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オムニバス(オーケストラ)



シャイー ドホナーニ ハイティンク ネーメ・ヤルィ コンヴィチュニー その他


シャイー


Conducts Royal Concertgebouw
シャイー指揮 コンセルトヘボウ管弦楽団

レビュー日:2005.3.27
★★★★★ よくぞ発売してくれた!
 リッカルド・シャイーがコンセルトヘボウ管弦楽団を振ったライヴ音源集でCD13枚+DVD1枚(しかもCDはほとんど70数分の長時間収録!。ライヴ録音であるが、全般に録音の品質も安定している。
 演目がたいへん魅力的。なかなかライヴラリ的に揃え難いが、しかし魅力的な作品がならんでいる。
 ベリオの諸作品(2台のピアノと管弦楽のための協奏曲、レクイエス、フォーク・ソングス、フォルマツィオーニ、コンチェルト II)はシャイーの色彩豊かな表現によって見事に息づいているし、リームの近代的な管弦楽書法を志した力強い作品「黒と赤の踊り」も見事。ツェムリンスキー(人魚姫)やシェーンベルク(室内交響曲第1番)、ドビュッシー(カンマ)、プロコフィエフ(交響曲第3番)、ヴァレーズ(アメリカ)などどれも素晴らしい演奏。
 ゲストもなかなか豪華だ。アルゲリッチ、ピリス、ツィンマーマン(vn)、ブラウディガムなどもいるが、私が特に気に入ったのはミンツ(バルトーク・vn協1)、カニーノ(ベリオ・2台のp協奏曲)、ネス(ベリオ・民謡集)、ハレル(ショスタコーヴィチ・vc協2)など・・・
 他にシャイーのレパートリーには珍しいベートーヴェンの交響曲第2番も収録されているし、ストラヴィンスキーのアゴン(管弦楽団の妙技爆発!)、ブルックナーのミサ曲第3番も面白い!ケウリス(ティンパン)、ディーペンブロック(大いなる沈黙の中で)、シャット(天国~12の交響的変奏)、マデルナ(フランツ・カフカ「審判」による習作)といったオランダの古今のマイナーな作曲家の作品などなども貴重な録音。
 マーラーの第8交響曲は全曲収録されているし(スローテンポで第2部が美しい仕上がり)、チャイコフスキーの第1交響曲のようなオーソドックスな作品もいい演奏だ。
 DVDには100分間かけてストラヴィンスキーの「火の鳥」「プルチネッラ」「春の祭典」が収録されている。

