアノのための) から 第1曲 前奏曲(序奏)
10) オリオン座の3つの星
11) 野生の詩
 1973年の録音。収録時間は40分強と短い。
 ヴィラ=ロボスは1907年に国立音楽研究所に入り、何度もブラジル奥地の風俗・音楽の調査を行っている。これらの音楽の特異な性格を受けて、その作品にも強い民俗的個性が反映されるようになった。また、ミヨー(Darius Milhaud 1892-1974)との出会い、1923年からのパリ留学を経て、印象派的な手法も身に着けるようになった。とはいえ、彼の音楽の本質は、常に野生的なブラジル原住民の民俗音楽に根差している。
 当盤に収録された楽曲も、野性的な土俗性と印象派的な洗練が入り混じった性格のもの。
 「赤ちゃんの一族」と題された2つの組曲は、ヴィラ=ロボスの代表作の一つに数えられることが多い。個人的には冒頭の2曲が美しい作品で、特に第2曲は印象派の手法をよく再現した運動性が面白く、ドビュッシー(Claude Achille Debussy 1862-1918)の細かい音符が急速に展開する小品を思わせる効果が出ている。
 ヴィラ=ロボスの作品で、その名が特に知られている「ブラジル風バッハ」は、楽曲によって楽器編成も異なるが、当盤にはピアノのために書かれた第4番の前奏曲が収録されている。古典的で、情緒的な音階のフレーズが聴ける。ちょっとトッカータ風だが、バッハというほどでもないだろう。
 規模が大きいのは、最後に収録された「野生の詩」で、これは部分ごとに激しく荒れ狂ったり、夜の雰囲気に浸ったりする変化の激しい曲。ちょっと傾向の異なるものを数珠つなぎし過ぎている感も否めないけど、この作曲家の作品の性格を典型的に伝える音楽だ。
 フレイレは、これらの楽曲を実にダイナミックに弾きこなしていて、下手に型に嵌めようとしない開放的な音が響き渡っている。存分な音量で、楽曲によってはやや喧噪の趣もあるのだけれど、そのようなところのある楽曲である、と言える。これらの楽曲の録音が少ない中で、その姿を的確に伝えた貴重な録音の一つだろう。


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