ヴァインベルグ
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チェロ・ソナタ 第1番 第2番 無伴奏チェロ・ソナタ 第1番 vc: シャウシヤン p: スドビン レビュー日:2013.7.24 |
★★★★☆ ヴァインベルクの作曲家としての力量を測る一枚
アレクサンドル・シャウシヤン(Alexander Chaushian 1977-)のチェロ、エフゲニー・スドビン(Yevgeny Sudbin 1980-)のピアノのよるモイセイ・ヴァインベルク(Moisey Vainberg 1919-1996)(もしくはポーランド名ミエチスワフ・ヴァインベルク Mieczyslaw Wajnberg)のチェロのための作品を集めた2006年録音のアルバム。収録曲は以下の通り。 1) チェロ・ソナタ 第1番 op.21 (1945) 2) 無伴奏チェロ・ソナタ 第1番 op.72 (1960) 3) チェロ・ソナタ 第2番 op.63 (1959) シャウシヤンはフレディ・ケンプ(Freddy Kempf 1977-)との共演でも知られる実力派チェリスト。またスドビンも意欲的なアルバムを次々とリリースしている個性豊かなピアニストであり、両者の共演という点でも興味が沸く。 ヴァインベルクは最近になって急に録音の増えてきた作曲家であるが、それまで、知名度は低く、クラシック音楽フアンの間でもその名を知る人は少なかった。現代でも彼の作曲家としての評価は様々で、まだまだ固まっていない部分が多い。彼を高く評価していたのはショスタコーヴィチ(Dmitrii Shostakovich 1906-1975)であるが、ヴァインベルクのスタイルが一見その亜流であり、確固たるオリジナリティを確保したのか、少なくとも音楽理論的には新保守主義であったのだが、それならそれで、魅力的で調性的な音楽を書いたかと言うと、そうとも言えないところがあり、何を持って評価するのかがはっきりしないところがあるのだろう。 私も、彼の音楽については、まだあまり聴いたことがないため、まだまだ謎の作曲家であるが、それでも、このディスクを聴くと、しっかりした作曲技法を身に着けた人だったということは言える。 ヴァインベルクはポーランド生まれのユダヤ人であったため、大戦中ナチスの迫害を逃れ、ソ連で活動するようになった。しかし、ソ連でもスターリン時代の反ユダヤ運動や、ジダーノフ批判によって、その芸術活動はまったく自由とは言い難かったようだ。ショスタコーヴィチをはじめとする他の音楽家たちの擁護もあって、活動は継続されたようだ。 そんなヴァインベルクの芸術哲学には、平和の希求と、世界の後背にある政治の闇への警告があるように思われるが、これもショスタコーヴィチに共通するもので、その音楽はアイロニーの成分を含んで響いてくる。 チェロ・ソナタ第1番は冒頭のチェロのモノローグからショスタコーヴィチやプロコフィエフの内省的な作品を思わせる。また、チェロという楽器の音域もその雰囲気に拍車をかける。主題はアンニュイな様子を含んでいて、明朗性からは遠い。 無伴奏チェロ・ソナタは技巧的な味付けが面白いと言えば面白い。特に第2楽章で、ピチカートを伴奏風に使うところなど、古典的な範囲での工夫をそれなりに施した様子があり、興味を持って聴いた。 音楽的な充実が素晴らしいのはチェロ・ソナタ第2番の終楽章で、これはショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲の前進力漲る部分を彷彿とさせるソノリティーと展開で、充実した出来栄え。この箇所だけで、ヴァインベルクの作曲家としての確かな力量は伝わったように思う。 他盤との比較は出来ないが、若い二人の作る音楽は、聴き易い音色で、これらの楽曲を適度に洗練させているように思う。 |