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シュミット



交響曲

交響曲 全集 歌劇「ノートル・ダム」間奏曲
p.ヤルヴィ指揮 フランクフルト放送交響楽団 tp:ネメシュ vn: エデルマン vc: シュテムラー

レビュー日:2020.12.28
★★★★★ 待望のフランツ・シュミットの交響曲全集新盤
 パーヴォ・ヤルヴィ(Paavo Jarvi 1962-)指揮、フランクフルト放送交響楽団の演奏による、後期ロマン派のオーストリアの作曲家、フランツ・シュミット(Franz Schmidt 1874-1939)の交響曲全集。CD3枚に以下の様に収録されている。
【CD1】
1) 交響曲 第1番 ホ長調 2017年録音
【CD2】
2) 交響曲 第2番 変ホ長調 2013年録音
3) 歌劇「ノートル・ダム」 間奏曲 2018年録音
【CD3】
4) 交響曲 第3番 イ長調 2014年録音
5) 交響曲 第4番 ハ長調 2018年録音
 交響曲第4番におけるトランペット・ソロは、バラーズ・ネメシュ(Balazs Nemes 1976-)、ヴァイオリン・ソロはウルリヒ・エデルマン(Ulrich Edelmann)、チェロ・ソロはペーター=フィリップ・シュテムラー(Peter-Philipp Staemmler 1986-)。全曲がライヴ収録されたもの。
 まずは、何をおいてもこの全集の登場を歓迎したい。フランツ・シュミットは後期ロマン派の重要な作曲家の一人であり、4つの交響曲はその代表作に違いないのであるが、全集として入手可能なものは限られていた。現在まで、入手可能な代表的な録音は、パーヴォ・ヤルヴィの父であるネーメ・ヤルヴィ(Neeme Jarvi 1937-)が、1989年から96年にかけて、デトロイト交響楽団とシカゴ交響楽団を振って、Chandosレーベルに録音されたものと、シナイスキー(Vassily Sinaisky 1947-)がナクソス・レーベルに録音したものの2点くらいしかなかったのだから、そこにこの堂々たる全集が加わったのは、それ自体、とても価値のあることである。
 私は、これらの楽曲に、前述のパーヴォの父、ネーメの録音で親しんできた。しかし、このたびのパーヴォの録音は、これらの楽曲から、また別の新しい魅力を掘り起こしてくれている。概して、当録音の方が落ち着いたテンポを設定している。父、ネーメの録音が、推進力主導であったのに対し、当パーヴォ盤は、極上とも言える弦楽のサウンドを磨き上げ、これらの音楽がワーグナー(Richard Wagner 1813-1883)からR.シュトラウス(Richard Strauss 1864-1949)へと受け継がれた豪壮なオーケストレーションを、古典的な書法を用いて展開させたものであることをより明瞭に感じさせるものとなっている。
 当全集は、5年の時間を掛けて製作されたが、その解釈には一貫性が強く感じられる。弦楽器の絶え間ない動きで描かれるベースが、美しく洗練されたトーンとして磨き上げられていて、そのベースのもとで、作品の特性をじっくりと掘り下げていくアプローチ。結果的に、これらの作品の魅力を、わかりやすく伝えてくれるものとなっている。
 交響曲第1番は、第1楽章から弦の渦のようなシュミットの作風が細やかに描き出されている。叙情的なメロディを高貴な抑揚で表現し、芸術としての洗練を感じさせる仕上がりだ。第4楽章は終結に向けて、すべてが分かりやすい。交響曲第2番は、冒頭の木管の柔らかさも魅力的だが、第2楽章の変奏曲が、統一性と変奏毎の性格的描き合分けと両立した見事なもの。そして、最後の2つの変奏が次楽章の性格を担うという特徴も、自然なタッチで描かれている。4つの交響曲の内もっとも編成の小さい第3番は、小編成らしい瀟洒なメロディの魅力を的確にクローズアップした雰囲気。両端楽章に示される幸福感を呼ぶパッセージ、中間楽章における憂いが適度なサイズ感で描写されており、好ましい。傑作の呼び声高い第4番は、第1楽章から独奏楽器の美しさに圧倒されるが、第2楽章の葬送行進の感動の大きさも素晴らしい。しめやかな足取りで暗い主題を描きながら、その響きが常に優美でバランスと気品を崩さない点に尊さがある。シュミットの交響曲中で、この第4番に関しては録音も様々なものがあるが、当該曲の録音という観点でも、パーヴォ・ヤルヴィのこの録音は、名録音の一つに数えられてしかるべき内容を持つ。
 【CD2】の末尾に、シュミットの作品中もっとも知られている「ノートル・ダム」の間奏曲が収録されているのは良いサービスだ。私は、昔、カラヤン(Herbert von Karajan 1908-1989)のゴージャスを極めたサウンドルで、この曲に親しんだのが懐かしい。それに比べるとヤルヴィの演奏は、シャープで清冽だ。同じディスクに収録されている交響曲第2番には、この間奏曲と似たフレーズが見られるので、そういった点でも面白いだろう。
 いま一つ録音数に恵まれなかったシュミットの交響曲にあって、その環境を一気に覆した価値ある全集だ。

シュミット 交響曲 第3番  ヒンデミット 管弦楽のための協奏曲
ヤルヴィ指揮 シカゴ交響楽団

レビュー日:2005.1.16
★★★★☆ フランツ・シュミットの第3交響曲もなかなかいいです
 ネーメ・ヤルヴィによるフランツ・シュミットの交響曲全集の一つで、ここでは交響曲第3番が収録されている。オケはシカゴ交響楽団。ヒンデミットの管弦楽のための協奏曲がカップリングされている。
 フランツ・シュミットは1874年ブラスティラバで生まれた。対位法を追求して交響曲に挑んだ彼は、ブルックナーの後継者ともいえる存在である。オルガン曲、ピアノ曲なども多く遺している。同年生まれのシェーンベルグが後期ロマン派からの離脱を調性から遊離することで果たしたのに対し、シュミットはかたくなに調性を重んじ、ロマンティックな作風を保守した。20世紀末に興ったマーラー・ブームで再評価された作曲家に一人ともいえる。
 最もよく演奏され、聴かれるのが第4番であるため、第3番は地味な印象があり、録音も少ないだろう。しかし、かの有名な「ノートルダム」の間奏曲のような優雅な弦の音色が印象的であり、深刻な諸相を示す第4番とはだいぶ様相が異なる。第1楽章と第2楽章がともに似たスタイルで、ノートルダム・テイスト。第3楽章はとびはねるリズムが印象的なスケルツォでブルックナーを思わせる。弦から始まり金管へ受け継がれる様もブルックナー的で、対位法音楽好きには好評なのではないだろうか。第4楽章は讃歌的でブラームスっぽく感じる。
 シュミットの交響曲は第4番が、ついで第1番が聴かれると思うが、どれもいい曲であり、ヤルヴィの良心的な演奏はライブラリ向きだろう。
 ヒンデミットの「管弦楽のための協奏曲」はバルトークのアイデアで、ルトスワフスキやコダーイも同名曲を書いているが、ここでの狙いは「バロック的なもの」だろう。つまり、独奏楽器集団+合奏集団の掛け合い音楽だ。曲は4楽章からなっているが第3楽章は管楽器のみによるパッサカリア風のフーガとなっていたりする。短いながらアイデアを感じる曲だ。


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