ウルマン
![]() |
歌劇「アトランティスの皇帝」 ヘルダーリン歌曲集 ツァグロセーク指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 T: クラウス Br: マツーラ Ms: フェルミリオン p: アルダー レビュー日:2006.5.21 |
★★★★★ ウルマンのメッセージを音楽とともに伝える録音です。
デッカによる退廃音楽シリーズの1枚。ヴィクトル・ウルマン (Viktor Ullmann 1898-1944)は旧チェコスロヴァキアの作曲家で指揮者。両親ともユダヤ系のカソリック教徒だった。テレージェンシュタット収容所で作曲活動を継続したのちアウシュヴィッツで殺害されている。 ウルマンの作風は全般にシェーンベルクの影響を受けていて(最初に国際的な名声を得た作品がピアノ曲「シェーンベルク変奏曲」である)、そこにアヴァンギャルド的な要素を交えて独自の世界を形成している。 歌劇「アトランティスの皇帝」は死の前年に完成した彼の代表作で、「死神の拒否」の別名でも知られている。人の死を司る死神が、皇帝の戦争行為によってその権威を冒涜されたことを知り、人の死を認めなくなる。舞台は「死のない世界」へ移る。処刑しても死なない人々。皇帝はやがて死のない世界を獲得した自分の成果を誇るが混乱は大きくなり、皇帝自らも発狂への道筋をたどる。最終的に、皇帝の死と引き換えに再び「死の秩序」を世界は取り戻す・・・その政治的メッセージは明白であろう。 音楽は非常に繊細であり、オーケストラ全体が大きな合奏となる場面はほとんどなく、細かいパーツごとに室内楽的書法とナレーション的なモノローグが多い。ピアノ、チェンバロ、そしてラジオ放送などの音色効果をたくみに織り成して、見事に世界観を描いている。 ツァグローセク以下の演奏は、正統的で精緻なものとなっており、作曲者の世界観がよく伝わってくると感じられる。 |