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テレマン



音楽史

リコーダーとフルートのための協奏曲ホ短調 ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ハ短調 2つのリコーダーのための協奏曲イ短調 フルート協奏曲ロ短調 オーボエ・ダ・モーレ、チェロのための協奏曲ニ長調 オーボエ、ヴァイオリン、2つのフルート、2つのヴィオラ、通奏低音のための協奏曲変ロ長調
カメラータ・ケルン

レビュー日:2012.6.23
★★★★★ テレマンの生気に溢れた器楽曲の魅力を堪能する一枚
 後期バロックを代表する作曲家、ゲオルグ・フィリップ・テレマン(Georg Philipp Telemann 1681-1767)の管楽器のための協奏曲集。ドイツの古楽器楽団、カメラータ・ケルンによる1996年の録音。収録曲と独奏者を以下に記す。
1) リコーダーとフルートのための協奏曲ホ短調 リコーダー:ミヒャエル・シュナイダー(Michael Schneider (Recorder) fl: カール・カイザーKarl Kaiser (Flute)
2) ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ハ短調 vn: マリー・ウティガー(Mary Utiger) ob: ハンス=ペーター・ヴェスターマン(Hans-Peter Westermann)
3) 2つのリコーダーのための協奏曲イ短調  リコーダー:マリタ・シャラー=ファウスト(Marita Schaar-Faust) ミヒャエル・シュナイダー
4) フルート協奏曲ロ短調 fl: カール・カイザー
5) 2つのオーボエ・ダ・モーレ、チェロのための協奏曲ニ長調 ob: ピート・ドント(Piet Dhont) ハンス=ペーター・ヴェスターマン
6) オーボエ、ヴァイオリン、2つのフルート、2つのヴィオラ、通奏低音のための協奏曲変ロ長調 fl: ミヒャエル・シュナイダー カール・カイザー vn: マリー・ウティガー ob: ハンス=ペーター・ヴェスターマン
 たいへん魅力的なアルバムだ。テレマンは,当時もっとも人気のある音楽家の1人で、バッハ、ヘンデルをしのぐほどであったとされる。ぼう大な数の作品を残しており、23年分以上の教会暦祝日のためのカンタータ、46に及ぶ受難曲、様々な宗教音楽と、40曲あまりのオペラを各地で書いた。しかし、今日では、バッハ、ヘンデルの影に隠れて、少し踏み込んでバロック音楽を聴く人以外には、それほど親しまれているとは言えないだろう。しかし、テレマンの優れた管弦楽法や和声の扱いは当時の水準をはるかに凌ぐもので、かつ緻密なポリフォニーと優美な旋律を兼ね備えた生気に満ちた音楽は、ロココへのエポックとも言える象徴性があるだけでなく、現代でも十分に通じる音楽的魅力を持っている。
 私もテレマンの膨大な作品の一部しか聴いたことがないのだけれど、このアルバムなど、テレマンの音楽の魅力を伝える恰好の一枚だと思う。
 リコーダーとは「縦型フルート」であり、これに対して現代まで伝わる「横型フルート」の起源がここで「フルート」として用いられているフラウト・トラヴェルソ(Flauto Traverso)になる。移調に制約のある演奏に特殊な練達を要する楽器である。一方、オーボエはオーボエ・ダモーレ(oboe d'amore)と称される古楽器で、こちらは当時すでにより多くの自由度を獲得しており、多くの協奏曲などが作曲されている。
 そのような楽器をカメラータ・ケルンは実に自在闊達に使いこなしている。音色の融合性、敏速な運動性とも圧巻だ。特に冒頭に収録された「リコーダーとフルートのための協奏曲ホ短調」が凄い。緩-急-緩-急の4楽章構成であるが、急速部分の凄まじい疾走感、展開力は聴いていて実に爽快。リコーダーとフラウト・トラヴェルソの掛け合いも実にチャーミングな色彩を引き出している。
 テレマンの音楽を聴いてみたいという人にはぜひオススメしたい一枚だ。

