オムニバス(音楽史)
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New Venetian Coronation 1595(新・ヴェネツィアの戴冠1595) マクリーシュ指揮 ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズ レビュー日:2014.2.25 |
★★★★★ 中世ヨーロッパへ、タイムスリップ! マクリーシュからの素敵な贈り物
ポール・マクリーシュ(Paul McCreesh 1960-)とガブリエリ・コンソート&プレイヤーズ(Gabrieli Consort & Players)による素敵な音楽ファンタジー絵巻。2013年録音。 タイトルは「新・ヴェネツィアの戴冠1595」。 タイトルに「新」と付いているのは、彼らには23年前に同じ企画のアルバムがあるから。今回、その概要を見直して、新しい楽曲を加えた上で、プログラムを再構築し、新たに録音したもの。 1595年、マリーノ・グリマーニ(Marino Grimani 1532-1605)が第89代ヴェネツィア総督(ドージェ;Doge)へ就任するに当たり、盛大な戴冠式が開催された。道の両側を埋める観衆の中、選挙で選ばれたグリマーニはサン・マルコ大聖堂に向かう。鐘の音が鳴り響き、花火が上がる。向かう先はヴァネツィア最大のサン・マルコ大聖堂。群衆の喝采の中大聖堂に入るグリマーニ。そこは神に通じる厳かな空間。ここでは一転して、厳格な儀式が執り行われる。ヴェネツィアを代表する作曲家たちが、儀式のために書いた荘厳な音楽が響き、戴冠が行われる。次々と響く美しい宗教曲たち。そして儀式の終了とともに、再び喝采があがり、輝かしい喜びのフィナーレ。 そう、このCDはマクリーシュらの考察により、当時のこの式典の模様を「音楽的に」再現したものである。言ってみれば、音楽による中世歴史ファンタジー。しかも、マクリーシュら当代きっての叡智によって、選曲・構成が行われ、超一流の古楽演奏集団、ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズによる録音なのだ。これを聴けば、だれしも中世ヨーロッパの世界へタイムスリップ! というとても楽しいアルバムです。収録内容を書きましょう。 1-1) 鐘の音 1-2) ハスラー(Hans Leo Hassler 1562-1612) イントラーダ 1-3) ベンディネッリ(Cesare Bendinelli 1542-1617) トランペット・ソナタ第333番 2) G.ガブリエリ(Giovanni Gabrieli 1554-1612) 第2旋法によるトッカータ 3) (入祭唱) 4) ベンディネッリ 総督の到着;トッカータ第26番 5) G.ガブリエリ 第1旋法によるイントナツィオーネ 6) A.ガブリエリ(Andrea Gabrieli 1510-1586) キリエ(5声) 7) A.ガブリエリ キリスト(8声) 8) A.ガブリエリ キリエ(12声) 9) A.ガブリエリ グローリア(16声) 10) (集会祈願) 11) (使徒書簡) 12) G.ガブリエリ 昇階曲;カンツォーナ(12声) 13) (福音) 14) A.ガブリエリ 第7旋法によるイントナツィオーネ 15) G.ガブリエリ 奉献唱;神の祝福(10声) 16) (序唱) 17) A.ガブリエリ サンクトゥス&ベネディクトゥス(12声) 18) ベンディネッリ サラシネッタ第2番 19) G.ガブリエリ カンツォーナ(15声) 20) (主の祈り) 21) A.ガブリエリ アニュス・デイ 22) G.ガブリエリ 第5旋法によるイントナツィオーネ 23) A.ガブリエリ 聖体拝領;おお、聖なる饗宴よ(5声) 24) G.ガブリエリ カンツォーナ(10声) 25) (聖体拝領後の祈り) 26) グッサーゴ(Cesario Gussago 1579-1612) ソナタ・ラ・レオナ 27) G.ガブリエリ すべての民よ、手を打ち鳴らせ(16声) 1-1から1-3までは1トラックに収録されている。冒頭では群衆のざわめきの音、鐘が鳴り響く音、そして、華々しく打ち上げられる花火の音といった「効果音」が加えられていて。この趣向を凝らした演出が雰囲気を巧みに導く。次いで2トラックから聖堂の中に入り、今度は厳かな「儀式の音楽」に移る。人の声の素朴な美しさに満ちた数々の祝詞と歌唱。