パガニーニ
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パガニーニ ヴァイオリン協奏曲 第1番 チャイコフスキー ワルツ・スケルツォ R. シュトラウス ヴァイオリン協奏曲 vn: ベルキン メータ指揮 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 アシュケナージ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 ベルリン放送交響楽団 レビュー日:2009.6.27 |
★★★★☆ ロシアの実力派ヴァイオリニスト、ベルキンの協奏曲録音
1948年ロシア出身のヴァイオリニスト、ボリス・ベルキン(Boris Davidovich Belkin)の録音を集めた再編集版。廉価で77分の収録。内容は以下の通り。 1) パガニーニ ヴァイオリン協奏曲第1番 メータ指揮 イスラエルフィル <1976録音> 2) R.シュトラウス ヴァイオリン協奏曲 アシュケナージ指揮 ベルリン放送交響楽団 <1991録音> 3) チャイコフスキー ワルツ・スケルツォ アシュケナージ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 <1977録音> ベルキンの力強くほの暗いヴァイオリンの音色がよく伝わる。パガニーニの作曲家としての代表作であるヴァイオリン協奏曲第1番はヴィルトゥオーソ的演奏効果があり、管弦楽がほとんど「伴奏」としての役割に収まっているまさに独奏ヴァイオリンのための音楽である。オーケストラの出番は最初と最後くらいで、この部分のメータの力の入った指揮がやや微笑ましく感じられる。ベルキンのヴァイオリンの響きは時々鋭くなるが、それでも太い響きが頼もしい。 R.シュトラウスの作品は管弦楽書法に秀でるが、旋律そのものの魅力はいまひとつの作品。録音が良く、演奏も中庸の美を心得た感じ。 最後にチャイコフスキーの小品が収録されているが、私にはこれが思いのほか楽しめた。演奏者の感性がよく出ていて、やや早めのリズムも心地よい。中間部のメロディアスな盛り上がりも、品が良く、端正だ。 |
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24のカプリース vn: エーネス レビュー日:2011.1.7 |
★★★★★ 現代の洗練を感じさせる圧巻の「24のカプリース」
24のカプリースは1802年から1817年にかけてニコロ・パガニーニによって書かれた無伴奏ヴァイオリンのための音楽。いくつか重要な歴史的な立ち位置があると思うが、一つはバッハ以後でもっとも成功した無伴奏ヴァイオリンの作品であること、もう一つはヴァイオリン演奏における最も至難な技巧を楽曲によって体系化付けたこと、さらに加えれば、その演奏の際のパフォーマンスの誇示性の高さと音楽的質の高さの両立から、同時代の他の作曲家たちの同様な創作活動への強い影響の源泉となったことが挙げられる。私がこれらの境界条件から連想するのはショパンの24の練習曲である。カプリースも24曲からなっているし、音楽性の高さと技術追求の両立も共通する。 ここでヴァイオリンを弾いているのがカナダ生まれのヴァイオリニスト、ジェームス・エーネス(James Ehnes)だ。私は最近、このヴァイオリニストが弾くメンデルスゾーンの協奏曲を聴いて、その卓越した技術に圧倒され、24のカプリースを聴くならこの人だとおもって購入した。エーネスは1976年生まれ。なのでこれを録音した1995年当時はまだ19歳だったことになる。(すでに再録音版もあります) 聴いてみて、本当に期待通り。「胸のすくような」という形容詞があるけれど、このエーネスのパガニーニはまさにその形容に相応しいのではないだろうか。4つの弦を使ったアルペッジョが連続する第1番、隣接していない弦への飛躍の連続する第2番、素早い跳飛運弓を駆使する第5番、トレモロとメロディの両立する第6番・・・これらの楽曲をただ「弾ける」だけでなく、美しく、ほとんど聴き手に「難しそうだな」と思わせる隙(?)さえ見せずにラクラクと乗り越えていく。以前はパールマン、アッカルドといった人たちのヴァイオリンで聴く機会が多かったが、ここでは完全に一世代クリアされた、現代の洗練を極めたスタイルが横溢している。 また、A線とE線がフルートを、G線とD線がホルンを模しているとされる、「狩り」の名と、リストのアレンジで有名な第9番や、ラフマニノフやブラームスによってメロディが転用された華やかな終曲など、技巧的という以上に音楽に歌があり、またその歌が清冽で音響を引き立てている。加えて技巧的なヴァイオリン曲でたびたび起きる「音の鋭角化」による聴き難さのようなものも感じさせない。(これは録音が良いこともある)。この曲集を代表する録音と言って間違いないと思う。 |