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オムニバス(声楽曲)



けがれなき薔薇~アヴェ・マリア~聖母マリアの祈り
マクリーシュ指揮 ガブリエリ・コンソート

レビュー日:2009.4.19
★★★★★ 異世界の光を感じるような、神秘的な録音
 聖母マリアを讃える声楽作品を集めたオムニバス集。おいしい選曲、高品質な録音、美しい演奏、長時間収録(81分超)とあらゆる点から(たとえ宗教心を十分に持っていなくても)リスナーに満足感を与えてくれるアルバム。ちなみに収録されている1~13の作曲者は、1.タヴナー(John Tavener 1944-)、2.ジョスカン・デプレ(Josquin Desprez 1440-1521)、3.ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky 1882-1971)、4.スウェイン(Glies Swayne 1946-)、5.ムートン(Jean Mouton 1459-1522)、6.作曲者不詳(15世紀)、7.ハウエルズ(Herbert Howells 1892-1983)、8.アデス(Thomas Ades 1971-)、9.パレストリーナ(Giovannni Palestrina 1525 - 1594)、10.マクミラン(James MacMillan 1959 - )、11.グリーグ(Edvard Grieg 1843-1907)、12.バックス(Arnord Bax 1883-1953)、13.グレツキ(Henryk Gorecki 1933-)とルネサンスから近現代まできわめて多彩。タヴナー、スウェイン、ハウエルズ、アデス、マクミラン、バックスはいずれもイギリスの作曲家。
 アルバムを通じてテーマの不思議な普遍性が伝わる。厳かにして気高く、声の印象は光に近い。叫ぶような音はなく、音色はつねに柔らかで、サインカーブのようななめらかな起伏を持っている。音楽は時とともに自然に移ろうように変化し、しかし絶え間なく次々と新しい美しい唯一の描写を提示する。その体験を通じ、一種この世の神秘とでも言える感興を聴き手に呼び起こす。
 中でもジョスカン・デプレとムートンの作品の美しさは壮絶。グリーグの名曲も言うまでもない。加えて、適度な距離感をキープした録音が、宗教的空間の演出にさらに大きな効果を与えている。

