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レーガー



協奏曲

レーガー ピアノ協奏曲 第1番  R.シュトラウス ブルレスケ
p: アムラン ヴォルコフ指揮 ベルリン放送交響楽団

レビュー日:2014.2.26
★★★★☆ レーガーのピアノ協奏曲は、なかなか難渋な曲ですね・・
 Hyperionレーベルから長年継続的にリリースされている「ロマン派のしられざるピアノ協奏曲」シリーズの第53弾で、以下の2作品が収録されている。
1) レーガー(Max Reger 1873-1916) ピアノ協奏曲 ヘ短調 op.114
2) R.シュトラウス(Richard Strauss 1864-1949):ブルレスケ ニ短調
 マルカンドレ・アムラン(Marc-Andre Hamelin 1961-)のピアノ、イラン・ヴォルコフ(Ilan Volkov 1976-)指揮、ベルリン放送交響楽団の演奏で2010年の録音。
 アムランは、たびたび、この「ロマン派のしられざるピアノ協奏曲」に登場していて、1999年録音のブゾーニ(Ferruccio Busoni 1866-1924)の協奏曲(CDA67143)や、2005年録音のルビンシテイン(Anton Rubinstein 1829-1894)とシャルベンカ(Franz Xaver Scharwenka 1850-1924)の協奏曲(CDA67508)など、たいへん素晴らしい内容だった。それで、当盤も興味津々で聴かせていただいた。
 しかし、結果から書くと、このレーガーの作品からは、上記の既出アルバムほどの感銘は受けなかった。というのは、曲自体の魅力がもう一つであるから、というのが正直な気持ち。
 レーガーは、ドイツのバイエルン州で生まれた作曲家兼指揮者で、ザクセンのマイニンゲン公の宮廷楽長を務めた人物。作曲家としても多くの作品を書いているが、その作風は古典的で、絶対音楽を指向する性格が強く、音の厳格な構成による可能性を追求し、変奏曲、トッカータ、フーガなどバロック時代の構成原理に沿った作風を守った。また、和声法ではワーグナー(Richard Wagner 1813-1883)からの強い影響が伺える。
 このピアノ協奏曲は、ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897)の「ピアノ協奏曲第1番」を意識して書かれたという。ドイツ音楽の本流中に自らの作風を位置づけるレーガーとしては自然なことであっただろう。しかし、このレーガーの作品を聴くと、深刻な和声を使った特有の難渋な色味と、その一方で華麗なヴィルトゥオーソを求めるピアノのバランスが、微妙な散漫さを招いていて、楽曲の輪郭をわかりにくくしているように思う。アムランの技巧は見事で、第1楽章コーダのスパート感など、いかにもこのピアニストらしいが、そのことを心行くまで楽しませてくれるほど、楽曲のパーツが簡明に構成されていないと思う。形式を尊重しておきながら、主題の明瞭性に乏しいことが、さらに不安感を助長しているのではないだろうか。
 第2楽章もどこか陰鬱な雰囲気に満ちていて、もちろん、そういう音楽があってもいいのだけれど、その陰鬱さに深みの要素が足りない音楽に聴こえる。アムランのピアノは見事だが、彼はこのような楽曲であっても、その欠点(と思えるもの)を解消しようという外力は使わず、淡々と楽譜の指示に従うから、どうにも「陰」の要素が増加されてしまう。もっとノスタルジーに訴える手法もあると思うけれど。
 そういった点で、私がいちばん素直に聴けたのは、終楽章であった。重厚なテクスチュアを、適度なスピード感によって歌いあげた洗練度の高い演奏で、音楽の方向性が見定まっている安定感があり、心地よく響く。
 そういったわけで、(少なくとも私には)楽曲としては2曲目に収録してあるR.シュトラウスの作品の方が、ずっと楽しめる作品。実際、この曲は、もっと録音があってもいいと思わせる作品で、作曲者のユーモアや才気をこよなく伝えてくれる。ここでもアムランの技巧の卓越したピアニズムは見事の一言。ただ、オーケストラの表情付けがやや渋めで、とくにティンパニなど、もっと華やかに鳴らしてほしいところがあって、やや不完全燃焼感の残るところとなってしまった。
 というわけで、当盤は、私にとって、Hyperionレーベルの「ロマン派のしられざるピアノ協奏曲」シリーズの中でオススメの一枚とはならなかったが、特にレーガーのピアノ協奏曲は、録音自体が少ないこともあり、この曲がどんな曲か知りたい、という人の希望には、十二分に応えてくれる内容だと思う。


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