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オムニバス(協奏曲)



エリザベート王妃国際音楽コンクール・ライヴ 1951-2001 ハイライト
p: アシュケナージ ブラレイ アファナシエフ エル=バシャ サモシュコ  vn: フリード 堀込ゆず子 ヒルシュホルン レーピン

レビュー日:2011.5.3
★★★★★ 若きアーティストたちの情熱が伝わってくるアルバム
 「エリザベート王妃国際音楽コンクール・ライヴ1951-2001ハイライツ」と題する3枚組の企画アルバム。第1回の1951年以降の主な部門優勝者のコンクール音源をチョイスしたもので、収録内容は以下の通り。
1) シベリウス ヴァイオリン協奏曲 vn: ミリアム・フリード ルネ・ドゥフォッセ指揮 RTB/BRT交響管弦楽団 (1971年)
2) リスト ピアノ協奏曲第1番 p: ウラディーミル・アシュケナージ フランツ・アンドレ指揮 ベルギー国立管弦楽団(1956年)
3) ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番 vn: 堀米ゆず子 p: ジャン=クロード・ヴァンデン・アインデ(1980年)
4) モーツァルト ピアノ・ソナタ 第12番KV332 p: フランク・ブラレイ(1991年)
5) ラヴェル ツィガーヌ vn: フィリップ・ヒルシュホルン ルネ・ドゥフォッセ指揮 ベギー国立管弦楽団 (1967年)
6) チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 p: ヴァレリー・アファナシエフ ジョルジュ・オクトロス指揮 ベルギー国立管弦楽団 (1975年)
7) ロッシーニ 歌劇「アルジェのイタリア女」より「ひどい運命よ」 A: マリー=ニコル・ルミュー マルク・シュストロット指揮 モネ王立歌劇場管弦楽団 (2000年)
8) プロコフィエフ ピアノ協奏曲第2番 p: アブデル=ラーマン・エル=バシャ ジョルジュ・オクトロス指揮 ベルギー国立管弦楽団(1978年)
9) チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 vn: ヴァディム・レーピン ジョルジュ・オクトロス指揮 ベルギー王立管弦楽団 (1989年)
10) ショパン バラード第4番 p: ヴィタリ・サモシュコ(1999年)
 さすがに「抜粋版」だけあって、名だたる音楽家が多い。また、このコンクールの性格上、ピアノ、ヴァイオリン、それに声楽も加わっていて華やか。個人的に注目したいのはアシュケナージのリスト。アシュケナージはこの曲を正規には録音していないので、唯一聴くことができる音源がこれ。さすがに録音状態が悪く、細部に不明瞭なところもあるが、当時のアシュケナージならではのパワーで圧倒するようなダイナミックな演奏の様子が分る。
 フィリップ・ヒルシュホルン(Philippe Hirshhorn 1946-1996)はラトヴィア生まれのヴァイオリニスト。このコンクールではクレーメルを押さえて優勝した。たいへんロマンティックでたっぷりと歌うツィガーヌは生々しい迫力に満ちた豪演だ。ミリアム・フリード(Miriam Fried)は1946年ルーマニア生まれの女流ヴァイオリニスト。ここでは繊細で清らかなシベリウスが聴ける。アファナシエフは今の芸風を思うと驚くほど普通の演奏。やはりコンクールではそれなりのスタイルになるということかもしれない。レーピンのヴァイオリンは運動能力に優れて闊達で盛り上がりが圧巻。堀米のブラームスも美しい情緒が良く引き出された良演だ。いずれも若き芸術家の情熱を伝える貴重な音源で、このようにまとめて聴けるのはなかなか贅沢なことだと思う。

1962 Tchaikovsky Competitio
p: アシュケナージ イワノフ指揮 p: オグドン ドゥブロフスキー指揮 ソヴィエト国立交響楽団

レビュー日:2011.10.25
★★★★★ 冷戦下のチャイコフスキー・コンクールに様々な感慨を思いつつ聴く
 1962年に開催されたチャイコフスキー・コンクール時の録音。収録内容は以下の通り。
(1) チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番
 p:ウラディミール・アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-) コンスタンチン・イワノフ(Konstantin Ivanov)指揮 ソヴィエト国立交響楽団
(2) チャイコフスキー ドゥムカ
 p:ウラディミール・アシュケナージ
(3) リスト ピアノ協奏曲第1番
 p:ジョン・オグドン(John Ogdon 1937-1989) ヴィクトール・ドゥブロフスキー(Victor Dubrovsky)指揮 ソヴィエト国立交響楽団
(4) リスト メフィストワルツ 第1番「村の居酒屋での踊り」
 p:ジョン・オグドン
 (2)のみモノラル録音。解説にははっきり書かれていないが、コンクールの直後にスタジオで収録された音源のようだ。
 それにしても、いろいろ思うところのあるアルバムだ。4年に1度モスクワで開催されるチャイコフスキー・コンクールは、冷戦下のソ連においては、音楽的権威の象徴であった。その1958年の大会で優勝したアメリカのピアニスト、ヴァン・クライバーン(Van Cliburn 1934-)は母国で英雄となる。その次の1962年開催でソ連が威信をかけて送り込んだのがアシュケナージ。しかし、アシュケナージは、すでに1955年のショパンコンクールと1956年のエリザベート王妃国際音楽コンクールでの名声により、世界的ピアニストとなっていた。彼は当初要請を拒んだ。また、アシュケナージは「チャイコフスキーの協奏曲は自分にスタイルに向く作品ではない」とも言っている(1963年にDECCAへ録音することになるが)。しかし、当時のソ連で、アーティストとしてのキャリアを積むため、やむなく彼はエントリーし、イギリスのオグドンと同点優勝する。その約1年後にアイスランドに亡命するわけだが・・・。
 一方のオグドンも、コンクール前からピアニストとして活躍していたが、1973年に重度の神経衰弱に見舞われ、一度復帰するも、1989年に亡くなっている。そんなピアニストたちの1962年の記録である。
 経緯はともかくいずれも聴き応えのある名演。メロディア原盤で、高音がシャリシャリする特有の録音だが、比較的状態は良好と言える。アシュケナージのチャイコフスキーは万全たる鍵盤の力感が伝わる。イワノフの歯切れの良い指揮ぶりもあって、音楽の見通しが良く、エネルギッシュなピアノの響きが圧巻に伝わる。また、独奏曲ドゥムカの憂鬱さと華やかさの調和は、アシュケナージならではの情感が満ちていて素晴らしい。
 オグドンのリストの協奏曲も、急速なたたみかけによるエネルギーの収束ぶりが見事で、力強い爆演だ。スポーティーな迫力で押し切っている。
 いずれも、若き日の彼ららしい好演といったところ。コンクールのポイント制による「両者優勝」の結果もむべなるかな。いろいろな意味で、50年のその後を知る我々の観点で、また一層の感慨を持つ録音でもある。

N響85周年記念シリーズ:モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番、22番、ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 他/ウラディーミル・アシュケナージ
p: アシュケナージ アシュケナージ指揮 NHK交響楽団

