ペンデレツキ
チェロ協奏曲 第1番 第2番 ヴィオラ協奏曲(チェロ版) vc: ノラス ペンデレツキ指揮 シンフォニア・ヴァルソヴィア レビュー日:2008.5.4 |
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★★★★☆ この暗さも一つの「モダニズム」でしょうか。
クシシュトフ(クリシュトフ)・ペンデレツキ (Krzysztof Penderecki 1933-)は現代ポーランドを代表する作曲家。「ルカ受難曲」や「ポーランド・レクイエム」といったロマン派の色彩の残る声楽曲で有名であるが、多様なジャンルに作品を書いています。特色ある技法はトーンクラスタ(音の塊~ある音から別の音までのすべての音による合音。ピアノの鍵盤をまとめて手のひらで押さえたような感じで、和音とは言いがたい)を用いたもの。 ここではチェロ協奏曲第1番、第2番、それにヴィオラ協奏曲をチェロ版に編曲した3曲を収録。いずれも単一楽章からなる曲。チェロはアルト・ノラス (Arto Noras)、ペンデレツキ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィアの演奏。録音は2001年。 第1番は冒頭からホラー映画のBGMというか効果音のような陰鬱で不気味な音色が交錯しつつ始まる。徐々にエネルギーを増していくが、ラウタヴァーラなどの作品とは違って、その音色は鋭い細かな破片で構成されており、クライマックスでは独奏チェロさえその一端となる。技巧的には相当難しい印象で、切れるような特徴的な音型を鋭く細かく用いる。なお、チェロパートを活かすため管弦楽の編成からはヴィオラが除かれており、一方でエレキギター、サキソフォンなどが加えられている。 第2番はさらに規模が大きくなり(演奏時間は第1番の倍)、陰鬱さは第1番に共通している。単一楽章ではあるが緩急のパーツが存在しており、急な部分での不穏さは心理的なメッセージ性を感じる。ヴィオラ協奏曲同様で、モダニズムの暗さに通じる表現に通じている。 |
ポーランド・レクイエム ペンデレツキ指揮 北ドイツ放送交響楽団 合唱団 バイエルン放送合唱団 S: ハウボルト A: ヴィノグロースカ T: テルツァキス Br: スミス レビュー日:2007.11.25 |
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★★★★★ 20世紀を象徴する悲痛なレクイエム
現代ポーランドを代表する作曲家であるクシシュトフ(クリシュトフ)・ペンデレツキ (Krzysztof Penderecki 1933 - )の名を高めた作品といえばこの「ポーランド・レクイエム」が思い当たる。当盤は作曲者自らがタクトをとった自作自演版で、北ドイツ放送交響楽団、同合唱団、バイエルン放送合唱団の演奏。独唱陣は、S: ハウボルト、A: ヴィノグロースカ、T: テルツァキス、Br: スミス。1989年のライヴ録音だ。 「ポーランド・レクイエム」というタイトルはブラームスの「ドイツ・レクイエム」を彷彿とさせる。考えてみるとポーランドとドイツは世界大戦で侵略された側とした側という構図でもある(もちろんブラームスとは関係ないことだけど)。さて、両レクイエムには名前のほかにも共通項がある。それは、実際の典礼に用いることができないという点だ。なぜならどちらも、レクイエムとしての典礼テキストからの「抜粋作」であるため、全部を備えていないからだ。ブラームスは演奏会作品を狙っているし、ペンデレツキは様々な機会に作曲した自身のパーツを編集しなおした作品といえる。 さて、この曲であるが、本当に暗い作品だ。レクイエムとしての救いがなく、曲は終始暗黒を漂う。この作曲家の代名詞ともいえる「トーン・クラスター~ある音から別の音までの全音を同時に鳴らす」はそれほど多用されず、ポリフォニーを重視しているが、曲想が明るく転じることはなく、きわめて悲痛である。やはり今世紀におけるポーランドの悲劇(ワルシャワ・ゲットーやアウシュヴィッツ・・・)を曲の動機に内包していることもあるだろう。この作品を作曲者自らがドイツの管弦楽団と合唱団を振ってライヴ録音したのは暗黒の時代を脱した象徴かもしれない。合唱もかなり難しいだろう。よくライヴでこれだけの密度を出したものだと感心してしまう。いずれにせよ20世紀を象徴する一つのレクイエムであると思う。 |