トップへ戻る

テオドラキス



交響曲

交響曲 第7番
ケーゲル指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 プラハ放送児童合唱団 プラハ放送合唱団 リトアニア国立フィルハーモニー合唱団 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団合唱団 S: レヴァース A: ヴィオマジャロヴァ T: ラリナス B: エマーリヒ

レビュー日:2007.10.6
★★★★★ 現代ギリシアを代表する作曲家の作品
 ミキス・テオドラキス (Mikis Theodorakis 1925-)は、ギリシアの作曲家だが、その影響は芸術だけにとどまらず、広く政治・文化においても近現代ギリシアにおける重要な存在である。大戦期のレジスタンス活動や、長期に及ぶ獄中生活、民主化活動を経て政治家ともなった。作曲家としてはとくに映画音楽が有名で、「その男、ゾルバ」やイヴ・モンタンが主演した「Z」などが代表作。
 交響曲第7番は壮大なスケールを持った巨大な合唱を伴う作品で、彼の代表作の一つにふさわしい。「独唱、合唱と管弦楽のための春の交響曲」という別名もあるようだ。当録音は1987年のライヴ録音を収録したもので、指揮はヘルベルト・ケーゲル、演奏はドレスデンフィルに4つの合唱団(プラハ放送児童合唱団 プラハ放送合唱団 リトアニア国立フィルハーモニー合唱団 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団)、さらには4人の独唱者(レヴァース(S)、ヴィオマジャロヴァ(A)、ラリナス(T)、エマーリヒ(B))が加わったもので、実に気宇壮大な楽曲である。演奏時間は1時間弱。楽曲はいかにも豪放な映画音楽の大味な要素も併せ持ったもので、経過句の繰り返しや馴染みやすい旋律の反復効果を多用している。純粋に音楽的な深さがあるとはあまり感じないけれど、聴いてひて人を引き込む力があり、それは重要なことで、この作曲家の美点といえよう。
 終楽章は壮大なクライマックス・シーンが延々と持続するような趣であり、その汲めども汲みつくせないような情熱はテオドラキスの生き方そのもののようにも思える。


このページの先頭へ


管弦楽曲

バレエ音楽「ゾルバ」~ゾルバの帰還 リトル・スター マリーナ 未亡人の殺害 ハサピコ・ダンス ホーテンスの死 ゾルバの踊り 「謝肉祭」から3つの小品 アダージョ
デュトワ指揮 モントリオール管弦楽団 S: フォルティ fl: スミス モントリオール交響合唱団

レビュー日:2005.5.7
再レビュー日:2017.1.12
★★★★★ 現代ギリシアを代表する作曲家の作品
 ミキス・テオドラキス(Mikis Theodrakis 1925-)はギリシアのキオス島出身。若い頃は平和活動家としてもしられたが、後に映画音楽の世界で名をなす。代表作は「その男ゾルバ」「エレクトラ」などである。テオドラキスの作曲家としての力量はかのストラヴィンスキーでさえ賞賛を惜しまなかったそうだ。「その男ゾルバ」のサウンドトラックは現代ギリシアの歌の込められた作品として、高い価値が置かれている。
 一方、ここで聴かれるバレエ音楽「ゾルバ」に溢れる熱量は実に壮大だ。冒頭から力強い管弦楽の熱狂に導かれて合唱が始まりを告げる。その後ソプラノの歌唱を中心に抒情的な内容をもつ部分と情熱的で大きく盛りあがる部分が交錯して音楽が進んでいく。オーケストレーションの鮮烈な効果は実に見事だし、楽曲の構成感も卓越している。もちろんいわゆる現代音楽的な難しさはまったくなく純粋に楽しめる楽曲ばかりだ。
 これらの作品群にデュトワが録音を試みた価値はきわめて高い。
★★★★★ 芸術家「テオドラキス」の熱血性が伝わってくる美演録音です
 ギリシアの作曲家、ミキス・テオドラキス(Mikis Theodorakis 1925-)は、映画音楽を中心にその名を世界中に知られる作曲家である。また、テオドラキスはクラシックの様式に則った作品も多く書いたが、彼の政治活動の関係で、それらが積極的に演奏されなかった時期もある。テオドラキスの音楽は旋律的な魅力と熱血的な力強さに溢れ、また抒情的な部分でも詩情豊かで、実に人間的な機微の濃い音楽を書く。それは彼が左派政治活動家として長年活動し、第二次世界大戦下ではドイツの支配に強く抵抗し、その後ギリシアの独裁政治にも異を唱え続け、その度に流刑や投獄の仕打ちに耐え、ついに自由を勝ち得、音楽家として世界的な名声を得ながら、ギリシアの国会議員となり、祖国の民主化に力を尽くした彼の実像にも沿うものである。かつて彼の作品の扱いに困難さがあったのは、その政治的メッセージと切っても切り離せないものがあったからであるが、しかし、時代は進展し、現在では当然のように様々な音源が入手可能となったわけだ。
 当盤は、大手レーベルのDECCAが、名指揮者デュトワ(Charles Dutoit 1936-)を起用して製作されたテオドラキスの作品集となる。収録曲は以下の通り。
1) アダージョ~フルート、ストリングス、パーカッションのための
バレエ組曲「ゾルバ」抜粋
 2) シーン11「ゾルバの帰還」
 3) シーン14「リトル・スター」
 4) シーン15「マリーナ」
 5) シーン16「未亡人の殺害」
 6) シーン17「ハサピコ・ダンス」
 7) シーン18「ホーテンスの死」
 8) シーン21/22「ゾルバの踊り」
 9) シーン23「ゾルバの踊り」
バレエ組曲「謝肉祭」からの3つの小品
 10) 男の踊り
 11) 少女の踊り
 12) 愛の踊り
 「アダージョ」のフルート独奏はケネス・スミス(Kenneth Smith)、バレエ組曲「ゾルバ」のソプラノ独唱はイオアナ・フォルティ(Ioanna Forti 1974-)。バレエ組曲「ゾルバ」はモントリオール交響楽団と同合唱団による2000年の録音、「アダージョ」と「謝肉祭」はフィルハーモニア管弦楽団による2004年の録音。
 アルバムは短くも美しく一片の抒情詩のようなアダージョから開始される。引き続く「ゾルバ」は熱血的な音楽で、「ゾルバの帰還」から圧倒的な弦楽アンサンブルに導かれ、情熱的で美しい旋律が力強く表現される。映画音楽的な劇的要素が強く、たちまちのうちに音楽の世界に引き込まれる力強さに満ちている。合唱とオーケストラの呼応し合う様も勇壮な迫力がある。
 テオドラキスの音楽は、ギリシア音楽に素材を求めてはいるが、その作品はクラシック作品としての美観を見事に整わせたものとなっている。この点で、私はオーヴェルニュ民謡に素材を求めたジョゼフ・カントルーブ(Joseph Canteloube 1879-1957)の以下の言葉を思い出す。「民謡といっても、自然の野山に咲く野草として眺める場合はともかく、演奏会場にもってきて歌わせるものとする以上は、やはり芸術的、つまりは人工的、香りの高い手続きを経たものにすべきであって、本来の民謡自体はあくまでも素材の段階でとどまる。」
 私は「ゾルバ」の全曲を聴いたことはないのであるが、この抜粋で選ばれた曲たちはいずれも音楽的な魅力にあふれている。女声の独唱が加わることで、ファリャ(Manuel de Falla 1876-1946)の「恋は魔術師」を彷彿とさせるところもあるし、チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky 1840-1893)のバレエ音楽に通じる音色を見つけることもできる。「未亡人の殺害」もタイトルに似合わず、特に後半は元気いっぱいの音楽だし、「ゾルバの踊り」で音楽は一つの頂点を築き上げるのだが、その盛り上がりも見事だ。元気いっぱい楽しく聴ける音楽である。
 その後に収録された「謝肉祭」も美しい逸品。ギリシア近代史に強烈なエピソードを与えた芸術家の情熱が伝わってくる見事な録音となっている。


