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オムニバス(歌曲)



Elisabeth Soderstrom Sings Russian Songs
S: ゼーダーシュトレーム p: アシュケナージ

レビュー日:2011.9.6
★★★★★ ゼーダーシュトレームの高い万能性を示す再編集アルバム
 近年亡くなったスウェーデンのソプラノ歌手、エリザベート・ゼーダーシュトレーム(Elisabeth Anna Soderstrom 1927-2009)は、多彩な言語の歌唱が可能で、歌曲、オペラなどあらゆるジャンルで縦横な活躍をした。グラモフォン誌におけるジョン・ワラック氏(John Warrack)以下の批評は、彼女がヤナーチェクの歌劇「カーチャ・カバノヴァ」でカーチャを演じた際のものだ。・・「無限とも思える微細なタッチと慎重な歌いまわしで、ドラマにおける登場人物のキャラクタを描ききっている」。ヤナーチェクの歌劇は、内容が素晴らしいにもかかわらず、言語に適応する歌手の問題で上演が難しいものとされているので、彼女の適応力を物語るエピソードだ。
 そんな適応力を背景に、ゼーダーシュトレームの録音活動は広く、デッカのシベリウスやラフマニノフの歌曲全集でも主軸を担い、いずれもグラモフォン賞を受賞するなど輝かしい履歴となっている。このアルバムは、ゼーダーシュトレームがデッカでしばしば共演したアシュケナージとのチャイコフスキーを中心とする歌曲を集めたもの。一応、収録曲を書こう。
 チャイコフスキー~かっこう 夕べ 夜鳴鶯 昨日の夜 いや、ただあこがれを知る人だけが 子守歌 何故? 恐ろしい瞬間 昼の光が満ちようと 春 飾り気のない言葉 私の心を運び行け セレナード 失望 冬がこようとかまわない 涙 陽は沈み 熱い灰の上で 私の守護神、私の天使、私の友よ ゼムフィーラの歌 友よ信じるな すぐに忘れるために おお、あの歌を歌って スピリット・マイ・ハート・アーウェイ 何故に? それは早春のことだった 騒がしい舞踏会の中で もしも知っていたら 私は野の草ではなかったか 私の小さな庭 聞かないで 初めての出会い セレナード ロンデル 私はあなたと座っていた 窓辺の闇に見え隠れするのは)  ムソルグスキー~子供部屋  プロコフィエフ~醜いアヒルの子  グレチャニノフ~5つの子供の歌。
 グレチャニノフ(Alexander Grechaninov 1864-1956)はモスクワで生まれアメリカで活躍した作曲家。録音は1979年から82年にかけて行われたもの。
 いずれもアシュケナージの素晴らしいピアノ伴奏により、高いクオリティーが得られている。「熱い灰の上で」の情熱的なピアノ、「もしも知っていたら」の冒頭のピアノのモノローグの美しさ、「昼の光が満ちようと」「それは早春のことだった」などアシュケナージならではの深い彩りがある。名曲として知られる「いや、ただあこがれを知る人だけが」や「騒がしい舞踏会の中で」ではゼーダーシュトレームの真摯な歌唱とあいまって、寂寞とした雰囲気を瀟洒に奏でるものとなっている。またムソルグスキーの独特の暗みも秀逸。プロコフィエフの作品は管弦楽伴奏版もあり、アシュケナージはポーター(Jacqueline Porter)のソロで2009年に録音しているので、聴き比べもできる。

Green
C-T: ジャルスキー p: デュクロ エベーヌ四重奏団 A: シュトゥッツマン

レビュー日:2015.2.24
★★★★★ カウンターテナーで歌われるフランス歌曲の新しさ
 フランスのカウンターテナー、フィリップ・ジャルスキー(Philippe Jaroussky 1978-)によるフランス歌曲集第2弾。今回は、ポール・ヴェルレーヌ(Paul Verlaine 1844-1896)の詩に基づいて作曲されたものを集めた。
