スーク
![]() |
交響曲 第2番「アスラエル交響曲」 アシュケナージ指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団 レビュー日:2009.2.14 |
★★★★★ 「アスラエル交響曲」の全貌を照らし出した名録音
前にどこかで同じことを書いたかもしれないが、指揮者アシュケナージは時折思いもかけない作品をファンに紹介してくれる。これもそんなディスク。収録曲はヨゼフ・スーク(Josef Suk 1874-1935 )の「アスラエル交響曲」だ。演奏はヘルシンキフィル。2008年のライヴ録音。ライヴで取り上げただけでなく、オンディーヌが録音してSACD(ハイブリッド盤)として発売したのも慧眼といえる。 スークはチェコの作曲家兼ヴァイオリニストで、作曲家としては国民学派的な作風が特徴。だがこの作品はちょっと違う。「アスラエル交響曲」・・・アスラエルは死の天使の名である。尊敬するドヴォルザークの死が作曲の動機となっており、スークによる純器楽のレクイエムと言える。2部5楽章からなる巨大な作品で、その標題性、耽美性、規模などが私にはリストやスクリャービンを連想させる。1,2楽章がともにアンダンテ、第4,5楽章がともにアダージョというのもきわめてユニークだ。第1楽章は静寂の中から始まり、壮麗な全管弦楽によるクライマックスまで暗雲をかきわけて厳かに上っていくような音楽となっている。第2楽章も魅惑的なアンダンテで、第1楽章後の沈静化した世界のようにも思える。第3楽章はヴィヴァーチェとなってはいるものの、不思議な雰囲気に満ちていて印象派的な色彩がある。第2部に入ると全編がアダージョとなる。ずっと生暖かくどことなく薄暗い雰囲気が支配するが、なんとも美しい音色があちこちで聴かれる。だが明確な旋律になる前に消え行くような儚さを持ち合わせている。全曲の終わりは開始と同様に静寂の中に戻っていく・・・ アシュケナージがヘルシンキフィルの機能性を活かして、この交響曲の魅力を存分に伝えてくれている名演だ。この曲に待たれた録音とも言える。録音状態もほぼ最良の状態で、楽曲の全貌が良く分かる。ライヴであるが、ほとんどノイズはなく、拍手もまったく入っていないのは、曲の性格が性格だけにたいへん好ましい。ヴァイオリンや木管のソロも輪郭がきれいに響いていて、聴きモノだ。私にとっては、最近(記載時2009年2月)リリースされたCDの中でも特に深い感銘を受けた一枚だ。 |
![]() |
交響曲 第2番「アスラエル交響曲」 K.ペトレンコ指揮 ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団 レビュー日:2022.1.17 |
★★★★☆ 精緻かつ劇的な音響で、緊張感に満ちた「アスラエル交響曲」
ヨゼフ・スーク(Josef Suk 1874-1935)の交響曲第2番「アスラエル交響曲」は、スークの師であり、義父でもあるドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904)の死を機に、追悼の意を込めて作曲が開始されたが、作曲中に妻オリティエも亡くなるという大きな不幸が作曲者を襲ったため、結果的に二重の意味で追悼の作品となった。「アスラエル」とは死を司る天使の名で、交響曲は5つの楽章からなり、前半3楽章を第1部、後半2楽章を第2部とみなすことが多い。 当盤は、ロシアの指揮者、キリル・ペトレンコ(Kirill Petrenko 1972-)が、ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団を振って、2002年にライヴ録音したものである。キリル・ペトレンコは、現在では、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者として名が知られているが、当録音当時は、ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団の音楽総監督に就任したばかりで、レコーディングの機会もほとんどなかったと思う。この録音も、指揮者が、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任するという報で、注目が高まったように思う。私も最近になってはじめて聴いた。 まず、はじめに私の「アスラエル交響曲」への印象であるが、私はこの曲に関しては、アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)が、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して、2008年にライヴ録音したものにより馴染んでいる。