中世に建築されたヨーロッパの寺院の中の雰囲気の漂う、神秘的な空間が満ちてくる。 構成された楽曲は、当時のヴェネツィアを代表する作曲家、G.ガブリエリとその叔父であるA.ガブリエリのものを中心に、やはりヴェネツィアの作曲家べンディネッリと、G.ガブリエリの指導を受けたドイツの作曲家ハスラーとイタリアの作曲家グッサーゴのものが選ばれている。 これらが当時実際に採用された楽曲であったかどうかの科学的根拠は、私にはわからないが、たいへん説得力のある雰囲気に満ちた音楽たちで、これまでルネサンス期の音楽にあまり馴染みがなかった人たちにとっても、馴染みやすいものになっていると思う。適度な華やかさがあるとともに、宗教的、カトリック的なイメージを喚起しやすい音楽でもある。 構成が魅力的なことはすでに書いたが、より詳述とすると、例えば、ベンディネッリの「トランペット・ソナタ第333番」で華やかな金管とドラムスの呼応により存分に雰囲気を盛り上げた後、G.ガブリエリの「第1旋法によるイントナツィオーネ」で、荘厳なオルガンにより式典の開始が告げられ、次いでA.ガブリエリがキリエからグローリアまで、声部の数を様々に変えながら美しく響き渡る・・といった具合。G.ガブリエリの2つの「カンツォーナ」それに「奉献唱;神の祝福」も美しさの極みといったところで、寺院という特殊な空間で、人の声の力を最大に引き出し、それをもっとも敬虔という心情に作用させる力を持った音楽だ。すべてを浄化するようなその響きは、まさに音楽を聴く人を異世界へと誘うように魅惑的だ。なお、歌唱は一声一人方式で、特有の透明感と洗練をきわめている。 最後に収められたG.ガブリエリの「すべての民よ、手を打ち鳴らせ」は、祭典的で、全編に「祝い」の雰囲気が満ち溢れ、高揚感で周囲を包み込む。導入部から結末まで、実によく出来たアルバム。 録音が素晴らしいことも特筆したい。ロンドン郊外のドゥエー修道院で録音、となっている。どういうところかわからないけれど、素晴らしい音響効果で、残響も豊かだし、音の空間的な間合いが的確。すぐ目の前に式典が行われているという臨場感に溢れている。 このような素敵なアルバムを作ってくれたマクリーシュに感謝。でも、これを聴いていると無性にヨーロッパに行きたくなってしまうから、困ったものです。 |
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憂鬱を晴らすために chem: シュタイアー レビュー日:2014.8.28 |
★★★★☆ 芸術表現を志すためには、「うつ」の心得が必要なのです。
「憂うつを晴らすために」と題してのアンドレアス・シュタイアー(Andreas Staier 1955-)によるドイツ、フランスのバロック・チェンバロ音楽集。2012年の録音。収録曲は以下の通り。 1) フローベルガー(Johann Jakob Froberger 1616-1667 ドイツ) 組曲第30番イ短調 2) ダングルベール(Jean-Henri d'Anglebert 1629-1691 フランス) 「オルガンのための種々のフーガ」より「基礎のフーガ」イ短調 3) J.C.F.フィッシャー(Johann Caspar Ferdinand Fischer 1665-1746 ドイツ) 音楽のパルナッソス山 4) J.C.F.フィッシャー 組曲「ウラニア」ニ短調より「トッカータ」 5) J.C.F.フィッシャー 組曲「ウラニア」ニ短調より「パッサカリア」 6) L.クープラン(Louis Couperin 1626-1661) 組曲ヘ長調 8) ダングルベール クラヴサン小品集より「プレリュード」 9) ダングルベール シャンボニエール氏のトンボー 10) ダングルベール シャコンヌ ロンド イ長調 11) J.C.F.フィッシャー 「音楽のアリアドネ」よりリチェルカーレ「イエスが十字架にかけられしとき」 12) クレランボー(Louis-Nicolas Clerambault 1676-1749 フランス) クラヴサン曲集第1巻より組曲ハ短調 13) ムッファト(Georg Muffat 1653-1704 フランス) オルガン音楽の練習よりパッサカリア ト短調 14) フローベルガー 皇帝フェルディナント4世陛下の悲しい死に寄せる哀悼歌 「憂うつを晴らすために」というタイトルではあるが、収録された曲たちは、おおよそ「憂うつ」を描いたものばかりで、気分が晴れるような快活な内容ではない。