タネーエフ
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交響曲 第1番 第3番 ポリャンスキー指揮 ロシア国立管弦楽団 レビュー日:2007.7.21 |
★★★★☆ 第1交響曲は世界初録音になるそうです。
ポリャンスキー指揮とロシア国立管弦楽団によるシャンドスレーベルへのタネーエフ(Ivanovich Taneyev 1856-1915)の交響曲集第2弾。録音は2004年。2001年に録音された第2番&第4番と合わせて全4曲がリリースされたことになる。 タネーエフの交響曲第1番は作曲者の存命中には演奏機会がなかったばかりでなく、現在でもほとんど取り上げられることはない。本CDにも「世界初録音」と謳っているから、たぶんそうなのだろう。このようなジャンルに次々とクオリティーの高い録音を行っているポリャンスキーとシャンドスの目の付け所はさすがと思う。さて、この第1交響曲ですが、確かに魅力的なメロディに乏しく(そもそもタネーエフという作曲家はロシアでは珍しくメロディで勝負するタイプではないのですが)、演奏会などではなかなか取り上げ難いと感じます。しかし師であるチャイコフスキーの影は随所に感じられ、また緩徐楽章のない4楽章構成の交響曲は、「小ロシア」とよばれるチャイコフスキーの第2交響曲を彷彿とさせるものです。基本的には2管編成のオーケストラも、非常に古典的。 第3交響曲はずっと充実した出来栄えで、ここでは如実にブラームスの影響が感じられます。音の作り自体がいかにも「ブラームスを一生懸命勉強した」という感じで、微笑ましくもあります。特に終楽章の盛り上がりが全曲中でもいちばんの聴き所で、シフォニックな響きを存分に引き出した感があり、ます。ただ、タネーエフの交響曲を聴いたことがない、という人にはやはり第4交響曲の方が作品として充実しており、親しみやすくオススメです。 |
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交響曲 第2番 第4番 ポリャンスキー指揮 ロシア国立管弦楽団 レビュー日:2005.5.7 |
★★★★★ タネーエフの交響曲に待望の秀演が登場
録音に恵まれない楽曲を発掘してシャンドス・レーベルに続々と秀演を録音しているポリャンスキーによるタネーエフ(Sergey Ivanovich Taneyev 1856-1915)の交響曲集。 第2番と第4番を収録。 チャイコフスキーの薫陶を受けた作曲家だけあって、チャイコフスキーの影響を色濃く反映した楽曲だ。第2交響曲の冒頭、クラリネットとバズーンによる序奏は幻想序曲「ロメオとジュリエット」の雰囲気にそっくりだ。その後アレグロに入ると、迫真の展開となるが、主題自体はやや不安な雰囲気を持っている。ただ、いかにもロシアの灰色の空を思わせるメランコリックな雰囲気に酔わせてくれる。2楽章の木管も出色の美しさといっていい。 第4交響曲はタネーエフの代表作の一つであろう。根強いフアンも多いに違いない。冒頭からエネルギッシュな咆哮ではじまり、第1楽章はいくつものクライマックスを築き上げる。なかなか雄大でドラマティック!そしてもっとも充実しているのは第4楽章かもしれない。ここでも豊なサウンドで情熱的なパッセージを繰り出し、壮大なコーダへと導かれて行く・・・なかなか見事な演出だ。 これらの楽曲に、力任せでなく、オーケストラ・コントロールで美しいソノリティを実現したこの録音は、きわめて高く評価されていいだろう。 |
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ピアノ協奏曲 前奏曲 子守唄 主題と変奏 アレグロ アンダンティーノ エレジー 行進曲 4つの即興曲(アレンスキー、グラズノフ、ラフマニノフとの共作) 作曲家の誕生日 p: バノウェツ T. ザンデルリング指揮 モスクワ・ロシア・フィルハーモニー管弦楽団 p: ウォドニツキ ナレーション: アシュケナージ レビュー日:2011.12.13 |
★★★★☆ 純理論追及とロシア・ピアニズムに揺れた若き作曲家の未完の野心作
いきなり私事で恐縮だけれど、アシュケナージの弾くラフマニノフから深くクラシック音楽の世界に入ってきた。その後もアシュケナージの多くの録音で様々な楽曲を知った私は、いつしか彼の録音をすべて収集することを目的の一つにしている。彼はピアノだけでなく、指揮活動もしているので、その録音数は多く、なかなかやりがいのあるテーマと言える。これは中でも「珍版」の最たるもので、アシュケナージはなんと、「ナレーション」で参加している。 前置きはこのぐらいで、まずは内容の紹介だ。タネーエフ(Ivanovich Taneyev 1856-1915)のピアノ作品集。収録曲はピアノ協奏曲、それとソロ・ピアノ曲として、前奏曲、子守唄、主題と変奏、アレグロ、アンダンティーノ、エレジー、行進曲、4つの即興曲(アレンスキー、グラズノフ、ラフマニノフと1曲づつ共作したもの)、最後にナレーター、ピアノと4手のための「作曲家の誕生日」という作品。ピアノ曲はいずれも「小品」といった趣。 