ヴィオラ・ダ・ガンバのための作品集
gamb: パール vn: ミュレヤンス フライブルク・バロックオーケストラ

レビュー日:2015.3.12
★★★★★ ヴィオールの暖かい響きに存分に浸ることのできるアルバムです
 ドイツのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、ヒレ・パール(Hille Perl 1965-)によるテレマン(Georg Philipp Telemann 1681-1767)のヴィオラ・ダ・ガンバのための作品集。2006年の録音。収録曲は以下の5曲。
1) ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ ロ短調
2) ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための協奏曲 ニ長調
3) ヴィオラ・ダ・ガンバ、2つのヴァイオリンと通奏低音のための協奏曲 イ長調
4) ヴィオラ・ダ・ガンバ、弦楽と通奏低音のための組曲 ニ長調
5) ヴィオラまたはヴィオラ・ダ・ガンバ、弦楽と通奏低音のための協奏曲 ト長調
 ヴィオラ・ダ・ガンバ以外の楽器は、ヴァイオリンのペトラ・ミュレヤンス(Petra Mullejans 1959-)ほかフライブルク・バロックオーケストラの団員による演奏。
 ヴィオラ・ダ・ガンバに代表されるヴィオール属の楽器は、16-17世紀に使用された弦楽器の一系統で、歴史的には中世のリベカやヴィエールのさまざまな種類と、後のヴァイオリン属との中間に位置するものである。音色が繊細で柔らかく、近代楽器に比べて輝きに乏しいので、演奏会場で使用されるよりむしろ室内で私的に演奏される方に向く。
 ヴィオール属のヴァイオリン属との相違点は、胴の上端の棹の付け根が盛り上がっていること、裏板が平らであること、通常の弦の数は6本で指板にフレットのあること、響孔がC字型でf字ではないこと、3度および4度音程で調弦されることなどである。元来は、弓を下から持ち、肩に押し付けることはせず、足で挟む、もしくは上に乗せるかして弾いた。ヴァイオリン属の興隆により、ほとんど演奏されなくなったが、近年の古楽復興により、再び広く演奏され、聴かれるようになってきた。ただし、現代のヴィオール奏法では、演奏姿勢などかつての通りではない。
 本来ヴィオラ・ダ・ガンバの呼称は、17世紀に分類されたトレブル、テノール、バスの大小3つのヴィオールのうち、バス・ヴィオールを指すが、ヴィオール類をまとめてそう表記することもある。
 ヴィオールは、駒の丸みが少なく、弦は細くて張力も弱いので、音量も限られていて、個別にひくよりも合奏に向くものであり、通奏低音などにはよく用いられた。しかし、テレマンはヴィオールのために、単独もしくは、ヴィオールをソロ楽器とする室内楽を多く書いた。ヴィオールのために多くの作品を遺したという点で、アーベル(Carl Friedrich Abel 1723-1787)と双璧といえる作曲家である。当盤に収録されているのは、そのような背景を持った作品である。
 これらの楽曲を聴くと、テレマンの作風が、バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)とは異なり、より親密というか家庭的なものであったことが、ヴィオールという内省的な楽器の性向と相性が良かったのだろう、と感じる。とても暖かな響きで、攻撃的なものはほとんど感じないが、適度な動きがあって、心地よい。その結果、聴き手には、幸福感に近い感覚が伝わるに違いない。個人的には、組曲ニ長調が特に充実した作品に感じられるが、楽曲ごとの性格を把握するというより、アルバム全体を通して、ヴィオールならではの雰囲気に浸るのが、これらの音楽への最適な接し方のようにも思える。
 一度は歴史の中で埋もれた楽器が再度注目されることで、今まで聴くことのできなかった楽曲たちに巡り合えることも、私には大きな喜びだ。

テレマン アルト・ブロックフレーテ協奏曲 ト短調(ハラッハ伯爵家コレクション) アルト・ブロックフレーテ協奏曲 ハ長調 TWV.51:C  グラウプナー 組曲(序曲)へ長調  シュッツ ブロックフレーテ協奏曲 ト長調
Bfl: オーバーリンガー ゲーベル指揮 アンサンブル1700

レビュー日:2015.4.6
★★★★☆ オーバーリンガーのブロックフレーテが見事です
 ドロテー・オーバーリンガー(Dorothee Oberlinger 1969-)のブロックフレーテ、ラインハルト・ゲーベル(Reinhard Goebel 1952-)指揮、アンサンブル1700の演奏によるドイツ・バロック期のブロックフレーテ協奏曲集。2008年の録音。収録曲は以下の通り。
1) テレマン(Georg Philipp Telemann 1681-1767) アルト・ブロックフレーテ協奏曲 ト短調
2) テレマン アルト・ブロックフレーテ協奏曲 ハ長調 TWV.51:C
3) クリストフ・グラウプナー(Christoph Graupner 1683-1760) 組曲 へ長調
4) ヨハン・クリストフ・シュッツ(Johann Christoph Schultze 1733-1813) ブロックフレーテ協奏曲 ト長調
 オーバーリンガーは現代を代表するブロックフレーテ奏者で、本アルバムでも、短時間に多くの美しい音を緊密にコントロールして奏でており、この古楽器の演奏上の制約を考えると、驚異的と言っていい技術を実感させられる。
 まず、テレマンの2作品が収録されているが、冒頭のト短調の作品は、オーストリアのハラッハ伯爵家コレクションから見つかったものの一つ。劇的な内容を持った音楽で、十分にバロックのレパートリー足りえる響きを聴かせる。テレマンのハ長調の協奏曲を挟んで、グラウプナーの組曲が収録されている。
 個人的に、当アルバムでいちばん注目したいのが、このグラウプナーの作品。グラウプナーは、最近でこそいくつかの録音が入手可能とはいえ、その機会は限られている。しかし、ここに収録された組曲の充実した美しさは、そのような境遇が冷たいものであったと思わせる。ガヴォットにおける弦楽合奏をバックとした装飾的で技巧的なブロックフレーテ・ソロの典雅さや、エアーにおける厳かな美しさは、当アルバムの白眉と言ってよいだろう。
 末尾に収録されたのは、ヨハン・クリストフ・シュッツの作品。シンフォニア・サクレで名高いハインリヒ・シュッツ(Heinrich Schutz 1585-1672)とは別人。ヨハン・クリストフ・シュッツの活躍した年代は、他のバロック作曲家と比較するとずっと後年で、ハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809)と同世代だから、すでに古典派の時代となる。しかし、当作品で聴かれる作風は、はるかにテレマンに近い。最後期のバロックという位置づけになるだろう。
 一通り通して聴くと、バロック音楽特有のメランコリーが漂いながらも、オーバーリンガーの精緻で精妙な演奏が、これらの作品の理想的な再現であるに違いない、と強く感じさせてくれる。あまり聴く機会のない作品たちではあるが、優れた演奏によって、その魅力は十二分に引き出されている。特にグラウプナーの作品を推薦したいと思う。


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