本アルバムは「憂うつ」を描写したバロック音楽集である。 ところで、「憂うつ」とは何であろうか?ここで、それは“melancolie”と表記されるものである。 現代はストレス社会である。うつ病に罹患する人が多く、様々な統計も出ているが、潜在的患者を含めると、その数は相当なものになるだろう。ノーテンキな私だって、たまには気分が「うつ」になる。仕事で面倒くさい人の相手をしなければならなかったり、いくら買っても馬券がはずれ続けたり・・ しかし、「うつ」は何も近代の概念ではない。それどころか、有史以来の人類の深刻なテーマであり、人の感受性の発達とともに、切っても切れないものとして、その影を濃くしてきたのである。紀元前のギリシア古代医学の四体液説において、すでに「憂うつ質」(メランコリア)への言及がなされている。 シュタイアーは、人類が悩み続けた「うつ」の象徴として、ドイツの美術理論家兼版画家、アルベルヒト・デューラー(Albrecht Durer 1471-1528)が、1514年に製作した有名な銅版画「メランコリア I(Melencolia I)」を挙げている。憂うつに沈む天使と示唆的な砂時計、魔法陣などが描かれた作品で、時間や数字といった無機的な抗いがたいもの、対峙の仕様のないものを寓意的に配置したものだ。 一方で、ルネサンス以後の中世ヨーロッパでは、憂うつは芸術の根源をなす気質の一つとも見做されるようになる。このアルバムにも収録されている哀悼歌(トンボー)などはその一連である。それにドイツや北フランスは、特に日の短い冬場に陰うつな天気が続くことが多かった。アルプスの向こうへの憧れ(「イタリア」というタイトルのつく曲は、だいたいこの憧れが表現されている)とともに、自分をとりまく「うつ」の要素と気候を結びつけた芸術活動も多かったに違いない。 ちょっと説明が長くなってしまったけど、このシュタイアーのアルバムは、そういった背景をもって、「うつ」を音楽表現に還元した作曲家たちの作品と言える。またシュタイアーはトンボー(哀悼歌)だけでなく、パッサカリア(トラック7,23)、やシャコンヌ(トラック12,16)といった様式の舞曲においても、メランコリーの根源となる「死」への警鐘的なものが描写されている、としている。これは、聴き手の感受性によっていろいろ印象が異なるだろう。私はそこまで感じなかったが、当盤を聴く人は、ぜひそういったものが感じられるかも試してほしい。 いずれにしてもシュタイアーは17世紀の作曲家たちが、鍵盤音楽に込めた「うつ」の要素を、体系的に示そう、と試みている。J.C.F.フィッシャーの「ウラニア」の「パッサカリア」、それにL.クープランの「シャコンヌ」にその表現意欲の頂点を感じるように思う。 シュタイアーは楽器を良く鳴らし、また楽曲ごとにペダルの使用で様々な音色を味わわせてくれる。J.C.F.フィッシャーの「イエスが十字架にかけられしとき」における乾いた音色の味わいなど独特で面白い。 とはいえ、いずれも「うつ」の要素を示す作品ばかりなので、「憂うつを晴らす」ためには、本盤はちょっと避けた方が良さそう。 それでは、どうやって「うつ」を晴らしましょうか?イギリスの学者ロバート・バートン(Robert Burton 1577-1640)は「憂うつの解剖学」で「音楽とダンスによる治療法が、精神病、特にメランコリアの治療に」有効と述べているそうです。だから、そういうときには、快活な舞曲でも聴きたいですね。参考までに。 |
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deutsche harmonia mundi - 50 CD Collection V.A. レビュー日:2014.12.2 |
★★★★★ ちょっと時間の空いたときなど、ランダムに取り出して楽しむ分にもいいです
ドイツ・ハルモニア・ムンディによる50枚組の企画ボックス。2008年にリリースされた第1弾が好評だったことを踏まえ、2014年に本第2弾がリリースとなった。いずれも個別に収集するのに比較し、大幅なプライスダウンである上に、高品質な録音、洒落た選曲で、とてもお得な内容だ。レーベルのカラーから、音楽史ジャンルのものが、本boxの主を成しているが、これらは、一般にあまり聴く機会が多くないものだけに、このような企画で集約的に聴く機会を得られるのは、とてもありがたい。収録内容を掻い摘んでまとめさせていただきたい。 