演奏者は、協奏曲のソリストが、アメリカのピアニスト、ジョゼフ・バノウェツ(Joseph Banowatz 1936-)で、トーマス・ザンデルリング(Thomas Sanderling 1942-)指揮モスクワ・ロシア・フィルの演奏。ソロ曲はポーランドのピアニスト、アダム・ウォドニツキ(Adam Wodnicki 1930-)の演奏。ナレーションはアシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)。以上の大ベテランたちが集まっての録音は2005年から2006年にかけて。ちなみにTOCCATAというレーベルは未知の作品、作曲家を積極的に紹介しているイギリスのレーベル。 アルバムのメインはやはりピアノ協奏曲だ。この作品はタネーエフが学生時代である19歳のときに作曲を開始している。2楽章までのスケッチが出来た段階で、タネーエフはこの作品を敬愛するチャイコフスキーをはじめ何人かの先輩に見て貰っている。しかし、その際、3人の先輩(アントン・ルビンシテイン、キュイ、リムスキー・コルサコフ)から批判的意見を受け、タネーエフは完成を放棄している。もったいない話だ。その結果、この曲は2楽章のみの未完作品となってしまい、その二つの楽章でさえ、オーケストラ譜はパヴェル・ラム(Pavel Lamm 1882-1951)によって補筆完成されたものだ。 タネーエフという人、ドイツを中心とした音楽理論を一生懸命勉強しながらも、ロシア的な濃厚なロマンティシズムを持ったチャイコフスキーに否応なく惹かれた人で、この協奏曲はそんな彼の二面性を端的に物語っている。ドイツのロマン派のピアニズムを意識し、重層な音響を目指しながらも、メロディや情緒はチャイコフスキーを目指す。ライナー・ノーツにあるように第1楽章のカデンツァの最初の和音はチャイコフスキーのピアノ協奏曲へのオマージュと考えて間違いない。そんな若きタネーエフの葛藤を内包したたっぷりした協奏曲だと思う。二人のピアニストは暖かめの音色と安定した技術が共通の特徴で、これらの音楽がどういう作品かというのがとてもわかりやすい演奏になっている。アシュケナージのナレーションは、フアンには興味深いが、それ以外の方にはご愛嬌といったところか。特に問題はないでしょう。 |
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ヴァイオリンと管弦楽のための協奏組曲 「デルフォのアポロンの神殿」間奏曲 歌劇「オレスティア」序曲 vn: クーシスト アシュケナージ指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団 レビュー日:2004.2.28 |
★★★★★ 情熱的なタネーエフのヴァイオリン協奏曲
タネーエフのヴァイオリンと管弦楽のための協奏組曲、「デルフォのアポロンの神殿」間奏曲、歌劇「オレスティア」序曲を収録。 ヴァイオリン独奏はクーシスト。オケはアシュケナージ指揮のヘルシンキ・フィル。 チャイコフスキーの愛弟子で、ラフマニノフやスクリャービンの恩師だったタネーエフは理論家としても有名で、ここに収められた3作も揺るぎない構成力と輝かしいオーケストレーションが目をひく。 中でも5つの楽章からなるヴァイオリン協奏曲は大曲だ。ロマンティックな導入部は忘れがたい魅力を秘める。クーシストの丁寧な音作りはアシュケナージのオケにビタリ! |
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ピアノ五重奏曲 ピアノ三重奏曲 p: プレトニョフ vn: レーピン グリンゴルツ va: 今井信子 vc: ハレル レビュー日:2005.8.20 |
★★★★☆ ロシアの異端作曲家(?)の本質を示した録音
タネーエフ(Ivanovich Taneyev 1856-1915)の評価が最近高まっている。チャイコフスキーの薫陶を受けながらもブラームス主義に基づいた重層的な音楽表現を試み、さの作曲理論はその後のロシア音楽界に大きな影響を与えた。彼の作品は濃厚なロシア・ロマンティシズムを感じさせるものではない。もちろん断言はできないが、少なくとも最も大切にした作曲理念はまさしく「理」の部分にあるのではなかろうか。このアルバムに収録された2曲にはとくにそれを強く感じた。 プレトニョフはタネーエフを高く評価しており、「バッハ以後で最も偉大なポリフォニスト」と賞賛している。ポリフォニストというのも、むしろ和声等の理論構築的側面といえるだろう。前述通り、タネーエフはロシア音楽史で重要な位置を占め、チャイコフスキーから、スクリャービン、ラフマニノフ、プロコフィエフへの重要な橋渡しをしている。橋渡しの役割を鑑みると、作品自体の内容も考えさせられるものだ。彼の作品は普遍性を求めている。 聴いてみると、ロシアの音楽家にあって、これほどドイツ的な重心を持った純器楽的発想で作品を書いた作曲家は稀有と思われる。彼の楽才がそもそもブラームス研究に端を発しているものをはっきりしめすのがこの2作品と言えよう。他のスラヴ系作曲家とはちょっと異質なのだ。これらの室内楽でも非常に緻密な処理を試みている。中でもピアノ五重奏曲の第2楽章はその作用が大いに発揮されている。試聴するならここがわかりやすいだろう。 ちなみにこのCDは82分超の長時間収録となっている。 |