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オーンスタイン



室内楽

ピアノ五重奏曲 弦楽四重奏曲 第2番
パシフィカ四重奏団 p: アムラン

レビュー日:2015.12.17
★★★★★ オーンスタインの代表作と言って良い充実の内容を示す「ピアノ五重奏曲」
 ウクライナで生まれ、アメリカで活躍した作曲家、レオ・オーンスタイン(Leo Ornstein 1893-2002)の以下の室内楽2曲を収録したアルバム。
1) ピアノ五重奏曲 op.92
2) 弦楽四重奏曲 第2番 op.99
 パシフィカ四重奏団の演奏。1)におけるピアノはマルカンドレ・アムラン(Marc-Andre Hamelin 1961-)。2014年の録音。アムランは2001年にオーンスタインのピアノ独奏曲を集めたアルバムを録音していたので、それ以来のオーンスタイン作品となる。
 今回収録された2曲を、私はいずれも初めて聴いたのだけれど、「ピアノ五重奏曲」にはなかなか強い衝撃を受けた。以前、アムランが録音したピアノ独奏曲集では、機械的な駆動性と野蛮なリズムが支配する「アヴァンギャルド」な世界が展開していたのであるが、このピアノ五重奏曲では、その要素を踏まえながらも、旋律的な魅力も加え、名作といってよいスケールの大きな音楽が展開する。その内包するエネルギーと情感の豊かさは見事なものである。
 第1楽章のバーバリズムを感じさせる第1主題は、ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky 1882-1971)を彷彿とさせるもの。これと対照的な第2主題は耽美でミステリアスな雰囲気が漂う。この2つの主題が時に保守的な色合いを湛える交錯を経て、エネルギッシュな音楽的活力を満たしていく。その力強い進行に思わず引き込まれてしまう。
 叙情的な第2楽章で落ち着いたのち、再び第3楽章では、激しい楽想となり、第1楽章より複雑な不協和やリズム処理により、熱を孕んで終結へと進む。とても濃厚なパワーに溢れた楽曲だ。アムランとパシフィカ四重奏団によるスピーディーな進行が心地よく、複雑なパッセージであっても、次々と鮮やかに解決していく様がすさまじい。
 それと比べると弦楽四重奏曲第2番は穏当な作品で、やはりオーンスタインという作曲家の作品は、ピアノがあってこそという一面があるようにも感じる。(もちろん、私はまだその多くを聴いていないのだが、これを聴く限りでの感想です)
 オーンスタインのアヴァンギャルドぶりを堪能するのであれば、アムランによる独奏曲集がよりオススメではあるが、このピアノ五重奏曲がもつやや保守的な情緒を踏まえた雰囲気が、私はとても好きであり、109年生きた作曲家、オーンスタインの代表作として、このピアノ五重奏曲は、ぜひとも指折るべき作品だと感じられた。


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器楽曲

飛行機に乗って自殺 中国風に 未開人の踊り 1917年の詩 アラベスク テムズ川の印象 ピアノ・ソナタ 第8番
p: アムラン

レビュー日:2015.12.9
★★★★★ 109年生きた前衛作曲家、オーンスタインの芸術を圧巻のテクニックで表現したアムランの至芸
 マルカンドレ・アムラン(Marc-Andre Hamelin 1961-)によるウクライナの作曲家、レオ・オーンスタイン(Leo Ornstein 1893-2002)のピアノ独奏曲集。2001年の録音。収録曲は以下の通り。
1) 飛行機に乗って自殺
2) 中国風に op.39
3) 未開人の踊り op.13-2
4) 1917年の詩 op.41
5) アラベスク op.42
6) テムズ川の印象 op.13-1
7) ピアノ・ソナタ 第8番
 現在のウクライナで生まれアメリカで活躍したオーンスタインは、109歳という長寿を音楽家としてまっとうした人物。19世紀末にうまれ、21世紀に亡くなったことから「3世紀を生きた」という肩書がしばしば付される。資料では、オーンスタインの作曲家としての師として、グラズノフ(Aleksandr Glazunov 1865-1936)の名が挙げられている。しかし、その技法をグラズノフから学んだとはいえ、オーンスタインの作風はグラズノフとは「似ても似つかない」と言って良い。一言で形容するなら「アヴァンギャルド」である。
 当盤は現在の音楽界でもっとも技巧に秀でたピアニストの一人とされるアムランが、オーンスタインの過激なピアノ作品に立ち向かったもので、恐ろしいほどのテクニックが記録されている。
 収録曲の中では、作曲者100歳のとき(!)に完成されたピアノ・ソナタ第8番を除くと、いずれもが、野趣的なリズム、撃ちつけるようなピアノの奏法で、多少の差はあれど原色的な凶暴性を含んでいる。ことに冒頭曲「飛行機に乗って自殺」はタイトル通りの前衛性に満ちた小品で、わずか3分強の間に、様々な機械的な描写がピアノによって行われ、墜落を思わせる音響が導かれる。
 オーンスタインがピアノで表現しようとしているものが、浪漫的な情緒などではなく、近代化の過程で次々と登場してきた機械的な駆動音のようなものである。それは、オーンスタインと同時代に生まれたプロコフィエフ(Sergei Prokofiev 1891-1953)の作品にもある要素であるが、オーンスタインの特化ぶりは凄まじい。
 最後に収録されたピアノ・ソナタ第8番は、90台の作曲家が見事に完成した大曲で、オーンスタインならではの強靭さが含まれているとはいえ、優雅な雰囲気が同居しており、オーンスタインならではの老境の抒情もまた含まれていると感じられる。
 とはいえ、これらの楽曲は、前述のように前衛性に富んだものであるため、そもそも現代音楽にはなじめない、という人にはオススメできないだろう。
 それにしても、驚くべきはアムランの技巧である。いったいどのように鍵盤に相対すれば、これほどの音響が鳴り渡るのであろうか、と恐れ入るばかりのパフォーマンス。このアムランの凄さを思い知るためだけであったさえ、このCDは買う価値があるように思う。


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