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プッチーニ



管弦楽曲

交響的前奏曲 交響的奇想曲 「妖精ヴィッリ」第1幕への前奏曲 「妖精ヴィッリ」から妖精の踊り 「エドガール」第1幕への前奏曲 歌劇「エドガール」第3幕への前奏曲 3つのメヌエット 「マノン・レスコー」から第3幕の間奏曲 菊(弦楽合奏版)
シャイー指揮 ベルリン放送交響楽団

レビュー日:2009.7.20
★★★★★ オペラ作曲家「プッチーニ」がよく表れている管弦楽曲集
 ジャコモ・プッチーニ(Giacomo Antonio Domenico Michele Secondo Maria Puccini 1858-1924)はいわずと知れたイタリアオペラの偉大な作曲家である。このアルバムがそんなプッチーニには珍しい純器楽のための作品と、オペラの間奏曲などが収録されている。彼の歌劇はいずれの作品も新しい価値を目指した創意工夫があるが、基本的に雰囲気を盛り上げるための活用に関するアイデアが中心で、ワーグナーのような音楽書法上の「動機」としての発展はほとんどない。優れた作品では、人物の表現や感情がきわめて適切に表出されている点で評価されている。(この評価軸こそ、器楽作曲家と歌劇作曲家の大いなる違いと思う)。
 そんなプッチーニの管弦楽曲を聴いてみると、これは見事なほど「声のない歌劇」である。オーケストラのためのアリア、といった趣で、優美哀麗な旋律で、一つの大きな感情が、大きく弧を描くように紡がれていく。クライマックスではティンパニと金管の豊穣な響きが満ち、壮麗なファンタジーを築いて、弦楽器による余韻が美しく末尾を引く。このアルバムを聴くとまさにプッチーニがプッチーニとなったすべての理由を知るような気になる。彼は徹頭徹尾オペラ作曲家だったのだ。「いい台本がなくては私の音楽は役立たない」とは彼自身の言葉である。
 演奏は録音がクリアなこともあって、瑞々しいブルーなカラーが見事。シャイーと良好な関係が続くベルリン放送交響楽団だけあって、全ての音がクリアに響く“シャイー・サウンド”を堪能できる。結果としてなかなか情熱的なプログラムになっている。もちろんオペラの前奏曲や間奏曲の表現もバランスがよく、安心して楽しめる。


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歌劇

歌劇「ボエーム」
シャイー指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団 合唱団 S: ゲオルギュー T: アラーニャ Br: キーンリーサイド Bs: ダルカンジェロ S: スカーノ Br: カンディア Bs: マリオッティ

レビュー日:2012.12.19
★★★★★ プッチーニの甘美なオペラを絶好の美観で聴かせる名演
 ジャコモ・プッチーニ(Giacomo Puccini 1858-1924)の歌劇「ラ・ボエーム」全曲。リッカルド・シャイー(Riccardo Chailly 1953-)指揮、ミラノ・スカラ座管弦楽団と合唱団の演奏。1998年の録音。CD2枚組。主な配役は以下の通り。
ミミ: アンジェラ・ゲオルギュー(Angela Gheorghiu 1965- ソプラノ)
ロドルフォ: ロベルト・アラーニャ(Roberto Alagna 1963- テノール)
マルッチェロ: サイモン・キーンリーサイド(Simon Keenlyside 1959- バリトン)
コッリーネ: イルデブランド・ダルカンジェロ(Ildebrando D'Arcangelo 1969- バス)
 歌詞はなく、チャプターごとの簡単なシノプシスのみ添付。
 イタリア・オペラの作曲家として3人の名を挙げるとすると、シューベルトの5歳年上のロッシーニ(Gioachino Rossini 1792-1868)、ワーグナーと同い年のヴェルディ (Giuseppe Verdi 1813-1901)、そしてマーラーより2歳年上のこのプッチーニと並べるのが妥当だろう。プッチーニの歌劇は、音楽的構成が自由で、題材も「いかにも」なものが多く、時として平板な印象も受けるのだが、しかしなんといっても官能的で甘いメロディを発案する天才だから、「親しみやすい」「覚えやすい」メロディによって紡がれたアリアをはじめとする歌の数々は、面目躍如たるところだろう。また、プッチーニの場合、ヴェルディとは異なり、ライト・モティーフを用いており、そのことも親しみやすい要因となるだろう。
 「ラ・ボエーム」も“いかにも”な話で、ストーリーと言えるほどのストーリーはなく、アリアを歌う背景を観客に説明し、その心情を切々と歌い上げるといった仕組みである。一応その中身をカンタンに書いておこう。パリのカルチエ・ラタンの屋根裏で金のない4人組(画家マルチェッロ、詩人ロドルフォ、哲学者コッリーネ、音楽家ショナール)が暮らしている。ショナールが大金を入手し、ロドルォフォ以外の3人は町に繰り出す。残ったロドルフォは、その間にやはり屋根裏で暮らしていたミミと恋仲になる。ロドルフォはミミを3人に紹介し、二人の生活を始める。しかしミミは結核を患う。ロドルフォは自分の暮らしが原因と考え、自責にかられるが、それを知ったミミはロドルフォに別れを告げ、一人屋根裏部屋へと戻ってしまう。結局元の4人組の生活に戻るが、ミミの病状は突如重くなる。駆けつけたロドルフォに美しい思い出を語りながらミミは息絶える。
 私自身はこのような「お涙ちょうだい」ストーリーはさほど好きではないのだけれど、プッチーニの音楽演出力はさすがで、強烈な力で人の心に訴えてくる。とくに有名なのはロドルフォとミミの出会いのシーン。ロドルフォのアリア「冷たい手を(Che gelida manina) CD1 トラック8」とこれに応えるミミのアリア「私の名はミミ(Si, mi chiamano Mimi) CD1 トラック9」は圧巻の美しい旋律。ほかにも歌謡性に溢れた音楽で、現在イタリアで最も上演回数の多いオペラというのも、わかる気がする。
 本盤の歌手陣は好演で、ゲオルギュー&アラーニャは、名演として名高いカラヤン盤のフレーニ&パヴァロッティに引けを取らない内容だ。病弱なミミの表現は、「咳」の扱いなどでも程よいニュアンスを出しており、しかもやり過ぎていない。アラーニャによる最後の嘆きの演技も、さすが声のプロ、とそれだけで感嘆してしまう出来栄え。
 シャイーの指揮は快活なテンポを維持しており、音楽の弛緩を戒めながら、下品になることなく劇を盛り上げており、こちらもいかにも手中に収めた表現といったところ。この人気の高いオペラの録音の中でも、現代的な洗練を伴った捨てがたい1枚と言える。