レビュー日:2012.6.11
★★★★★ 30年を越えて、アシュケナージとNHK交響楽団、2つの共演の記録
 「N響85周年記念シリーズ」と銘打って、日本を代表するオーケストラ、NHK交響楽団の過去の貴重な音源がCD化されている。当盤は2004年から2007年までは音楽監督を務め、その後は桂冠指揮者となったウラディーミル・アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)との録音で、時代を隔てた2つのコンサートの模様が収められている。
1) 1975年 東京文化会館 ~アシュケナージ38歳
   モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)ピアノ協奏曲第21番・第22番
2) 2004年 ブルージュ・コンセルトヘボウ(ベルギー) ~アシュケナージ 67歳
 ショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovich 1906-1975)交響曲第5番「革命」・バレエ音楽「黄金時代」から「ポルカ」
 両者の録音には29年の隔たりがあるが、アシュケナージというアーティストを視点の中心におくと、モーツァルトについては、アシュケナージは1977年から1986年にかけてデッカ・レーベルにフィルハーモニア管弦楽団との弾き振りでピアノ協奏曲全集を録音することになるし、ショスタコーヴィチについても、2006年までにNHK交響楽団と3曲(第4番、第13番、第14番)の交響曲を同じデッカ・レーベルに録音することになるので、いずれも、演奏者が当時メインと考えているプログラムを、NHK交響楽団と演奏した記録だと感じられる。
 1)は指揮とピアノ、2)は指揮のみであることも、アシュケナージの「アーティストとしての活動の仕方」の移り変わりを示すところだけれど、特にフアンが注目するのは1)の録音ではないだろうか。というのは、この時代のNHK交響楽団とアシュケナージの共演を記録したディスクというものが、これまで入手できなかったからである。しかし、いずれも見事な演奏であり、主従を付けがたい内容だ。
 モーツァルトの協奏曲では、このピアニストらしい健やかで明朗な音楽性が端的に示されている。全般に少し早目のテンポで、ひきしまったフォルムを整え、明快な旋律線を引き出し、この上ななく美しいピアノの音色が、豊かな運動性を湛えながら麗しい音楽の芯を保つ。なんとも堂々たるモーツァルトだ。第21番の冒頭では、若干の緊張から少し音楽が急くような落ち着かなさが垣間見られるが、これはただちに解消され、以後は瑞々しく自然な音楽が次々とこぼれるよう流れていく。
 ショスタコーヴィチは気迫に満ちた演奏で、切り立った表現で鋭い音像を構築している。第1楽章はティンパニなどを少し控えさせた上で、弦楽器陣の緊密な響きで空間を充足させ、力強い推進力を見せる。圧巻は第3楽章と第4楽章で、第3楽章は透徹した表現を経てクライマックスで一気に表出される情感が出色。終楽章はライヴならではの白熱したアシュケナージが堪能できる。フィナーレに向かってスピーディーに盛り上がる音楽の正面突破力が凄い。終演とともに雪崩のように熱狂するベルギーの聴衆の様子がこのコンサートの大いなる成功を物語る。アンコールで瀟洒な滑稽さのあるピースを持ってくるところも、聴く人に笑顔をもたらして演奏会をしめくくることの多いアシュケナージらしい。
 いずれもこのような機会にCD化していただいたことに感謝したい。できれば、1975年のコンサートでは、アシュケナージは指揮者としてモーツァルトの交響曲第40番を振っているので、その音源もいずれこのような企画で聴くことができるならば、さらなる幸いである。

Shadows of Silence
p: アンスネス ヴェルザー=メスト指揮 バイエルン放送交響楽団

レビュー日:2012.3.12
★★★★★ 現代のアーティスト「アンスネス」を感じさせてくれるアルバム
 ノルウェーのピアニスト、レイフ・オヴェ・アンスネス(Leif Ove Andsnes 1970-)による現代音楽作品のアルバム。収録曲は以下の通り。
1) ベント・セレンセン(Bent Sorensen 1958-) 子守唄 (ソロ・ピアノのための)
2) ヴィトルド・ルトスワフスキ(Witold Lutoslawski 1913-1994) 協奏曲 (ピアノと管弦楽のための)
3) クルターグ・ジェルジ(Kurtag Gyorgy 1926-) 「遊戯」より8曲抜粋 (ソロ・ピアノのための)
4) マルク・アンドレ・ダルバヴィ(Marc-Andre Dalbavie 1961-) 協奏曲 (ピアノと管弦楽のための)
5) ベント・セレンセン 沈黙の影 (ソロ・ピアノのための)
 オーケストラはフランツ・ウェルザー=メスト(Franz Welser-Most 1960-)指揮バイエルン放送交響楽団の演奏。2007年の録音。2)と4)はライヴ、他はスタジオ収録されたもの。ダルバヴィはフランスの、ルトスワフスキはポーランドの、セレンセンはデンマークの、クルターグはハンガリーの作曲家。4)と5)はアンスネスのために作曲されたもので、2)はポーランドのピアニスト、ツィマーマン(Krystian Zimerman 1956-)のために作曲されたもの。
 実に多彩な収録内容と言える。アンスネスというピアニストは、もちろんピアノ奏者としても一流なのだけれど、最近で言えば、南アフリカのヴィジュアル・アーティスト、ロビン・ローズ(Robin Rhode 1976-)とムソルグスキーの展覧会の絵を題材にした映像作品に取り組むなど、芸術について広い視点を持って活動している。現代の音楽家が彼のために作品を書くという動機も分るような気がする。
 さて、注目したいのは2つの協奏曲。この2つの協奏曲にはソノリティに共通するものが多い。ルトスワフスキの協奏曲は現代的な書法を用いながら、外縁を調和的に整えた感じ。4つの楽章はアタッカで連続して演奏される。印象的なのは、第1楽章の冒頭で、木管楽器がざわざわと鳴るのだが、これは、「ad libitum(自由に)」の表記により、各奏者が反復音型を任意のタイミングで発生させることによるもの。ここで、ケージ(John Cage 1912-1992)の「偶然性の音楽」を思い起こす人もいるだろう。その後も詳細なパッセージの積み重ねで音楽が作られていき、さながら、いくつものスリットを重ねて一つの像を描くかのような音楽だ。
 ダルバヴィの協奏曲は「スペクトル主義」の作品とされている。スペクトルとは光の波長構成を示す用語。可視光は短波長側(紫)から長波長側(赤)まで連続して存在しているが、ダルバヴィは、その光のイメージからインスパイアされて音を構成し、音楽を導いている。その手法で作られるソノリティはルトスワフスキに似通う。そのような理屈は置いておいたとしても、両協奏曲は美しい作品だと思う。ダルバヴィの第2楽章後半の波打つような迫力は圧巻で、映画音楽のようなイメージでもある。
 セレンセン、クルターグの作品も楽しめるものだ。「沈黙の影」はトレモロ奏法が印象的だろう。アンスネスのスリリングで、胸のすくようなテクニックは見事。これらの作品の鮮やかに解きほぐした手腕は圧巻だ。

The Red Piano
p: ユンディ・リ チェン・ゾウファン指揮 中国国家大劇院管弦楽団

レビュー日:2012.2.22
★★★★★ 世界的音楽家となったユンディ・リによる祖国のメロディー紹介です
 今世紀になって、中国出身の器楽奏者たちの活躍には目覚しいものがある。私も、ユジャ・ワン(Yuja Wang 1987-)や上海クァルテットに代表される中国のアーティストの確かな技術と深い西欧音楽への理解を感じさせる演奏に、感銘を受けている。日本では以前から、家庭で使用されなくなったピアノを中国の音楽を学ぶ若者に送る活動があったけれど、そのような運動に一定の効果があったのなら、喜ばしいことに違いない。
 さて、そんな音楽界における中国の躍進の象徴的アーティストといえるのが、重慶出身で2000年に開催された第14回ショパン・コンクールで優勝したピアニスト、ユンディ・リ(Yundi Li 1982-)であろう。このアルバムは、そのユンディ・リによる中国作品を集めたものと言うことで、いまの時代に相応しい一枚と思う。これまでは得意のショパンを中心とした録音が多く、安定感ある弾き振りでいよいよ「ショパン弾き」としての評価を固めたユンディ・リであれば、今回のアルバムは一見、斬新とも言えるレパートリーにも見えるが、それは私たちの様な外の音楽フアンから見ればそう見える、というだけで、これは彼にとって、郷土の音楽であり、その心象をもっとも素直に表現できる「自然な」レパートリーに違いない。世界的なステイタスを確立した音楽家が、自国のメロディーを紹介するのは、一つの相応しい役割に思える(もちろん、それ以外にも様々な芸術的主張のあり方があるでしょう)。
 収録曲は、ピアノ協奏曲「黄河」と、中国民謡のソロ・ピアノ編曲集である。「黄河協奏曲」のバックはチェン・ゾウファン(Chen Zuohuang)指揮中国国家大劇院管弦楽団の演奏で、2011年の録音。
 ところで、ピアノ協奏曲「黄河」とはいったいどういう作品か?これは、もともとはシエン・シンハイ(Xian Xinghai 1905-1945)という作曲家によるカンタータ作品。シエンはマカオで生まれ、音楽を学び、フランスのコンセルヴァトワールに留学した人物。そこでは、ダンディ(Vincent d'Indy 1851-1931)、デュカス(Paul Dukas 1865-1935)らに作曲家としての才を高く評価されたという。帰国後は、日清戦争(1937-1945)があり、国の要請もあって戦意高揚の要素を持った声楽曲を書いたが、それとは別に、中国最初期の西洋音楽作曲家の担い手として、様々にアイデンティティを模索したことは容易に想像できる。シエンは過労に伴う結核と栄養不良で1945年に若くして亡くなった。それで、後年の作曲家たちが、彼の遺した愛国的カンタータをピアノ協奏曲に編曲したものが「黄河協奏曲」である。
 4つの楽章からなる20分ちょっとの楽曲であるが、ちょっと聴くと富田勲や三枝成彰による大河ドラマのサウンドトラックのようである。簡明なメロディーを明朗に歌い上げた屈託のなさがある。たいへん分り易い純朴な作風だ。中で第3楽章の「いかにも」東洋大陸的な情緒は、私たちにも平明なイメージとしてよく伝わるものだろう。リの演奏は、決して情感たっぷりではなく、むしろスタンダードに丁寧なアプローチをしており、演歌調に陥らない高貴さがキープされている。オーケストラも過不足ない出来。また、民謡の編曲集も、ピアノソロ作品としての完成度の高さもあって、楽しめるものだ。東洋的な音階や節回しは、日本の民謡や童謡に通じるところもあり、不思議と印象派に通じる音彩を感じさせる。いかにも馴染みやすい、親しみ易い音楽だと思う。