パヴァロッティ~ザ・グレイテスト・ヒッツ50
T: パヴァロッティ

レビュー日:2013.10.22
★★★★★ ひたすら聴いていたくなる・・無二の168分間
 2007年に亡くなった世界的テノール、ルチアーノ・パヴァロッティ(Luciano Pavarotti 1935-2007)が、デッカ・レーベルと契約してから、2014年で50年になるとのこと。当盤はそれを記念して、1961年から1998年までの間に録音された代表的な50曲を集めたもの。各CD84分総計なんと168分の収録時間という贅沢この上ない内容だ。しかも、このたびの記念盤のためにすべてリマスターされている。収録曲をまとめよう。
【CD1】
1) プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」から 「誰も寝てはならぬ(Nessun Dorma)」
2) プッチーニ 歌劇「ボエーム」から 「冷たい手を(Che gelida manina)」
3) ヴェルディ 歌劇「リゴレット」から 「あれか、これか(Questa o quella)」
4) ヴェルディ 歌劇「リゴレット」から 「彼女の涙が私には見える(Parmi veder le lagrime)」
5) ヴェルディ 歌劇「リゴレット」から 「女心の歌(La donna e mobile)」
6) ドニゼッティ 歌劇「愛の妙薬」から 「人知れぬ涙(Una furtiva Lagrima)」
7) ビゼー 歌劇「カルメン」から 「花の歌:お前が投げたこの花は(La fleur que tu m avais jetee)」
8) ビゼー 歌劇「真珠採り」から 「聖なる神殿の奥深く(Au fond du temple Saint?)」
9) レオンカヴァッロ 歌劇「道化師」から 「衣裳をつけろ(Vesti la giubba)」
10) プッチーニ 歌劇「トスカ」から 「妙なる調和(Recondita armonia)」
11) プッチーニ 歌劇「トスカ」から 「星は光りぬ(E lucevan le stelle)」
12) ヴェルディ 歌劇「トロヴァトーレ」から 「見よ、恐ろしい火を(Di quella pira)」
13) ヴェルディ 歌劇「アイーダ」から 「清きアイーダ(Celeste Aida)」
14) プッチーニ 歌劇「ボエーム」から 「ああ、麗しの乙女(O soave fanciulla)」
15) プッチーニ 歌劇「マノン・レスコー」から 「美しい人たちの中で(Tra voi, belle)」
16) プッチーニ 歌劇「マノン・レスコー」から 「何とすばらしい美人(Donna non vidi mai)」
17) プッチーニ 歌劇「西部の娘」から 「やがて来る自由の日(Ch ella mi creda)」
18) ジョルダーノ 歌劇「フェドーラ」から 「愛さずにはいられぬこの思い(Amor ti vieta)」
19) マイヤベーア 歌劇「アフリカの女」から 「おお、パラダイス(O paradiso)」
20) フロトウ 歌劇「マルタ」から 「夢のように(M appari)」
21) バッハ/グノー 「アヴェ・マリア(Ave maria)」
22) アダン 「オ・ホーリー・ナイト(さやかに星はきらめき)(O Holy Night)」
23) ヴェルディ 「レクイエム」から 「われは嘆く(Ingemisco)」
24) ヴェルディ 歌劇「椿姫」から 「乾杯の歌:友よ、さあ飲みあかそう(Brindisi)」
25) プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」から 「誰も寝てはならぬ(Nessun Dorma)」
26) プッチーニ 歌劇「ボエーム」から 「冷たい手を(Che gelida manina)」
【CD2】
1) カプア 「オ・ソレ・ミオ(O sole mio)」
2) デンツァ 「フニクリ・フニクラ(Funiculi funicular」」
3) クルティス 「帰れソレントへ(Torna a surriento)」
4) レオンカヴァッロ 「マティナータ(朝の歌)(Mattinata)」
5) マンシーニ 「青く塗られた青の中で(ヴォラーレ)(Nel blu, dipinto di blu)」
6) ビシオ 「風に託そう私の歌(La mia canzone al vento)」
7) ビシオ 「マンマ(Mamma)」
8) 民謡 「サンタ・ルチア(Santa Lucia)」
9) クルティス 「勿忘草(Non ti scordar di me)」
10) ジョルダーニ 「カロ・ミオ・ベン(Caro mio ben)」
11) ロッシーニ 「ダンス(La danza)」
12) ベッリーニ 「マリンコニーアよ 優しい妖精(Malinconia)」
13) ベッリーニ 「喜ばせてあげて(Ma rendi pur contento)」
14) トスティ 「セレナータ(La serenata)」
15) ダッラ 「カルーソー(Caruso)」
16) ムスマッラ 「イル・カント(Il canto)」
17) チェントンツェ 「ボンジョルノ・ア・テ(Buongiorno A Te)」
18) ララ 「グラナダ(Granada)」
19) レハール 喜歌劇「微笑みの国」から 「君は我が心の全て(Tu che m hai preso il cuor)」
20) フランク 「荘厳ミサ曲」から「天使の糧(パン)(Panis angelicus)」
21) クラプトン 「ホリー・マザー(Holy Mother)」
22) ワンダー 「平和が自由を求めてる(Peace wanted just to be free)」
23) ボノ 「ミス・サラエボ(Miss Sarajevo)」
24) フランソワ 「マイウェイ(My Way)」
 世界的歌手らしい多様なレパートリー。アリアや歌曲に始まり、民謡、あるいは他ジャンルとのコラボレーションなど、きわめて多彩。録音も、さすがDECCAで、時代差をあまり感じさせず、全般に高品質で申し分なし。
 ちなみに【CD2】20)はスティング(Sting)、【CD2】21)はエリック・クラプトン(Eric Clapton 1945-)、【CD2】22)はスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder 1950-)、【CD2】23)はブライアン・イーノ(Brian Eno 1948-)とU2のボノ(Bono 1960-)、【CD2】24)はフランク・シナトラ(Frank Sinatra 1915-1998)とのコラボ。ジャンルを問わないエンターテイナーだったパヴァロッティの大きな存在を、まざまざと思わせるものだ。
 個人的にはカルディッロの「カタリ・カタリ」やロッシーニの歌劇「ウィリアム・テル」からの「涙誘う無人の家よ(Asile hereditaire)」なども、是非入れて欲しかったが、言い出すときりがないので、仕方ないだろう。
 ちなみに「冷たい手を」と「誰も寝てはならぬ」の2曲については、2ヴァージョンが収録されている。【CD1】26)「冷たい手を」はパヴァロッティの記念すべきデッカ・レーベルへの初録音音源(1961年録音)になる。当盤の記念碑的内容に泊を添えるものだろう。また、【CD1】25)の「誰も寝てはならぬ」は、1990年に行なわれたドミンゴ(Placido Domingo 1941-)、カレーラス(Jose Carreras 1946-)との3大テノール共演の際の録音。こちらも記憶に強く残るものに違いない。
 とにかく、思う存分、「美しい旋律」と「圧倒的な美声」に浸(ひた)りきることの出来るアルバム。どんな時でも、このアルバムを聴くと、心が「喜び」に満たされるだろう。心行くまで楽しめるアルバムだ。私たちにこれだけのものを遺してくれたパヴァロッティには、ひたすら感謝の気持ちである。

