ピエルネ
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フランシスコ会の風景 大聖堂 スケルツォ=カプリス 交響詩 幻想バレエ ワルツ形式の夜想曲 演奏会用練習曲 メナ指揮 BBCフィルハーモニック p: バヴゼ レビュー日:2017.9.5 |
★★★★★ 現代最高と言って良いほどに鮮やかなピエルネ作品の再現
ファンホ・メナ(Juanjo Mena 1965-)指揮、BBCフィルハーモニックの演奏によるフランスの作曲家、ピエルネ(Gabriel Pierne 1863-1937)の作品集。2014年録音。当盤は、2009年録音の第1弾に続く第2弾となる。収録曲は以下の通り。 1) フランシスコ会の風景 op.43 2) 大聖堂(ウジェーヌ・モランの劇的詩のための前奏曲/無合唱版) 3) スケルツォ=カプリス op.25(ピアノと管弦楽のための交響的ワルツ) 4) 交響詩 op.37(ピアノと管弦楽のための) 5) 幻想バレエ op.6(ピアノと管弦楽のための) 6) ワルツ形式の夜想曲 op.40-2(演奏会用組曲の3つの小品より) 7) 演奏会用練習曲 op.13 1)と2)は管弦楽曲、3-6)はピアノと管弦楽のための作品、7)はピアノ独奏曲となる。ピアノは第1弾に引き続いて、ジャン=エフラム・バヴゼ(Jean-Efflam Bavouzet 1962-)が務める。 たいへん魅力的なアルバムに仕上がっている。ピエルネは、マスネ(Jules Massenet 1842-1912)とフランク(Cesar Franck 1822-1890)に師事した人で、その作風はマスネ的な甘美さ、フランク的な高貴な構成力の双方を併せ持つことで、その作風には印象派的な側面とロマン派的な側面の両方がある。 2つの管弦楽曲は、ともに第1次世界大戦の影響下に書かれたとされる。3つの楽章からなる「フランシスコ会の風景」は、デンマークの詩人イエンス・ヨルゲンセン(Johannes Jorgensen 1866-1956)の作品に触発されたとされる。ピエルネの特徴が良く出た美品で、第2楽章のフルートとハープの掛け合いは印象派的、第3楽章は絢爛さが花開く。 「大聖堂」は深刻な作品。大きく弧を描くように楽曲が起伏し、崇高な雰囲気を導いたのち、小太鼓が力強いリズムを刻むのは暗示的で、戦争の影響と言われれば、確かに説得力がある。ピエルネの作品群の中でも特徴的なものと言える。 スケルツ=カプリスでは、ピアノが加わり一転して楽しげで瀟洒な世界となる。バヴゼのきらめくようなタッチと瞬発力のあるリズムが素晴らしい。ピアノが重要な役割を果たす「交響詩」が続く。ピアノが活躍する交響詩、と言うと、ピエルネの師であるフランクの「ジン」を思い起こすが、ピエルネの「交響詩」も「ジン」同様に重々しい相貌を持っている。優雅な作品が続いたあと、バヴゼの独奏で素早いパッセージの交錯による華やかさが魅力的な練習曲で締めくくられる。 ノセダ(Gianandrea Noseda 1964-)の後を継いで、BBCフィルの首席指揮者となったメナであるが、ピエルネの作品へは前作に続いて見事な適性を示している。印象派的な音色と構成感に溢れた音色をいずれも豊かな色彩感で描き出し、かつそれらが交錯する際には、機敏に反応する。指揮棒に反応してオーケストラが色彩を変える様は、雲間から光が差し、海面が色を変えるような美しさである。バヴゼの素晴らしいピアノと併せて、現代最高と言ってよいピエルネを堪能させてくれる。 |
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ピアノ協奏曲 鉛の兵隊の行進 牧歌風の主題によるディヴェルティスマン ラムンチョ組曲 第1番 第2番 p: バヴゼ メナ指揮 BBCフィルハーモニック レビュー日:2017.6.16 |
★★★★★ ピエルネの魅力が横溢しているアルバムです。
