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サリエリ



協奏曲

サリエリ ピアノ協奏曲 ハ長調 変ロ長調  シュテファン ピアノ協奏曲 変ロ長調
hf: シュタイアー シュタイアー指揮 コンチェルト・ケルン

レビュー日:2010.7.14
★★★★☆ 現代ではあまり顧みられない古典の「ピアノ協奏曲」
 アントニオ・サリエリ(Antonio Salieri 1750-1825)のピアノ協奏曲ハ長調、変ロ長調とヨーゼフ・アントン・シュテファン(Joseph Anton Steffan 1726-1797)のピアノ協奏曲変ロ長調を収録。フォルテピアノ独奏と指揮がアンドレアス・シュタイアー、コンチェルト・ケルンの演奏で1994年の録音。
 サリエリは長年にわたってウィーン宮廷楽長を務めた作曲家であるが、その名が有名になったのは「アマデウス」という映画を契機とする。映画の中でサリエリはモーツァルトの天賦の才を誰よりも理解し、それゆえに、モーツァルトと、その才をモーツァルトに与えた神を憎むという役回りであった。じっさい、サリエリはモーツァルトと不仲だったそうだが、もちろん毒殺した云々は後世の創作でいわば濡れ衣である。しかし「火のないところの煙はたたない」とも言う。ここで言う「火」とは?それはやはりサリエリの遺した作品がほとんど省みられないその後の長い歴史と現在の状況である。
 サリエリは旋律、劇的表現に優れとりわけ声楽の処理が巧みであったとされるが、このピアノ協奏曲を聴くとやはりパンチが足りない。それでも、ハ長調の方が面白い。第1楽章の第1主題は単純だが、メリハリがある。第2主題が薄いのはどの楽章も共通しているようで、これが印象の弱さに直結する。また、独奏楽器が鳴っている場面ではバックが全休止していることが多く、いかにも「弾き振り」のために都合よく作られた制約的な音楽というイメージが残る。第2楽章は美しい主題を持っているが、平板な感じも否めない。第3楽章は力感がある。シュタイアーが「ここで頑張らないと・・」とばかりに全力のアクセントを繰り返して聴き手に訴える。変ロ長調もそういった意味で終楽章が楽しい。
 シュテファンはボヘミア出身の作曲家。マリー・アントワネットの鍵盤教師を務めた人物として少し知られる。このピアノ協奏曲は、短調の長い序奏を持っている点がユニーク。序奏の後はいかにも古典的なスタイルになるが、風雅な色合いを持っている。ただまったく退屈しないかというと、そこまでではない。シュタイアーのフォルテピアノは技術が高いが楽器の響き自体はやはり輝きが抑制され、禁欲的なイメージになってしまうのが否めないところ。


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