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オムニバス(ピアノ以外の器楽曲)



TSAR OF INSTRUMENTS
org: クイン

レビュー日:2006.10.21
★★★★☆ ロシアのオルガン音楽の系譜を辿るアルバム
 “TSAR OF INSTRUMENTS”と題して19世紀末から20世紀前半のロシアのオルガン作品を集めた企画版である。TSARとは一般的にはCzarで表されるロシア皇帝の称号であり、そのまま訳すと「楽器の皇帝」となる。オルガンを弾いているのはイアン・クイン(Iain Quinn)。録音は2002年。まず、収録曲であるが以下に示そう。
 グラズノフ 前奏曲とフーガニ長調 前奏曲とフーガニ短調 幻想曲
 グリエール ロシアのクリスマス・ソングによるフーガ
 グリンカ フーガ(変ホ長調、イ短調、ニ長調)
 グレチャニノフ 3つの小品
 タネーエフ コラール・ヴァリエ
 ラフマニノフ 「悲しみの三重奏」より第2楽章「アンダンテ」
 ショスタコーヴィチ 映画音楽「馬あぶ」~クレド、教会での礼拝
 全収録時間およそ71分のうち、グラズノフ(Alexande Glazunov 1865-1936)の作品が35分程度を占めている。グラズノフという作曲家はシンフォニストとしてその名を知られてはいる。そして代表作となると、バレエ音楽「四季」を挙げる人が多いだろう。しかしオルガン奏者として、ヨーロッパの伝統様式を重んじたオルガン曲も遺しており、これらの作品も充実した内容を持っている。その様式美は東欧のギリシア正教的な教会音楽に通じており、厳かな雰囲気を持っている。
 グレチャニノフ(Alexander Grechaninov 1873-1943)の作品はリズム感があり、土俗的な旋律が面白く、親しみやすい。
 6分ほどの収録時間であるがショスターコヴィチの映画音楽からの編曲は聴き応え十分の作品で、やはりこの作曲家の図抜けた力量を知らしめるものと言える。できることなら、シャンドスレーベルには、ぜひショスタコーヴィチのオルガン曲をくまなく録音してリリースしてほしい、そう思わせる内容でした。

チャイコフスキー国際コンクールの歴史より1958~86
V.A.

レビュー日:2015.8.20
★★★★★ これは貴重!チャイコフスキー・コンクールの歴史的音源を集めた10枚ボックス
 なかなか貴重で興味深いBox-setが発売された。1958年からはじまり、以来4年に1度開催されている「チャイコフスキー国際コンクール」における音源集である。冷戦下でアメリカのクライバーンが優勝を勝ち取り、大々的な凱旋がアピールされた第1回から、1986年の第8回まで、全65名のアーティストの名演・偉演が収録されている。その収録内容は以下の通りだ。
【CD1】
1) ショスタコーヴィチによるオープニング・スピーチ(1958年録音)
2) p: ナウム・シュタルクマン(Naum Shtarkman 1927-2006) ソ連
   カバレフスキー ロンド イ短調 op.59(1958年録音)
3) vn: シュテファン・ルハ(Ștefan Ruha 1931-2004) ルーマニア
   チャイコフスキー スケルツォ ハ短調 op.42-2(1958年録音)
4) p: レフ・ヴラセンコ(Lev Vlassenko 1928-1996) ソ連
   ショパン マズルカ 第13番 イ短調 op.17-4(1958年録音)
5) vn: ヴィクトル・ピカイゼン(Victor Pikaizen 1933-) ソ連
   チャイコフスキー ワルツ・スケルツォ op.34(1958年録音)
6) vn: ヴァレリー・クリモフ(Valeri Klimov 1931-) ソ連
   ショスタコーヴィチ/ツィガーノフ編 前奏曲 変ロ短調 op.34-16 ニ短調 op.34-24(1958年録音)
7) p: ヴァン・クライバーン(Van Cliburn 1934-2013) アメリカ
   ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」 op.39より 第5曲 変ホ短調
   ヴァン・クライバーンのスピーチ
   ソロヴィヨフ=セードイ モスクワの夜
   ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 op.30(1958年録音)
【CD2】
1) p: エリソ・ヴィルサラーゼ(Eliso Virsaladze 1942-) ソ連
   ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」 op.39より 第6曲 イ短調
   リスト 演奏会用練習曲 ヘ短調 S.144-2 (1962年録音)
2) vn: ニーナ・ベイリナ(Nina Beilina) ソ連
   オフチンニコフ ヴァイオリンとピアノのためのバラード(1962年録音)