【CD1】 アモール・オリエンタル~ヘンデルとトルコの音楽 歌劇「アルチーナ」から「序曲」他 エールハルト(Werner Ehrhardt)指揮 2010年録音 【CD2】 T.アーン(Thomas Augustine Arne 1710-1778) 仮面劇「アルフレッド」全曲 マギーガン(Nicholas McGegan 1950-)指揮 フィルハーモニア・バロック・オーケストラ フィルハーモニア合唱団 1998年録音 【CD3】 C.P.E.バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach 1714-1788) シンフォニア、協奏曲集 ヘンゲルブロック(Thomas Hengelbrock 1958-)指揮 フライブルク・バロックオーケストラ 1990年録音 【CD4】 バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750) チェンバロ協奏曲 第3番 第4番 他 Cemb&指揮: センペ(Skip Sempe 1958-) カプリッチョ・ストラヴァガンテ 1993年録音 【CD5】 バッハ アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖より cemb: レオンハルト(Gustav Leonhardt 1928-2012) S: アメリング(Elly Ameling 1933-) 1966年録音 【CD6】 バッハ オルガン作品集 org: フォーゲル(Harald Vogel 1941-) 1991年録音 【CD7】 テレマン 3つのトランペット、ティンパニとオルガンのための協奏曲ニ長調 フランチェスキーニ(Petronio Franceschini 1651-1680) 2つのトランペットとオルガンのためのソナタ ニ長調 ムーレ(Jean-Joseph Mouret 1682-1738) 4つのトランペット,ティンパニとオルガンのためのファンファーレ ニ長調 インマー(Friedemann Immer 1948-) トランペット・コンソート 1988年録音 【CD8-10】 ベートーヴェン (Ludwig van Beethoven 1770-1827) ヴァイオリン・ソナタ全集 vn: シュレーダー(Jaap Schroder 1925-) fp: インマゼール(Jos van Immerseel 1945-) 1986-87年録音 【CD11】 リスト(Franz Liszt 1811-1886) ボン・ベートーヴェン記念像除幕式のための祝典カンタータ ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827) 合唱幻想曲ハ短調op.80 ヴァイル(Bruno Weil 1949-)指揮 WDRカペラ・コロニエンシス fp: コーメン(Paul Komen) 2000年録音 【CD12】 ボッケリーニ(Luigi Boccherini 1743-1805) 弦楽五重奏曲集(ホ長調op.11-5 ヘ短調op.11-4 ニ長調op.11-6「鳥小屋」) スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズ 1988年録音 【CD13】 エンゲルベルク修道院の手写譜第314号による中世後期の音楽 ヴェラール バーゼル・スコラ・カントゥルム 1990年録音 【CD14】 コレッリ(Arcangelo Corelli 1653-1713) 合奏協奏曲集(1番~6番) vn: クイケン(Sigiswald Kuijken 1944-) ラ・プティット・バンド 1976-77年録音 【CD15】 ヘンデル(Georg Friedrich Handel 1685-1759) 主は言われた HWV.232 カルダーラ(Antonio Caldara 1670-1736) 悲しみのミサ クルチフィクスス「十字架につけられ」 ヘンゲルブロック指揮 バルタザール=ノイマン・アンサンブル&合唱団 2003年録音 【CD16】 イートン・クワイアブック(ルネサンス期の聖歌隊曲集)からの音楽 ネーヴェル(Paul Van Nevel 1946-)指揮 ウエルガス・アンサンブル 2011年録音 【CD17】 ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi 1678-1741) フルート協奏曲ト短調「夜」RV104 