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レスピーギ



管弦楽曲

交響詩「ローマの松」 交響詩「ローマの噴水」 交響詩「ローマの祭り」
アシュケナージ指揮 オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2005.12.2
★★★★★ 録音芸術を体感する1枚
 アシュケナージがオランダのオーケストラとレスピーギ!この斬新な顔合わせにさらに一興を与えているのがプロデューサーの江崎友淑氏の存在である。アシュケナージの数々の録音を聴いてみての感想だが、江崎氏がプロデュースしたとき、アシュケナージの音楽表現がやや変わると思えるのだ。つまり、録音の妙技を活かし、ややソリッドな音で、楽器の立ち上がりの音を明快にし、クリアなサウンドを心がけてつくりあげている。デッカの録音では天国的ともいえるバランス重視をしていたスタイルがやや変わっていると思えるのだ。
 これはアシュケナージと江崎氏の入念な打ち合わせの末、「このようなこのを作ってみないか」という企画について、アシュケナージが「なるほど」と歩み寄りながら、そこでなお感性を発揮していると感じられる。録音での面白みから作品を解析して表現を組み立てることに、例えば評論家であれば、容易に批判できる糸口はあるだろう。しかし私が思うにこの録音は確信犯である。
 実際に聴いてみると、いまだ聴いたことのない斬新な音色の連続に圧倒されてしまう。まったくあたらしいパレットを使って最初から描き直してしまったように新鮮だ。中でも「ローマの祭り」の血沸き肉踊るような迫力満点のリズムとともに、燦々となりわたる全楽器陣の音色はプラネタリウムであらゆる名星を並べたかのように壮麗だ。まさに録音芸術を体感する1枚となった。

交響詩「ローマの松」 交響詩「ローマの噴水」 交響詩「ローマの祭り」
シノーポリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団

レビュー日:2012.8.7
★★★★★ ローマ3部作の代表的快演奏の一つ
 イタリアの名指揮者、ジュゼッペ・シノーポリ(Giuseppe Sinopoli 1946-2001)によるイタリアの作曲家、オットリーノ・レスピーギ(Ottorino Respighi 1879'1936)の管弦楽曲「ローマ3部作」を収録したアルバム。演奏はフィルハーモニア管弦楽団、1991年の録音。
 「ローマ3部作」はレスピーギの代表作として知られる3つの管弦楽曲で、「ローマの噴水」「ローマの松」「ローマの祭り」のこと。それぞれ楽曲は4つの部分にわかれていて、各部分が標題音楽的なタイトルを持っている。参考までに記載すると「ローマの噴水」が<夜明けのジュリアの谷の噴水、朝のトリトンの噴水 昼のトレヴィの噴水 たそがれのメディチ荘の噴水>、「ローマの松」が<ボルゲーゼ荘の松 カタコンバ付近の松 ジャニコロの松 アッピア街道の松>、「ローマの祭り」が<チルチェンセス 五十年祭 十月祭 主顕祭>からなる。ローマ3部作を集めたアルバムは多いが、収録順は様々で、一番有名な「ローマの松」を頭に収録することもあるが、このアルバムは作曲年代順(噴水→松→祭り)に収録しており、私個人的にもそれがいいと思う。
 イタリアという土地は、ルソー(Jean-Jacques Rousseau 1712-1778)とラモー(Jean-Philippe Rameau 1683-1764)によるブフォン論争(Bouffon's Quarrel)以来のお国柄なのか、音楽理論を背景とした純器楽による作品が不毛の土地柄で、中にあって唯一正面から管弦楽曲に臨んだのがレスピーギということになる。そのため、トスカニーニ(Arturo Toscanini 1867-1957)以来、イタリアの指揮者には、これらの曲を録音で取り上げる伝統のようなものがあるが、このディスクもその中の一枚。
 さて、内容である。レスピーギのこれらの名曲は、燦然たる管弦楽書法とスペクタクルな演奏効果により、実に鮮烈で目覚ましい効果のある刺激的な音楽で、私も昔からよく聴いてきた。このシノーポリの演奏は、実にスケールが大きく、壮大な音楽が鳴り響く心地よさがある。テンポは終始安定しており、決然とした音楽的効果を凛々しい輪郭をくっきりと描き出すことにより獲得しており、たいへん鮮やかだ。「昼のトレヴィの噴水」の勇壮な盛り上がりは圧巻で、直線的に高く吹き鳴らされる金管の響きはドラマティックだ。高名な「アッピア街道の松」はじっくりしたテンポで、たっぷりとエネルギーを蓄えていく足取りで、フィナーレの解放感は神々しい。もっとも情熱的な「祭り」ではクールな視点を持ちながら、音楽の白熱を巧みにコントロールし、濁りのない響きで力強い音楽効果を引き出している。的確に楽器の動きを統率しながら、これらの音楽の「愉悦性」や「楽しみ」といった要素を存分に引き出した快演奏だ。