その演奏は、柔らかく、透明で幻想的なもので、暖かくまどろみながらも、神秘的な、光線が射しこんでくるような印象をもたらすものだった。 それで、今回、当盤を聴いてみると、もう曲の印象がだいぶ違うのである。キリル・ペトレンコのサウンドはやや硬めで、時にR.シュトラウスやストラヴンスキーを思わせる音色を強調するとともに、クライマックスは攻撃的と言って良いほどに力強いオーケストラの響きを引き出す。例えば、第1楽章のクライマックスで聴かれる打楽器の繰り返される4連打、それをバックにした合奏音の音圧など、かなりパワフルと言って良い。アシュケナージの演奏から主として伝わってきたものが、鎮魂や慰めであったとするならば、このキリル・ペトレンコの演奏から主として伝わるものは、悲劇や回避しえない定めのようなものだろう。 全般に、研ぎ澄まされた音。偶数楽章における緊張感は室内楽的な緊密さの積み上げて達成されている。そんな中で響くヴァイオリン・ソロは艶やかで、印象的だ。このソロを担っているのは、ミヒャエル・ルイス(Michael Luis)とのことであり、私は他に彼の録音を思い出さないが、とにかくなかなかの聴きモノだ。木管とのやりとりも持続したテンションが感じられる。終楽章は静かに消え入るような終結に向けて、緊密な音響が続く。 キリル・ペトレンコの演奏は、この楽曲がもつ、印象派や近代音楽的な精緻さを丁寧にトレースしつつ、緊迫感を持続させ、強靭な部分では、厳しい迫力を獲得したもの。指揮者の音楽観が良く出たものだと思う。個人的には、この曲に関しては、ドヴォルザークの「スターバト・マーテル」を思わせるような幻想的な暖かみのある演奏の方が好きなので、私の評価としては、少し下がることになるが、しかし、完成度の高い演奏であることは、間違いない。 |
![]() |
スーク 交響曲 第2番「アスラエル交響曲」 交響詩「夏のおとぎ話」 「人生の実り」 「冬の夕べの物語」 リャードフ 魔法にかけられた湖 K.ペトレンコ指揮 ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団 レビュー日:2022.2.25 |
★★★★☆ 聴く機会の多くないスークの管弦楽曲集をキリル・ペトレンコの精緻な指揮で楽しめます
ロシアの指揮者、キリル・ペトレンコ(Kirill Petrenko 1972-)が、ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団を指揮して、ヨゼフ・スーク(Josef Suk 1874-1935)の管弦楽作品を中心に収録した計3つのアルバムをBox Set化したもの。収録内容は下記の通り。 【CD1】 2002年録音 1) スーク 交響曲 第2番 「アスラエル交響曲」 【CD2】 2006年録音 スーク 交響詩「夏のおとぎ話」(A Summer’s Tale) op.29 2) 第1楽章 生と慰めの声(Voices of Life) 3) 第2楽章 真昼(Midday Mittag) 4) 第3楽章 間奏曲-盲目の楽士たち(Intermezzo ? Blind Musicians) 5) 第4楽章 幻影にとりつかれて(In the power of Illusion) 6) 第5楽章 夜(Night) 7) リャードフ(Anatoly Lyadov 1855-1914) 魔法にかけられた湖(The Enchanted Lake) op.62 【CD3】 2006年録音 スーク 交響詩「人生の実り」(The Ripening) op.34 8) 第1楽章 認知(Recognition) 9) 第2楽章 若さ(Youth) 10) 第3楽章 愛(Love) 11) 第4楽章 運命(Fate) 12) 第5楽章 決定(Resolve) 13) 第6楽章 自己抑制(Self-Moderation) 14) スーク 交響詩「冬の夕べの物語」(Tale of a Winter’s Evening) op.9 キリル・ペトレンコは、現在では、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者として名が知られているが、これらの録音が行われた当時は、ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団の音楽総監督を務めていた。あまり当時の録音は多くは内容で、これらの録音も、指揮者が、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任するという報で、注目が高まったように思う。私も最近になってはじめて聴いた。 