組曲「宿命」(菅野光亮 ピアノと管弦楽のための組曲「宿命」  芥川也寸志 弦楽のための三楽章)
西本智実指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 p: 外山啓介

レビュー日:2014.8.22
★★★★☆ 懐かしの名画「砂の器」の世界が呼び覚まされる録音
 何とも懐かしものに巡り合ったような思いに浸れるアルバムがリリースされた。西本智実(にしもとともみ 1970-)指揮、日本フィル・ハーモニー管弦楽団による菅野光亮(かんのみつあき1939-1983)の組曲「宿命」と芥川也寸志(あくたがわやすし 1925-1989)の「弦楽のための三楽章」を収めたもの。組曲「宿命」のピアノ独奏は外山啓介(とやまけいすけ 1984-)。両曲とも2014年、東京芸術劇場コンサートホールにてライヴ収録されたもの。
 目玉は何と言っても「宿命」である。
 この40分近くに及ぶピアノと管弦楽のための作品は、松本清張(1909-1992)原作の小説「砂の器」が、1974年、野村芳太郎(1919-2005)監督によって映画化された際に作成された映画音楽である。映画音楽といってもただのサントラではなく、劇中で、この作品は、物語の主人公とも言える人物の作品として、実に重要で象徴的な働きを与えられている。
 私がこの映画をみたのは、TV放送においてであるが、ちょっとシチュエーションが変わっていて、学生の頃、ある年の冬、苫小牧から名古屋に向かうフェリーの中で観たのである。波に揺れるくらい部屋の中で、お世辞にも映りのいいとは言えないブラウン管で、この映画を観たインパクトはなかなかのもので、ちょっとした洗脳状態に陥ったものだ。
 原作は、ハンセン氏病患者への差別の根深さと、そこから発生する殺人の悲劇を描いたもので、映画では、そこに菅野の編み出した痛切な悲哀を込めたメロディーの効果が重なり、圧倒的な力で何度も押し寄せてくるように、観る人をその世界に深く誘った。
 この作品は、現代でも日本の映画音楽の最高傑作と称されており、モスクワ映画祭ソビエト作曲家同盟賞を受賞している。
 さて、この懐かしい音楽を、久しぶりに新しい録音で聴くことが出来た。私は、この音楽を単独作品として聴いたのははじめて。演奏時間は約37分、2部構成ながら連続して演奏される長大な作品で、濃厚なロマンティシズムに満ちている。全般に連綿たる情緒を紡ぎ、曲想に変化を与えながらも、雰囲気としては均一で、飛躍するような展開はないため、平板さもあるが、メロディーが美しく、「聴かせる」音楽としてよく成立していると思う。特に金管の音色を巧みに扱っているところが面白く、興味深く聴ける。演奏は、存外にサラリとした感じで、むせび泣いたり、慟哭したりすることはなく、音楽作品として一定の距離感と秩序を保った表現に思う。弦楽器陣の音に線の細さを感じるところが少し寂しいが、肝心のメロディーは、情感が表出するように歌わせてくれているので、物足りないというわけではない。むしろ、新しい録音で聴けるという喜びが勝る。
 芥川は、菅野とともにこの映画の音楽を手掛けた作曲家である。私には、N響アワーに出ていた頃の彼の姿が、これまた懐かしく思い出されるのだけれど。「弦楽のための三楽章」は平易な書法でまとめた舞曲的風情を持った作品で、併せて楽しむことが出来た。
 なお、当アイテムへの「こうしてくれたら良かったのに」という規格面での要望として、トラックナンバーの振り方がある。できればもう少し細かくトラックナンバーを入れて欲しかった。また、どの部分がどのシーンに使用されたといった解説があれば、されに良かったのに、と感じたところ。
 さて、それはさておき、私は当アイテムを懐かしく楽しませていただいたが、同じように「新録音」をしてほしい映画音楽というのがいくつかある。私の場合、三枝成彰(1942-)氏による映画「光る女」や「動乱」のための音楽がその最たるもの。ここで書くのが適当ではないかもしれないが、是非、レコード会社には、そのような活動にも力を入れてほしいと思う。