マルチェッロ(Alessandro Marcello 1669-1747):オーボエ協奏曲ニ短調「ヴェニスの愛」 クヴァンツ(Johann Joachim Quantz 1697-1773) ブロックフレーテ、フルートと通奏低音のためのトリオ ハ長調 他 カメラータ・ケルン 1989年録音 【CD18-19】 ヘンデル メサイア(1780年ヘルダーによるドイツ語版) カチュナー(Wolfgang Katschner 1961-)指揮 ラウテン・カンパニー ドレスデン室内合唱団 2004年録音 【CD20-21】 ヘンデル 木管楽器のためのソナタ全集 Bfl : シュナイダー(Michael Schneider 1953-) Fl-tr: カイザー(Karl Kaiser) 1985年録音 【CD22】 ヘンデル ドイツ語アリア集 S: リアル(Nuria Rial 1975-) 2008年録音 【CD23】 ヴェラチーニ(Francesco Maria Veracini 1690-1768) アカデミック・ソナタ ニ短調op.2-12 バッハ ヴァイオリンとオブリガード・チェンバロのためのソナタ・ト長調 BWV 1019(a) 他 vn: クレーマー(Manfredo Kraemer 1960-)cemb: センペ 1993年録音 【CD24】 ハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809) ミサ曲第2番変ホ長調Hob.22-4 モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791) テ・デウム ハ長調K.141 カムラー(Reinhard Kammler 1954-)指揮 アウグスブルク大聖堂聖歌隊 ミュンヘン・レジデンツ室内管弦楽団 1985年頃録音 【CD25】 ハイドン オペラ・アリア集 MS: ボニタティブス(Anna Bonitatibus) カーティス(Alan Curtis 1934-)指揮 イル・コンプレッソ・バロッコ 2008年録音 【CD26】 カプスベルガー(Giovanni Girolamo Kapsperger 1580-1651) 作品集 Gamb: パール(Hille Perl 1965-) Lute:サンタナ(Lee Santana 1959-) 2008年録音 【CD27】 18世紀ナポリのオペラアリア集 ~ペルゴレージ(Giovanni Battista Pergolesi 1710-1736) 歌劇「オリンピアーデ」より「Tu me da me dividi」他~ S: ケルメス(Simone Kermes 1970-) 2008年録音 【CD28】 ロッティ(Antonio Lotti 1667-1740) ミサ・サピエンティエ ト短調 バッハ マニフィカト 変ホ長調 BWV243a ヘンゲルブロック指揮 バルタザール=ノイマン・アンサンブル&合唱団 2002年、2000年録音 【CD29】 バーバー(Samuel Barber 1910-1981) 弦楽のためのアダージョ エルガー(Edward Elgar 1857-1934) 弦楽のためのセレナード 弦楽のためのエレジー R.シュトラウス(Richard Strauss 1864-1949) メタモルフォーゼン(変容) スロウィック(Kenneth Slowik 1954-)指揮 スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズ 1994年録音 【CD30】 モンテヴェルディ(Claudio Giovanni Antonio Monteverdi 1567-1643) 愛のマドリガーレ集 Lute: ユングヘーネル(Konrad Junghanel 1953-) カントゥス・ケルン 1992年録音 【CD31-32】 モンテヴェルディ 聖母マリアの夕べの祈り ベルニウス(Frieder Bernius 1947-)指揮 シュトゥットガルト室内合唱団 ムジカ・フィアタ・ケルン 1989年録音 【CD33】 モーツァルト フルート四重奏曲全集 Fl-tr: ハーツェルツェット(Wilbert Hazelzet 1948-) 1990年録音 【CD34】 モーツァルト レクイエム アーノンクール(Nikolaus Harnoncourt 1929-)指揮 