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ルビンシテイン



協奏曲

ルビンシテイン ピアノ協奏曲 第4番  シャルヴェンカ ピアノ協奏曲 第1番
p: アムラン M.スターン指揮 BBCスコティッシュ交響楽団

レビュー日:2005.11.19
★★★★★ 2大ヴィルトゥオーゾ・コンチェルトをアムランのピアノで!
 Hyperionの「ロマン派の知られざるピアノ協奏曲シリーズ」も38枚目となるが、ついに待ち望まれた2つの大曲が登場。シャルヴェンカのピアノ協奏曲第1番とルビンシテインのピアノ協奏曲第4番。しかもピアノはアムラン。オケはM.スターン(ヴァイオリニスト・アイザックの息子)指揮のBBCスコティッシュ交響楽団。これでこのシリーズでシャルヴェンカのピアノ協奏曲は全部揃ったことになる。
 どちらも19世紀を代表するヴィルトゥオーゾ・ピアニストが書き上げた作品。シャルヴェンカの曲は昔から「知る人ぞ知る」名曲だったが、このアムランのダイナミックな豪演が加わった事で一気に知名度を増すのではないか。特に全3楽章を通じて情熱的な旋律とダイナミックな技巧に溢れる様はまさにロマン派協奏曲!第3楽章の壮大なカデンツァは感動ものだ。
 ルビンシテインのほの暗い佳曲はチェルカスキー(アシュケナージ指揮)の録音で楽しんできたが、このアムランの演奏ははるかに技巧的で重層な響き。圧倒的ともいえるテクニックでたたみかける。性急のようでいてしかししっかりとコントロールされた指はまさにヴィルトゥオーゾ!ラフマニノフの第3協奏曲は初演当時、よくこの曲との類似点がよく指摘されたそうだが、この演奏の重量感はいかにもその類似点を彷彿とさせやすいかもしれない。とにかくこのアムランの演奏でき聴くルビンシテインの協奏曲、和音連打で迫力ある盛りあがりは実に見事!
 これはいい録音です。

ルビンシテイン ピアノ協奏曲 第4番 ヘ調のメロディ  チャイコフスキー ノクターン  サンサーンス 白鳥  グラズノフ ワルツ 他
p: チェルカスキー アシュケナージ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2014.1.7
★★★★★ ウクライナの大御所、チェルカスキーのグランド・マナーを堪能する一枚
 ウクライナのユダヤ系ピアニスト、シューラ・チェルカスキー(Shura Cherkassky 1909-1995)の2種の音源を集めたアルバム。  一つは、アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)指揮、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団をバックに、ロマン派の大曲と言えるアントン・ルビンシテイン(Anton Rubinstein 1829-1894)の「ピアノ協奏曲 第4番 ニ短調op.70」で、1994年の録音(本録音は作曲者没後100年の録音ということになる)。もう一つは「アンコール集」と称して、チェルカスキーが得意とした独奏曲を集めた1974年録音のもの。両者の録音には20年の隔たりがるが、当初は協奏曲を2曲録音する予定だったものが都合により変更され、このようなアルバムとなったらしい。収録曲の詳細を再度記載すると以下の通りとなる。
1-3) ルビンシテイン ピアノ協奏曲 第4番 ニ短調 op.70
4)  J.シュトラウス2世(Johann Strauss 1825-1899) / ゴドフスキー(Leopold Godowsky 1870-1938)編 ワルツ「酒、女、歌」
5) サンサーンス (CamHe Saint-Saens 1835-1921)/ ゴドフスキー編 動物の謝肉祭から「白鳥」
6) ゴドフスキー ワルツ-ポエム 第4番(左手のための)
7) シューベルト(Franz Schubert 1797-1828)/ ゴドフスキー編 楽興の時 第3番 ヘ短調 D.780 no.3
8) ゴドフスキー 「古きウィーン」
9) ルビンシテイン 「ヘ調のメロディー」op.3-1
10) チャイコフスキー(Pytor Ilyich Tchaikovsky 1840-1893) 6つの小品 op.19 より第4曲「ノクターン」
11) グラズノフ(Alexander Glazunov 1865-1936) 3つの小品 op.42より第3曲「ワルツ ニ長調」
12) シャミナード(Cecile Chaminade 1857-1944) 「昔」op.87
13) モシュコフスキ(Moritz Moszkowski 1854-1925) 「スペイン奇想曲」op.37
 ロシアの作曲家、アントン・ルビンシテインはチャイコフスキーの師もしくは親友としても知られる存在。その弟のニコライ・ルビンシテイン(Nikolai Rubinstein 1835-1881)も高名なピアニスト兼作曲家で、チャイコフスキーの名曲「ある偉大な芸術家のために」は、ニコライの死に捧げられたもの。
 アントン・ルビンシテインの作風はドイツロマン派の土壌をもちながら、ロシア的なメランコリーや情緒を通わせたもので、ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943)を彷彿とさせるもの。特に傑作として知られるピアノ協奏曲第4番は、ラフマニノフも愛奏したことで知られる。実際、この楽曲を聴くと、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を彷彿とさせるロマンティシズムとダイナミズムの交錯に満ちている。メロディーは美しく、たっぷりとした情感を持っており、ピアノもオーケストラも雄弁に主題を奏でる箇所が設けられている。第2楽章の郷愁的、哀惜的な美観にも、ラフマニノフは大いに影響を受けたに違いない。
 この録音当時、チェルカスキーは85歳。さすがに技術的なムラはあるのだけれど、それにしても見事なのは、「音楽的な表現の卓越」にある。多少の細かい綻びやテンポの揺れがあっても、それを音楽を進める中で巧みに収めているため、聴いていて、なんとも華麗で、かつ深い味のある演奏になっているのだ。
 この曲にはマルカンドレ・アムラン(Marc-Andre Hamelin 1961-)による2005年の録音のもの(hyperion CDA67508)もあるのだけれど、それと聴き比べると、チェルカスキーは技術では太刀打ちできないものの、音楽的な慈愛や美しさ、細やかな華美さと言った点で、むしろ大きな魅力をもっている。そのため、全体的な印象が、チェルカスキーならではの雅やかな風情によって、深い人情的な襞(ひだ)を感じさせるものになっている。アシュケナージの好サポートは特筆に値する。アムラン盤と比べても、オーケストラの表現力は当盤が大いに勝っている。ラフマニノフを得意とするアシュケナージだけあって、ロシア的な情緒の通う主題の歌わせ方など、まさに天下一品で、ノリに乗った壮大なメロディーを歌いあげている。当録音の成功を物語るところだ。
 1974年に録音されたアンコール集は、技巧的に難しい曲に挑戦し続けたチェルカスキーらしい演目で、特にゴドフスキーによる編曲ものの数々が面白い。これらの曲は入手可能な録音点数自体が少ないこともあって、当盤の価値を一層高めていよう。とくにサンサーンスの白鳥、シューベルトの(ピアノ独奏曲としてすでに完成された)楽興の時の編曲など、ゴドフスキーのキャラクターがよく伝わってくる内容だ。
 チェルカスキーの演奏は、ニュアンスを大切にした暖かさがあり、聴いていて、ほっとするような、優しさと華やかさに満ちている。


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