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ロータ



管弦楽曲

バレエ組曲「道」 愛の歌によるシンフォニア 映画「山猫」の音楽から「ヴェルディのワルツ」、「最後のワルツ」
コンティ指揮 パレルモ大劇場交響楽団

レビュー日:2007.8.27
★★★★☆ ニーノ・ロータの映画音楽から生まれたクラシック楽曲の世界です
 1911年ミラノ生まれのニーノ・ロータ( Nino Rota 1911-1979 )は、映画音楽を約150本以上手掛けたその世界の偉人。代表作は「ゴッドファーザー」「ロミオとジュリエット」「道」「甘い生活」等々。一方で演奏会用の作品としては交響曲、ピアノ協奏曲、チェロ協奏曲そして11曲を数えるオペラがあるが、あまり知られていない。自身はむしろクラシックの作曲家であるというステイタスに重きをおいていたので、世評はその逆だったということだろうか。
 さて、このディスクには、そんなロータの興味深い作品が収録されている。バレエ組曲「道」、映画「山猫」の音楽から「愛の歌によるシンフォニア」、「ヴェルディのワルツ」、「最後のワルツ」の各曲である。演奏は、コンティ指揮のレルモ大劇場交響楽団。録音は2002年。
 「道」はフェデリコ・フェリーニ監督の同名の映画音楽をバレエ音楽にアレンジしたもので、有名な「ジェルソミーナのテーマ」を始め他の映画音楽の主題も転用されており、ロータ・フアンには聴き逃せない作品になっている。当ディスクの収録曲の中でも、この30分程度のバレエ組曲が抜群に面白く楽しく聴ける。アレンジも巧みだし、メロディー・メーカーとしての如才を如何なく発揮した躍如ぶりが好ましい。
 「山猫」はこれまたヴィスコンティ監督の映画のための音楽。「山猫」といっても別にネコの映画ではなくて、山猫はシチリアの名家の紋章である。これまた映画フアンにはたまらない楽曲(フレーズ)のオンパレードであるが、それでもシンフォニアとしての体裁を整えるあたりにロータのクラシック作曲家としての教養と誇りを感じる。このオーケストラに関してはあまり録音を聴いたことがないけど、非常にこなれた感じで演奏しており、あるいは日常的なレパートリーなのかもしれないと感じられた。いずれにしても親しみやすく、楽しいアルバムである。

「アマルコルド」組曲 「8 1/2」組曲 「甘い生活」組曲 「フェデリコ・フェリーニのカサノバ」交響組曲 「道化師」組曲 ウィリアム・ロス編 アマルコルド
シャイー指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団

レビュー日:2021.10.13
★★★★☆ 映画音楽の巨匠が書いた歴史的作品を、現代一流の演奏で聴く
 シャイー(Riccardo Chailly 1953-)指揮、スカラ座フィルハーモニー管弦楽団による、ニーノ・ロータ(Nino Rota 1911-1979)の映画音楽から編まれた組曲を集めたアルバム。収録内容は以下の通り。
1) 「アマルコルド」組曲
2) 「8 1/2」組曲
3) 「甘い生活」組曲
4) 「フェデリコ・フェリーニのカサノバ」交響組曲
5) 「道化師」組曲
6) 「アマルコルド」 ~ロス(William Ross 1948-)編
 2017年の録音。
 アルバムのタイトルにある通り、本盤の収録対象となっているのは、いずれもフェリーニ(Federico Fellini 1920-1993)が監督をした映画作品からのものとなっている。そのため、英語圏の国々、それと日本では、ロータの映画音楽と言えば、「ゴッド・ファーザー 愛のテーマ」が圧倒的に有名だと思うのだが、当盤には収録されていない。
 映画の文化が始まると同時に、音楽はその不可欠で重要な要素であるという認識は広く共有され、映画監督にとって、どの音楽家と仕事を進めることが出来るかは、たいへん重要な問題となった。中で、フェリーニとロータの関係は、その理想的なものの一つとして、世界で共有される認識と言っていいだろう。もっとも、ロータは、自らの本分はクラシックの作曲家であると考えていたと伝えられ、そのスタイルで様々な作品が生み出されているが、それらの録音はそれほど多いわけではなく、彼の書いた映画音楽に比べると、その知名度にはきわめて大きな差があると言わざるを得ない。「自他ともに認める」という言葉があるが、ローターは「圧倒的に他が認めた」映画音楽家であったわけだ。
 当盤に並ぶ作品は名作とされる映画に付随した音楽だが、私はそのほとんどを観ていない。「8 1/2」は若いころに一度TVで観たのだが、見事なほどにすっかり忘れている。なので、当盤に関するコメントに、自身の映画体験の影響を含むことはできない。
 さて、以上の前提の上での感想であるが、なるほど、映画音楽として良くできたと言える楽曲たちだ。すなわち、性格的なもの、感傷的なものへの感度が高く、その色彩性や、ここぞという時の旋律の浮き立たせ方に、相応の外連味があって、わかりやすい。また、ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky 1882-1971)やハチャトゥリアン(Aram Khachaturian 1903-1978)のストレートな引用も、映画音楽らしい実直さで、とにかく、伝わらなければいけない、という責務を全うした音楽に聴こえる。
 中でも「8 1/2」における性格的な音楽の際立たせ方や、「フェデリコ・フェリーニのカサノバ」におけるグロテスクな雰囲気は、映像と合わせることで、強靭な力を宿したことが想像される(と言いつつ、前述の通り、観た映画を忘れていて申し訳ないが、このような体験は、人によって「適切な時期や年齢」が異なるケースが多く、当時の私のもっぱらの興味を、他のことにあったように思う)。
 シャイーの指揮は、十分にオーケストラの厚みと豪壮さを引き出しており、その中でフルートなどがつかさどる鮮明な旋律線が訴えかけてくるのは、的確に焦点の当たる感じがあり、しっくりいく。
 ただ、純粋にクラシック音楽作品として接すると、音楽それ自体の深いところにもう一つ何か欲しくなるが、もちろん、それを目的に書かれた音楽ではないので、聴き手もその心得で聴くべきところだろう。


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