【CD1】
1) レオ・フェレ(Leo Ferre 1916-1993) 「感傷的な会話」
2) フォーレ(Gabriel Faure 1845-1924) 3つの歌曲 op.5 第1曲 「秋の歌」
3) セヴラック(Deodat Severac 1872-1921) 「空は、屋根のうえで(牢獄)」
4) スルク(Josef Zygmunt Szulc 1875-1956) 「月の光」
5) ドビュッシー(Claude Debussy 1862-1918) 歌曲集「艶なる宴」 第1集 第1曲「ひっそりと」
6) ドビュッシー 歌曲集「艶なる宴」 第1集 第2曲 「操り人形」
7) ドビュッシー 歌曲集「艶なる宴」 第1集 第3曲 「月の光」
8) フォーレ 5つのヴェネツィアの歌 op.58 第5曲 「それは愁いをおびた陶酔」
9) ショーソン(Ernest Chausson 1855-1899) 2つの詩 op.34 第1曲 「聴いてください、とても優しい歌なのです」
10) フォーレ 歌曲集「5つのヴェネツィアの歌」op.58 第3曲 「グリーン」
11) シャルル・ボルド(Charles Bordes 1863-1909) 「おお、悲しみに、悲しみにくれたぼくのたましい」
12) サンサーンス(Camille Saint-Saens 1835-1921) 「野を渡る風」
13) フォーレ 歌曲集「5つのヴェネツィアの歌」 op.58 第2曲「ひっそりと」
14) シャブリエ(Emmanuel Chabrier 1841-1894) 「フィシュ=トン=カンの歌」
15) アーン(Reynaldo Hahn 1875-1947) 7つの灰色の歌 第4曲 「ひっそりと」
16) フォーレ 2つの歌曲 op.83 第1曲 「空は、屋根のうえで(牢獄)」
17) ドビュッシー 「マンドリン」
18) ショーソン 4つの歌 op.13 第1曲 「白い月」
19) オネゲル(Arthur Honegger 1892-1955) 4つの低声のための歌 第3曲 「大きな黒い眠り」
20) フォーレ 4つの歌曲 op.51 第3曲「心のなかに涙が降っている」
21) マスネ(Jules Massenet 1842-1912) 「白い月」
22) ヴァレーズ(Edgar Varese 1883-1965) 「大きな黒い眠り」
23) レオ・フェレ 「聴いてください、とても優しい歌なのです」
【CD2】
24) フォーレ 2つの歌 op.46 第2曲 「月の光」
25) アーン 7つの灰色の歌 第1曲「秋の歌」
26) カプレ(Andre Caplet 1878-1925) 「グリーン」
27) ドビュッシー 「心のなかに涙が降っている」
28) ポルドウスキ(Irene Regine Wieniawska 1880-1932) 「白い月」
29) ポルドウスキ 「コロンビーヌ」
30) トレネ(Charles Trenet 1913-2001) 「秋の歌」
31) ポルドウスキ 「マンドリン」
32) フロラン・シュミット(Florent Schmitt 1870-1958) 3つの歌曲 op.4 第2曲「心のなかに涙が降っている」
33) アーン 20の歌 第1集 第16曲「空は、屋根のうえで(牢獄)」
34) シャブリエ 「プッサーの歌」
35) ケクラン(Charles Koechlin 1867-1950) 4つの歌 op.22 第4曲「心のなかに涙が降っている」
36) フォーレ 歌曲集「優しい歌」 op.61 第3曲 「白い月」
37) シャルル・ボルド(Charles Bordes 1863-1909) 「感傷的な散歩」
38) ドビュッシー 歌曲集「忘れられたアリエッタ」から「グリーン」
39) カントルーブ(Joseph Canteloube 1879-1957) 「感傷的な会話」