the Best of Placido Domingo
T: ドミンゴ

レビュー日:2016.1.26
★★★★★ これはお買い得でしょう。ドミンゴ75歳を記念したベスト・アルバムです。
 スペインの世界的テノール歌手、プラシド・ドミンゴ(Placido Domingo 1941-)の75歳を記念して、ソニー・レーベルからリリースされた4枚組のベスト盤。収録内容は以下の通り。
【CD1】
1) ヴェルディ 歌劇「リゴレット」より「女心の歌」
2) プッチーニ 歌劇「リゴレット」より「さらわれてしまった。ほおの涙が」
3) プッチーニ 歌劇「ボエーム」より「冷たい手」
4) プッチーニ 歌劇「ボエーム」より「ああ、麗しの乙女」
5) ヴェルディ 歌劇「アイーダ」より「清きアイーダ」
6) ヴェルディ 歌劇「トロヴァトーレ」より「ああ、いとしい私の恋人」
7) ヴェルディ 歌劇「トロヴァトーレ」より「見よ、恐ろしい炎を」
8) プッチーニ 歌劇「トスカ」より「妙なる調和」
9) プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」より「泣くな、リューよ」
10) ヴェルディ 歌劇「仮面舞踏会」より「さあ、言ってくれ、彼女が忠実に私を待っているかを」
11) ヴェルディ 歌劇「椿姫」より「燃える心を」
12) プッチーニ 歌劇「トスカ」より「星は光りぬ」
13) ヴェルディ 歌劇「蝶々夫人」より「変わらぬ愛を」
14) ヴェルディ 歌劇「椿姫」より「プロヴァンスの海と陸」
15) プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」
16) ヴェルディ 歌劇「ルイザ・ミラー」より「ああ!この目が見たものを信じないことができたなら」
17) ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロ」より「あ、あのお方だ」
18) ヴェルディ 歌劇「オテロ」より「私を恐れるな」
【CD2】
1) レオンカヴァッロ 歌劇「道化師」より「衣装をつけろ」
2) チレア 歌劇「アルルの女」より「フェデリコの嘆き」
3) ビゼー 歌劇「カルメン」より「花の歌」
4) フロトー 歌劇「マルタ」より「夢のごとく」
5) ワーグナー 歌劇「ローエングリン」より「はるかな国に」
6) モーツァルト 歌劇「魔笛」より「なんと魔法の音は強いことか」
7) モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」より「恋人を慰めて」
8) ドニゼッティ 歌劇「愛の妙薬」より「人知れぬ涙」
9) ジョルダーノ 歌劇「アンドレア・シェニエ」より「ある日、青空を眺めて」
10) マスネ 歌劇「ウェルテル」より「春風よ 何故私を目覚めさせるのか」
11) マスネ 歌劇「マノン」より「消え去れ、甘い幻影よ」
12) グノー 歌劇「ファウスト」より「この清らかな住まい」
13) マイアベーア 歌劇「アフリカの女」より「おおパラダイス」
14) グノー 歌劇「ロメオとジュリエット」より「愛の神、愛の神か~ああ!陽よ昇れ」
15) チャイコフスキー 歌劇「エフゲニー・オネーギン」より「どこに行ってしまったのだ」
16) マスカーニ 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より「お母さん、あの酒は強いね」
17) ビゼー 歌劇「真珠採り」より「聖なる神殿の奥深く」
【CD3】
1) トニー・レニス 人混みに立つ男
2) トスティ 理想の人
3) バーンスタイン マリア
4) デ・クルティス 帰れソレントへ
5) ドミンゴJr ヒア・マイ・ソング