Leif Ove Andsnes:5 Classic Albums
p: アンスネス ノルウェー室内管弦楽団 他

レビュー日:2014.6.25
★★★★★ 現代を代表するピアニストによる、高品質な協奏曲録音5枚を収録
 現代の世界を代表するノルウェーのピアニスト、レイフ・オヴェ・アンスネス(Leif Ove Andsnes 1970')が、1997年から2007年にかけて録音した協奏曲録音の中から、代表的な5点をピックアップした廉価Box-set。いずれも正統的で端正なこのピアニストのスタイルが端緒に顕れたものであり、オススメしたい内容。収録内容は以下の通り。
【CD1】  ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897)
1) ピアノ協奏曲 第1番 二短調 op.15
2) 3つの間奏曲 op.117
 サー・サイモン・ラトル(Sir Simon Rattle 1955-)指揮、バーミンガム市交響楽団 1997~98年録音
【CD2】 ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943)
1) ピアノ協奏曲 第1番 嬰ヘ短調 op.12
2) ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 op.18
 アントニオ・パッパーノ(Antonio Pappano 1959-)指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2005年録音
【CD3】 ハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809)
1) ピアノ協奏曲 第3番 ヘ長調 Hob.XVIII-3
2) ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Hob.XVIII-4
3) ピアノ協奏曲 第11番 ニ長調 Hob.XVIII-11
 ノルウェー室内管弦楽団 1998年録音
【CD4】
1) グリーグ(Edvard Grieg 1843-1907) ピアノ協奏曲 イ短調 op.16
2) シューマン(Robert Alexander Schumann 1810-1856) ピアノ協奏曲 イ短調 op.54
 マリス・ヤンソンス(Mariss Jansons 1943-)指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2002年録音
【CD5】 モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)
1) ピアノ協奏曲 第17番 ト長調 K.453
2) ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466
 ノルウェー室内管弦楽団 2007年録音
 CD5枚とも単品で発売されているアルバムと同一の内容で、特に追加収録されたものはない。
 5枚のアルバムの中で、私が一番好きなのはグリーグとシューマンを収めた【CD4】。いずれも冒頭に衝撃的なカデンツァのある名曲で、古今、この2曲を収録した名盤は多いが、現代的な感性で、瑞々しい輝きを放つアンスネス盤の魅力は無尽だ。冒頭の和音の澄みきった透明感。その完璧に結晶化しきた響きは、ここだけ繰り返し聴いても興奮するくらい見事。全篇にわたってピアニスティックな感覚が冴え渡り、北国の、冬の、透明な、青空のようなゾクゾクする美しさだ。マリス・ヤンソンスの透明感に満ちたオーケストラ。サウンドも見事。
 次いで【CD1】のブラームス。当盤はポリーニ(Maurizio Pollini 1942-)盤の発売と時期が重複した不運から、あまり取り上げられてこなかったが、私はポリーニ盤より、このアンスネスを気に入っている。彼の演奏からは、詩情の自然な発露が感じられるとともに、詩的で、時に激しさを伴った歌に満ちたアプローチで、白熱を持ち合わせる。両端楽章は力感に満ちた表現が随所に溢れていて、激性豊かで、この規模の大きい楽曲の「決め所」を外さない心地よさがある。しかし、楽想をスピードにまかせて弾き飛ばすようなことはなく、感情が覆い尽くすような方法論はとられていない。いつだって一定のクールさがあるのだ。
 ラトルの指揮は情熱的だが、EMIの録音のせいなのか、やや弦楽器陣の響きに奥行きが乏しいのが気にかかる。とはいっても全体の良好な印象を覆すほどの欠点にはなっていない。素晴らしい演奏、と言っていいだろう。末尾に収録された独奏曲である「3つの間奏曲」も、思索的で、時に少し踏みしめるように進む音楽から、高雅な雰囲気が感じ取れる佳演だ。
 ラフマニノフは全集を録音しているが、当Box-setには、第1番と第2番のアルバムがチョイスされている。第2番のみがライヴ録音。ダイナミックで流麗なアンスネスのピアノは聴き応え十分。淀みがなく、渓谷を下る清水のように、滾々と流れ落ちるようで、しかし時として内側から盛り上がる強いパッションをうねらせて、鍵盤に展開させてくる。
 パッパーノの指揮は発色豊かで、協奏曲第2番の第2楽章のフルートのなんとも色っぽい響きや、同じ楽章で普段ほとんど聞こえないピチカートをくっきりと入れてくるところなど、おもしろい。この曲の終楽章で、スラヴ民謡的主題を終幕に向けて高揚させるところで、低弦の効果を思いきり引き出すところは、アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)もこの曲を指揮していたとき、同じようにやっていたのを思い出す。
 他に弾き振りの2枚を収録。最近では、アンスネスはベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827)の弾き振りにも挑戦し、成功を示しているが、オーケストラの統率ぶりもなかなかのもの。また、ハイドンの第3番と第4番の2曲については、アンスネス自身によるカデンツァが弾かれている。アンスネスの演奏は、余裕をもって、ピアニスティックな効果を出せる部分については、全部出しきろうというような構えを感じさせるアプローチ。精一杯工夫して聴かせようという努力が垣間見られるが、全体的に自然な雰囲気はきちんと保たれていて、過度に人工的というわけではない。オーケストラの緊密でソフトなハーモニーが心地よく、演奏の質を高めている。
 いずれにしても、多くの名曲がフィルアップされていることと、アンスネスの現代一級の演奏によっていることから、十二分にコスト・パフォーマンスの優れたアイテムとして、当盤を推すことが出来る。

The Vienna Album
p: ラン・ラン エッシェンバッハ指揮 パリ管弦楽団 p: エッシェンバッハ

レビュー日:2015.11.10
★★★★☆ ラン・ランの8~12年前の音源を集めたアルバムです
 欧米を中心に、現在、もっともコンサートで聴衆を沸かせているピアニストの一人、ラン・ラン(Lang Lang 1982-)による、既発ディスクから編集した古典派を中心としたアルバム。その収録内容は以下の通り。
【CD1】
1) ハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809) ピアノ・ソナタ 第60番 ハ長調 Hob.XVI:50 2003年録音
2) ハイドン ピアノ・ソナタ 第46番 ホ長調 Hob.XVI:31 2000年録音
3) モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791) ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330 2005年録音
4) ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827) 四手のためのソナタ ニ長調 op.6 2007年録音
 ピアノ: クリストフ・エッシェンバッハ(Christoph Eschenbach 1940-)
5) シューベルト(Franz Peter Schubert 1797-1828) 幻想曲ハ長調「さすらい人」 D.760 2003年録音
【CD2】
6) ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 op.15 2007年録音
7) ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 op.58 2007年録音
 クリストフ・エッシェンバッハ指揮 パリ管弦楽団
 1)と5)はニューヨークのカーネギーホールにおけるコンサート、2)はタングルウッドのセイジ・オザワ・ホールにおけるコンサートの模様を収録したもの。他はスタジオで録音されたもの。
 一つの機会に収録されたものではないが、ラン・ランという華麗なヴィルトゥオーゾ型のピアニストが、これらの古典に対してどのようなアプローチをしたのかを集約的に収めたアルバムと言える。また、いち早くラン・ランの才能を見出し、彼を強くバックアップしたエッシェンバッハとの録音も併せて聴くことが出来る。
 まずベートーヴェンの協奏曲を聴いてみた。そこでのラン・ランのスタイルには、いくぶん制約的なものを感じる。それはいつもの様な派手な跳躍や華麗な音色を響かせるものでなく、音楽の性質に自分をフィットさせる柔軟さによるもの。かといって聴いていて抑制的ということではなく、音響の作る豊かな色合い、そして、単に穏やかなだけではなく、ラン・ランならではの感情表現、それも特に喜びを濃厚に表現してくれる。そのスタイルが、この2曲の協奏曲の魅力をうまく引き出している。特に第1協奏曲の第1楽章、この楽章にベートーヴェンは3種のカデンツァを書いたのだけれど、ラン・ランはそのうちもっともスケールの大きいものを、じつに鮮やかな手腕で弾きこなしている。
 ただし、これらの協奏曲におけるオーケストラにはやや疑問を感じる。特にフォルテの音が粗く、前後の受け渡しが自然ではない個所が散見される。ラン・ランへのスポットライトを意識し過ぎて、逆に硬くなってしまったのだろうか?その点で、協奏曲の録音として完成度が低下してしまったのは残念だ。
 独奏曲の中ではモーツァルトが素晴らしい。特に第2楽章では、決して品を崩さず、たっぷりとした情感を導き出していて、モーツァルトの枠の中で巧妙な甘美さを引き出している。シューベルトは冒頭部分から闊達な弾きこなしで、聴き手を惹きつけるが、中間部以降のクライマックスで、付点の連続する個所でテンポを落とす演出は、聴いていてやや作為的に感じられるところもある。
 ハイドンの2曲は、標準的な良演といったところで、粒だった音は美しいが、ラン・ランならではの何かを聴かせるというより、オーソドックスな表現を感じさせるもの。ベートーヴェンの4手のための曲は、曲自体の存在があまり知られていないので、貴重な音源といったところだろう。
 いずれの楽曲も、いま現在のラン・ランなら、また一際異なったアプローチを聴かせてくれるのではないか、と思うが、若きピアニストの健やかな感性が息づいた古典ものとして、フアンには大切な記録になるだろう。

Legendary Russian Pianists
V.A.