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス アルノルト・シェーンベルク合唱団 2003年ライヴ録音 【CD35】 モーツァルト 弦楽五重奏曲 第1番変ロ長調K.174 第2番ハ短調 K.406(516b) vn: ウティガー(Mary Utiger)他 1990年録音 【CD36】 「サンスーシ宮のフルート音楽」 Fl-tr: リンデ(Hans-Martin Linde 1930-) 1960年代前半録音 【CD37】 中世盛期のラテン歌曲集 ヴェラール(Dominique Vellard 1953-) ボナルド(Emmanuel Bonnardot) 1986年録音 【CD38】 パーセル(Henry Purcell 1659-1695) 劇音楽集(「妖精の女王」「ディドーとエネアス」「アーサー王」「アブデラザール」より) ヘンゲルブロック指揮 フライブルク・バロックオーケストラ 1991年録音 【CD39】 ラモー(Jean-Philippe Rameau 1683-1764) 歌劇「優雅なインドの国々」よりバレエ組曲 歌劇「優ダルダニュス」より管弦楽組曲 コレギウム・アウレウム 1967、1964年録音 【CD40】 シューベルト(Franz Peter Schubert 1797-1828) 歌曲集「美しき水車小屋の娘」 D.795 T: プレガルディエン(Christoph Pregardien 1956-) fp: シュタイアー 1991年録音 【CD41-42】 シュッツ(Heinrich Schutz 1585-1672) シンフォニア・サクレ第3集 ベルニウス指揮 シュトゥットガルト室内合唱団 ムジカ・フィアタ・ケルン 1988年録音 【CD43】 セルヴェ(Adrien Francois Servais1807-1866) チェロ作品集 vc: ビルスマ(Anner Bylsma 1934-) スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズ 1986年録音 【CD44】 シューマン(Robert Alexander Schumann 1810-1856) 歌曲集「詩人の恋」 op.48 メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn Bartholdy 1809-1947) 歌の翼に op.34-2 他 T: プレガルディエン fp: シュタイアー 1993年録音 【CD45】 シュターミッツ(Carl Stamitz 1745-1801) シンフォニアと協奏曲集 va: コッホ(Ulrich Koch 1921-1996) コレギウム・アウレウム 1963年録音 【CD46】 テレマン(Georg Philipp Telemann 1681-1767) ヴィオラ・ダ・ガンバのための作品集 Gamb: パール フライブルク・バロックオーケストラ 2006年録音 【CD47】 ドイツ・バロック、ブロックフレーテ協奏曲集 Bfl: オーバーリンガー(Dorothee Oberlinger 1969-) ゲーベル(Reinhard Goebel 1952-)指揮 アンサンブル1700 2008年録音 【CD48】 ヴェラチーニ(Francesco Maria Veracini 1690-1768) アカデミック・ソナタ ニ短調op.2-12 バッハ ヴァイオリンとオブリガード・チェンバロのためのソナタ・ト長調 BWV 1019(a) 他 vn: クレーマー(Manfredo Kraemer 1960-)cemb: センペ 1993年録音 【CD49】 ウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826) 歌劇「アブ・ハッサン」 交響曲第1番ハ長調 ヴァイル指揮 カペラ・コロニエンシス 2002年録音 【CD50】 ヴァイス(Sylvius Leopold Weiss 1687-1750) 序曲と組曲集 Lute: ユングヘーネル 1984年録音 できれば、全曲記載したいのであるが、あまりにも記述量が膨大になるため、おおよその内容が分かる程度に書かせていただいた。 本盤は、前回の第1弾に比較して、ロマン派のものも対象となっている点が特徴。