40) ドビュッシー 歌曲集「艶なる宴」 第2集 第1曲 「無邪気なひとたち」
41) ドビュッシー 歌曲集「艶なる宴」 第2集 第2曲 「半獣神」
42) ドビュッシー 歌曲集「艶なる宴」 第2集 第3曲 「感傷的な会話」
43) ジョルジュ・ブラッサンス(Georges Brassens 1921-1981) 「コロンビーヌ」
 2014年の録音で、ピアノ伴奏はジェローム・デュクロ(Jerome Ducros 1974-)。また、1,5,6,7,14,23,25,30,39,43)の各曲でエベーヌ・カルテットが加わるほか、21)ではコントラルトのナタリー・シュトゥッツマン(Nathalie Stutzmann 1965-)とのデュエットが聴ける。
 14)と34)の原曲はオペラ中のアリア。また、「ポルドウスキ」の作曲家名は、ヴィエニアフスキ(Henryk Wieniawski 1835-1880)の妻であったイレーヌが作曲活動するときに用いていた名前。
 大変注目されるアルバムだと思う。ヴェルレーヌは、言うまでもなくデカダンと象徴主義を体現した偉大な詩人で、多くの作曲家がその詩に啓発されて作曲活動を行った。その詩はアーンが指摘するように、特有の抽象性と官能性を伴ったもので、そのことが音楽に一層の力を与えた。
 ジャルスキーのようなカウンターテナーがこれらの作品を録音することは少ない。彼らの領域は、本来はバロック期の教会音楽、それにカウンターテナーの歌唱を前提とした一部の近現代音楽であろう。当盤に収録された歌曲も、カウンターテナーの歌唱を前提とはしない作品だ。
 しかし、ジャルスキーは、その声質を活かし、シャブリエ、ドビュッシーから近代シャンソンまで、非常に面白いニュアンスに富む演奏を繰り広げた。
 ジャルスキーの声は、これらの歌曲の歌唱においては、独特の繊細さを感じさせる。限定的な歌唱法は、フランス語特有の母音の扱いを踏まえて、不思議な色合いを讃える。それは蓄音機から流れてくるようなノスタルジックな情感であったり、ゾクッとするような官能的な感覚であったりする。
 冒頭のレオ・フェレの「感傷的な会話」から、新しいフランス歌曲の味わいが拓けたような、新鮮さと、声質がもたらす感傷が入り混じった色調が印象的。そして、しばしば加えられるエベーヌ・カルテットによる弦の響きが、絶妙の効果をもたらす。デュクロのピアノもうまい。出過ぎることはなく、しかし、行間の情をほのかに引き出す高貴さに溢れている。例えば、ヴァレーズの一品のピアノの音色に注意深く聴き入って欲しい。
 楽曲も美しいものばかり。中でも私が好きなのはアーン「空は、屋根のうえで(牢獄)」である。ヴェルレーヌが、ランボー(Arthur Rimbaud 1854-1891)に発砲し負傷させたことで、収監された牢獄の中で綴った詩である。ヴェルレーヌ29歳の時の迷いと嘆きが淡く綴られる詩に、アーンは透明でさりげない旋律を与えた。私が昔よく聴いたのは、カミーユ・モラーヌ(Camille Maurane 1911-2010)の名演であったが、ジャルスキーの歌唱はまったく新しい、天から牢獄にいるヴェルレーヌに語りかけるように響く。
 今回、43の憂いあふれるフランス歌曲を聴き、その美しさにあらためて感じ入った。

Lava-Arie Di Bravura from 18th Century Napoli
S: ケルメス ディレクター: オレセ

レビュー日:2015.3.12
★★★★★ 18世紀ナポリの音楽舞台を復活させるアルバム
 近年のバロック音楽再興のうち、こと声楽においては、シモーネ・ケルメス(Simone Kermes 1970-)が果たした役割が大きい。その歌唱は、古典以降のイタリア・オペラ的なベルカント唱法とは大きく異なっていて、スピードに関する卓越した技巧を要求するもので、現代ではこのジャンルを主軸とし、トレーニングを積む歌手は多くなないのである。しかし、ケルメスという歌手の登場により、私たちは、今まで知らなかった声の協奏曲と形容したいほどのバロック・アリアの世界の多様さを知ることとなった。