レビュー日:2016.9.5
★★★★★ 素晴らしい音源が集められた25枚のBox-set
 ここしばらく、すっかり聴きこんでいるアルバム。“Legendary Russian Pianists(ロシア伝説のピアニストたち)”と題されたCD25枚のBox-setで、全29人のピアニストの録音が収録されている。収録内容は以下の通り。
【CD1】
1) コンスタンティン・イグムノフ(Konstantin Igumnov 1873-1948)
 ショパン マズルカ 第33番 op.56-1 1935年録音
 スクリャービン 2つの詩曲より 嬰ヘ長調op.32-1 1935年録音
 シューマン クライスレリアーナop.16 1941年録音
 チャイコフスキー 四季 op.37b 1947年録音
【CD2】
2) グリゴリー・ギンズブルグ(Grigory Ginzburg 1904-1961)
 リスト ベートーヴェンの「アテネの廃墟」による幻想曲 1952年録音
3) サムイル・フェインベルグ(Samuil Feinberg 1890-1962)
 スクリャービン ピアノ協奏曲 op.20 1950年録音
4) ゲンリヒ・ネイガウス(Heinrich Neuhaus 1888-1964)
 ショパン ピアノ協奏曲 第1番 1951年録音
【CD3】
5) レフ・オボーリン(Lev Oborin 1907-1974)
 モーツァルト ピアノ協奏曲 第20番 K.466 1964年録音
 チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 1948年録音
6) ルドルフ・ケレル(Rudolf Kerer 1924-)
 プロコフィエフ ピアノ協奏曲 第1番 1961年録音、「三つのオレンジへの恋」よりマーチ 1961年録音
【CD4】
7) マリヤ・ユーディナ(Maria Yudina 1899-1970)
 J.S.バッハ(リスト編) 前奏曲とフーガ イ短調 1952年録音
 リスト バッハの「泣き、嘆き、憂い、怯え」の主題による変奏曲 1950年録音
 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第5番、第32番 1950年録音
【CD5】
8) ウラディーミル・ソフロニツキー(Vladimir Sofronitsky 1901-1961)
 スクリャービン 前奏曲 op.11-1、ピアノ・ソナタ第3番 op.23、ピアノ・ソナタ 第2番「幻想ソナタ」op.19よりアンダンテ 詩曲op.32-2、詩曲op.44-1、皮肉 op.56-2、あこがれ op.57-1、ポロネーズOp.21、練習曲(op.42-4、op.42-6)、ワルツOp.38、前奏曲(op.11-3、op.11-6、op.11-7、op.11-8、op.11-11、op.11-12、op.11-13、op.11-17、op.11-2)
op.19;1960年録音、op.42-6;1950年録音、op.13-1と前奏曲(op.11-3、op.11-6、op.11-7、op.11-8、op.11-11、op.11-12、op.11-13、op.11-17、op.11-2);1951年録音 op.21;1950年録音 op.42-4;1948年録音 他は1946年録音
【CD6】(続き)1960年録音
前奏曲(op.13-1、op.11-2、op.13-3、op.11-4、op.11-5、op.13-6、op.15-1、(左手のための)op.9-1、op.11-9、op.11-10、op.22-2、op.16-、op.16-5、op.16-4、op.11-15、op.11-16、op.11-19、op.11-21、op.11-22、op.11-24) 詩曲(op.52-1、op.59-1、op.51-3、op.52-3)、仮面 op.63-1、悪魔的詩曲 op.36、ピアノ・ソナタ 第9番「黒ミサ」op.68、詩曲(op.69-1、op.69-2)、暗い炎 op.73-2、花飾り op.73-1、ピアノ・ソナタ 第10番 op.70、たよりなさ op.51-1、アルバムの綴り op.45-1、練習曲 op.42-5、マズルカ op.40-2、練習曲 op.8-12 1960年録音
【CD7】
9) ウラディーミル・ホロヴィッツ(Vladimir Horowitz 1903-1989)
 ショパン 練習曲op.10-4、op.10-5「黒鍵」、op.10-8、op.25-3、マズルカ 第7番 op.7-3、第27番 op.41-2、第32番 op.50-3、スケルツォ 第4番 op.54、ピアノ・ソナタ第2番 op.35 より第1楽章
Op.10-4,5,op.50-3;1935年録音 op.54,op.35;1936年録音 op.10-8,op.7-3;1932年録音 op.25-3;1934年録音
 リスト  詩的で宗教的な調べより「葬送」、ピアノ・ソナタ ロ短調 1932年録音
【CD8】
10) マリヤ・グリンベルク(Maria Grinberg 1908-1978)
 ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第5番「皇帝」 1957年録音
11) タチアナ・ニコラーエワ(Tatiana Nikolayeva 1924-1993)
 バッハ ピアノ協奏曲 第1番BWV.1052 1965年録音
【CD9】
12) ヤコフ・フリエール(Yakov Flier 1912-1977)
 ショパン ピアノ・ソナタ 第2番 1956年録音
 ラフマニノフ 前奏曲(op.3-2「鐘」、op.23-5) 1952年録音
 カバレフスキー 24の前奏曲op.38 1955年録音
【CD10】
13) イゴーリ・ジューコフ(Igor Zhukov 1936-)
 ブラームス ピアノ協奏曲 第2番 1963年録音
14) ドミトリー・バシキーロフ(Dmitri Bashkirov 1931-)
 モーツァルト ピアノ協奏曲 第24番 K.491 1958年録音
【CD11】
15) ヤコフ・ザーク(Yakov Zak 1913-1976)
 ブラームス ピアノ協奏曲 第1番 1960年録音
16) ベラ・ダヴィドヴィチ(Bella Davidovich 1928-)
 サン=サーンス ピアノ協奏曲 第2番 1969年録音
【CD12】
17) ヴィクトル・メルジャーノフ(Victor Merzhanov 1919-2012)
 ラフマニノフ パガニーニの主題による狂詩曲 op.43 1959年録音
18) アレクサンドル・イオケレス(Alexandre Iokheles 1912-1978)
 ファリャ ピアノと管弦楽のための交響的印象「スペインの庭の夜」 1962年録音
 オネゲル ピアノ小協奏曲 1962年録音
【CD13】
19) スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter 1915-1997) 1961-1975
 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第27番、第30番、第31番、第32番 1965,72,65,75年録音
【CD14】(続き)
 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第3番、第28番 1975,65年録音
 リスト ピアノ・ソナタ ロ短調 1965年録音
【CD15】(続き)
 シューベルト ピアノ・ソナタ 第21番D.960、第9番D.575 1961,65年録音
【CD16】
20) エミール・ギレリス(Emil Gilels 1916-1985)
 ショパン ノクターン 第13番op.48-1、ピアノ・ソナタ 第2番 Op.35、ポロネーズ 第6番「英雄ポロネーズ」 0p.53、即興曲 第2番op.36、ピアノ・ソナタ 第3番 op.58
op.58は1977年録音、他は1949年録音
【CD17】(続き)
 プロコフィエフ ピアノ・ソナタ 第2番 op.14、第3番 op.28、第8番 op.84、束の間の幻影op.22抜粋、トッカータop.11、「三つのオレンジへの恋」よりマーチ
op.14;1951年録音 op.28;1984年録音 他は1967年録音
【CD18】(続き)
 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第29番「ハンマークラヴィーア」 1984年録音
【CD19】
21) ラザール・ベルマン(Lazar Berman 1930-2005)
 リスト ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」、メフィスト・ワルツ 第1番、超絶技巧練習曲抜粋(前奏曲、風景、鬼火、幻影、ヘ短調、夕べの調べ、雪あらし) スペイン狂詩曲 1950-71年録音
「ダンテを読んで」;1971年録音 メフィスト・ワルツ;1967年録音 他は1950-56年録音
【CD20】
22) ウラディーミル・アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)
 プロコフィエフ ピアノ協奏曲 第2番 1961年録音
23) ヴィクトリヤ・ポストニコワ(Viktoria Postnikova 1944-) 1988年録音
 ラフマニノフ ショパンの主題による変奏曲、W.R.のポルカ、前奏曲op.3-2「鐘」
 アレンスキー 「バフチサライの泉」への前奏曲
【CD21】
24) ネリー・アコピアン=タマリナ(Nelly Akopian-tamarina)
   ブラームス 3つの間奏曲op.117 1995,96年録音
 シューマン 幻想曲op.17、アラベスクop.18 1981年録音
【CD22】
25) ニコライ・デミジェンコ(Nikolai Demidenko 1955-)
 スクリャービン ピアノ・ソナタ 第2番「幻想ソナタ」、練習曲(op.8-2、op.8-4、op.8-5、op.42-3、op.42-4、op.42-7)、4つの小品 op.51、ピアノ・ソナタ 第9番「黒ミサ」、詩曲「炎に向かって」op.72
 プロコフィエフ つかの間の幻影 op.22 1989,90年録音
【CD23】
26) ミハイル・プレトニョフ(Mikhail Pletnev 1957-) 
 モーツァルト ピアノ協奏曲 第9番 K.271「ジュノーム」 1981年録音
27) アンドレイ・ガヴリーロフ(Andrei Gavrilov 1955-) 
 ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第3番 1984年録音
【CD24】
28) エフゲニー・キーシン(Evgeny Kissin 1971-)
 リスト 森のささやき、3つの演奏会用練習曲より「軽やかさ」、愛の夢 第3番、ハンガリー狂詩曲 第12番、超絶技巧練習曲第10番「ヘ短調」
 シューマン 交響的練習曲op.13 アベッグ変奏曲op.1
 シューマン(リスト編) 献呈
森のささやき、軽やかさ、献呈は1983年録音 他は1989年録音
【CD25】 1992年録音
29) ニコライ・ルガンスキー(Nikolai Lugansky 1972-)
 ラフマニノフ 練習曲集「音の絵」 op.33、op.39 1992年録音
 「ロシア」に限らずウクライナ出身のピアニストなども含まれているので、個人的には「ソ連の」と形容した方がしっくりくるが、それにしても、すごいのは、層々たる顔ぶれである。ロシア・ピアニズム、という言葉があるけれど、これほど多くの異才を輩出するこの地の音楽教育や文化土壌は、はたしてどのようなものなのか、客観的に検証してみたくなる。29人、それぞれ個性豊かで、太く力強い音楽性が圧巻だ。どうして、これほど多くの天才が、かの地からは生まれてくるのだろうか?
 特に印象に残ったものを書く。ソフロニツキーの音源は、多くがDENONの国内盤と重複するが、それでもこの人の神がかり的なスクリャービンはとにかく圧巻。まず聴くべき。ニコラーエワのバッハのピアノ協奏曲は、特に終楽章の重層的な迫力が見事。もちろん、声部もよく捉えられている。オボーリンのモーツァルトも名演だ。力強い悲劇性に満ち、尽きることのないパワーを感じる。アシュケナージのプロコフィエフは、このピアニストの音色の色彩感が伝わる。このようなBoxもので、その素晴らしさは際立つ。ギレリスはプロコフィエフが思わぬ良演。ザークのブラームスの第1協奏曲、第3楽章冒頭の強音の凄まじいこと!ジューコフのブラームスの第2協奏曲も勇ましい力強さが見事。フリエールのカバレフスキーは曲のイメージを一新するようなスケール感。ベルマンの技巧的なリスト、デミジェンコのロマンティックなスクリャービンも忘れがたい。
 音源はライヴ音源が多く、協奏曲のオケの音など、平板に感じられるところもあるのだけれど、全般に、時代を考慮すれば、まずまずの水準の録音となっていることもありがたい。思いのほか聴き易いものが集められており、優れたピアニストの演奏を時代横断的に一気に聴くことの出来る当Box-setは、ピアノ音楽フアンには、是非ともオススメしたいもの。

