タリス
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汝のほかにわれ望みなし めでたし清らかなおとめ ミサ曲「めでたし清らかなおとめ」 全ての心と口にて おお主よ、彼らを苦しめよ おお主よ、私は汝によびかけ サマリー指揮 オックスフォード・カメラータ レビュー日:2017.8.9 |
★★★★★ タリスの生誕500年を記念してナクソスが作製した1枚
イギリスの教会音楽の確立に大きな功績のあったタリス(Thomas Tallis 1505-1585)の生誕500年を記念して製作されたアルバム。ジェレミー・サマリー(Jeremy Summerly 1961-)指揮、オックスフォード・カメラータによる演奏で、以下の合唱作品を収録。 1) 汝のほかにわれ望みなし 2) めでたし清らかなおとめ 3) ミサ曲「めでたし清らかなおとめ」(グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイ) 4) 全ての心と口にて 5) おお主よ、彼らを苦しめよ 6) おお主よ、私は汝によびかけ 2005年の録音。 タリスは1540年までウォルサム・アベーのオルガにストを務めたのち、ヘンリー8世、エドワード6世、メアリ1世、エリザベス1世のもとで王室礼拝同付侍従を経て、王室礼拝堂オルガにストとなった人物。その作風は対位法の技巧に優れたもので、その象徴的な作品と言えるのが、当盤の冒頭に収録されている「汝のほかにわれ望みなし(Spem in alium non habui)」であり、なんと40声部のために書かれた作品である。これは、8人からなる合唱団5つが合同で演奏することを想定している。 このような音楽史に触れると、日本では戦国時代が幕を開けるころに、すでにここまで音楽の学術的な理論が追求され、かつそのスコアが現代にまで伝えられ、多くの人々に聴かれているヨーロッパの音楽文化の脈流の豊かさに、あらためて深く感じ入らずにはいれないのである。 当作品の演奏・録音環境について模索したサマリーは、40人の歌手を円上に等間隔に配置する方法を用いたと言う。当録音をCDで聴いた限りでは、透明感が維持され、不協和の美しさもほどよく再現されていると感じられる。これ以上望めない、とまでは考えないが、声の柔らかさ、そのサインカーブを思わせる起伏や減衰は、宗教的な厳かさを持って十分に伝わってくる。 23分に及ぶ長大な「めでたし清らかなおとめ」とミサ曲「めでたし清らかなおとめ」は共にルネサンス的なロマン性を湛えた宗教音楽であり、他方「全ての心と口にて」「おお主よ、彼らを苦しめよ」「おお主よ、私は汝によびかけ」の3曲は英語のテキストによる讃美歌として、タリスの作曲家としての立ち位置を物語るものとなるだろう。ミサ曲「めでたし清らかなおとめ」は高音と低音の対照の妙があり、どこか祭典的な雰囲気もある。 タリスの音楽は、教会音楽として、きわめて高い完成度を持つとともに、当時の音楽様式の先端をゆく気鋭さを持つものであったのだろう。学術的に貴重というだけでなく、現代の人々の心にも強く響く永遠の美しさを感じさせる曲たちである。 |