 当盤は、そのケルメスによる「18世紀ナポリのオペラ・アリア集」である。クラウディオ・オゼーレ(Claudio Osele)とレ・ムジケ・ノーヴェによるピリオド楽器による合奏団をバックに、2008年に録音されたもの。収録曲は以下の通り。
1) ペルゴレージ(Giovanni Battista Pergolesi 1710-1736) 歌劇「オリンピアーデ」より"Tu me da me dividi"
2) ポルポラ(Nicola Porpora 1686-1768) 歌劇「ルチオ・パピーリオ」より"Morte amara"
3) ポルポラ 歌劇「フラヴィオ・アニチオ・オリブリオ」より"Se non dovesse il pie"
4) ヴィンチ(Leonardo Vinci 1690-1730) 歌劇「アルタセルセ」より"Fra cento affanni e cento"
5) レオ(Leonardo Leo 1694-1744) 歌劇「イル・デメトリオ」より"Manca sollecita"
6) ハッセ(Johann Adolph Hasse 1699-1783) 歌劇「ヴィリアーテ」より"Come nave in mezzo all' onde"
7) ペルゴレージ 歌劇「シリアのハドリアヌス帝」より"Lieto cosi talvolta"
8) ハッセ 歌劇「アンティゴネー」より"Perche, se tanti siete"
9) ヴィンチ 歌劇「アルタセルセ」より"No che non ha la sorte… Vo solcando un mar crudele"
10) ポルポラ 歌劇「ルチオ・パピーリオ」より"Tocco il porto"
11) ハッセ 歌劇「捨てられたディドーネ」より"Tu dici ch' io non speri…L'augelletto in lacci stretto"
12) ペルゴレージ 歌劇「オリンピアーデ」より"Mentre dormi amor fomenti"
 収録曲の半分以上が世界初録音となっている。
 ハッセはドイツ人であるが、イタリアに渡りナポリで活躍した。他はすべてイタリアの作曲家。とは言っても、日本で一般に作曲家として知られているのは、ペルコレージだけであろう。これらの楽曲が現在取り上げにくいのは、ファリネッリ(Farinelli 1705-1782)に象徴されるカストラート歌手の全盛期であったためである。彼らの歌唱を前提とした作品は、きわめて音域が広く、特化的な技巧を要求する。現代では、これらのオペラ・アリアは女声で歌われるわけだが、音域・技術の両面で対応できる歌手は限られる。
 しかし、ケルメスのような奇跡的な存在が、その壁を打ち破ったわけだ。実際、この12曲の顔ぶれは、きわめて多彩。牧歌的なものから英雄的なものまで、悲劇的なものから軽いものまで、またソプラノの領域とは考えにくい暗い低さを併せ持つものなど実に様々。これらの楽曲のそれぞれにケルメスは素晴らしい適応を示す。ビブラートの使用の程度も含めて、1曲1曲、その曲のためのアプローチを緻密に行い、劇的な火の出るような様相から、田園詩のような情緒まで描き分けている。
 1)の劇的な怒りの音楽、3)の機動的な正確さ、5)に通う情緒、すべてが見事。また7)では名高いオーボエ奏者、ボッシュ(Michael Bosch 1967-)との見事なやり取りを繰り広げる。6)のカデンツァ部分の聴きごたえも十分。
 全般に、果敢なケルメスの適応能力で、一気に聴き通してしまう一枚です。

Forbidden But Not Forgotten!
V.A.

