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シノーポリ



現代音楽

組曲「ルー・ザロメ」
シノーポリ指揮 シュトゥットガルト室内管弦楽団 S: ポップ T: カレーラス

レビュー日:2012.8.10
★★★★★ シノーポリの作曲家としての才覚を証明する一枚
 2001年、ヴェルディのアイーダを指揮中に指揮台から崩れ落ち、そのまま急逝したイタリアの名指揮者、ジュゼッペ・シノーポリ(Giuseppe Sinopoli 1946-2001)。その若すぎる死はたいへん惜しまれたが、一方で彼は数多くの貴重な録音を遺してくれた。私は、2012年にグラモフォン・レーベルから16枚組のBox-セットが発売されたのを好機と思い購入し、収録されたものを一通り聴かせていただいている。中でも当ディスクは重要な一枚と思われるもので、シノーポリの自作自演盤である。
 自作自演。そう、シノーポリは現代音楽作曲家としても重要な存在だ。さらに、その作品の中でも、最重要とされるのが、歌劇「ルー・サロメ(Lou Salome)」である。当盤はその「ルー・サロメ」を組曲として編曲したもので、演奏時間にして48分弱に収められた形である。
 演奏はシュトゥットガルト室内管弦楽団。「組曲」とはいっても、独唱二人が参加する音楽となっており、それぞれ S: ポップ(Lucia Popp 1939-1993) T: カレーラス(Jose Carreras 1946-)が務める。1987年の録音。
 ルー・ザロメは実在の人物で、本名はルー・アンドレアス・ザロメ(Lou Andreas-Salome 1861-1937)である。ロシア系ユダヤ人で、文芸の多方面で活躍した女性。ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche 1844-1900)。フロイト(Sigmund Freud 1856-1939)、リルケ(Rainer Maria Rilke 1875-1926)といった人物とも深い親交があった。
 楽曲は、管弦楽による演奏が中心で、声楽が加わる部分は限られている。シェーンベルク (Arnold Schonberg 1874-1951)、そしてベルク(Alban Berg 1885-1935)の二人の新ウィーン楽派の影響が濃厚で、ソノリティが似通う。現代音楽的な不協和音、微分音の使用とともに、後期ロマン派的な情熱の放散があり、聴きやすい仕上げとなっているのが特徴だ。シノーポリの作曲家としての技法の確かさが良く示されている。
 往年の名歌手、カレーラスが参加していることを意外に思う人も多いだろう。カレーラスと言えば、イタリアオペラや民謡の歌い手として、日本でも広く知られた歌手であるが、現代音楽との間にイメージの乖離があろう。
 ここでも、カレーラスの歌声はいつも通りで、いわゆるベルカント(イタリア語 Bel Canto)奏法によっており、朗々たる歌謡性に満ちた甘い響きとなっている。しかし、その存在感が不思議と曲想を引き立てており、実に高い音楽的効果をもたらしている。歌手陣の好演とキャスティングの妙もあり、シノーポリが作曲家としても優れた存在であったことを示す貴重な一枚となった。


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