Filarmonica Della Scala
シャイー指揮 ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2017.3.24
★★★★★ シャイーとスカラ座フィルによる「始まり」を強く感じさせる1枚
 デッカと30年という長期の契約を結んでいる現代を代表する指揮者、リッカルド・シャイー(Riccardo Chailly 1953-)は、その録音キャリアをベルリン放送交響楽団とスタートし、1988年から2004年までロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の常任指揮者として、2005年から2015年まではライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターとして、輝かしい成果を挙げてきた。
 そして、2016年からは、母国イタリアのミラノ・スカラ座の音楽総監督に就任し、そのキャリアを重ねることとなった。当盤は、「スカラ座の序曲、前奏曲、間奏曲」と題して2016年に録音された就任記念アルバム。収録曲は以下の通り。
1) ヴェルディ(Giuseppe Verdi 1813-1901) 歌劇「一日だけの王様」 序曲
2) ヴェルディ 歌劇「十字軍のロンバルディア人」 第3幕への前奏曲
3) カタラーニ(Alfredo Catalani 1854-1893) 歌劇「ワリー」 第3幕への前奏曲
4) ロッシーニ(Gioachino Rossini 1792-1868) 歌劇「試金石」序曲
5) ドニゼッティ(Gaetano Donizetti 1797-1848) 歌劇「パリのウーゴ伯爵」 序曲
6) ベッリーニ(Vincenzo Bellini 1801-1835) 歌劇「ノルマ」序曲
7) ジョルダーノ(Umberto Giordano 1867-1948) 歌劇「シベリア」 第2幕への前奏曲
8) プッチーニ(Giacomo Puccini 1858-1924) 歌劇「蝶々夫人」 第2幕より間奏曲
9) プッチーニ 歌劇「エドガール」 第4幕への前奏曲
10) ポンキエッリ(Amilcare Ponchielli 1834-1886) 歌劇「ジョコンダ」より「時の踊り」
11) レオンカヴァッロ(Ruggero Leoncavallo 1857-1919) 歌劇「道化師」間奏曲
12) レオンカヴァッロ 歌劇「メディチ家の人々」 第1幕への前奏曲
13) レオンカヴァッロ 歌劇「メディチ家の人々」 第3幕への前奏曲
14) ボーイト(Arrigo Boito 1842-1918) 歌劇「メフィストーフェレ」 前奏曲
 とても戦略的で、「これからイタリア音楽をどんどん紹介していきますよ」といったプログラム。いずれもミラノで初演された歌劇。有名曲とそうでない曲を織り交ぜて、とても魅力的にプレゼンテーションしてくれる。
 これらの楽曲は、いずれもイタリア・オペラに相応しい明朗な旋律性を持ち、高揚感を持ったもの。その分、聴き味が薄くなるところはあるが、シャシーの明晰で感覚的な鋭さを持った解釈は、そのような弱みを感じさず、聴き手を楽しませてくれる。そして、ドニゼッティの歌劇「パリのウーゴ伯爵」、ジョルダーノの歌劇「シベリア」第2幕への前奏曲、ボーイトの歌劇「メフィストーフェレ」前奏曲といった楽曲は、私にとっては発見でもあり、そういった点でも楽しませていただいた。特にドニゼッティの楽曲は、対比感の強い楽器の扱いとともに、濃厚なドラマ性があり、物語へ誘引する力を強く感じさせる。
 他に特に印象に残ったものを挙げる。
 ベッリーニの歌劇「ノルマ」序曲。一つ一つの音をくっきりと響かせながら、畳み掛けるような疾走感により、劇的な効果を得ている。ポンキエッリの「時の踊り」は誰でも聴いたことのある通俗曲だが、あらためて洗練した表現で、新鮮かつ色彩豊かな一遍になっている。プッチーニの歌劇「蝶々夫人」の第2幕の間奏曲は有名なものだけれど、改めてこの歌劇の舞台である長崎の夜明けを描いたものとして、味わわせていただいた。弦の効果的な響き、どことなくエスニックな音調が、感覚的な美観で整然と並んでいて、その美しさにあらためて感動する。レオンカヴァッロの歌劇「メディチ家の人々」第1幕への前奏曲では、狩のホルンを思わせる金管の透明で自然な響きが美しい。金管の豊かな響きは当盤を締めくくるボーイトの歌劇「メフィストーフェレ」前奏曲でも魅力いっぱいだ。
 もちろん、ヴェルディやロッシーニといった大御所の音楽も、シャイーらしい明朗透明な響きが満ちている。

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ドホナーニ


The Cleveland Orchestra/Christoph von Dohnányi - Live Performances 1984 through 2001
ドホナーニ指揮 クリーヴランド管弦楽団