6) リー・ホールドリッジ マイ・ソング、マイ・ライフ
7) ヤニー イル・プリモ・トッコ
8) ジョン・デンバー アニーズ・ソング
9) ジョン・レノン イエスタデイ
10) ジェームズ・ホーナー イル・ミオ・クオーレ・ヴァ
11) ジョン・デンバー パハップス・ラヴ
12) ジョゼフ・コズマ 枯葉
13) ジャン・ポール・マルティーニ 愛の歓び
14) チャーリー・チャップリン エターナリー
15) ホルヘ・カランドレッリ 良心
16) ドミンゴJr ザ・ギフト・オブ・ラヴ
17) ステファノ・トマセリ 真美の愛
18) ドミンゴJr 感謝
19) バッハ / グノー アヴェ・マリア
20) ヘンデル オンブラ・マイ・フ
21) ビゼー アニュス・デイ
22) フランク 天使の糧
23) ドミンゴJr クリスマスの子供たち
【CD4】
1) ジョアン・マヌエル・セラー 地中海
2) ドミンゴJr アルマ・ラティーナ
3) アグスティン・ララ グラナダ
4) エルネスト・レクオーナ シボニー
5) エルネスト・レクオーナ マラゲーニャ
6) ドミンゴJr メキシコからブエノスアイレスに
7) メドレー
   エドムンド・ポルテーニョ エル・ウマウアケーニョ(花祭り)
   シモン・ディアス 年老いた馬
   ホセ・マンソ モリエンド・カフェ
8) メドレー
   ルイス・ボンファ カーニバルの朝
   アリ・バロッソ ブラジルの水彩画
9) セバスティアン・イラディエル ラ・パロマ
10) ロドリーゴ アランフェス
11) コンスエロ・ベラスケス ベサメ・ムーチョ
12) ヤコブ・ゲーゼ ジェラシー
13) メドレー
   アルベルト・ドミンゲス ペルフィディア
   アルベルト・ドミンゲス フレネシー
   ボビー・コリャーソ 最後の夜
14) (トラディショナル) いとしいパローマ
15) (トラディショナル) ラ・マラゲーニャ
16) マリオ・デ・ジーザス 神さまお助けください
17) (トラディショナル) ヨー・ソイ・メヒカーノ
18) ゴンサロ・ロイグ キエレメ・ムーチョ
19) ラウロ・ウランガ 黒い夜
20) リカルド・ガルシア・ペルドモ トータル
 世界的歌手に相応しいベスト盤で、イタリア・オペラ、ドイツ・オペラはもちろんのこと、様々なオペラ、民謡、歌謡曲といったふうに、実に広範囲な音楽が収集されている。また、ドミンゴの子息で、作曲家として名の知れているプラシド・ドミンゴJrの作品を多く聴けるのも特徴。
 それにしても4枚組でこの価格、これで、古今の作曲家たちが編み出した名旋律をドミンゴの歌唱で堪能できるのだから、お得なアイテムなのは間違いないだろう。一応、1枚目がヴェルディ、プッチーニ、2枚目がその他のオペラ、3枚目がポップス、4枚目がラテンというだいたいの振り分けがされている。
 個人的には、やはり1,2枚目のオペラ・アリアが視聴の中心となる。3,4枚目の楽曲は、通俗的でわかりやすい反面、いかにも直情的な楽曲が多い。だから、連続してじっくり聴くのにはあまり向かないと思うけれど、パソコンで作業なんかするときなどのBGMに流しておくのなら悪くない。それに、多くの曲が、ラテン系諸国を中心に知れ渡っている旋律だけに、それらを一通り巡ることも出来る。
 ドミンゴの歌唱は文句なく素晴らしい。さすが本場のベルカントというだけでなく、響きに満ちた様々な情感が、楽曲の持つ雰囲気を圧倒的に高め、聴き手の気持ちの真ん中めがけてズンズン突き進んでくるような、肯定的な力の漲った歌声だ。俗にいう「元気づけられる」というのは、こういう歌唱に接した時の感情表現として相応しいかもしれない。ドミンゴの歌唱、古今東西の名旋律たちに、たっぷり浸れるCD4枚組となっています。