レビュー日:2015.7.16
★★★★★ 忘れられない、忘れてはいけない歴史の闇
 "Forbidden but not forgotten(禁じられた、しかし忘れ去られることのない)"と題されて、1920年代から40年代にかけて音声による記録が残された「退廃芸術」を集めた企画版。CD10枚に当時の音源が収録されている。
 「退廃芸術」は、第二次大戦前からドイツによって行われた芸術政策を象徴する言葉。近代芸術を、精神的な衰退を象徴するものであるとし、様々な形で迫害と差別化を行った。標的となったのは近代芸術のみならず、ユダヤ人やスラヴ系芸術家の作品、アフリカ文化の影響を受けた作品、あるいは社会主義的思想を持つ芸術家の作品やジャズの影響を受けた芸術家の作品などである。これらの芸術は、様々な形で虐げられ、卑屈な方法でその価値を歪められた。迫害された芸術家のうち、国外に脱出して活動を継続できたものはまだ幸運なケースで、収容所に送られ、殺害された人も多くいた。
 収容所で殺害された高名なユダヤ人作曲家として、ヴィクトル・ウルマン(Viktor Ullmann 1898-1944)、ハンス・クラーサ(Hans Krasa 1899-1944)、パヴェル・ハース(Pavel Haas 1899-1944)といった人たちの名を挙げることができる。彼らの作品を新たに録音したDECCAの退廃音楽シリーズは、世界的に高い評価を得た。いずれにしても、当時のドイツの狂気の政策により、我々人類は、多くの貴重な芸術を失った。
 本盤では、ユダヤ人であるという理由で迫害対象となった芸術家を広範に取り上げ、幸いにも残されていた当時の録音をCD10枚に可能な範囲で収録している。CD1~10には一応のタイトルが振られている。
CD1; 文化のボルシェビキの政策
CD2; キャバレー、シャンソン
CD3; 優柔なモラル
CD4; トータル・ライセンス
CD5; ヒットソングと映画
CD6,7; オペレッタ
CD8,9; オペラ
CD10; コンサート
 日本での高名無名を問わず、数多くの芸術家の記録が刻まれており、様々な意味で後世に伝えなくてはならないものだろう。記録が古いため、純粋な観賞用としては適さないだろうが、本アイテムはそのような次元とは異なる歴史的な価値を持つものだ。参考までに当10枚組CDに取り上げられあげられた芸術家の主な顔ぶれを以下にまとめよう。なお、当時すでに亡くなっている芸術家の作品も攻撃の対象となっているため、彼らの名も含まれている。
パウル・アブラハム(Paul Abraham 1892-1960) ハンガリーの作曲家
ロジ・バールショニ(Rosy Barsony 1909-1977) ハンガリーの歌手・女優
クルト・ボウワ(Kurt Bois 1901-1991) ドイツの俳優
ベルトルト・ブレヒト(Bert Brecht 1898-1956) ドイツの劇作家
エルンスト・ブッシュ(Ernst Busch 1900-1980) ドイツの歌手
アドルフ・フリッツ(Adolfu Fritz 1917-1977) ドイツの指揮者・オルガン奏者
コメディアン・ハーモニスツ(Comedian Harmonists) 1930年代ドイツで活躍したアカペラグループ
ハンス・アイスラー(Hanns Eisler 1898-1962) ドイツの作曲家
リヒャルト・フォール(Richard Fall 1882-1945) オーストリアの作曲家
クルト・ゲロン(Kurt Gerron 1897-1944) ドイツの俳優、映画監督
ロベルト・ギルバート(Robert Gilbert 1899-1978) ドイツの作曲家、歌手、俳優
ポール・グレッツ(Paul Graetz 1889-1937) ドイツの俳優・映画監督
フリッツ・グルンバウム(Fritz Grunbaum 1880-1941) オーストリアの作曲家、俳優、映画監督
ジャック=フロマンタル・アレヴィ(Jacques Fromental Halevy 1799-1862) フランスの作曲家
マックス・ハンセン(Max Hansen 1897-1961) デンマークの歌手
ハインリヒ・ハイネ(Heinrich Heine 1797-1856)ドイツの詩人
ヴェルナー・リヒャルト・ハイマン(Werner Richard Heymann 1896-1961)ドイツの作曲家
パウル・ヒンデミット(Paul Hindemith 1895-1963)ドイツの作曲家
フリードリヒ・ホレンダー (Friedrich Hollaender 1886-1976)ドイツの作曲家
エメリッヒ・カールマン(Emmerich Kalman 1882-1953) オーストリアの作曲家
アレクサンドル・キプニス(Alexander Kipnis 1881-1978) ロシアの歌手(バス)
オットー・クレンペラー(Otto Klemperer 1885-1973) ドイツの指揮者
エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(Erich Wolfgang Korngold 1897-1957) オーストリアの作曲家
フリッツ・クライスラー(Fritz Kreisler 1875-1962) オーストリアのヴァイオリニスト、作曲家