【CD1】に収録されている「アスラエル交響曲」は、スークの師であり、義父でもあるドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904)の死を機に、追悼の意を込めて作曲が開始されたが、作曲中に妻オリティエも亡くなるという大きな不幸が作曲者を襲ったため、結果的に二重の意味で追悼の作品となった。「アスラエル」とは死を司る天使の名で、交響曲は5つの楽章からなり、前半3楽章を第1部、後半2楽章を第2部とみなすことが多い。スークの代表作であり、当3枚組アルバムに収録された楽曲の中では、もっとも知られた作品と言える。 私の「アスラエル交響曲」への印象であるが、私はこの曲に関しては、アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)が、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して、2008年にライヴ録音したものにより馴染んでいる。その演奏は、柔らかく、透明で幻想的なもので、暖かくまどろみながらも、神秘的な、光線が射しこんでくるような印象をもたらすものだった。 それで、今回、当盤を聴いてみると、曲の印象がだいぶ違うのである。キリル・ペトレンコのサウンドはやや硬めで、時にR.シュトラウスやストラヴンスキーを思わせる音色を強調するとともに、クライマックスは攻撃的と言って良いほどに力強いオーケストラの響きを引き出す。例えば、第1楽章のクライマックスで聴かれる打楽器の繰り返される4連打、それをバックにした合奏音の音圧など、かなりパワフルと言って良い。アシュケナージの演奏から主として伝わってきたものが、鎮魂や慰めであったとするならば、このキリル・ペトレンコの演奏から主として伝わるものは、悲劇や回避しえない定めのようなものだろう。全般に、研ぎ澄まされた音。偶数楽章における緊張感は室内楽的な緊密さの積み上げで達成されている。そんな中で響くヴァイオリン・ソロは艶やかで、印象的だ。このソロを担っているのは、ミヒャエル・ルイス(Michael Luis)とのことであり、私は他に彼の録音を思い出さないが、とにかくなかなかの聴きモノだ。木管とのやりとりも持続したテンションが感じられる。終楽章は静かに消え入るような終結に向けて、緊密な音響が続く。キリル・ペトレンコの演奏は、この楽曲がもつ、印象派や近代音楽的な精緻さを丁寧にトレースしつつ、緊迫感を持続させ、強靭な部分では、厳しい迫力を獲得したもの。指揮者の音楽観が良く出たものだと思う。個人的には、この曲に関しては、ドヴォルザークの「スターバト・マーテル」を思わせるような幻想的な暖かみのある演奏の方が好きなので、私の評価としては、少し下がることになるが、しかし、完成度の高い演奏であることは、間違いない。 【CD2の「夏のおとぎ話」は、スークの遺した管弦楽曲の中では、アスラエル交響曲に次いで知られる作品。ロマン派、印象派双方の影響を感じさせながらも、全体としてどこか気だるげな夏の叙事詩といった雰囲気で、なかなか楽しめる。とくに終楽章の「夜」の艶やかな美しさは、スークが遺した作品の中でも、特に価値の高い部分だろう。第1楽章冒頭の静謐の描き方が緻密。第2楽章では、木管の透明なフレーズが、くっきりと影を落とすように響くのが印象的。第3楽章は幻想的で、チャイコフスキーやシベリウスを連想させるが、ここでも木管が情感に訴えるフレーズを担っており、その背景となる弦の濃淡と併せて、描写的な音楽が作られる。イングリッシュホルンがことに印象に残るだろう。第4楽章はスケルツォ的性格。ただ、キリル・ペトレンコは落ち着いた足取りで、パッセージを明晰に響かせ、縦線をくっきり描き出している。第5楽章は当曲の白眉であると同時に当アルバムの白眉でもある。弦がおりなす深い色合いが、シベリウスの第7交響曲を思わせる世界を描き出しており、この楽曲の結びに相応しい。 リャードフの短い管弦楽曲は、元はオペラの一部として構成されたもの。風景描写的な、これまた美しい一篇であり、2つの楽曲を一つのアルバムに収めるというのは、なかなか良いアイデアに感じられる。キリル・ペトレンコは、この「夜明け」を連想させる音楽を、遅めのテンポで、じっくりと入念に描いており、指揮者の思い入れが伝わる。ストレートな音楽であり、とても分かりやすいこととあいまって、湖の情景を連想する人は多いだろう。ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団は、肌理の細かい、理知的な音を編み出すことに成功しており、十分な表現力を感じさせる。 【CD3】に収録されている2作品は、録音点数が少なく、実際に聴く機会はめったにないが、それゆえに貴重な音源と言える。「人生の実り」は特に後半が面白く、また、「冬の夕べの物語」は、単発売版のジャケットデザインのイメージ通り、情景的かつ幻想的な雰囲気がある。