レビュー日:2016.2.19
★★★★★ ドホナーニ/クリーヴランド管弦楽団の黄金時代のライヴ音源が一挙10枚にまとまった自主制作盤です。
 クリストフ・フォン・ドホナーニ(Christoph von Dohnanyi 1929-)がクリーヴランド管弦楽の音楽監督を務めたのは1984年から2002年にかけてである。この間、デッカ・レーベルを中心に、様々な楽曲に意欲的な録音が行われた。
 ドホナーニのスタイルは、オーケストラの機能性を磨き上げ、構築した音響美を軸として、完璧といってよいほどコントロールされた音楽を醸成するもので、それは、クリーヴランド管弦楽団と素晴らしい相性を示した。それで、私はこの頃の彼らの録音を一通り聴いてきた。しかし、その一方で、彼らのスタイルが広く愛されたかと言うと、残念ながらそうとは言えないかもしれない。例えばワーグナーの指輪4部作の録音企画など、ワルキューレまでで中座してしまった。全曲録音が完成していれば、と思わず夢想してしまう素晴らしい内容だと、私は思うのだけれど、そうはならなかったということは、世間の評価がそれほど芳しくなかったのだろう。
 そんなわけで、必ずしも彼らの実力に相応しい録音が、質・量の両面で十分に記録されたとは、私は思わないのだけれど、この10枚組の自主制作版は、そんな餓えを一気に潤してくれる内容だ。1984年から2001年にかけて、まさに彼らの全盛期といっても良い時代のライヴ録音をまとめたもので、その選曲も含めてよく考え抜かれたものとなっている。末尾に収録されているシベリウスのみがアレン劇場で収録されたものだが、他はすべてクリーヴランド、セヴェランス・ホールでデジタル収録されたものであり、音質的にもなんら不満はない。CD10枚の収録内容は以下の様なもの。
【CD1】
1) シェーンベルク(Arnold Schoenberg 1874-1951) オラトリオ「ヤコブの梯子」(1984年録音)
 ガブリエル: ジュリアン・パトリック(Julian Patrick 1927-2009 バリトン)
 招集者: ウィリアム・ジョーズ(William Johns 1936- テノール)
 扇動者: ヤロスラフ・カーヘル(Jaroslav Kachel 1932- テノール)
 格闘家: アンドリュー・フォルディ(Andrew Foldi 1926-2007 バス・バリトン)
 傍観者: オスカー・ヒルデブラント(Oskar Hildebrandt 1943- バリトン)
 僧侶: リチャード・ブルンナー(Richard Brunner テノール)
 死人: ヘルガ・ピラルツィク(Helga Pilarczyk 1926-2011 ソプラノ)
 魂: セリーナ・リンズレイ(Celina Lindsley ソプラノ)
2) シェーンベルク ワルシャワの生き残り(1985年録音)
 語り: ギュンター・ライヒ(Gunther Reich 1921-1989)
3) シェーンベルク 管弦楽のための変奏曲 op.31(1989年録音)
【CD2】
1) ワーグナー(Richard Wagner 1813-1883) 「リエンツィ」序曲(1996年録音)
2) ブルックナー(Anton Bruckner 1824-1896) 交響曲 第4番 変ホ長調「ロマンティック」(2000年録音)
【CD3】
1) ショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovitch 1906-1975) 交響曲 第1番 ヘ短調 op.10(1998年録音)
2) チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky 1840-1893) 交響曲 第4番 ヘ短調 op.36(2000年録音)
【CD4】
1) ルトスワフスキ(Witold Lutoslawski 1913-1994) 葬送音楽(2001年録音)
2) バルトーク(Bela Bartok 1881-1945) 弦楽のためのディヴェルティメント(1998年録音)
3) プロコフィエフ(Sergei Prokofiev 1891-1953) 交響曲 第1番 ニ長調 op.25「古典交響曲」(2000年録音)
4) ヒンデミット(Paul Hindemith 1895-1963) ウェーバーの主題による交響的変容(1994年録音)
【CD5,6】
1) シューベルト(Franz Schubert 1797-1828) 交響曲 第5番 変ロ長調 D.485(1997年録音)
2) アダムズ(John Adams 1947-) ワンダー・ドレッサー(1990年録音)
3) マーラー(Gustav Mahler 1860-1911) 交響曲 第2番 ハ短調「復活」(1998年録音)
 ソプラノ: ルート・ツィーザク(Ruth Ziesak 1963-)
 メゾ・ソプラノ: ナンシー・モルツビー(Nancy Maultsby 1946-)
【CD7】
1) ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827) 交響曲 第5番 ハ短調 op.67「運命」(2001年録音)
2) ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897) ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 op.83(1998年録音)
 ピアノ: ギャリック・オールソン(Garrick Ohlsson 1948-)
【CD8】
1) リスト(Franz Liszt 1811-1886) 交響詩 第3番「前奏曲」(1995年録音)
2) ベルリオーズ(Hector Berlioz 1803-1869) 「ファウストの劫罰」より メヌエット 妖精の踊り ハンガリー行進曲(1996年録音)
3) ドビュッシー(Claude Debussy 1862-1918) 牧神の午後への前奏曲(1998年録音)
4) メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn Bartholdy 1809-1847) 交響曲 第4番 イ長調 op.90「イタリア」(1997年録音)
【CD9】
1) ディーリアス(Frederick Delius 1862-1934) 歌劇「イルメリン」前奏曲(1988年録音)
2) ハイドン(Joseph Haydn 1732-1809) 交響曲 第88番 ト長調「V字」(1997年録音)
3) アイヴズ(Charles Ives 1874-1954) 宵闇のセントラルパーク(1998年録音)
4) ヴァレーズ(Edgar Varese 1883-1965) エクアトリアル(1985年録音)
 バリトン: ギュンター・ライヒ
5) ヤナーチェク(Leos Janacek 1854-1928) シンフォニエッタ(1998年録音)
【CD10】
1) フランク(Cesar Franck 1822-1890) 交響曲 ニ短調(1995年録音)
2) シュニトケ(Alfred Schnittke 1934-1998) 真夏の夜の夢(ではない)(1995年録音)
3) シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957) 交響曲 第5番 変ホ長調 op.82(1999年録音)
 内容を見てみると、【CD1】こそシェーンベルク作品を集めたアルバムの体となっているが、それ以外では、重複して作品を取り上げられる作曲家がおらず、古典から近現代まで、きわめて幅広い、ドホナーニらしいものとなっている。また、一部デッカなどからスタジオ録音された音源がリリースされている楽曲もあるが、ドホナーニの棒で聴いたこと自体のない楽曲も多い。さらにチャイコフスキーやメンデルスゾーンなど、ウィーンフィルとの録音が既存盤としてある楽曲についても、当盤によって、あらためてクリーヴランド管弦楽団の演奏で聴けるのが、私は嬉しい。
 全体を通して聴いてみたが、期待に違わない彼ららしい洗練された機能的な響きで、私はとても楽しむことが出来た。特に印象深かったものとして、ルトスワフスキの「葬送音楽」、この曲をドホナーニは1990年に録音しているのだけれど、その深刻な諸相の表出にあらためて楽曲の傑作性を確認できた。プロコフィエフの古典交響曲は軽快洒脱で、デュトワ(Charles Dutoit 1936-)の同曲の録音にメタリックな光沢を加えたような大快演。ヒンデミットの「ウェーバーの主題による交響的変容」も分かりやすく力強い線的表現がみごと。リストの交響詩「前奏曲」も力感みなぎるパーフェクトな内容だ。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」は様々な憂いが光と陰のように交錯する美演で驚かされる。ドホナーニとクリーヴランド管弦楽団の魅力的な一面であり、フランス音楽への高い適性を示す。ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」も素晴らしい!この曲は、村上春樹の小説の影響で、同じクリーヴランド管弦楽団を振ったジョージ・セル(George Szell 1897-1970)の録音が人気のようだけれど、やはり現代的な音楽の洗練とオーケストラの合奏力といった点で、当録音が上だと思うし、ドホナーニの声部を明瞭に描き分けながら、心地よいテンポで進む棒は、実に快適だ。フランクやシベリウスの交響曲も新鮮。またアダムズやアイヴズの魅力的な楽曲も紹介してくれる。正規録音のなかったマーラーの第2交響曲が聴けるのも嬉しい。
 いずれにしてもドホナーニ・フアンにはまたとない企画で、なんとしても入手したくなるアイテムである。ただ、当盤は限定生産でプレス数が少ないようだ。私は、某サイトで予約注文したにもかかわらず、取り寄せ不能の通知をもらったし、別のサイトでも同様の扱いを受け、当サイトでやっと入手することが出来た。そのような状況だから、興味のある人は、多少高額でも、入手可能なタイミングで入手するのが良いと思う。再販の可能性があるのかわからないけれど、見送って後悔したくはないアイテムである。