エルンスト・クルシェネク(Ernst Krenek 1900-1991) オーストリアの作曲家
ロッテ・レーニャ(Lotte Lenya 1898-1981) オーストリアの歌手、女優
フリッツ・レーナー=ベーダ(Fritz Lohner-Beda 1883-1942) オーストリアの作家、詩人
グスタフ・マーラー(Gustav Mahler 1850-1911) オーストリアの作曲家、指揮者
フリッツィ・マッサリー(Fritzy Massary 1882-1962) オーストリアの女優
フェリックス・メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn-Bartholdy 1809-1847) ドイツの作曲家
ジャコモ・マイアベーア(Giacomo Meyerbeer 1791-1864) ドイツの作曲家
ポール・モーガン(Paul Morgan 1886-1938) オーストリアの俳優
ジャック・オッフェンバック(Jacques Offenbach 1819-1880) ドイツの作曲家
ヨーゼフ・シュミット(Joseph Schmidt 1904-1942) オーストリアの歌手(テノール)映画俳優
アルノルト・シェーンベルク(Arnold Schonberg 1874-1951) オーストリアの作曲家
ルドルフ・ゼルキン(Rudolf Serkin 1903-1991) オーストリアのピアニスト
オスカー・シュトラウス(Oscar Straus 1870-1954) オーストリアの作曲家
ジョージ・セル(Georg Szell 1897-1970) ハンガリーの指揮者
リヒャルト・タウバー(Richard Tauber 1891-1948) オーストリアの歌手(テノール)俳優
クルト・トゥホルスキー(Kurt Tucholsky 1890-1935) ドイツの作家
ブルーノ・ワルター(Bruno Walter 1876-1962) ドイツの指揮者
デイヴィッド・ウェーバー(David Weber 1913-2006) アメリカのクラリネット奏者
クルト・ワイル(Kurt Weill 1900-1950) ドイツの作曲家
アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー(Alexander von Zemlinsky 1871-1942) オーストリアの作曲家
ハインリヒ・シュルスヌス(Heinrich Schlusnus 1888-1952)ドイツの歌手(バリトン)
ヤルミラ・ノヴォトナ(Jarmila Novotna 1907-1994) チェコの歌手(ソプラノ)
ヴィリー・フリッチ(Willy Fritsch 1901-1973) ドイツの俳優
トルーデ・ヘスターベルク (Trude Hesterberg 1862-1967) ドイツの歌手、女優
シャルロッテ(ロッテ)・レーマン(Charlotte (Lotte) Lehmann 1888-1976) ドイツの歌手(ソプラノ)
マックス・ローレンツ(Max Lorenz 1901-1975) ドイツの歌手(テノール)
ヘルベルト・エルンスト・グロー(Herbert Ernst Groh 1905-1982) スイスの歌手(テノール)
ナタン・ミルシテイン(Nathan Milstein 1903-1992) ウクライナのヴァイオリニスト
オスカー・カールワイス(Oskar Karlweis 1894-1956) オーストリアの俳優
ヘルベルト・ヤンセン(Herbert Janssen 1892-1965) ドイツの歌手(バリトン)

BARBARA
p: タロー アコーディオン: ロマネリ 他

レビュー日:2017.10.10
★★★★★ 1曲1曲が無類に美しい至宝の伝説的シャンソン集
 現代を代表するフランスの世界的ピアニスト、アレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud 1968-)による、フランスの伝説的シャンソン歌手で作曲家だったバルバラ(Barbara 1930-1997)のトリビュート・アルバム。タローは、バルバラの葬儀に出席した際に、当アルバムの作製を志したというが、その構想がなんと20年を経て実を結んだことになる。収録内容をみて驚くが、全ての楽曲はタローが編曲しており、ヴォーカリストも1曲1曲で「もっとも適切な」アーティストを招へいするという入れ込みぶりで、都合14人のヴォーカリストが集うと言うまたとない豪華な内容となった。また、器楽奏者も超一流のアーティストが揃っているほか、長年バルバラのサポート・メンバーをつとめたローラン・ロマネリが参加し、特にインスト曲で占められた2枚目のディスクでその至芸を聴くことができる。収録内容と、参加したアーティストをまずは列挙しよう。
【CD1】
1) ピエール (prelude)
2) Cet Enfant-la
3) 美しい9月
4) 私の恋人たち
5) くちびるの端に
6) 死にあこがれて
7) Vivant poeme
8) ピエール
9) 埋葬
10) 鏡の向こう側
11) C'est trop tard
12) サンタマンの森で
13) ウィーン
14) いつ帰ってくるの?
