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ロージャ



協奏曲

主題、変奏と終曲 弦楽オーケストラのための協奏曲 ヴァイオリン協奏曲
vn: パイク ガンバ指揮 BBCフィルハーモニック

レビュー日:2019.10.29
★★★★★ ロージャが遺したクラシック作品に焦点を当てた好企画
 「白い恐怖」「二重生活」「ベン・ハー」といった映画のために書いた音楽で多大な業績を残したハンガリーの作曲家、ロージャ・ミクローシュ(Rozsa Miklos 1907-1995)が書いたクラシック管弦楽作品を収録するシリーズの第3弾。当盤には以下の楽曲が収録されている。
1) ヴァイオリン協奏曲 op.24
2) 弦楽オーケストラのための協奏曲 op.17
3) 主題、変奏と終曲 op.13
 ラモン・ガンバ(Rumon Gamba 1972-)指揮、BBCフィルハーモニックの演奏。ヴァイオリン協奏曲におけるヴァイオリン独奏はジェニファー・パイク(Jennifer Pike 1989-)。2012年の録音。
 ロージャはハリウッドで活躍し、映画音楽の作曲家として名声を博したが、その一方で、クラシックの作曲家でありたいという自身の内面から沸き起こる欲求に応えるように、当該ジャンルの作品も残している。しかし、それらの作品は、現在彼の書いた映画音楽と反対に、ほとんど取り上げられることはない。新古典主義的な作風が、どこか折衷的で、この作曲家ならではの価値や魅力を見出しにくいところがあるのだろう。
 そういった作品にスポットライトを当てて、シリーズ化するというのは、いかにもChandosらしい目の付け所だろう。演奏も録音も良く、なかなか楽しめるアルバムになっている。
 ヴァイオリン協奏曲は、ハイフェッツ(Yasha Heifetz 1901-1987)の委嘱により書かれたもの。3つの楽章からなる古典的な構成で、聴き味もロマン派ふう。第1楽章はクラリネットの印象的なフレーズ、ヴァイオリンと管弦楽の応答から、情熱的な展開があり、なかなか聴かせる。夜想曲風の第2楽章を挟んで、第3楽章は活力豊かな舞曲的様相を見せる。静と動の対比を持ちながら、ロマンティックに描かれていく。ジェニファー・パイクの独奏はなかなか魅力的だ。いかにもこの作品を好んでいるという気概で、積極的にフレーズを活かし、前面に出してくるが、その性質が良い方向に作用し、適度な能弁さを持っている。なお、この楽曲のモチーフは、後にビリー・ワイルダー(Billy Wilder 1906-2002)の映画「シャーロック・ホームズの冒険」の映画音楽に転用されている。
 弦楽オーケストラのための協奏曲は、ロージャと同郷の偉大な先人であるバルトーク(Bartok Bela 1881-1945)やコダーイ(Kodaly Zoltan 1882-1967)を彷彿とさせるソノリティを持っている。旋律的なインスピレーションにおいて、バルトークやコダーイの域に達していないとは言え、高い緊張感を表現していて、こちらも面白く聴くことが出来る。
 収録曲中、最も外向的な作品と言えるのが、「主題、変奏と終曲」だと思う。クラリネットで提示されたどこか郷愁的な旋律が、様々に展開し、熱血的な終曲に結び付いていく。土俗性を秘めた終曲の迫力は、私にはどこか伊福部昭(1914-2006)の作品を思わせるものに感じられるが、いかがだろうか。
 このような楽曲でのガンバの演奏は、さすがに上手い。映画音楽的なものを覆い隠したりはせず、その魅力をしっかりと音楽に組み込みながら、品質の高さを感じさせるサウンドを成立させている。ロージャの知られざる一面をよく伝える1枚となっている。


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