とはいっても、スロウィックの【CD29】はガット弦による演奏、プレガルディエンによるロマン派歌曲集2枚(【CD40】と【CD44】)におけるピアノ伴奏はいずれもシュタイアーのフォルテ・ピアノといったあたりに、このレーベルのカラーは色濃く出ている。 ドミニク・ヴェラールによるよく研究された古楽歌唱法(【CD13】と【CD37】)や、1960年代の当時珍しい古楽器によるラモー(【CD39】)など、アカデミックな印象も濃い。 初期バロックのイタリアのリュート奏者であったカプスベルガー(【CD26】)や、19世紀のチェロ奏者セルヴェ(【CD43】)といった珍しい作曲家の作品も聴ける。また、有名曲であるメサイアもドイツ語版(【CD18-19】)であるなど、なかなかマニアックな嗜好性も満足させてくれる内容。室内楽、声楽、管弦楽と様々なスタイルで、多角的な楽しみを提供してくれる、とても魅力的なBox-setになっていると思う。 |
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Baroque Trumpet Music trmp: インマー トランペット・コンソート レビュー日:2015.4.9 |
★★★★★ 現代トランペットを用いてのバロック・トランペット曲集
ドイツのトランペット奏者、フリーデマン・インマー(Friedemann Immer 1948-)が率いるトランペット・コンソートによるバロックのトランペット楽曲集。1988年の録音。収録されているのは、以下の各曲。 1) テレマン(Georg Philipp Telemann 1681-1767) 3つのトランペット、ティンパニとオルガンのための協奏曲 ニ長調 2) 作者不祥(17世紀) 2つのトランペットとオルガンのためのシンフォニア ニ長調 3) バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750) トランペットとオルガンのための3つのコラール前奏曲 「われを憐れみたまえ」 BWV721 「心から愛するイエスよ、たとえ罪を犯したもうとも」 BWV1093 「汝ただひとりに、主イエス・キリスト」 BWV1100 4) フランチェスキーニ(Petronio Franceschini 1651-1680) 2つのトランペットとオルガンのためのソナタ ニ長調 5) 作者不祥(17世紀) 5声部のクラリーノのためのソナタ ハ長調 6) ヘンデル(Georg Friedrich Handel 1685-1759) 2つのトランペット、ティンパニとオルガンのための組曲ニ長調 7) ビーバー(Heinrich Ignaz Franz von Biber 1644-1704) 「祭壇または宮廷用ソナタ集」から2つのトランペット、ティンパニとオルガンのためのソナタ 第12番 ハ長調 8) ビーバー 2つのトランペットとオルガンのための「バレッティ」 ハ長調 9) ムーレ(Jean-Joseph Mouret 1682-1738) 4つのトランペット、ティンパニとオルガンのためのファンファーレ ニ長調 当演奏の特徴は、現代のトランペットを用いて演奏している点に尽きる。トランペットは、かなり最近まで改良を重ねられた楽器で、モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)が、その音程の不安定さからこの楽器を好まなかったのは、ちょっと有名な話だ。実際、モーツァルトの楽曲でもトランペットが活躍するものはあまりなく、用法としても打楽器的な用いられ方をすることが多い。 そこで、コントロールの効く現代楽器を用いた当録音は、やはり音色の安定感が抜群で、弱奏の細やかさ、色合いの豊かさといった点で、その長所を如何なく発揮した趣がある。 楽曲は祝典的な雰囲気を持ったものが多い。トランペットは音による通信手段としての歴史が深いため、当時にあっても、軍事の象徴として音楽に用いられることがよくあった。またティンパニも、戦争をイメージする楽器という面があったから、ティンパニとトランペットという組み合わせは、凱旋にかかわるイメージに通じている。 また、当録音を聴くと、ティンパニとトランペット、あるいはオルガンとトランペットという組み合わせが、音色的にとても相性が良いということもわかる。相補いながら、突出した印象も抱かさない調和的な雰囲気が満ちている。音色も全般に温かみを帯びる。バッハの楽曲も、この作曲家らしい宗教的な荘厳さが、よく引き出されていると感じられる。 これらの編成の楽曲がよく書かれたという必然性を示しながらも、現代楽器ならではの幅のある表現で、聴き手を存分に楽しませてくれるアルバムだ。 |