ファンホ・メナ(Juanjo Mena 1965-)指揮、BBCフィルハーモニックの演奏によるフランスの作曲家、ピエルネ(Gabriel Pierne 1863-1937)の作品集。収録曲は以下の通り。 1) 私の子どもたちのためのアルバム op.14 から 第6曲 鉛の兵隊の行進(管弦楽版) 2) ピアノ協奏曲 ハ短調op.12 3) 牧歌風の主題によるディヴェルティスマン op.49 4) ラムンチョ組曲 第1番(序曲、グラシオーサの庭、フランキータの部屋、ファンダンゴ) 5) ラムンチョ組曲 第2番(シードルリー、修道院、バスク狂詩曲) ピアノ協奏曲のピアノ独奏は、ジャン=エフラム・バヴゼ(Jean-Efflam Bavouzet 1962-)、2009年の録音。 ピエルネという作曲家の魅力を存分に伝えるアルバムだ。ファンホ・メナは、ノセダ(Gianandrea Noseda 1964-)の後を継ぐ形でBBCフィルの首席指揮者となったのだが、その実力は十分である上、スペイン・バスク地方出身の彼にとって、その地方を舞台とした「ラムンチョ組曲」の扱いは、お手の物といった感がある。 ピエルネは、マスネ(Jules Massenet 1842-1912)とフランク(Cesar Franck 1822-1890)に師事した人で、その作風はマスネ的な甘美さ、フランク的な高貴な構成力の双方を併せ持つ。印象派に近い作風であるが、楽曲によってはその趣を異にする。 当アルバムは、作曲者自身が子供の教育のために書いたピアノ曲をオーケストラ譜に編曲した「鉛の兵隊の行進」から始まる。かわいらしい旋律にピエルネ特有の色彩感を施した管弦楽の冴えたエッセンスが加わり、たちまち聴き手をピエルネの世界に惹きこんでくれる。 当アルバムのメインとも言えるピアノ協奏曲は、ドイツ的な重厚さを持ち、ピアノの導入から、勇壮で感情の振幅の大きいアレグロへと突入していく。この作品は、印象派的なものとは完全に一線を画したもので、ドイツ・オーストリア系の音楽が好きな人にはむしろ馴染みやすいし、またそこに秘められた熱血的なロマンは、私にはラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943)への布石を思わせるところもある。スケルツォを挟んで、すぐに熱を帯びた終楽章に繋がる展開も劇的だ、オーケストラも見事だが、ここでバヴセのピアノの効果は素晴らしく、楽曲の力感を巧みに表出しながらも、細かいパッセージを鮮やかに浮き立たせ、様々な音色を駆使し、色彩感豊かに仕上げるあたり、さすがという他はない。 牧歌風の主題によるディヴェルティスマンは一転してオーボエの物憂げな主題から開始される印象派的な管弦楽曲で、様々な楽器の音色を楽しみながら、後半に向けて豊饒な味わいを蓄えていくこれまた美しい一遍だ。 ラムンチョ組曲は、フランスの作家ロッティ(Pierre Loti 1850-1923)の小説「ラムンチョ」を題材とした劇付随音楽を組曲化したもの。「ラムンチョ」は、バスク地方のピレネー山脈を舞台に、伝統スポーツの名人である一方で、密輸を行っている主人公ラムンチョが、3年の兵役から帰ってみると、かつての恋人グラシオーサが修道院に入ってしまっていたことから、グラシオーサとのアメリカでの新生活を夢見て、様々な試みを行う中で、多くの苦悩に直面する物語であり、グラシオーサの死で終わる悲劇である。ステーファノ・ドナウディ(Stefano Donaudy 1879-1925)が同じ題材でオペラを書いている。 組曲では、バスク地方の旋律を織り込んだ色彩豊かなオーケストレーションが特徴であり、木管が奏でるメロディアスな旋律に題材である悲恋を様々に思わせる。適度なスピードで心地よく展開しながら、ピエルネの工夫を施した楽器の使用が、あちこちで細やかなニュアンスを表出している。悲劇が題材とはいえ、聴いていて楽しい組曲になっている。それにしても、時に雄弁、時に牧歌的、幻想的な味わいの俊敏な交錯は、指揮者とオーケストラのこれらの楽曲への適性の高さを示さずにはおかない。 バヴゼの素晴らしいピアノと併せて、オーケストラの魅力、そしてピエルネという作曲家の魅力を十全に伝える素晴らしい一枚になっています。 |