オペラ合唱曲集
シノーポリ指揮 ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団 合唱団

レビュー日:2013.10.3
★★★★★ FIFAのテーマ曲~「アイーダ」の凱旋行進曲を聴いてみたいなら、当盤がいいでしょう
 シノーポリ(Giuseppe Sinopoli 1946-2001)がベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団と同合唱団を指揮して1984年に録音した「オペラ合唱曲集」。有名どころを集めた親しみやすいアルバム。収録曲は以下の通り。
1) モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791) 歌劇「魔笛」から「イシスとオリシスの神に感謝を(O Isis und Osiris)」
2) ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827) 歌劇「フィデリオ」から「おお、何という自由の嬉しさ(O welche Lusy)」
3) ウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826) 歌劇「魔弾の射手」から「狩人の喜びは(Was glecht wohl auf Erden)」
4) ウェーバー 歌劇「魔弾の射手」から「勝利だ!勝利だ(Viktoria! Viktoria!)」
5) ワーグナー(Wilhelm Richard Wagner 1813-1883) 歌劇「タンホイザー」から「歌の殿堂を讃えよう(Freuding begrussen wir die edle Halle)」
6) ヴェルディ(Giuseppe Verdi 1813-1901) 歌劇「ナブッコ」から「行け、わが思いよ、金色の翼に乗って(Va, Pensiero, sull’ali dorate)」
7) ヴェルディ 歌劇「十字軍のロンバルディア人」から「おお主よ、故郷の家々を(O Signore, dai tetto natio)」
8) ヴェルディ 歌劇「マクベス」から「虐げられた祖国(Patia oppressa)」
9) ヴェルディ 歌劇「イル・トロヴァトーレ」から「朝の光が差してきた(Vedi, le fosche notturne spoglie)」
10) ヴェルディ 歌劇「アイーダ」から「エジプトとイシスの神に栄光あれ(Gloria all’Egitto)」
11) ヴェルディ 歌劇「アイーダ」から「戦に勝った将軍よ、前に出よ(Vievi, o guerriero vindice)」
 以上の様に、勇壮な合唱曲が多く、「いいとこどり」した楽しいアルバムと言えそうだ。中でも10)と11)は、FIFAのお蔭で、サッカーファンを介して、全世界的に有名な旋律となった感がある。3)は有名なウェーバーの「狩りのホルン」に呼応する壮麗な男声合唱として有名だし、一気呵成な4)も聴き味鋭い。5)はワーグナーの合唱曲として特に有名なもののひとつで、凱旋の雰囲気にも通じた大行進曲である。実に元気の出る1曲。
 オペラへの合唱の挿入で卓越した手腕を発揮したヴェルディから過半数の6曲が選ばれたのは、聴いてみると納得できる。イタリア・オペラの諸作曲家の中でも、合唱の重量感を巧みに演出に取り入れたという点では、ヴェルディは一頭以上抜けた存在だろう。特に勇気を奮い立たせるような効果に溢れた楽曲が多いため、前述のFIFAの例だけでなく、彼の合唱曲は、歴史上様々なところで使用されてきた。例えば、イタリア統一運動で象徴的に用いられた6)などは、「イタリア国歌にしよう」という話もあったようである。
 演奏であるが、すべてに穏当妥当で、多くの人が満足できる最大公約数的な演奏、といったところ。私自身、このような「オペラの合唱を抽出したアルバム」というのはほとんど聴いていないので、全体を他演奏と比較するのは難しいが、全般にほどよいテンポで、聴き手が欲しいと思う切迫感や求心力を、程よく再現したといったところ。実に落ち着いた指揮ぶりで、テンポを乱さず、適切に盛り上げて、丁寧に全体を形作っている。
 例のFIFAのテーマソングについて、「原曲を聴いてみたい」という人に、「アイーダ全曲を聴け」というのは、なんとも益体の無い話だろうから、このディスクを聴くのはいかがでしょうか。他にも親しみやすい曲がいろいろ入っていますし、間違いなく良演良録音のものですし、他に「この曲も聞いたことがある!」といった楽しみ方さえも出来るのではないでしょうか。そういった点でオススメです。