「ローマの松」 交響詩「ローマの噴水」 弦楽のためのアリア ヴァイオリンと管弦楽のための「Leggenda」 小オーケストラのためのアダージョ「Di Sera」 リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲
シャイー指揮 ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団 vn: アンジェリス

レビュー日:2020.12.22
★★★★☆ めったに聴くことのできないレスピーギの初期作品を含む管弦楽曲集
 リッカルド・シャイー(Riccardo Chailly 1953-)が2017年から音楽総監督を務めるミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団と録音したレスピーギ(Ottorino Respighi 1879-1936)の作品集。収録曲は以下の通り。
1) 交響詩「ローマの松」
2) 弦楽のためのアリア
3) ヴァイオリンと管弦楽のための「伝説(Leggenda)」
4) 小オーケストラのためのアダージョ「夕刻に(Di Sera)」
5) リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲
6) 交響詩「ローマの噴水」
 ヴァイオリンと管弦楽のための「伝説(Leggenda)」におけるヴァイオリン独奏は、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団のコンサート・マスター、フランチェスコ・デ・アンジェリス(Francesco De Angelis 1971-)。2019年の録音。
 イタリアの指揮者とオーケストラによるレスピーギ、というわけで、いわゆる「本場モノ」録音。当盤の大きな特徴の一つは「選曲」であろう。「ローマ3部作」のうちから2作品を冒頭と末尾に配置し、私も当盤で初めて聴いたレスピーギの初期作品を3つ。そして、リュートのための古風な舞曲とアリアからもっとも有名な第3組曲という構成。シャイーならではの発見性に着眼点を置いた構成となっている。
 なので、このアルバムの評価点は大きく以下の2つになる。まず、めったに聴けない曲を通してレスピーギをより深くしる価値。もう一つは、レスピーギの後期の充実した傑作の演奏の価値である。
 「珍しい初期作品」については、なかなか面白かった。レスピーギの器楽作品のためのインスピレーションがどのような形でオーケストラに還元されるか、オーケストレーションにおいて、メランコリーな要素と明るい色彩感がいかように交錯していくのかという過程が、なんとなくイメージできる。レスピーギが古楽を深く研究していたことは良く知られる。私は古楽のことはほとんど知らないのだが、聴く人が聴けば、これらの初期作品にも、相応の共通項を見出すのかもしれない。ときに古典的なソノリティを感じされる弦と、透明なポリフォニーの中で奏でられる旋律は、レスピーギが目指したものを、想起させてくれて、興味深い。
 「傑作作品の演奏」については、もちろん相応の水準以上のものと思うが、特にローマ3部作については、名演名録音がひしめいた状態にあって、それらと比較したときに、当盤を上位にとりたいと思わせるまでには私には感じられなかった。確かにニュアンスの濃さや陰りの鋭さ、情念を感じさせるファゴットや、弦楽合奏の芯の入り方に相応の魅力を感じるが、全体として、合奏音の練度という点について、突き詰められていない感じが残る。これは、私が「シャイー」という名前から、かつてこの指揮者がクリーヴランド管弦楽団やコンセルトヘボウ管弦楽団といったオーケストラを振って繰り出した、恐ろしいほどに練度の高い合奏音の印象が強いので、どうしてもそれらと比較してしまうという背景もあるのだけれど、やはり、ミラノ・スカラ座の音には、もう一段現代的な洗練の余地が残るように感ぜられてしまうのである。

