トップへ戻る

ラター



現代音楽

祝典序曲 ピアノ協奏曲「リフレクションズ」 4つのミニチュア 都市景観 エレジー
ラター指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 p: オズボーン

レビュー日:2025.12.15
★★★★★ 現在イギリスの象徴的作曲家、ジョン・ラターの生誕80年記念アルバム
 現在のイギリスで、最も敬愛されている作曲家と称されるジョン・ラター(John Rutter 1945-)の生誕80年を記念して制作されたアルバム。ジョン・ラター自身の指揮とロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、以下の楽曲が収録されている。
1) 祝典序曲(Celebration Overture)
ピアノ協奏曲「リフレクションズ」
 2) I. Prelude(前奏曲) - II. Toccata(トッカータ)
 3) III. Interlude(間奏曲)
 4) IV. Finale alla burlesca(ブルレスカのフィナーレ)
4つのミニチュア(Four Miniatures for Orchestra)
 5) I. Introduction(はじめに) - II. Chanson Triste(シャンソン・トリステ)
 6) III. Lullaby(子守歌)
 7) IV. Dance to Your Daddy
都市景観(Cityscapes)
 8) I. Big Apple
 9) II. Lost City
 10) III. Flower of Cities All
11) エレジー(Elegy)
 ピアノ協奏曲「リフレクションズ」とエレジーでは、スティーヴン・オズボーン(Steven Osborne 1971-)がピアノ独奏を務める。「4つのミニチュア」と「都市景観」は2021年、他の作品は2025年の録音。
 日本でも合唱曲の作曲家として知られるラターは、音楽学者でもあり、スコアの校定なども行っている。作曲家としての作風は、当盤を聴く限りでは、古典的な調性に基づいた、暖かい、親しみやすいサウンドであり、現代音楽といっても、性格的には映画音楽やフュージョンに近い。全般に楽天的なおおらかさがあり、映画音楽としてイメージするならば、差し詰め、「家族で観て楽しめる映画の」映画音楽といった雰囲気だ。確かに、広く「愛される」という形容がふさわしい作風だろう。
 現代的で鋭敏な感覚や、突き出した啓示や啓発に繋がる芸術性を期待すると、その温和なサウンドに肩透かしを食うことになってしまうが、おそらく当盤を購入する人は、ラターの作風を知っての上でのことだろうから、そのあたりを私が心配する必要はないだろう。要は、(語弊があるかもしれないが)満ち足りた柔らかな時間を過ごすのに適したBGM的サウンドである。
 「祝典序曲」は、いかにもアルバムのプロムナート的な、わくわく感のある展開で、親しみやすいメロディが、リズムに乗って盛り上がり、聴き手の気分を高めていく。華やかで、衒いのない自然なのびやかさに満ちている。
 ピアノ協奏曲「リフレクションズ」は大作と言って良いだろう。ことにトッカータと題された第2楽章は、ジャズやブルースの要素をふんだんに取り入れていて、ラヴェル(JMaurice Ravel 1875-1937)やガーシュウィン(George Gershwin 1898-1937)を彷彿とさせる色彩感が楽しい。
 「4つのミニチュア」もまた映画音楽的。「くまのプーさん」に登場する少年をモチーフとした第3楽章、イングランドの民俗舞踏音楽をモチーフにした第4楽章など、温和で、いかにもこの作曲家らしい世界観が広がっている。
 「都市景観」は3つの楽章からなる。第1楽章の「Big Apple」はもちろんニューヨークのこと。第2楽章の「Lost City」は想像上の失われた都市、アトランティスのことであり、第3楽章の「Flower of Cities All」はロンドンのことだ。このFlower of Cities All(「すべての都市の花」)という言い回しは、16世紀の詩人、ウィリアム・ダンバー(William Dunbar 1459-1530)によるものだ。この楽曲では、壮麗なファンファーレを伴って盛り上がる第3楽章が印象的。ロンドンをこのように華やかな音楽で形容するあたり、イギリスで敬愛される作曲家と呼ばれる彼らしい。幸福感に満ちたメッセージ性に満ちている。
 最後に収録された「エレジー」は、このアルバムの中では異質な深刻さを持っているが、それでも調和的に結ばれていく。
 オーケストラは常に豊かで柔らかな音響を提供し、オズボーンのピアノも、シンフォニックな恰幅豊かに響き渡る。この作曲家の80周年にふさわしい「お祝いムード」に満ちたアルバムとなっている。


このページの先頭へ