Aria Cantilena
MS: ガランチャ ルイージ指揮、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 合唱団

レビュー日:2018.2.15
★★★★★ 選曲の妙もあって、ガランチャの芸術を存分に味わえる1枚になっています。
 ラトヴィアのメゾソプラ、エリーナ・ガランチャ(Elina Garanca 1976-)による「アリア」と題したアルバム。収録曲は以下の通り。
1) チャピー(Ruperto Chapi 1851-1909) サルスエラ「セベデオの娘たち」から「とらわれ人の歌」
2) マスネ(Jules Massenet 1842-1912) 歌劇「ウェルテル」から「ウェルテル…ウェルテル…だれに言い当てることができたでしょう」
3) オッフェンバック(Jacques Offenbach 1819-1880) 歌劇「ホフマン物語」から「見たまえ、わななく弓の下で―それが愛かい、愛の勝利かい!」
4) ロッシーニ(Gioachino Rossini 1792-1868) 歌劇「シンデレラ(チェネレントラ)」から「私は苦しみと涙のために生まれ」
5) ヴィラ=ロボス(Heitor Villa-Lobos 1887-1959) ブラジル風バッハ 第5番から アリア
6) オッフェンバック 喜歌劇「ジェロルスタイン女大公殿下」から「担え銃!」―「皆さんは危険がお好きで―ああ、私、軍人さんが好きなのよ」
7) ロッシーニ 歌劇「アルジェのイタリア女」から「愛する彼のために」
8) モンサルバーチェ(Xavier Montsalvatge 1912-2002) 「こよなく喜ばしい夜」~カタロニア民謡「鳥の歌」によるマドリガル
9) R.シュトラウス(Richard Strauss 1864-1949) 楽劇「ばらの騎士」から「マリー・テレーズ!」―「私が誓ったことは」
10) R.シュトラウス 楽劇「ばらの騎士」から「夢なのでしょう」
 バックはファビオ・ルイージ(Fabio Luisi 1959-)指揮、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団と合唱団が務める。2006年の録音。
 収録曲には重奏も含まれていて、以下の歌手が参加している。
 ディアナ・ダムラウ(Diana Damrau 1971- ソプラノ)9,10)
 カリーナ・フラーデ(Katharina Flade ソプラノ)4)
 アドリエンヌ・ピエチョンカ(Adrianne Pieczonka 1963- ソプラノ) 9)
 ハイケ・リーブマン(Heike Liebmann 1965- メゾソプラノ) 4)
 ラファエル・ハルニッシュ(Rafael Harnisch テノール) 6,7)
 ドミニク・リヒト(Dominik Licht 1977- バリトン) 4,6,7,10)
 マティアス・ボイトリヒ(Matthias Beutlich バス)7)
 トーマス・ミュラー(Thomas Muller バス)6)
 ミルコ・トゥーマ(Mirko Tuma バス)4)
 8)は、カザルス(Pablo Casals 1876-1973)の演奏で知られる民謡をモンサルバーチェが編曲したものであるが、独奏チェロを含む編曲になっていて、ペーター・ブルンズ チェロ(Peter Bruns 1963-)が担う。
 選曲も含めて、とても楽しい、聴く喜びにあふれたアルバムだ。ソプラノを前提とする作品も含まれているが、ガランチャは難なくこなしており、言語も含めて対応する範囲の広さを感じさせる。美しいトリル、そして、それを生かす全体的な音響の柔軟性は抜群だ。アルバムは、チャピーの意気揚々たる響きに始まり、マスネの甘美な劇性、オッフェンバックのセリフ的性格をもったふしまわしと序盤から多彩だが、いずれも見事にこなしていて、艶と切れ味で堪能させられる。
 ロッシーニのチェネレントラ、ヴィラ=ロボスのブラジル風バッハは、このアルバムの白眉といってもよい雰囲気抜群の仕上がり。モンサルバーチェの作品は、有名な旋律を気高く歌い上げているが、幻想的なオーケストレーションとあいまって、感動的だ。
 そして、R.シュトラウスの重唱で締めくくられるという点もユニーク。ここでは、ガランチャに焦点を当てるというより、作品の理想的な再現になっており、一人の歌手に焦点をあてたアルバムの選曲としては異質といって良いが、聴いてみると、これまたたいへん素晴らしい調和を感じさせる名演で、すっかり感心させられる。
 以上のように、様々な点で、ガランチャの才能を堪能できるが、聴き手によっては、様々な楽曲との出会いという点でも、十分な幸福に浸れる一枚です。