アリア集
T: カウフマン パッパーノ指揮 ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団 合唱団 S: オポライス Br: シメオーリ Bs: ピロッツィ

レビュー日:2018.2.1
★★★★★ 細やかな機微のある表現に惹かれるカウフマンのプッチーニ
 ドイツのテノール、ヨナス・カウフマン(Jonas Kaufmann 1969-)によるプッチーニ(Giacomo Puccini 1858-1924)のアリア集。アントニオ・パッパーノ(Antonio Pappano 1959-)指揮、ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団、合唱団と2014年に録音したもの。
1) 歌劇「マノン・レスコー」より「なんと素晴らしい美人(Donna non vidi mai)」
2) 歌劇「マノン・レスコー」より「ああ、私が一番きれいなのね~あなたなの、あなたなの、愛する人(Oh, saro la piu bella! ... Tu, tu, amore? Tu?)」
3) 歌劇「マノン・レスコー」より「ああマノン、またしてもお前は(Ah! Manon mi tradisce)」
4) 歌劇「マノン・レスコー」より「急げ、整列!~そうさ僕は狂っているさ(Presto! In fila! ... Non v'avvicinate! No, pazzo son!)」
5) 歌劇「妖精ヴィッリ」より「ここがあの家・・・苦しい僕のこの思いを(Ei giunge! ... Torna ai felici di)」
6) 歌劇「エドガール」より「大狂宴だ!(Orgia, chimera dall'occhio vitreo)」
7) 歌劇「ボエーム」より「愛らしい乙女よ(O soave fanciulla)」
8) 歌劇「トスカ」より「妙なる調和(Recondita armonia)」
9) 歌劇「蝶々夫人」より「愛の家よ、さようなら(Addio, fiorito asil)」
10) 歌劇「西部の娘」より「あれから6カ月たった(Una parola sola! ... Or son sei mesi)」
11) 歌劇「西部の娘」より「やがて来る自由の日(Risparmiate lo scherno ... Ch'ella mi creda libero)」
12) 歌劇「つばめ」より「パリ! それは欲望の町(Parigi! E la citta dei desideri)」
13) 歌劇「外套」より「お前の言うとおりだ(Hai ben ragione)」
14) 歌劇「ジャンニ・スキッキ」より「フィレンツェは花咲く木のような(Avete torto! ... Firenze e come un albero fiorito)」
15) 歌劇「トゥーランドット」より「泣くな、リュー(Non piangere, Liu!)」
16) 歌劇「トゥーランドット」より「だれも寝てはならぬ(Nessun Dorma)」
 共演者として、2,7,15)ではソプラノのクリスティーネ・オポライス(Kristine Opolais1979-)、9-11)ではバリトンのマッシモ・シメオーリ(Massimo Simeoli)、8,15)ではバスのアントニオ・ピロッツィ(Antonio Pirozzi)が参加。2014年のセッション録音。
 現代を代表するテノール、カウフマンを堪能できる一枚だろう。ドイツ、イタリアの双方のオペラに深く精通したカウフマンであるが、彼の特徴は配役の妙に応じた歌唱表現の幅にあると思われる。
 ここでは有名なメロディに満ちた楽曲が並ぶが、そうであっても妖精ヴィッリやエドガールで、感情の機微の細やかさを、適度な暗さに宿した歌が、深みを感じさせるものになっている。華麗さというより、どこか明晰さをもった響きであり、楽器のような質感を感じさせる声質にも思える。これらの歌唱がプッチーニ的かどうか、私の感覚だけでは、なんとも判断しづらいが、含みの多様さを感じさせるところは見事だと思う。
 中でも有名な「だれも寝てはならぬ」の前に置かれた「泣くな、リュー」の不思議な柔和さは私には印象的。また、「妙なる調和」で見せる明瞭なフレージングも、音楽的な効果に満ちているだろう。
 単に朗々と歌うというだけでなく、どこかしめやかな暗さを湛えた感情の幅が魅力的であり、そこにカウフマンという歌手の高い価値があるに違いない。


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