ペトレンコは、オーケストラをこまかくコントロールし、特に旋律に歌を求められる部分で、弦楽器の艶やかな響きをクリアなテクスチュアをベースに伸びやかに響かせてくれて、耽美性を感じさせてくれる。また、「人生の実り」では、しばしば情熱的な部分があるのだが、キリル・ペトレンコは十分なエネルギーの開放を導いており、劇的な抑揚がある。第3楽章の穏やかさと、第4、第5楽章の力感への流れが、とてもスムーズで、全体的な運びがきれいであり、結果として楽曲を聴き易く、分かりやすいものとしてくれているのがありがたい。第6楽章は女声コーラスの挿入効果もふまえて、神秘的な雰囲気を盛り上げてくれる。 「冬の夕べの物語」は、音楽作品としては単純ゆえに、その分明朗ではあるが、仕掛けや演出が直情的なところもある。キリル・ペトレンコはそのあたりのバランス感覚が巧妙で、オーケストラの音色を気品あるものにととのえ、かつ十分な輝かしさと情感を感じさせてくれる。いずれの楽曲も、渋い面を持っており、本来、簡単に聴き手の側に歩み寄ってくれるものではないのかもしれないが、キリル・ペトレンコの演奏は、整理が行き届いており、かつ働きかけるものも豊富であり、名演と呼ぶべき豊かさを持っている。 |
![]() |
交響詩「人生の実り」 「冬の夕べの物語」 K.ペトレンコ指揮 ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団 レビュー日:2022.2.7 |
★★★★★ スークによるあまり知られていない2つの交響詩を収録
ロシアの指揮者、キリル・ペトレンコ(Kirill Petrenko 1972-)指揮、ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団の演奏で、下記のヨゼフ・スーク(Josef Suk 1874-1935)の2作品が収録されたアルバム。 1) 交響詩「人生の実り」(The Ripening) op.34 2) 交響詩「冬の夕べの物語」(Tale of a Winter’s Evening) op.9 2006年のライヴ録音。 収録されている2作品とも、録音点数は少なく、実際に聴く機会はめったにないが、それゆえに貴重な音源と言える。収録されている2つの交響詩のうち、「人生の実り」の方が大規模な作品で、これは下記の6つの楽章から構成されている。 第1楽章 認知(Recognition) 第2楽章 若さ(Youth) 第3楽章 愛(Love) 第4楽章 運命(Fate) 第5楽章 決定(Resolve) 第6楽章 自己抑制(Self-Moderation) 第6楽章では、女声によるコーラスが挿入されるが、これは歌詞がなく、効果音的に用いられる。 私はこれらの楽曲を当盤ではじめて聴いたのだが、「人生の実り」は特に後半が面白く、また、「冬の夕べの物語」は、ジャケットデザインのイメージ通り、情景的かつ幻想的な雰囲気がある。 ペトレンコは、オーケストラをこまかくコントロールし、特に旋律に歌を求められる部分で、弦楽器の艶やかな響きをクリアなテクスチュアをベースに伸びやかに響かせてくれて、耽美性を感じさせてくれる。また、「人生の実り」では、しばしば情熱的な部分があるのだが、ペトレンコは十分なエネルギーの開放を導いており、劇的な抑揚がある。第3楽章の穏やかさと、第4、第5楽章の力感への流れが、とてもスムーズで、全体的な運びがきれいであり、結果として楽曲を聴き易く、分かりやすいものとしてくれているのがありがたい。第6楽章は女声コーラスの効果もふまえて、神秘的な雰囲気を盛り上げてくれる。 「冬の夕べの物語」は、音楽作品としては単純ゆえに、その分明朗ではあるが、仕掛けや演出が直情的なところもある。ペトレンコはそのあたりのバランス感覚が巧妙で、オーケストラの音色を気品あるものにととのえ、かつ十分な輝かしさと情感を感じさせてくれる。 いずれの楽曲も、渋い面を持っており、本来、簡単に聴き手の側に歩み寄ってくれるものではないのかもしれないが、ペトレンコの演奏は、整理が行き届いており、かつ働きかけるものも豊富であり、名演と呼ぶべき豊かさを持っている。 |
![]() |
スーク 交響詩「夏のおとぎ話」 リャードフ(Anatoly Lyadov 1855-1914) 魔法にかけられた湖 K.ペトレンコ指揮 ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団 レビュー日:2022.2.15 |
★★★★★ スークとリャードフの珍しい管弦楽曲を聴けます