このページの先頭へ


器楽曲

テオドラキス 11の前奏曲 AST.44より 第7番 12のメロス AST.541より 第5番 ピアノのための小組曲 AST.90  カツァリス テオドラキスの「その男ゾルバ」による大幻想曲~ギリシャ狂詩曲  テオドラキスの歌曲による自発的な即興曲
p: カツァリス

レビュー日:2018.1.4
★★★★★ カツァリスの偉業
 超絶的な技巧を持つピアニスト、シプリアン・カツァリス(Cyprien Katsaris 1951-)によるとんでもない録音の登場だ。
 ギリシアの作曲家テオドラキス(Mikis Theodorakis 1925-)が、1964年に映画「その男ゾルバ」のために書いたスコアが、カツァリスによって、実に演奏時間53分に及ぶ壮大な「ピアノ・スコア」に様変わり。演奏と併せて、膨大な熱量を感じさせる凄まじいアルバムとなっている。
 カツァリスがこの構想を思いついたのは、80年代のはじめという。テオドラキスの作品に深く傾倒したカツァリスは、これをリスト(Franz Liszt 1811-1886)の「ハンガリー狂詩曲」の構想になぞらえて、「ギリシア狂詩曲」と銘打った10数分のピアノ曲にアレンジすることを思い立つ。しかし、次から次へとあふれ出る構想をまとめた結果、40年近い歳月を費やし、53分にも及ぶ長大なピアノ・スコアが完成したのである。そして、2017年になって、これが録音されたわけだ。
 「その男ゾルバ」の音楽は、その抜粋をデュトワ(Charles Dutoit 1936-)が録音しており、私もこれを聴いて馴染んでいるのであるが、カツァリスが扱った主題やモチーフはこれを上回り、さらにリストを彷彿とさせるヴィルトゥオジティ満載の演奏効果が全編によって散りばめられている。とにかく聴いていただきたい。開いた口が塞がらないほどの凄まじい技巧だ。また、カツァリスの音楽に立ち向かう気迫が全体の雰囲気をいやがうえにも熱血的に高め、聴き手に怒涛のように押し寄せてくる。無二の迫力と言って良い。
 とにかく、この53分の長編がものすごい聴きモノで、これだけでも大推薦なのであるが、カツァリスはさらに別曲を収録してくれている。
1) カツァリス テオドラキスの「その男ゾルバ」による大幻想曲~ギリシア狂詩曲
2) カツァリス テオドラキスの歌曲による自発的な即興曲
3) テオドラキス 11の前奏曲 AST.44より 第7番
4) テオドラキス 12のメロス AST.541より 第5番
5) テオドラキス ピアノのための小組曲 AST.90
 2)がまた見事で、テオドラキスが映画等のために書いた歌曲たちを集め、ロマンティックで狂詩曲風の一遍に仕上げたピアノ曲となっていて、こちらも演奏時間15分となかなかの規模だ。
 さらに、カツァリスは「テオドラキスが優れたピアノ・スコアの書き手であることを示すため、3-5)の各曲を加えており、この作曲家が技巧的なピアノ曲を自らの語法で開拓したことを示している。
 そのようなわけで、超充実サービスの78分間収録。これは是非とも推薦し、一人でも多くの人に聴いていただきたい、と心底思った一枚です。


このページの先頭へ