「ベルファゴール」序曲 組曲「シバの女王、ベルキス」  交響的印象「教会のステンドグラス」
アシュケナージ指揮 オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2006.2.26
★★★★★ 華やかですが抒情性もしっかりキープ。
 アシュケナージとオランダ放送フィルによるレスピーギの「秘曲集」。オーケストラフアンにとっては「秘曲」ではあるが、「シバの女王、ベルキス」などは木村吉宏らによる編曲により吹奏楽の世界では広く知られている楽曲だ。しかし、原曲であるフル・オーケストラスコアによる録音は少なく、貴重な録音であることは間違いない。
 オットリーノ・レスピーギ(Ottorino Respighi 1879-1936)はイタリアの純粋管弦楽曲の重鎮ということになるが、オペラも多く書いており、決して「オーケストレーションの専門家」というわけではない。また、グレゴリオ旋法や古楽の研究において高い業績を活かしており、その成果を自身の作品に反映させている。そのため華麗なオーケストラ書法と、古楽的メロディの結実という、稀なる成果をもたらした。ここで聴かれるのは、その頂点群ともいえる作品だ。
 アシュケナージはやや早めのテンポをとっているようだが、金管群の細やかで迅速な反応は聴き応え満点だ。全般に華やかな楽曲であるが、抒情的味わいを随所に折り込むのは「ローマ三部作」と一緒で、さすがである。「シバの女王、ベルキス」でファゴットによって奏でられるエスニックでかつ抒情的な旋律は夢想的で美しい。
 また、各曲で配置される「舞台裏楽器群」の効果も面白い(「シバの女王、ベルキス」の「狂宴の踊り」における舞台裏のテノールはトランペットを用いた版によっている)。「教会のステンドグラス」はもともとレスピーギ自身のピアノ曲(これもグレゴリオ旋法に基づくもの)の編曲。「大天使ミカエル」における竜の地上落ちのシーンや、壮麗なオルガンを伴う「偉大なる聖グレゴリウス」など聴き所だ。
 録音は同じコンビによる前作(ローマ三部作)と同様で、分解能が高くソリッドで近めのサウンド。やや特に弦の音色などは固め過ぎるところもあり、好悪がわかれるかもしれない。それにしても、大編成オーケストラのあらゆる音をキメ細かに掬い取った奏者とスタッフの努力は十分実を結んでいると言える。

組曲「シバの女王、ベルキス」  変容(管弦楽のための主題と変奏曲)
サイモン指揮 フィルハーモニア管弦楽団

レビュー日:2009.11.27
★★★★★  レスピーギの秘曲「シバの女王、ベルキス」の紹介盤
 レスピーギ組曲「シバの女王、ベルキス」と「変容」(管弦楽のための主題と変奏曲)を収録。サイモン指揮フィルハーモニア管弦楽団の演奏で1985年の録音。
 オットリーノ・レスピーギ(Ottorino Respighi 1879-1963)の作品というと、ローマ3部作がめちゃくちゃ有名で、それに次いでリュートの為の古風な舞曲とアリアがある。しかし、それ以外の作品となるとそれほど知られてはいない。ただし、日本では、「シバの女王、ベルキス」が木村吉宏の編曲によりブラスバンド曲の定番として広まったため、聴き手の音楽への係わり方によって、「代表曲」が異なるという現象が起きている。「シバの女王、ベルキス」の存在価値を一般的に高めた録音としては、このシャンドス・レーベルによるサイモンの録音をまず指折らねばならない。
 「シバの女王、ベルキス」は紀元前1,000年のイスラエルとその周辺を舞台としたバレエである。彩色を極めた舞台効果と、レスピーギのエキゾチックな雰囲気に満ちた音楽で華々しい成功を飾っている。レスピーギという作曲家は学究肌のあった人で、グレゴリア音楽を研究して「グレゴリアン協奏曲」を書いたり、ロッシーニやラフマニノフの曲を管弦楽組曲として再編したりと多様な音楽活動を行っているが、この「シバの女王、ベルキス」はアラビア音楽(主としてトルコ音楽)の積極的な取り入れが顕著である。組曲は1.ソロモンの夢 2.夜明けのベルキスの踊り 3.戦いの踊り 4.狂宴の踊りの4部からなる。サイモン版は2.と3.の順番を入れ替えており、エスニックなパワーの続く楽曲が冒頭から続く。第1曲の導入部はことさら印象的で、チェロ→ストリングスと雰囲気に満ちたモチーフの提示に続いて、壮大壮麗な全管弦楽による合奏となる。このシーンはリムスキー・コルサコフの「シェエラザード」を髣髴とさせる。第2曲にあたる「戦いの踊り」は私たちが漠然と思い描くアラビア音楽の雰囲気に近く、土俗的なパワーが良く出ている。
 レスピーギのオーケストレーションの素晴らしさが圧巻である。サイモンの演奏は求心力確かでウェルバランスな演奏と言えるだろう。「シバの女王、ベルキス」の録音では、最近ではアシュケナージとオランダ放送フィルによる録音効果満点の鮮烈なものもあるが、2曲目と3曲目の曲順の入れ替えで随分雰囲気が異なるのも面白い。「夜明けのベルキスの踊り」は官能的とも言える叙情的な音楽なので、これがどこに来るかが大きな印象の相違となる。
 いずれにしても、当盤は併録の「変容」と合わせて、いまひとつ知られていないレスピーギの作品を知る良質良演盤である。


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