3) vc: ナターリャ・グートマン(Natalia Gutman 1942-) ソ連
   チャイコフスキー 奇想的小品 op.62(1962年録音)
4) vn: イリーナ・ボチュコヴァ(Irina Bochkova) ソ連
   ヴィエニアフスキ スケルツォ・タランテラ op.16(1962年録音)
5) p: ジョン・オグドン(John Ogdon 1937-1989)イギリス
   ラヴェル 夜のガスパールより 絞首台
   リスト/ブゾーニ編 カンパネラ (1962年録音)
6) p: ウラディーミル・アシュケナージ(Vladimia Ashkenazy 1937-) ソ連
   チャイコフスキー ドゥムカ op.59
   リスト 超絶技巧練習曲集 第5番 変ロ長調「鬼火」(1962年録音)
7) vn: ボリス・グートニコフ(Boris Gutnikov 1931-1986) ソ連
   カバレフスキー ロンド op.69
   イザイ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ト短調 op.27-3(1962年録音)
8) vc: ナターリャ・シャホスカヤ(Natalia Shakhovskaya 1935-) ソ連
   ブレヴァル チェロ・ソナタ 第5番 ト長調 op.12 より 第1楽章(1962年録音)
9) p: ダニエル・ポラック(Daniel Pollack 1935-) アメリカ
   プロコフィエフ ピアノ・ソナタ第7番 変ホ長調 「戦争ソナタ」 op.83(1958年録音)
【CD3】
1) ソプラノ: マリア・ビエシュ(Maria Biesu 1935-) ソ連
   チャイコフスキー そんなに早く忘れて
   ヴェルディ レオノーラのアリア
   プッチーニ トスカのアリア(1966年録音)
2) ソプラノ: ジェーン・マーシ(Jane Marsh) アメリカ
  テノール: ウラディミール・アトラントフ(Vladimir Atlantov 1939-) ソ連
   ヴェルディ オテロとデズデモーナの二重唱(1966年録音)
3)  ソプラノ: ジェーン・マーシ(Jane Marsh) アメリカ
   ヴェルディ デズデモーナの祈り
   バーバー この輝ける夜に(1966年録音)
4) vn: オレグ・カガン(Oleg Kagan 1946-1990) ソ連
   シベリウス ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47より 第2楽章、第3楽章(1966年録音)
5) vc: カリーナ・ゲオルギアン(Karine Georgian 1944-) ソ連
   チャイコフスキー ロココの主題による変奏曲 op.33(1966年録音)
6) vc: ミハイル・ホミツェル(Mikhail Khomitser) ソ連
   ブキニク 演奏会用練習曲 第4番(1962年録音)
7) vc: ヴァレンティン・フェイギン(Valentin Feygin 1934-1995) ソ連
   ヴラソフ チェロとピアノのための即興曲(1962年録音)
【CD4】
1) vn: グレン・ディクテロウ(Glenn Dicterow 1948-) アメリカ
   パガニーニ 24のカプリースより 第9番 ホ長調 (1970年録音)
2) p: ヴィクトリア・ポストニコワ(Viktoria Postnikova 1944-) ソ連
   リスト 超絶技巧練習曲 第12番「雪あらし」 S.139-12
   ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」 op.39 より 第5番 変ホ短調
   チャイコフスキー 「四季」より 5月「白夜」(1970年録音)
3) vc: ダーヴィド・ゲリンガス(David Geringas 1946-) ソ連
   フランクール チェロ・ソナタ ホ長調(1970年録音)
4) p: アルトゥール・モレイラ=リマ(Arthur Moreira Lima 1940-) ブラジル
   ヴィラ=ロボス 道化人形
   リスト 超絶技巧練習曲 第10番 ヘ短調(1970年録音)
5) vn: リアナ・イサカーゼ(Liana Isakadze 1946-) ソ連
   チャイコフスキー ワルツ・スケルツォ op.34(1970年録音)
6) vn: タチアナ・グリンデンコ(Tatiana Grindenko 1946-) ソ連
   チャイコフスキー メロディ op.42-3(1970年録音)
7) テノール: ズラブ・ソトキラヴァ(Zurab Sotkilava 1937-) ソ連
   ビゼー ホセのアリア(1970年録音)
8) vn: ヴィクトル・トレチャコフ(Viktor Tretiakov 1946-) ソ連
   チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35(1966年録音)