15) Les Amis de Monsieur
16) 歓びが戻るのを待って
17) ピエール (postlude)
【CD2】
18) 私の劇場
19) Valse de Frantz
20) 今朝
21) ナントに雨が降る
22) 美しい年令
23) もう何もない
24) レミュザ
25) 私は恋を殺した
26) 我が麗しき恋物語
 ヴォーカル:
 ドミニクA(Dominique A 1968-) 2)
 カメリア・ジョルダナ(Camelia Jordana 1992-) 3)
 ジュリエット・ヌルディーヌ(Juliett e Noureddine 1962-) 4)
 ヴァネッサ・パラディ(Vanessa Paradis 1972-) 5)
 レディオ・エルヴィス(Radio Elvis) 6)
 ジャン=ルイ・オベール(Jean-Louis Aubert 1955-) 7)
 ティム・ダップ(Tim Dup) 8)
 ベナバール(Benabar 1969-) 9)
 ジェーン・バーキン(Jane Birkin 1946-) 10)
 アルビン・デ・ラ・シモン(Albin de la Simone 1970-) 11)
 ロキア・トラオレ(Rokia Traore 1974-) 12)
 インディ・ザーラ(Hindi Zahra 1979-) 14)
 ギヨーム・ガリエンヌ(Guillaume Gallienne 1972-) 15)
 ルス・カサル(Luz Casal 1958-) 16)
 語り:
 ジュリエット・ビノシュ(Juliette Binoche 1964-) 13,18)
 協演:
 モディリアーニ四重奏団(Modigliani string quartet) 2,16,20)
 コントラバス: ステファン・ロジェロ(Stephane Logerot) 4,9,16)
 アコーディオン: ローラン・ロマネリ(Roland Romanelli 1946-) 4,8,21,22,24)
 チェロ: ルイ・ロッド(Louis Rodde) 8,10)  フランソワ・サルク(Francois Salque) 13)
 クラリネット: ミシェル・ポルタル(Michel Porta 1935-) 9,20,21,26)
 キーボード,ベース: アルビン・デ・ラ・シモン(Albin de la Simone 1970-) 10,11)
 ホルン: エルヴェ・ジュラン(Herve Joulain 1967-) 11)
 ヴァイオリン: ルノー・カプソン(Renaud Capucon 1976-) 13)
 ギター: フランソワーズ・ラセール(Francoise Lasserre 1966-) 16)
 2016年から2017年にかけての録音。
 また、タロー自身も、ピアノだけでなく、楽曲によっては、ハモンド・オルガン、ウーリッツァー・オルガン、プリペアード・ピアノ、キーボード、チェレスタ、ベルを担当しており、その多才ぶりが際立っている。
 タローはこれまでにもサティ(Erik Satie 1866-1925)のアルバムや、「屋根の上の牛」で、これらのアーティストの何人かと共演しているが、今回のアルバムは、それらを上回ると言いたいほどの企画性の高さである。そして、タローの編曲の見事なこと。楽曲の雰囲気、文化的な薫りを十全に残しながら、1曲1曲、実に巧妙に仕上げている。
 ピアノのパートは、タローほどの達人にとって、技術的に難しいところはほとんどないと言っていいだろう。しかし、そこに込められた感情、研ぎ澄まされた感覚は、全体の雰囲気を圧倒的に支配している。
 もちろん、ヴォーカリストや器楽奏者たちの好演も言わずもがな。そして、原曲のもつ薫り高い旋律が無類に美しい。ひとつひとつが四季のように鮮やかな色彩を持ち、いかにもあの時代の、高雅にして瀟洒なステージの雰囲気が如実に伝わってくるのである。そして、親しみやすく、それでいて俗に偏らないメロディは、タローのような名手が手掛けるのに、実に相応しい輝きを持っているのである。
 どれも素敵な曲ばかりだが、1曲だけ挙げるなら、頭に残って離れない「くちびるの端に」にしようか。特に、秋の夜に聴くのに、絶好のアルバムではないでしょうか。強力にオススメします。

Night Songs
S: フレミング p: ティボーデ

レビュー日:2020.1.14