LOVE STORY
p: リシッツァ ウォーレン=グリーン指揮 サザーランド指揮 BBCコンサート・オーケストラ

レビュー日:2016.9.14
★★★★★ 「ゴールデン・エイジ時代」の映画音楽の世界へと誘う1枚
 ウクライナのピアニスト、ヴァレンティーナ・リシッツァ(Valentina Lisitsa 1973-)による“Love Story”と題した1940年代から1950年代に書かれたピアノとオーケストラによる映画音楽集。まずは収録曲を書こう。
1) リチャード・アディンセル(Richard Addinsell 1904-1977) ワルソー・コンチェルト(映画「危険な月光」より)
2) リチャード・ロドニー・ベネット(Richard Rodney Bennett 1936-2012) オリエント急行殺人事件(映画「オリエント急行殺人事件」より)
3) ショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovich 1906-1975) The Assault on Beautiful Gorky(映画「忘れがたき1919年」より)
4) チャールズ・ウィリアムズ(Charles Williams 1893-1978) Jealous Lover(映画「アパートの鍵貸します」より)
5) ニーノ・ロータ(Nino Rota 1911-1979) The Legend of the Glass Mountain(映画「The Glass Mountain」より)
6) ロバート・ファーノン(Robert Farnon 1917-2005) Seashore(TVコマーシャル「The Players」より)
7) リチャード・アディンセル Invocation(映画「Journey to Romance」より)
8) ケネス・レスリー=スミス(Kenneth Leslie Smith 1918-2005) The Mansell Concerto(映画「The Women's Angle」より)
9) ヒューバート・バス(Hubert Bath 1883-1945) コーニッシュ・ラプソディ(映画「Love Story」より)
10) ジャック・ビーバー(Jack Beaver 1900-1963) Portrait of Isla(映画The Case of the Frightened Lady」より)
11) デイヴ・グルーシン(Dave Grusin 1934-) New Hampshire Hornpipe(映画「黄昏」より)
12) レイトン・ルーカス(Leighton Lucas 1903-1982) ラプソディ(映画「舞台恐怖症」より)
13) レスリー・ブリッジウォーター(Leslie Bridgewater 1893-1974) Legend of Lancelot(映画「Train of Events」より)
14) チャールズ・ウィリアムズ Legend of Lancelot(映画「While I Live」より)
15) カール・デイヴィス(Carl Davis 1936-) 「高慢と偏見」メインテーマ(BBCドラマ「高慢と偏見」より)
 オーケストラは、BBC専属のポップス・オーケストラであるBBCコンサート・オーケストラで、指揮は、3,9,14,15)がクリストファー・ウォーレン=グリーン(Christopher Warren-Green 1955-)、他はギャビン・サザーランド(Gavin Sutherland 1972-)。
 リシッツァは技巧に優れ、感情表現にも秀でたものを見せるクラシック・アーティストであるが、近年のその録音傾向はいっぷう変わっていて、例えば、フィリップ・グラス (Philip Glass 1937-)やマイケル・ナイマン(Michael Nyman 1944-)といった、いわゆるクラシックの一流ピアニストからは録音を敬遠されていたミニマル・ミュージックを背景とした作曲家の作品を集中的に録音した独奏アルバムのリリースなど象徴的だ。それで、私も「次は何をやってくれるんだろう」と思っていたのだが、当アイテムのリリースとなった。
 当アルバムに収録されているのは、1940年代から50年代にかけて、ピアノ協奏曲ふうのスタイルで書かれた映画音楽。これらの音楽が誕生する背景として、1945年にイギリスで製作された「逢びき」の存在に言及するのは、ある程度当然だろう。その映画では、全編に渡って、ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943)のピアノ協奏曲第2番が使用され、映画に携わる人はもとより、音楽関係者にも大きな影響を与えた。そのこともあって、様々な映画音楽が、ピアノとオーケストラという形で書かれたのである。
 ただ、ここに収録された曲すべてが同じ背景があったというわけではなく、冒頭に収録されたアディンセルのワルソー・コンチェルトが書かれたのは1941年。この曲も、成功作であるから、「火付け役」側の1曲と言えるだろう。
 それにしても、情熱的で連綿としたメランコリーを綴った曲が、これほど多く書かれたのかと感心する。しばしば「多芸ぶり」が評価されるショスタコーヴィチの楽曲だって、この曲を聴いて「ショスタコーヴィチ」という作曲家の名を挙げる人は多くないだろうという変説ぶり(?)。そういった点でもとても楽しい。
 リシッツァの演奏は、これらの楽曲に見事に入魂し、クラシックの慣用的な演奏スタイルを適合させたもので、とても充実した独奏と音響により、数々の豪華な音楽が聴ける、という仕組み。
 「ゴッド・ファーザー」で知られるロータ、独自の技法を持ったベネット、フュージョン界の奇才グルーシン、ヒッチコック映画の音楽で知られるルーカスなどが、さながら、同じ「お題」で競い合って書いた曲を、立て続けに聴くかのような贅沢さがある。とは言っても、これらの曲につきものの、平板さ、長く聴いたときの倦怠感までが払しょくされているとまでは言えないけれど。とはいえ、曲のポテンシャルを考えると、これ以は望めないというレベルの演奏であることは間違いない。
 それにしても、これだけの楽曲を「蒐集し」「演奏し」「録音し」てくれたリシッツァのエンターテーメント精神には、心底感謝したいところです。楽しかったです。

CINEMA
p: タロー パッパーノ指揮 ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団 フェイヴァリッテ・パリジネンス レ・トリーユ・ドゥ・ディアブル vo: ジョルダナ パラディ S: ドゥヴィエル vn: ラドゥロヴィチ cl: ポルタル dr: ドルト

