ローレム
交響曲 第1番 第2番 第3番 セレブリエール指揮 ボーンマス交響楽団 レビュー日:2017.8.29 |
|
★★★★★ 知られざるローレムの交響曲の魅力
インディアナ州リッチモンドで生まれたアメリカの作曲家ネッド・ローレム (Ned Rorem 1923-)が書いた3曲の交響曲を収録したアルバム。セレブリエール(Jose Serebrier 1938-)指揮、ボーンマス交響楽団の演奏。2003年の録音。収録内容の詳細は以下の通り。 交響曲 第3番 1) Passacaglia 6:49 2) Allegro molto vivace 2:31 3) Largo 2:34 4) Andante 5:17 5) Allegro molto 7:08 交響曲 第1番 6) Maestoso 5:11 7) Andantino 4:03 8) Largo 6:31 9) Allegro 6:26 交響曲 第2番 10) Broad, Moderate 15:22 11) Tranquillo 3:44 12) Allegro 3:14 楽章毎の演奏時間も併せて記したのは、これらの知られていない3つの交響曲を俯瞰してみて、楽章数もバラバラであれば、楽章間のバランスもバラバラといった体裁になっていることを示すためである。特に最後に収録された交響曲第2番なんて、全曲の演奏時間の大半を第1楽章が占めてしまう。これに似た作品、というと何か思い出すだろうか。私の場合は、ショスタコーヴィチ(Dmitrii Shostakovich 1906-1975)の交響曲第6番を思い出す。 ローレムはアメリカの作曲家であるが、フランス、そしてモロッコを生活の拠点としていた時期もある。そのためか、これらの楽曲は、どこかフランス風の印象がつきまとう。セレブリエールは、フォーレ(Gabriel Faure 1845-1924)との共通性を指摘しており、それは第1交響曲のアンダンティーノの牧歌的風情に明瞭であろう。とはいえ、全般にフォーレ的というわけではない。 これらの交響曲は、調性的であり、その響きはやさしく、ほのかに甘い。旋律は歌謡性があるというよりは、どこか印象派的であるが、音響はそれと異なった趣を示すところもある。ある意味折衷的だが、存外に親しみやすい雰囲気と、安易に俗性と妥協しない性格があって、クラシック作品らしさが意外なほど高くたもたれている。 冒頭に収録された交響曲第3番は、バーンスタイン(Leonard Bernstein 1918-1990)によって初演されている。この曲を冒頭に配した意図は、この曲にもっとも独創性が高いからだろう。第1楽章は牧歌的だ。ローレムの交響曲の特徴として、緩徐楽章が、決して水気の多い情緒的なものにならず、乾いた風の吹くような、軽やかで牧歌的なものとなる点があり、その点で、この最初の楽章は、早くもこの作曲家の特徴を強く示すことになる。第2楽章、第5楽章が急速楽章となるが、第2楽章がより性格的で、ジャズ的な色彩を持つように思う。 交響曲第1番は前述の通り、フォーレの「マスクとベルガマスク」を連想させる中間楽章が魅力的だが、終楽章の熱血的な高揚も美しく、聴き応えがある。 最後に収録された交響曲第2番は、1楽章と2楽章がローレムらしい緩徐楽章の特徴を見せ、俊敏な第3楽章で結ばれる。 どの曲も、どの楽章も、聴き易く、音楽的な内省性を持っており、魅力的だ。第1交響曲と第2交響曲については、当盤が世界初録音と書かれているが、本当だろうか。そうだとしたら、今まで録音がなかったのは不遇と言って良い出来栄えだ。 師であるコープランド(Aaron Copland 1900-1990)やハリス(Roy Harris 1898-1979)を思わせるアメリカ的なものと、フランス的なものが融合した、魅力的な作風である。セレブリエールとボーンマス交響楽団は、そのテクスチュアを鮮やかに示した快演で、楽曲の真価を明らかにしている。 |