【CD5】
1) p: シプリアン・カツァリス(Cyprien Katsaris 1951-) フランス
   ショパン 12の練習曲 op.25 第10番 ロ短調
   ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」 op.39 より 第1番 ハ短調
   ブーレーズ スケルツォ(1970年録音)
2) vn: ウラディーミル・スピヴァコフ(Vladimir Spivakov 1944-) ソ連
   シチェドリン フモレスケ
   サラサーテ バスク奇想曲 op.24(1970年録音)
3) vn: ギドン・クレーメル(Gidon Kremer 1947-) ソ連
   エルンスト 庭の千草(1970年録音)
4) p: ジョン・リル(John Lill 1944-) イギリス
   ショスタコーヴィチ 24の前奏曲とフーガ 第15番 変ニ長調 op.87-15
   ラーツ トッカータ
   ライゼンシュタイン 前奏曲とフーガ ニ長調 op.32(1970年録音)
5) ソプラノ: タマーラ・シニャフスカヤ(Tamara Sinyavskaya 1943-) ソ連
   シチェドリン ソング・アンド・ディッティーズ・オヴ・ヴァルヴァラ
   ビゼー セギディーリャ(1970年録音)
6) p: ウラディーミル・クライネフ(Vladimir Krainev 1944-2011) ソ連
   プロコフィエフ ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 op.26(1970年録音)
7) vc: イヴァン・モニゲッティ(Ivan Monighetti 1948-) ソ連
   プロコフィエフ バレエ音楽「シンデレラ」より アダージョ(1974年録音)
【CD6】
1) p: アンドレイ・ガヴリーロフ(Andrei Gavrilov 1955-) ソ連
   チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 op.23(1974年録音)
2) p: ユーリ・エゴロフ(Youri Egorov 1954-1988) ソ連
   ラフマニノフ パガニーニの主題による狂詩曲 op.43(1974年録音)
3) バス: エフゲニー・ネステレンコ(Yevgeny Nesterenko 1938-) ソ連
   ボロディン コンチャクのアリア
   ラフマニノフ アレコのカヴァティーナ(1974年録音)
4) メゾ・ソプラノ: エレーナ・オブラスツォワ(Elena Obraztsova 1939-2015) ソ連
   サン=サーンス デリラのアリア
   ビゼー ハバネラ(歌劇「カルメン」より)
【CD7】
1) p: ミハイル・プレトニョフ(Mikhail Pletnev 1957-) ソ連
   チャイコフスキー 「四季」より 10月「秋の歌」
   スクリャービン 3つの練習曲 op.65 より 第3番 ト長調
   ショパン 12の練習曲 op.25 第6番 嬰ト短調
   リスト ハンガリー狂詩曲 第9番 変ホ長調 S.244(1978年録音)
2) vc: ナサニエル・ローゼン(Nathaniel Rosen 1948-) アメリカ
   チャイコフスキー 6つの小品 op.19 より 第4曲「夜想曲」
   ポッパー 演奏会用練習曲 op.55(1978年録音)
3) p: アンドラーシュ・シフ(Schiff Andras 1953-) ハンガリー
   J.S.バッハ イギリス組曲 第3番 ト短調 BWV.808(1974年録音)
4) ソプラノ シルヴィア・シャシュ(Sylvia Sass1951-) ハンガリー
   プッチーニ マノンのアリオーソ
   チャイコフスキー ゼムフィーラの歌(1974年録音)
5) p: チョン・ミョンフン(Myung-whun Chung 1953-) 韓国
   ハイドン ピアノ・ソナタ 第60番 ハ長調 Hob.XVI:50(1974年録音)
6) vc: ボリス・ペルガメンシコフ(Boris Pergamenschikov 1948-) ソ連
   カバレフスキー ロンド(1974年録音)
【CD8】
1) p: パスカル・ドヴォワイヨン(Pascal Devoyon 1953-) フランス
   メシアン 幼な子イエスにそそぐ20の眼差し 第11番「聖母の最初の聖体拝領」
   ラヴェル 「夜のガスパール」より スカルボ(1978年録音)
2) p: クリスティアン・ブラックショウ(Christian Blackshaw 1949-) イギリス
   フランク 前奏曲、コラールとフーガ
   スクリャービン 2つの詩曲 op.32 より 第1番 嬰ヘ長調(嬰ニ短調)(1978年録音)
3) p: アンドレ・ラプラント(Andre Laplante 1949-) カナダ
   モレル 2つの響きのエチュード
   ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」 op.39 より 第9番 ニ長調
   チャイコフスキー 「四季」より 11月「トロイカ」
   スクリャービン 12の練習曲 op.8 第12番 嬰ニ短調「悲愴」(1978年録音)
4) vn: イリヤ・グルーベルト(Ilya Grubert 1954-) ソ連
   チャイコフスキー 瞑想曲 op.42-1(1978年録音)
5) vn: エルマー・オリヴェイラ(Elmar Oliveira 1950-) アメリカ
   ヴュータン ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ短調 op.37(1978年録音)
【CD9】
1) バス: パータ・ブルチュラーゼ(Paata Burchuladze 1955-) ソ連
   ヴェルディ アッティラのアリア(1982年録音)
2) p: ウラディーミル・オフチニコフ(Vladimir Ovchinnikov 1958-) ソ連
   ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」 op.39 より 第5曲 変ホ短調
   ショパン 12の練習曲 op.10 より 第2番 イ短調(1982年録音)
3) バリトン: ヴラジーミル・チェルノフ(Vladimir Chernov 1953-) ソ連
   チャイコフスキー 12のロマンスop.60より 第11曲「いさしお」 op.60-11
   (ロシア民謡) 夜(1982年録音)
4) p: ピーター・ドノホー(Peter Donohoe 1953-) イギリス
   フリャルコフスキー 前奏曲とフーガ ト短調(1982年録音)
5) vn: ヴィクトリア・ムローヴァ(Viktoria Mullova 1959-) ソ連
   パガニーニ ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 op.6(1982年録音)
6) p: テレンス・ジャッド(Terence Judd 1957-1979) イギリス
   ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」 op.39 より 第9番 ニ長調
   スクリャービン 8つの練習曲 op.42 より 第5番 嬰ハ短調(1978年録音)
【CD10】
1) vn: ラファエル・オレグ(Raphael Oleg 1959-) フランス
   イザイ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ ト短調 op.27-3(1986年録音)
2) vc: マリオ・ブルネロ(Mario Brunello 1960-) イタリア
   シューマン 民謡風の5つの小品 op.102(1986年録音)
3) ソプラノ: マリア・グレギーナ(Maria Guleghina 1959-) ソ連
   チャイコフスキー 7つのロマンス op.47 より 第7曲「私は野の草ではなかったか」(1986年録音)
4) vn: イリヤ・カーラー(Ilya Kaler 1963-) ソ連
   ショスタコーヴィチ/ツィガーノフ編 5つの前奏曲 op.34(1986年録音)
5) vc: キリル・ロディン(Kirill Rodin 1963-) ソ連
   フレンニコフ チェロ協奏曲 第2番 op.30(1986年録音)
6) p: ロジェ・ミュラロ(Roger Muraro 1959-) フランス
   ラヴェル 左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調(1986年録音)
7) vn: セルゲイ・スタドレル(Sergey Stadler 1962-) ソ連
   ヴィエニアフスキ 創作主題による華麗なる変奏曲 op.15(1982年録音)
 「チャイコフスキー国際コンクール」は、第1回こそピアニストとヴァイオリニストのみを対象としたものだったが、その後、チェロ、女声、男声が加わり、5つの分野に裾野を広げた。そのため、当アイテムに収録されているものも、きわめて多彩。およそ30年の期間にまたがって、後の巨匠や、あるいは活躍を期待されながら夭折したアーティストなどの、貴重な若々しい音源に接することができる。
 それにしても、参加者のネーム・ヴァリューは凄い。世界を代表する登竜門コンクールであることが一目瞭然。また、協奏曲のバックにも、一流の指揮者やオーケストラが参加しており、そういった点でも演奏のクオリティは高い。また、コンクールならではの選曲も多彩で、様々な角度から楽しむことができる。
 これらのアーティストたちの、誇りを賭けた熱演に、連続して浸る幸せを享受できるアルバムです。


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