ロドリーゴ
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ロドリーゴ アランフェス協奏曲 ヴィラ=ロボス ギター協奏曲 カステルヌォーヴォ=テデスコ ギター協奏曲 第1番 g: クラフト ウォード指揮 ノーザン室内管弦楽団 レビュー日:2017.8.1 |
★★★★★ ギター協奏曲の魅力が良く引き出されている、録音・演奏の双方に良質さを感じさせるアルバム
オーストリアのギター奏者、ノーバート・クラフト(Norbert Kraft 1950-)と、イギリスの指揮者ニコラス・ウォード(Nicholas Ward 1952-)とノーザン室内管弦楽団による3つのギター協奏曲を集めたアルバム。収録曲は以下の通り。 1) ロドリーゴ(Joaquin Rodrigo 1901-1999) アランフェス協奏曲 2) ヴィラ=ロボス(Heitor Villa-Lobos 1887-1959) ギター協奏曲 3) カステルヌォーヴォ=テデスコ(Mario Castelnuovo-Tedesco 1895-1968) ギター協奏曲 第1番 op.99 1992年の録音。 最初に断わっておくと、私はギターの楽曲をほとんど聴かない。これらの楽曲もロドリーゴの名曲として知られる一遍を除いて、当盤ではじめて聴いた。そのため、クラフトというギター奏者の名前も、これまで知らなかった。 「ギター協奏曲」というジャンルは、その楽器の古さに比し、クラシックのメジャーなレパートリーではない。そもそも、一般的にギターはオーケストラの編成にも入っていない。理由は単純で、この楽器の音量の小ささによる。他の楽器の音にかき消されて、ただの振動のようなものになりかねない。 せめて、ギターを独奏曲に仕立てたのが「ギター協奏曲」である。しかし、これも当然のことながら音量的な制約があって、オーケストラが朗々と鳴り渡るようなスコアを書くわけにはいかないのである。つまり、「ギター協奏曲」自体が、そのような強力な「しばり」を課すものであるため、オーケストラ文化の中で、「ギター協奏曲」というジャンルは、多くの作曲家にとって、食指を動かし難いものだったに違いない。 しかし、20世紀になってから、いくつかロマン派の潮流を踏まえた作品が書かれており、当盤に収録された3曲はその代表的なものと言って良い。 最初に述べた様に、私が当盤の演奏について言及するには、その範囲にかなりの「限り」があるのだけれど、その範囲内でコメントをさせていただくと、当盤の印象は、現代の録音技術によって、ギター協奏曲として一つの理想に近い再生環境が獲得されたものという感が強い。オーケストラは、そもそも重い大きな音が必要な楽曲ではないけれど、その中で良く鳴っていて、一方でギターの音も、こまやかなところまで、克明に録音されていて、弦の揺れのようなものもよく伝わる。両方に的確な焦点が当たっている。 クラフトのギターは、ギター演奏に特有の機械的な夾雑音をほとんど感じさせず、健やかで透明な音色で、私はとても良いと思う。ギターの音色の魅力的な部分は十全に引き出されていて、それでいて高貴で必要な「抑え」の効いた表現が、オーケストラとよく調和している。有名なアランフェス協奏曲では、旋律的な魅力と音色的な魅力の双方で高い満足が得られるし、他の楽曲でも、例えばテデスコの曲での独奏ギターと木管のフレーズのやりとりなど、自然で、暖かいものが満ちている。 録音技術の成果を堪能できる演奏、ということができるだろう。とてもバランスよく、品よくまとめられており、質の高い録音芸術になっていると感じられる。 |