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ヴァンハル



交響曲

交響曲 ト短調 ニ長調 ハ短調
バーメルト指揮 ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ

レビュー日:2009.11.7
★★★★☆ ウィーン古典派の疾風怒濤運動交響曲を質の高い演奏で再現
 ヨハン・バプティスト・ヴァンハル(Johann Baptist Vanhal 1739-1813) はボヘミア出身のチェコの作曲家。ウィーンでモーツァルトやハイドンと同時期に活動していた。後半生は主君に仕えなかった、史上初の「独立作曲家」とされている。その作品には100以上の弦楽四重奏曲、少なくとも73の交響曲、95の宗教音楽のほか膨大な室内楽、器楽曲がある。交響曲はウィーン古典派の礎であり、ハイドンも好んで彼の交響曲を演奏したという。
 当ディスクにはト短調(g2)、ニ長調(D4)、ハ短調(c2)の3つの4楽章構成の交響曲が収録されている。バーメルト指揮ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの演奏で1997年の録音。
 ヴァンハルの短調の交響曲の多くは、当時の「疾風怒涛(Sturm und Drang)」運動に強く影響されたものと考えられ、ダイナミックな強弱記号や、瞬間の静寂が見受けられる。この運動の象徴作品はモーツァルトの交響曲第25番、ハイドンの交響曲第83番、クレメンティのソナタOp.34, No.2に代表される訳だが、ヴァンハルの場合より全般に作品に支配的な影を落としている。
 ここに収録されている3つの交響曲のうち短調の2曲、なかでもハ短調の作品が充実した内容を持っている。全楽章を通じて短調であり、その構成のアイデアはモーツァルトにも影響していると思う。ことに両端楽章のドラマ性が豊かで、かつ、ハイドン張りのシンフォニックな響きも味わえる。作品数自体が膨大で、そのことが聴く機会を遠ざけがちだと思うが、当盤はまず一枚ヴァンハルを聴いてみるのにうってつけだと思う。バーメルト指揮ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの演奏も楽風に合った典雅さとスピード感を内包していて、弦のサウンドが豊かなため、決して短小な楽曲という印象を与えない点が素晴らしい。ハイドンの中期の交響曲のように楽しむことができる。


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協奏曲

ヴァイオリン協奏曲  ト長調(Weinmann IIb:G1) ト長調(Weinmann IIb:G3) 変ロ長調(Weinmann IIb:Bb1)
vn: 西崎崇子 ミュラー=ブリュール指揮 ケルン室内管弦楽団

レビュー日:2020.8.12
★★★★★ 当時モーツァルトも弾いたかもしれない、ヴァンハルのヴァイオリン協奏曲たち
 西崎崇子(Nishizaki Takako 1944-)のヴァイオリン、ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Muller-Bruhl 1933-2012)指揮、ケルン室内管弦楽団の演奏で、ヨハン・バプティスト・ヴァンハル(Johann Baptist Vanhal 1739?1813)の以下の3作品を収録したアルバム。
1) ヴァイオリン協奏曲 ト長調 (Weinmann IIb:G1)
2) ヴァイオリン協奏曲 ト長調 (Weinmann IIb:G3)
3) ヴァイオリン協奏曲 変ロ長調 (Weinmann IIb:Bb1)
 2005年の録音。
 ヴァンハル(Johann Baptist Vanhal 1739?1813) はボヘミア出身のチェコの作曲家。ウィーンでモーツァルトやハイドンと同時期に活動していた。その作品には100以上の弦楽四重奏曲、少なくとも73の交響曲、95の宗教音楽のほか膨大な室内楽、器楽曲があると言われているが、録音等でその姿が明らかにされているものは限られている。
 ヴァンハルは農民出身のヴァイオリニストという経歴を持つ。シャフゴチ伯爵(Philipp Gotthard von Schaffgotsch 1716-1795)にその才を認められ、ウィーンに進出。1760年から1780年代にかけて、ウィーンでもっとも重要な作曲家の一人として見做されていたという。モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)とも親交があり、十代のモーツァルトが「ヴァンハルの変ロ長調のヴァイオリン協奏曲を演奏した」という記録が残されている。その記録がなされた後、モーツァルト自身が5つのヴァイオリン協奏曲を作曲することになる。ただ、その「変ロ長調のヴァイオリン協奏曲」が当盤に収録されている楽曲であるかはわからない。
 西崎崇子とミュラー=ブリュールは、ピリオド奏法を取り入れながらも、現代楽器によりこれらの楽曲を演奏している。その結果、スピード感とともにほどよい重量感が得られ、カデンツァも強く輝かしい響きが満ちたものとなっている。
 収録されている3つのヴァイオリン協奏曲は、いずれも1775年より前に作曲されたと考えられている。アレグロモデラート、アダージョ、アレグロという3つの楽章からなり、当盤における演奏時間はいずれも曲も20分以上であり、作曲された時代を踏まえると、比較的規模の大きいものと言えるだろう。
 最初に収録されているト長調の協奏曲が演奏時間27分を越えている。西崎のヴァイオリンは、細やかなパッセージを生き生きと表現したもので、洗練を感じさせるだけでなく、情感も豊かで、この楽曲に名品の薫りを漂わせている。2つ目に収録されているト長調の協奏曲は、よりカンタービレ的な性格が濃いと思われるが、ここでも存分な歌謡性を主張し、かつ締まるべきところは締まった古典的美観が貫かれている。最後に収録されている変ロ長調もメロディアスであり、また中間楽章には深刻な気配が感じられるが、ここでも独奏ヴァイオリン、オーケストラともども、切り替えの効いた表情付けがあり、楽曲を楽しく、分かりやすく聴かせてくれる。
 モーツァルトも聴いたり、あるいは弾いたりしたであろう協奏曲というイメージをもって聴くと、一層興味深い。これらの楽曲を、ふさわしい演奏で提供してくる当盤は、フアンにはありがたい存在となるだろう。


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