レビュー日:2022.11.9
★★★★★ 映画を彩った楽曲たちを、瑞々しいピアノを中心にリファインした演奏
 フランスのピアニスト、アレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud 1968-)による「シネマ(CINEMA)」と題された2枚組のアルバムで、タイトルにある通り、古今の映画音楽から、ことのほかタローが愛着を感じている楽曲を集めたアルバム。
 CD2枚からなり、1枚目はピアノとオーケストラ、2枚目はピアノ・ソロもしくは他のゲストとの協演という形になっている。一部の楽曲は、収録様式の体裁に併せて、ピアノ部分をタローが、オーケストラ部分をドミトリ・ソードプラットフ(Dimitri Soudoplatoff)が編曲している。また、他にも既存のアレンジ版を用いている場合もある。収録曲の詳細を示すと、下記の通りとなる。
【CD1】 Piano & Orchestra
1) ミシェル・ルグラン(Michel Legrand 1932-2019) コンチェルティーノ 「おもいでの夏」
2) ジョン・ウィリアムズ(John Williams 1932-) 映画「E.T.」より 「オーバー・ザ・ムーン」
3) フィリップ・サルド(Philippe Sarde 1948-) 映画「すぎ去りし日の…」
4) クロード・ボリング(Claude Bolling 1930-2020) 映画「ボルサリーノ」
5) ジョルジュ・ドルリュー(Georges Delerue 1925-1992) 映画「軽蔑」
6) ヴォイチェフ・キラール(Wojciech Kilar 1932-2013) 映画「王と鳥」
7) ミシェル・ルグラン 映画「華麗なる賭け」より 「風のささやき」
8) エンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone 1928-2010) 映画「ニュー・シネマ・パラダイス」
9) ミシェル・ルグラン 映画「城の生活」
10) フランシス・レイ(Francis Lai 1932-2018) 映画「あの愛をふたたび」より 「恋の終わりのコンチェルト」
11) 作者不詳/タロー&ソードプラットフ(Dimitri Soudoplatoff)編 映画「禁じられた遊び」
12) ヴラディーミル・コスマ(Vladimir Cosma 1940-) 映画「エースの中のエース」
13) ミシェル・ルグラン 映画「華麗なる賭け」より 「ヒズ・アイズ、ハー・アイズ」
14) ヴラディーミル・コスマ 映画「Un Elephant ca trompe enormement」より 「ハロー・マリリン」
15) ヴラディーミル・コスマ 映画「Le Grand blond avec une chaussure noire」より 「シルバ」
16) カブリエル・ヤレド(Gabriel Yared 1949-) 映画「愛人/ラマン」
17) ミシェル・ルグラン 映画「ロシュフォールの恋人たち」より 「Concert」
18) マーヴィン・ハムリッシュ(Marvin Hamlisch 1944-2012) 映画「追憶」
19) ジョン・ウィリアムズ 映画「サブリナ」
20) 坂本龍一(1952-) 映画「ハイヒール」より 「メインテーマ」
21) フランシス・レイ 映画「続エマニエル夫人」より 「テーマ」
22) エンニオ・モリコーネ 映画「蒼い本能」より 「彼女の瞳の色」
23) フィリップ・サルド 映画「猫」より 「メインテーマ」
 アントニオ・パッパーノ(Antonio Pappano 1959-)指揮:1-3,5-19,22,23)
 ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団(1-3,5-19,22,23)
 フェイヴァリッテ・パリジネンス(Frivolites Parisiennes 4;ヴァイオリン、コントラバス、打楽器、バンジョー、クラリネット 21;弦楽四重奏、コントラバス、オーボエ)
 レ・トリーユ・ドゥ・ディアブル(Les Trilles du Diable 20;弦楽五重奏)
【CD2】 Piano Solo & Guests
1) ジャスティン・ハーウィッツ(Justin Hurwitz 1985-) 映画「ラ・ラ・ランド」より 「ミアとセバスチャンのテーマ」
2) ヴラディーミル・コスマ 映画「キュリー夫妻 その愛と情熱」より 「Mouvement perpetuel」
3) ヤン・ティルセン(Yann Tiersen 1970-) 映画「アメリ」より 「アメリのワルツ」
4) ニーノ・ロータ(Nino Rota 1911-1979) 映画「8 1/2」より 「テーマ」
5) ジョン・ウィリアムズ 映画「シンドラーのリスト」より 「メインテーマ」
6) ニーノ・ロータ 映画「山猫」より 「別れのワルツ」
7) ニーノ・ロータ 映画「ゴッドファーザー」より 「愛のテーマ」
8) カルロス・ダレッシオ(Carlos d'Alessio 1935-1992) 映画「インディア・ソング」
9) ヴラディーミル・コスマ 映画「Un Elephant ca trompe enormement」より 「象のバラード」
10) ニーノ・ロータ 映画「カビリアの夜」より 「L’Illusionista」
11) ミシェル・ルグラン 映画「愛のイエントル」より 「イエントル・メドレー」
12) フィリップ・サルド 映画「すぎ去りし日の…」より 「エレーヌの歌」
13) フィリップ・サルド 映画「ボー・ペール」より 「ボー・ペール」
14) ヴラディーミル・コスマ 映画「ディーバ」より 「プロムナード・センチメンタル」
15) ジャン・ヴィエネル 映画「現金に手を出すな」より 「グリスビーのブルース」
16) エンニオ・モリコーネ 映画「華麗なる女銀行家」より 「献身」
17) 坂本龍一 映画「戦場のメリークリスマス」より 「メインテーマ」
18) ジョン・ウィリアムズ 映画「スター・ウォーズ」より 「フォースのテーマ」
19) フィリップ・グラス(Philip Glass 1937-) 映画「めぐりあう時間たち」より 「ポエット・アクツ」
20) ジャスティン・ハーウィッツ 映画「ファースト・マン」より 「隔離」
21) ヴラディーミル・コスマ 映画「Montparnasse-Pondichery」より 「想い出のようにやさしい」
22) フィリップ・ロンビ(Philippe Rombi 1968-) 映画「戦場のアリア」より 「親交の賛歌」
23) ジャン・ヴィエネル(Jean Wiener 1896-1982) 映画「Lettres d’amour en Somalie」
24) ステファン・グラッペリ(Stephane Grappelli 1908-1997) 映画「バルスーズ」より 「ロ―ルス」
25) フィリップ・サルド 映画「愛人関係」より 「メインテーマ」
26) ヴラディーミル・コスマ 映画「ナチスの亡霊」より 「メインテーマ」
27) エンニオ・モリコーネ 映画「Gente di rispetto」より 「メインテーマ」
28) ニーノ・ロータ 映画「若者のすべて」より 「ロッコの恋」
 ヴォーカル: 8)ヴァネッサ・パラディ(Vanessa Paradis 1972-)、12)カメリア・ジョルダナ(Camelia Jordana 1992-)、20)サビーヌ・ドゥヴィエル(Sabine Devieilhe 1985-)
 ヴァイオリン: 16)ネマニャ・ラドゥロヴィチ(Nemanja Radulovic 1985-)
 クラリネット: 24)ミシェル・ポルタル(Michel Portal 1935-)
 スネアドラム: 24)バティスト・ドルト(Baptiste Dolt)
 2022年の録音。
 なお、タローは【CD1】の4)ではラチェット&スライドホイッスルも担当している。
 名作映画の劇伴に優れたものが多いことはたびたび指摘され、音楽と映画の共立性、互いにインスパイアを受ける関係性なども様々に指摘されているものだけれど、映画音楽というのは、とにかく、映画鑑賞者の気持ちを映画にのめり込ませるための引力を与えるため、あるいみ直情的と形容したいほどにストレートな性格を持っていて、いわゆる音楽芸術としての抽象性より能弁な性格をもっていて、それゆえに親しみやすい反面、安っぽさを感じさせることもあるわけだが、それゆえに単純に音楽作品としても楽しみやすい性質がある。コアなクラシックアンには敬遠される要素を持ち合わせていることは承知しているが、そのこと踏まえてさえいれば、気負わずに楽しめるだろう。特に、当番におけるタローのような洗練を感じさせる解釈を経たものであれば。
 冒頭のルグランの「おもいでの夏」のピアノの3連音を聴いただけで、その澄み切った響きと、陰影のくっきりした輪郭に、展開は十分期待できる。そして、CD1のパートでは、パッパーノ指揮のオーケストラが見事。さすがパッパーノと言いたくなるようなカンタービレの扱いの巧さがあり、ピアノとのバランスもとても良い。個人的には、劇的なルグランの「風のささやき」、感傷的なモリコーネの「ニュー・シネマ・パラダイス」、旋律美の際立つハムリッシュの「追憶」、情熱的なモリコーネの「彼女の瞳の色」あたりが、特に強く印象に残る。タローの清冽で鋭いピアニズムは、不必要にベたつかず、こらの楽曲を続けざまに聞いた時に、食傷気味になる作用をうまく抑制できており、うまい。また、これらの「ピアノとオーケストラのサウンド」と「映画」との相性を決定的なものとしたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の影響は、様々なところで感じ取れるろころでもある。  CD2は、ピアノ・ソロが多く、結果的に、より落ち着いた聴き味になっている。ヴォーカル曲が3曲含まれているのもいいアクセントになっている。このあたり、タローのバルバラへのトリビュート・アルバムを彷彿とさせる部分もある。また、バルバラのトリビュート・アルバムもそうだが、当然のことながら、これらの音源は「オリジナル・サウンドトラック」ではなく、タローという芸術家が中心となって、「解釈・再現」したものなので、とにかく原典主義、あるいは、オリジナル至上主義の方には、当初から不向きのアルバムであることは、注意した方がいいだろう。ジョン・ウィリアムズの「フォースのテーマ」だって、当アルバムでは、とてもしっとりとした感触でピアノで奏でられていて、あくまでこれはタローのアルバムなのだということを強く印象付ける。ロータの名旋律、そして日本では人気の高い坂本龍一の楽曲も、ラインナップにあって、その選曲もまた、一興以上に気を引くものとなっている。

チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲  ヴィエニアフスキ ヴァイオリン協奏曲 第2番  ブラームス ヴァイオリン協奏曲  シューマン ヴァイオリン協奏曲
vn: ベル アシュケナージ指揮 ドホナーニ指揮 クリーヴランド管弦楽団

レビュー日:2008.2.23
★★★★★ ジョシュア・ベルの代表的協奏曲録音でしょう
 1967年アメリカ生まれのユダヤ系ヴァイオリニスト、ジョシュア・ベル(Joshua Bell)によるヴァイオリン協奏曲集。かつてリリースされた2枚のアルバムを2枚組にまとめた再編集廉価版。収録曲はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、ヴィエニアフスキのヴァイオリン協奏曲第2番、ブラームスのヴァイオリン協奏曲、シューマンのヴァイオリン協奏曲の4曲。いずれもオーケストラはクリーヴランド管弦楽団だが、指揮者はチャイコフスキーとヴィエニアフスキではアシュケナージ(1988年録音)、ブラームスとシューマンではドホナーニ(1994年録音)が務める。
 ベルのヴァイオリンはやや線が細いというのが第一印象だが、弓使いが柔らかく、そのため軽い音から重い音への移り変わりが自然で、非常になめらかに聴こえる。ソフト・フォーカスされた現代的なマイルドな音色ということが言える。繰り返し聴くと、その魅力が良く分かってきて、気持ちよく音楽を楽しんで聴くことができる。
 ここで収録されている4曲はいずれもバックが好演で、録音も優秀なのがうれしい。アシュケナージの指揮はいつものようにやや早めのインテンポを主体とするが、自然力学に反しないタメが心地よく決まり、音楽の品格が高く躍動的だ。特にチャイコフスキーは名演だろう。ヴィエニアフスキは特に終楽章で独奏者の更なるマジックを期待する向きもあるかもしれない。ドホナーニもよい。非常に凛々しいシャープな響きで、ブラスセクションの階層的な響きが心地よい。ことにブラームスの終楽章の推進力は聴き所だ。シューマンもリリカルな表現で、独奏ヴァイオリンと一体となった交響曲を聴くようだ。

Nordic Violin Favourites
vn: クラッゲルード エンゲセト指揮 ダーラ・シンフォニエッタ

レビュー日:2017.7.24
★★★★★ ヴァイオリン作品の「隠れ宝庫」である北欧音楽の魅力を伝える一枚
 ノルウェーのヴァイオリニストであり、北欧の作品の演奏をライフワークとしているヘンニング・クラッゲルード(Henning Kraggerud 1973-)による「北欧のヴァイオリン小品集」と題したアルバム。ヴァイオリン独奏と管弦楽による作品を集めている。オーケストラは、やはりノルウェーの指揮者であるビャルテ・エンゲセト(Bjarte Engeset 1958-)とダーラ・シンフォニエッタ。録音は2011年。収録曲は以下の通り。
1) オールセン(Sparre Olsen 1903-1984) ロムの6つの民謡 op.2 (ヴァイオリンと管弦楽編)
2) アッテルベリ(Kurt Atterberg 1887-1974) 組曲 第3番 op.19-1 (2つのヴァイオリンと弦楽オーケストラ編)
3) ステンハンマル(Wilhelm Stenhammar 1871-1927) 2つの感傷的なロマンス op.28
4) ブル(Ole Bull 1810-1880) ハバナの思い出
5) ブル セーテル訪問(ヴァイオリンと弦楽オーケストラ編)
6) ハルヴォルセン(Johan Halvorsen 1864-1935) ノルウェー舞曲 第3番
7) シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957) ユモレスク 第1番 ニ短調 op.87-1
8) シベリウス ユモレスク 第2番 ニ長調 op.87-2
9) シベリウス ユモレスク 第3番 ト短調 op.89a
10) シベリウス ユモレスク 第4番 ト短調 op.89b
11) シベリウス ユモレスク 第5番 変ホ長調 op.89c
12) シベリウス ユモレスク 第6番 ト短調 op.89d
13) シンディング(Christian Sinding 1856-1941) 夕べの気分 op.120a
 オールセン、ブル、ハルヴォルセン、シンディングはノルウェーの、アッテルベリ、ステンハンマルはスウエーデンの作曲家。それにフィンランドの大家、シベリウスの作品が組まれている。
 北欧の作曲家には「ヴァイオリン」に深く通じた人が多い。オールセン、ブル、ハルヴォルセンはいずれもヴァイオリニストとしても名を馳せた人たちで、シベリウス、シンディングもヴァイオリニストを目指してその音楽家としてのキャリアをスタートさせている。アッテルベリはチェリストであったことを踏まえると、当盤に収録されたピアニスト作曲家はステンハンマルのみとなる。
 私自身、「北欧の音楽」と聴いて想像するのは、弦楽器的な呼吸の長い旋律線を持った音楽である。シベリウスのヴァイオリン協奏曲がその象徴だろうか。
 当盤に収録された楽曲たちを聴いて、その印象に相通じるものが多いことに気づく。いずれもどこかほの暗く、旋律にどこか冷風を運んでくるような雰囲気が漂っている。アッテルベリの組曲第3番は、メーテルリンク(Maurice Maeterlinck 1862-1949)の戯曲「ベアトリス尼」の付随音楽として書かれた急-緩-急の3つの楽章からなる音楽だが、その第3楽章のテンポの早いワルツのリズムで歌われる憂鬱さを湛えながら淡々と続いていくような旋律がその代表的なものだろう。ステンハンマルの「2つの感傷的なロマンス」も美しさと暗さの同居するクールさが魅力だ。
 いずれの楽曲も悲しい色合いを感じさせるが、悲劇的というより牧歌的な風情を併せて感じさせる。そして、それらの楽曲のスタイルを、クラッゲルードは実に美しく表現している。呼吸が自然で、流線形のさりげなさを持ちながら、旋律の持つ情緒はきちんとした重みをもって奏でられる。飄々としているが、大事なことはしっかり刻印して進む。
 シベリウスの楽曲の存在感は流石といったところだが、ブルの古典的美観を湛えた名品、オールセンやハルヴォルセンの民俗的情緒を湛えた小品も聴きどころがあり、いずれも美しく、全体的な統一感が心地よい一枚になっている。


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