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CHRISTINE SCHORSHEIM クラヴィーア協奏曲集 chem: ショルンスハイム ベルリン・バロック=カンパニー レビュー日:2019.10.29 |
★★★★☆ 大バッハ後のクラヴィーアのための協奏曲を集めた学術性の高い選曲
ライプツィヒ音楽大学やミュンヘン音楽大学で、音楽教育に長く携わっているドイツの鍵盤楽器奏者、クリスティン・ショルンスハイム(Christine Schornsheim 1959-)による18世紀の鍵盤楽器のための協奏曲を集めたアルバム。CD3枚に以下の楽曲が収録されている。 【CD1】 1995年録音 1) カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach1714-1788) ピアノ協奏曲 ホ長調 Wq.14, H.417 2) ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ(Wilhelm Friedemann Bach 1710-1784) チェンバロ協奏曲 ニ長調 Fk.41 3) ヨハン・クリスティアン・バッハ(Johann Christian Bach 1735-1782) チェンバロ協奏曲 ヘ短調 W.C73 【CD2】 1997年録音 4) ヨハン・フィリップ・キルンベルガー(Johann Philipp Kirnberger 1721-1783) チェンバロ協奏曲 ハ短調 5) ヨハン・ゴットフリート・ミューテル(Johann Gottfried Muthel 1728-1788) ピアノ協奏曲 第3番 ト長調 6) クリストフ・ニヒェルマン(Christoph Nichelmann 1717-1762) チェンバロ協奏曲 ホ長調 【CD3】 2000年録音 7) アントニオ・ロゼッティ(Antonio Rosetti 1750-1792) ピアノ協奏曲 ト長調 8) エルンスト・ヴィルヘルム・ヴォルフ(Ernst Wilhelm Wolf 1735-1792) ピアノ協奏曲 第1番 ト長調 9) ヨハン・ゴットリープ・ナウマン(Johann Gottlieb Naumann 1741-1801) ピアノ協奏曲 変ロ長調 ベルリン・バロック=カンパニーの演奏。1,2,3,4,6)ではチェンバロ、5,7,8,9)ではフォルテピアノをソロ楽器としている。 私自身にとっても、当盤ではじめてその作品を聴く作曲家もいる。ラインナップは、一言で言って「地味」なのであるが、このチェンバロからフォルテピアノへと、鍵盤楽器が表現の可能性を高めた時期に書かれた協奏曲、という点で、興味深い。とはいえ、これらの楽曲の中で、その点で、この時代の象徴的作品といえるほどインパクトのあるものはない印象で、おしなべて、当時のスタイルをうかがい知るといったところだろうか。 中にあって、聴き味豊かと言えるのが、J.S.バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)の次男、C.P.E.バッハのピアノ協奏曲で、父譲りの対位法的な展開による重厚感が感じられる。ちなみに、W.F.バッハはJ.S.バッハの長男、J.C.バッハはJ.S.バッハの第11男であるため、当アルバムの1枚目は大バッハの息子たちによる作品の競演といった塩梅。 他では、フリードリヒ2世の宮廷楽団員として、C.P.E.バッハと同僚の関係にあったクリストフ・ニヒェルマンの作品が、活力豊かで、効果的なカデンツァなど楽しめる。大バッハを師とし、調律法などにその名を遺すヨハン・フィリップ・キルンベルガーの作品も、闊達な鍵盤奏法を聴ける。やはり大バッハを師とするオルガン奏者、ヨハン・ゴットフリート・ミューテルの作品は、意欲的な創意を感じる面がある。 ショルンスハイムの演奏は、他の演奏と比較したわけではないので、言及に限界があるが、制約のある音色をそのままストレートに奏でた感じで、真面目。これは楽器だけでなく、楽曲の表現力の限界という面もあるだろう。楽曲自体を堪能するには、正直いま一つ足りない楽曲たちであるが、当時ならではの典雅さや、大バッハの影響をあちこちに感じるので、そういった興味の点で、一つにまとまった感のあるアルバムとなっている。 |