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ヴァスクス



現代音楽

交響曲 第2番 ヴァイオリン協奏曲「遠い光」
ストルゴールズ指揮 タンペレフィル  vn: ストルゴールズ カンガス指揮 オストロボスニア室内管弦楽団

レビュー日:2005.1.8
★★★★☆ 20世紀末の「終末観」を描く作品
 ペテリス・ヴァスクスは、1946年にラトヴィアのレットランドで生まれた。 元はコントラバス奏者だったが1990年以降よりギドン・クレーメルやクロノス弦楽四重奏団によりその作品が知られるようになった。
 ヴァスクスはTVも音楽再生装置もない環境でトラディッショナルな音楽を聴きながら育ったらしい。その後コントラバス奏者としてビリニュスやリガで音楽を学びグレツキやルトスワフスキといった作曲家と親交を持ったという。このアルバムでは交響曲第2番とヴァイオリンと弦楽オーケストラのための協奏曲「遠き光」が収録されている。
 作風は北欧風のスタイルで吉松隆に似ているかもしれない。交響曲第2番は冒頭から重々しい荘厳にして民俗的な高揚感あふれる主題提示に圧倒される。ロマン派的な交響曲に比べて、「遠き光」はペルトやメシアンを彷彿とさせる不安な音色だ。
 また、交響曲も「遠き光」も楽章の切れ間が存在しない、いわゆる単一楽章形式で、緊張感に富んだ音楽となっている。
 トラディショナル音楽や近現代の作曲家の影響とともに、これらの作品には特有の暗さがある。それはある種の厭世的な「終末観」のようなものだと思う。実際ヴァスクスは時の流れの中でうつろいゆく人々の存在の不安定さのようなことにときおり言及するらしく、興味深いテーマだと思う。
 ちなみに交響曲はストルゴールズ指揮のタンペレフィル。「遠き光」は vn:ストルゴールズ カンガス指揮のオストロボスニア室内管弦楽団による演奏です。

ヴァイオリン協奏曲「遠い光」 「声」~弦楽オーケストラのための交響曲
vn: クレーメル クレメラータ・バルティカ

レビュー日:2007.9.10
★★★★★ 聴いていると暗くなっちゃうのですが・・
 ペテリス・ヴァスクス (Peteris Vasks 1946-)はラトヴィアの作曲家。北欧風のスタイルで吉松隆に似ているかもしれないが、緊張感がすさまじく高く、そういった点ではショスタコーヴィチにも通じている。
 ヴァイオリン協奏曲「遠い光」はすでに録音が何点かあり、ヴァスクスの代表曲と考えて差し支えないだろう。クレーメルの演奏はさすがにセンシティヴで、そのこまやかな神経が曲の持っている閉塞的ともいえる秩序を卓抜に感じ取り、ヴァイオリンで表現していると思う。伝わってくるものが重い。現代の作曲家に比較的共通することだけど、芸術作品のテーマに暗い世界観を宿していて、この問題啓発的ともいえる経過句の重なりが絶えず鳴り響く。この単一楽章の協奏曲では後半は急な様相が増えてくるため、その切迫感も差し迫っている。
 しかし、このアルバムでむしろ私が感心したのは併録された「声」~弦楽オーケストラのための交響曲である。もちろんこちらも緊張感の高い沈鬱ともいえるような重い楽想で、間違ってもカーステレオで聴けるしろものではないけれど(事故を起こしそうです)、重々しく重ねられるフレーズの退廃的な美しさはなんとも言えない雰囲気がある。第2楽章では鳥の声のような、しかし決して明るくないフレーズが耳に残る。第3楽章が圧倒的でここで「声」というタイトルが、実は芸術家のセンサーが現代社会から感じ取った「悲鳴」なのではないか、と感じられてならなくなる。中間部の叫びは強烈だと思う。そして繰り返す悲色の和音がフェードアウトしていくエンディングも印象的。
 ・・・確かに重いけど。


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