Opera Arias
Br: ターフェル レヴァイン指揮 メトロポリタン歌劇場管弦楽団

レビュー日:2018.2.22
★★★★★ ターフェル30歳時の名録音
 イギリスのバリトン、ブリン・ターフェル(Bryn Terfel 1965-)が1994~95年に録音したアリア集。以下の楽曲を収録。
1) モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1971) 歌劇「フィガロの結婚」から 「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」
2) モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」から 「さあ、窓べにおいで、私の宝よ」
3) モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」から カタログの歌
4) モーツァルト 歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」から 「彼に目を向けてください」
5) モーツァルト 歌劇「魔笛」から 「わたしは鳥刺し」
6) ワーグナー(Richard Wagner 1813-1883) 歌劇「タンホイザー」から 「夕星の歌」
7) ワーグナー 歌劇「さまよえるオランダ人」から 「期限は切れた」
8) オッフェンバック(Jacques Offenbach 1819-1880) 歌劇「ホフマン物語」から 「きらめけ、ダイヤモンド!」
9) グノー(Charles Gounod 1818-1893) 歌劇「ファウスト」から メフィストフェレスのセレナーデ
10) ボロディン(Alexander Borodin 1833-1887) 歌劇「イーゴリ公」から 「疲れ果てた魂には夢も休息もなく」
11) ドニゼッティ(Gaetano Donizetti 1797-1848) 歌劇「ドン・パスクアーレ」から 「天使のように美しい娘」
12) ロッシーニ(Gioachino Rossini 1792-1868) 歌劇「チェネレントラ」から 「私の子孫、私の子孫の娘たちよ」
13) ヴェルディ(Giuseppe Verdi 1813-1901) 歌劇「マクベス」から 「裏切り者め!イギリスと組んでわしに刃向かうとは!…老境をなぐさめる慈悲、尊敬、愛」
14) ヴェルディ 歌劇「ファルスタッフ」から 「おい!小姓!…名誉だと!」
 バックは、レヴァイン(James Levine 1943-)指揮、メトロポリタン歌劇場管弦楽団の演奏。
 当盤はまだ30歳だったターフェルの、当時の代表的な録音の一つと言っていいもので、1997年のグラミー賞を受賞したものでもある。
 身長192cmという大柄な体躯から、豊穣に響き渡るターフェルの声は、バリトンとして、理想的といって良い条件を備えたものといって良い。その情熱的な声は、当盤でも圧倒的な印象を残すものとなっている。しかし、彼の美点はそれだけではない。多彩な言語に対応する能力とともに、歌劇中のアリアとしての機微を捉えた当意即妙の表現力、それを音楽という抽象芸術に還元する知的感覚の鋭さ、それらの多彩な才能を一身にまとった芸術として、彼の声は私たちの耳に響き、強い感動を引き起こすのである。
 冒頭のモーツァルトから、その言語そのものの表現の美しさに感嘆させられる。ドイツ語特有の力強い抑揚が、きわめて明晰かつ芸術的に表現されるのを聴くと、それがモーツァルトの偉大な芸術であるというのと、また別次元のもう一つの価値に晒されているようにさえ感じられるのである。これこそがターフェルの歌唱の魅力にほかならない。
 「さまよえるオランダ人」の「期限は切れた」では、圧倒的な迫力を伴いながら、その苦悩が深くにじむ歌唱になっている。その前にある「夕星の歌」の輝かしさも見事。この2曲が白眉と感じるが、ドニゼッティやボロディンでもきわめて充実した聴き手を圧倒する力感がある。
 レヴァインが指揮するオーケストラも良好で、特にワーグナーやヴェルディでの重厚さのある音作りが、ターフェルの歌唱と見事なコラボレーションを築き上げている。
 楽曲の中には、一般的により年齢を重ねた歌手が歌うことを想定して書かれたものもあるが、そんな不足感をまったく抱かさることのない、立派なパフォーマンスを示している。


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