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ティペット



交響曲

交響曲 第4番 ビザンティウム 組曲「チャールズ皇太子の誕生日のための」
ショルティ指揮 シカゴ交響楽団 S: ロビンソン

レビュー日:2017.1.16
★★★★★ 近現代を代表するイギリスの作曲家、ティペットの作品
 ゲオルグ・ショルティ(Georg Solti 1912-1997)指揮、シカゴ交響楽団の演奏で、イギリスの作曲家、マイケル・ティペット(Michael Tipett 1905-1998)の3作品を収録したアルバム。収録内容と録音年は以下の通り。
ビザンティウム(1991年録音)
 1) 昼間の清められていない者たちの姿が遠ざかってゆく
 2) わたしの面前で、人間それとも亡霊のような姿が
 3) 奇跡か、鳥か、それとも黄金の手細工か
 4) 真夜中には、皇帝の大広間の通路で
 5) 汚辱と血にまみれたイルカにまたがって
6) 交響曲 第4番(提示部-展開部-緩除楽章-展開部II-スケルツォ-展開部III-フィナーレ(1979年録音)
7) 組曲 ニ長調「チャールズ皇太子の誕生日ための」(イントラーダ-ペルソース(子守歌)-行列と踊り-キャロル-フィナーレ)(1981年録音)
 最も古い録音が1979年の交響曲第4番であるが、最初期のデジタル録音によっており、アルバムを通じてデジタル録音の音源となる。ビザンティウムのソプラノ独唱はフェイ・ロビンソン(Faye Robinson 1943-)。
 ティペットは20世紀のイギリスを代表する作曲家である。第二次世界大戦中は、良心的兵役拒否によって、3か月間収監された経歴を持つが、その後世界は変わり、彼の音楽文化への高い功績が評価され、ナイトの称号を得ている。収録曲にある通り、英王室への機会音楽も、委嘱を受け、提供している。
 シカゴ交響楽団の創立100周年の際、同交響楽団から記念作品の作曲を委嘱されたティペットが書いたのが「ビザンティウム」で、この作品は管弦楽伴奏を伴う連作歌曲の体裁をとっている。テキストはティペットが敬愛するアイルランドの神秘主義詩人ウィリアム・バトラー・イェイツ(William Butler Yeats 1865-1939)のものが用いられている。ビザンティウムは東ローマ帝国の首都の名で、多様な文化、人種が流入したイメージが底辺にあるのだろう。シンセサイザー、トムトムといった楽器を含む大きな編成でありながら、微細なモチーフを組み合わせたモザイクが的音像を立ち上げていく書法で、当盤では歌手の好演と、管弦楽団の高い技術で、その技巧的色合いが鮮明に表現されている。
 交響曲第4番もシカゴ交響楽団からの委嘱作品で、全30分ほどの作品が一つの楽章によりまとめられる。シベリウスの第7交響曲やリストのファウスト交響曲を思わせる。特に「展開部」と銘打たれた部分で、弦楽器陣の対比の効果を強調しながら細かなフラグメントを積み上げるなど、技巧的な音楽という性格が強く、馴染みやすいものではないが、その全体的な複雑さ、ソノリティがもたらす緊迫感に、この作品の相貌を感じ取ることになるだろう。書法的には「ビザンティウム」と似た印象である。
 末尾に収録された作品は、さすがに祝典的な明るさをベースに持っている。アイルランド、フランス、イングランドの民謡をモチーフにした作品であるとのこと。
 いずれの録音も、世界最高レベルの技術を持ったオーケストラと、音楽の精緻な表現に長けたショルティによって、高い精度で再現されており、ティペットの作品がいかなるものであるのか、聴き手に正確に伝えられているという説得力のあるものとなっている。


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