ライヒ
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砂漠の音楽 T.トーマス指揮 ブルックリン・フィルハーモニー管弦楽団 合唱団 S: ロウ perc: ハーテンベルガー ベッカー ヴェレツ クヴィスタード コロラド四重奏団 レビュー日:2020.11.13 |
★★★☆☆ 近現代音楽史の流れの中で、過渡期的価値を示す音楽作品
ミニマル・ミュージックの大御所、スティーヴ・ライヒ(Steve Reich 1936-)が1983年に書いた作品、「砂漠の音楽」。当該曲のみを収録した内容。演奏者か以下の通り。 ティルソン・トーマス(Michael Tilson Thomas 1944-)指揮 ブルックリン・フィルハーモニー管弦楽団員、ブルックリン・フィルハーモニー合唱団 ソプラノ独唱: シェリル・ベンスマン・ロウ(Cheryl Bensman Rowe 1955-) パーカッション: ラッセル・ハーテンベルガー(Russell Hartenberger 1944-)、 ロバート・ベッカー(Robert Becker 1947-)、グレン・ヴェレツ(Glen Velez 1949-)、ガリー・クヴィスタード(Garry Kvistad 1949-) コロラド四重奏団 1984年頃の録音。 ライヒ作品の演奏で名を知られたパーカッショニスト、“ロバート・ベッカー”は、“ボブ・ベッカー(Bob Becker)”の愛称の方が、通りが良いだろう。 楽曲は5つの楽章からなるが、そのうち第3楽章は3つのパートに分かれており、これに対応する形で、CDには8つのtrackが振られている。 音楽は、冒頭から物憂げで単調で細かいリズムにそって、弦楽器、パーカッション、声楽を織り交ぜた連音が、渇いた音を繰り返し、それが徐々に変容していく。どの楽章も、性向的には同一で、ミニマル・ミュージック特有の執拗さをともなって、それが継続していく。この楽曲は「砂漠の音楽」というタイトルを持っているが、これを聴いていると、砂漠を形成する砂礫の積み重ねのような、地質学的な現象を、音楽で象徴させたようで、無機的であり、その無機性ゆえの不安感を煽るところがある。楽曲は、後半の方が聴き易く、そこでは、シミュレーションゲームのBGMを感じさせるような、繰り返しの中で、時々感情的なものが混ざり込んでくる演出を聞き取ることが出来る。 この音楽が登場した頃、その新規性ゆえに一定の注目を浴び、BGMなどで使用される機会もあったそうだが、いま改めて聴いてみると、私はそれほどこの音楽を積極的に評価できない。むしろ、これが音楽であるということをある程度強く自分に言い聞かせて、我慢して聴かなければならないような思いにさせられる。これは、必ずしもミニマル・ミュージック全般について私が思うことではなく、例えば、ライヒと同じ世代のフィリップ・グラス(Philip Glass 1937-)の作品など、心の底から美しいと感じることが多々あるのだけれど、私の場合、ライヒの作品を聴いても、そのような感情の動きはおこってこない。 むしろ、いま現在となっては、このような成功の音響を形成するにあたって、わざわざクラシックの楽器を使用するということが、ほとんどメリットにならないことを痛感する。音楽の方向性と、楽器の表現性が、まったく別方向を向いているのである。このような音響を形成するのであれば、いわゆる打ち込み系で音楽を作った方が、はるかに完成度は高いし、作曲者の思い通りのものが出来るはずだ。偶然性や演奏者の表現性を反映したいというほどの音楽にも思えない。 そういった意味で、私には、いまとなっては、音楽史における、一瞬の経過点で生まれた奇妙な里程標、というくらいの認識以上のものを、与えることは難しい。また、録音もいまひとつ粗く、左右のバランスも、不自然に機械的で、むしろ不快さを感じるところがあり、評価しがたい。 |