ロシアの指揮者、キリル・ペトレンコ(Kirill Petrenko 1972-)の指揮、ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団の演奏で、下記の2作品が収録されたアルバム。 スーク(Josef Suk 1874-1935) 交響詩「夏のおとぎ話」(A Summer’s Tale) op.29 1) 第1楽章 生と慰めの声(Voices of Life) 2) 第2楽章 真昼(Midday Mittag) 3) 第3楽章 間奏曲-盲目の楽士たち(Intermezzo ? Blind Musicians) 4) 第4楽章 幻影にとりつかれて(In the power of Illusion) 5) 第5楽章 夜(Night) 6) リャードフ(Anatoly Lyadov 1855-1914) 魔法にかけられた湖(The Enchanted Lake) op.62 2006年の録音。 なかなか面白い2曲。スークの「夏のおとぎ話」は、アスラエル交響曲とともに、彼の代表的管弦楽曲と言って良いもので、ロマン派、印象派双方の影響を感じさせながらも、全体としてどこか気だるげな夏の叙事詩といった雰囲気で、なかなか楽しめる。とくに終楽章の「夜」の艶やかな美しさは、スークが遺した作品の中でも、特に価値の高い部分だろう。 リャードフの短い管弦楽曲は、元はオペラの一部として構成されたもの。風景描写的な、これまた美しい一篇であり、2つの楽曲を一つのアルバムに収めるというのは、なかなか良いアイデアに感じられる。 キリル・ペトレンコのスタイルは、とても精緻である。管弦楽を細部まで入念にコントロールし、丁寧に丁寧に音響を形作っていく。おそらく、指揮者からオーケストラに対して、かなり細やかな指示が出ていたのだろうと感じさせる演奏だ。 交響詩「夏のおとぎ話」では、第1楽章冒頭の静謐の描き方が緻密。第2楽章では、木管の透明なフレーズが、くっきりと影を落とすように響くのが印象的。第3楽章は幻想的で、チャイコフスキーやシベリウスを連想させるが、ここでも木管が情感に訴えるフレーズを担っており、その背景となる弦の濃淡と併せて、描写的な音楽が作られる。イングリッシュホルンがことに印象に残るだろう。第4楽章はスケルツォ的性格。ただ、ペトレンコは落ち着いた足取りで、パッセージを明晰に響かせ、縦線をくっきり描き出している。第5楽章は当曲の白眉であると同時に当アルバムの白眉でもある。弦がおりなす深い色合いが、シベリウスの第7交響曲を思わせる世界を描き出しており、この楽曲の結びに相応しい。 リャードフの「魔法にかけられた湖」は夜明けを連想させる音楽。ペトレンコは、遅めのテンポで、じっくりと入念にこの楽曲を描いており、指揮者の思い入れが伝わる。ストレートな音楽であり、とても分かりやすいこととあいまって、湖の情景を連想する人は多いだろう。 ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団の録音はあまり多くはないが、キリル・ペトレンコは、肌理の細かい、理知的な音を編み出すことに成功しており、オーケストラも、十分な表現力を感じさせる。 |
![]() |
ピアノ五重奏曲 ピアノ四重奏曲 ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 ナッシュ・アンサンブル p: ブラウン レビュー日:2007.9.10 |
★★★★☆ スラヴ的な郷愁と物憂さが表出されています
ヨゼフ・スーク(Josef Suk 1874-1935)はチェコの作曲家である。孫に同姓同名の高名なヴァイオリニストがいるが、こちら作曲家のヨゼフ・スークはドヴォルザークの娘と結婚している。つまり、ヴァイオリニストのヨゼフ・スーク(紛らわしいですね。なぜ同じ名前にしたのでしょう?)はドヴォルザークのひ孫ということになります。 作曲家、ヨゼフ・スークもヴァイオリニストで、弦楽四重奏団に属していた。また作曲についてはドヴォルザークに師事している。特徴は叙情的な旋律の扱いにあり、スラヴ的な郷愁を感じさせます。(ちょうどこのCDのジャケットデザインの様に・・) 当盤はナッシュ・アンンサンブルというイギリスの室内楽奏者たちによって録音されたスークの室内楽曲集で、「ピアノ四重奏曲」、「ヴァイオリンとピアノのための4つの小品」、「ピアノ五重奏曲」の3曲が収録されています。曲想はいかにも古典的で古めかしく、温厚ですが、ナッシュアンサンブルはややアグレシッヴな方向付けを試みており、透明感もあるなかなか好感のある仕上がり。やはり各曲とも緩徐的叙情的な場所が印象に残りやすく、例えばピアノ四重奏曲の2楽章の終結部など美しい。 また、「ヴァイオリンとピアノのための4つの小品」は、中にあってやや印象派的な物憂さを醸し出しており、旋律も美しく聴き応えがあります。特に第1曲のどことない物悲しさは魅力があり、冬が近づく薄暗い雨の日の雰囲気といったところでしょうか。ヤナーチェクに近いものも感じました。 |