★★★★★ 5人の作曲家の名品が並ぶ「夜の歌曲」集
 ルネ・フレミング(Renee Fleming 1959-)のソプラノ独唱、ジャン=イヴ・ティボーデ(Jean-Yves Thibaudet 1961-)のピアノで、「Night Songs」と題されて集められた5人の作曲家の作品からなる歌曲集。以下の楽曲を収録。
フォーレ(Gabriel Faure 1845-1924)
1) 月の光(Clair de lune) op.46-2
2) マンドリン(Mandoline) op.58-1
3) 夢のあとに(Apres un reve) op.7-1
4) 夕暮れ(Soir) op.83-2
5) ネル(Nell) op.18-1
ドビュッシー(Claude Debussy 1862-1918)
6) 美しい夕暮れ(Beau soir)
7) マンドリン(Mandoline)
8) 出現(Apparition)
ビリティスの3つの歌(Chansons de Bilitis)
9) パンの笛(La Flute de Pan)
10) 髪(La Chevelure)
11) ナイアードの墓(Le Tombeau des naiades)
マルクス(Joseph Marx 1882-1964)
12) 夜想曲(Noctutne)
13) 夜の祈り(Nachtgebet)
14) 幸福な夜(Selige Nacht)
15) 酒落者のピエロ(Pierrot Dandy)
R.シュトラウス(Richard Strauss)
16) 憩え、わが魂(Ruhe, meine Seele!) op.27-1
17) 悪いお天気(Schlechtes Wetter) op.69-5
18) 優しい歌(Leise Lied) op.19-1
19) 優しい歌たち(Leise Lieder) op.41a-5
20) ツェツィーリエ(Cacilie) op.27-2
ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943)
21) ここはすばらしい(Zdes khorosho) op.21-7
22) ひそやかな夜のしじまの中で(V molchani nochi taynoy) op.4-3
23) 睡蓮(Rechnaya liliya) op.8-1
24) 夢(Son) op.38-5
25) この夏の夜(Eti letniye nochi) op.14-5
26) 歌うな、美しい女よ(Ne poy, krasavitsa) op.4-4
 2000年から2001年にかけて録音されたもの。
 フレミング、ティボーデとそれぞれのジャンルの第一線で活躍するアーティストの協演である。その成果は、総じて、印象の華やかさに帰結しているだろう。また、5人の作曲家に、あまり知名度のないマルクスを加えたというところも、このアルバムの注目点である。
 フレミングは、これらの様々な言語からなる歌曲を、豊麗な美声で彩り、恰幅のある音楽を導いている。十分なダイナミックレンジのある歌唱力は、時に歌曲の幅を越えているようにも感じられる瞬間もあるが、ティボーデのピアノが絶妙なコントロールで全体を整える手腕は見事だ。もともと技術面でも超一流のピアニストであり、特にラフマニノフの楽曲における技巧的な伴奏を胸のすくような鮮やかさで弾きこなしている。中でも「この夏の夜」では、ことに素晴らしい効果が上がっている。
 当盤に収録されているマルクスの歌曲に「思わぬ発見」を味わう人は多いだろう。内向的な美しさを持っているが、中でも「夜の祈り」の雰囲気は素晴らしい。フレミングの情感表現に秀でた歌唱も流石だし、ティボーデの、それこそ夜空に輝く星々を思わせる透明なタッチが最高だ。
 ラフマニノフの歌曲も良い。「夢」の暖かくもほの暗いベースをフレミングとティボーデは、程よい抑揚を与えながら、スマートに描き出していく。
 「月の光」「夢のあとに」「美しい夕暮れに」といった有名な旋律が並んだフランス歌曲に関しては、フレミングの歌唱は、やや力点が明瞭すぎるかもしれない。一般的な、フランス歌曲を得意とする歌い手たちとは、やや肌合いが違うところがある。とはいえ、その表現自体は、音楽的に美しく、美麗な録音とあいまって、聴き手を魅了するものとなっている。


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