シュトックハウゼン
ピアノ曲 第1 第2 第3 第4 第5 第6 第7 第8 第9 第10 第11 p: ヘンク レビュー日:2013.12.13 |
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★★★★☆ 現代音楽、究極の「アヴァンギャルド」芸術とは?
ドイツの現代音楽作曲家、カールハインツ・シュトックハウゼン(Karlheinz Stockhausen 1928-2007)のピアノ曲「ピアノ曲」I ~ X I の11作品を2枚組のCDに収録したアルバム。ピアノは現代音楽の優れた解釈者の一人として名高い、ヘルベルト・ヘンク(Herbert Henck 1948-)。1985年から86年にかけての録音。 シュトックハウゼンは現代アヴァンギャルド芸術における象徴的音楽家であった。私が音楽を聴き始めた頃から、難渋な現代音楽と言えば「シュトックハウゼン」であった。その作品を聴いたことがなくても、名前はいろんな教科書や雑誌で紹介される機会が多かったから、知名度は高かった。 それで、私は今もってシュトックハウゼンの音楽の事はよくわからない。彼の音楽は抽象性が高く、音楽が持っている本来的な概念の抽象化の度合いをどこまでギリギリ追いつめられるかに取り組んだ精神的かつ学究的な境地を目指したもので、そこには、一般の音楽に感応するような「情緒」の要素は、きわめて希薄であった。それで、私がそういう音楽を聴くときは、音響的な興味と、その楽曲のもつ背景、芸術的観念の解釈について考えを巡らす方法で接することになる。それも、この時代に新しく生まれた音楽の一つの「意味」だったのだろう。 11のピアノ曲は、シュトックハウゼンの作品としては初期の作品に属する。「ピアノ曲I~IV」は1952年の作品で、トータル・セリエリズム(Total serialism)の考えに基づいて作曲されている。つまり楽譜によって「音の高さ」だけでなく、強弱を8段階、拍節を細分化した分割で指示しており、おそらく楽譜通りに弾かれているかについては、相当に研ぎ澄まされた感覚によって、何度も試聴するか、機械で解析するかしなければわからないだろう。これは、同時代に共通のテーマを持っていたブーレーズ(Pierre Boulez 1925-)の「ストリクチュール1」へのアンチテーゼであると言われている。これは参考文献をひもとけば、おおよそ以下の様に説明されている~『「ストリクチュール1」ではリズムは32分音符の整数倍として扱われていたが、シュトックハウゼンは音程は周波数比で見ると2の12乗根のn乗なのであり、音程の半音と音価の整数倍を等価に扱うことは矛盾しているとして、非常に複雑な連符を多用することによってこれを実現させた。』・・これを読んで、「なるほど」と理解できる人はすごいが、要するに、ブーレーズが「整数倍」の概念でリズムの最小単位を求めたのに対し、シュトックハゼンは、例えば5:7とか、5:9といった割り切れない比率の長さを厳密に採用することで、音の長さの「最小単位」を設定しなかった、ということである。余裕がある人は、二人の作品の聴き比べをやってほしい。 「ピアノ曲V~X」は1954年から55年にかけての作品で、新しい記譜法の探求が行われる。このうちVとV I は「速度」のグラデーションを詳細に指定することが目標であり、その「記譜法」のための音楽という、実に不思議な主従系列を体現する。一方VIIは和声的な方法に基づき、トーンクラスターの関係を追求したものと考えられそうだ。IXとXは作曲者が様々な技法を盛り込んだ遊戯性の高さが目につく。特にXは「指先のない手袋をはめたピアニストのための作品」という事で、連続する過激なグリッサンド奏法で、手袋をしていないと手を痛めてしまうというほど攻撃的な作品だ。 1958年の作品である「ピアノ曲XI」は、いよいよ迷宮に迷い込んだような作品で、このスコアはロール紙に記載してあって、ピアニストはどこから初めてどこで終わっても良いとされている。現代なら、タブレット端末で表示して、それこそタッチ操作で譜めくりしそうだが、ロール紙を譜面台におくわけもいかないから、大変だったろう(そう言う問題でもないが)。それにしても、聴いていたらなんだか凄い曲である。どこで一巡したのかもよくわからない。ここまで抽象化を徹底した芸術が、「アヴァンギャルド」という形容で十分なものかどうか。 演奏については、私にどうこう言えるレベルではないのだが、ヘンクのメカニカルなタッチは圧巻で、さすがスペシャリストといったところ。これらの曲集では、アロイス・コンタルスキー(Aloys Kontarsky 1931-)の録音も有名だが、私は未聴。聴き比べまでできるかどうか。 録音については、もっと接近した感じで精度の高い録音であればさらに面白かっただろう、というところは残る。この作品は、とにかく様々な音色を把握したいので、特にそう感じる。それにしても、これらの曲集をまとめて録音したというのは、それだけで凄い、というのが正直なところ。 |