The Cleveland Sound
ドホナーニ指揮 クリーヴランド管弦楽団

レビュー日:2017.1.13
★★★★☆ 優れた音源が集められていますが、アイテムとしての価値は微妙!
 1984年から2002年まで、クリーヴランド管弦楽団の音楽監督を務め、その後も桂冠音楽監督となっているドホナーニ(Christoph von Dohnanyi 1929-)が、音楽監督時代に録音したブルックナー(Josef Anton Bruckner 1824-1896)とマーラー(Gustav Mahler 1860-1911)の交響曲選集。CD10枚組。収録曲と録音年を記載すると、以下の通り。
ブルックナー
交響曲 第3番 ニ短調 「ワーグナー」(録音:1993年)
交響曲 第4番 変ホ長調「ロマンティック」(録音:1989年)
交響曲 第5番 変ロ長調(録音:1991年)
交響曲 第7番 ホ長調(録音:1990年)
交響曲 第8番 ハ短調(録音:1994年)
交響曲 第9番 ニ短調(録音:1988年)
マーラー
交響曲 第1番 ニ長調「巨人」(録音:1988年)
交響曲 第4番 ト長調「大いなる喜びへの讃歌」(録音:1992年)
交響曲 第5番 嬰ハ短調(録音:1988年)
交響曲 第6番 イ短調「悲劇的」(録音:1991年)
 ブルックナーの交響曲第3番はエーザー版、第8番はハース版を使用。マーラーの第4交響曲のソプラノ独唱はドーン・アップショウ(Dawn Upshaw 1960-)。
 さて、アイテムとしての評価が非常に悩ましいというのが正直な感想だ。収録されているものの内容は素晴らしいと思うのだけれど、このような企画盤として以下の2つ大きな欠陥がある。
1) 収録漏れがあること
2) 価格が高いこと
 1)に関しては、ブルックナーの第6交響曲(1991年録音)、マーラーの第9交響曲(1997年録音)という、ドホナーニとクリーヴランド管弦楽団による重要な2つの音源が、なぜか割愛されてしまっていることが非常に痛い。特にマーラーの第9交響曲については、私がこの曲の決定的名演であると考えているものだけに、なぜ漏れてしまったのか、まったく理解不能である。ブルックナーの第6番も素晴らしいものだし、実にもったいない。
 2)については、実質的に再発売版で、さらにBOX化アイテムである点を踏まえると、当盤はかなり高価な扱いを受けているという印象。ちなみに、投稿日現在、他のウェブ上での取り扱いを確認してみたが、おおむね同程度の価格設定になっている。これは、私には正直にいって得心のいかないものである。
 以上の理由から、星5つの評価は回避せざるを得ないのであるが、ドホナーニとクリーヴランド管弦楽団によるこれらの録音は見事なものだ。完璧と言って良いアンサンブル、オーケストラの機能美をフルに活かした、瑞々しい音響が作られており、ドホナーニの明晰な音つくりにより、実に鮮明な印象をもたらす。特に印象的なところを紹介しよう。
 ブルックナーの第7交響曲では高精度の表現の絶対的美観が魅力。曇りのない澄み切ったサウンドに満ちている。冒頭の低弦の響きは、ゆったり歌わせるというよりは、感性に即した前進性を感じるが、この旋律はそれでも透明な情感を宿し、情緒をたちまち昇華するように高まらせてくれる。頂点で鳴り響く金管は明朗で大地を照らすように反射する。敬愛するワーグナーの死を悼んで書かれた有名な第2楽章は、透明なソノリティゆえの陽射しを感じ、その印象は「暖かさ」として聴き手に伝えられる。人によっては、ブラスの響きにもう少し情感があった方がいいと感じるかもしれないが、決して無機的な響きというわけでなく、精度の高い安定した音だと思う。後半の2つの楽章はやや速めのテンポで颯爽としたスタイリッシュな響き。この曲の場合、浪漫的な終楽章をどうまとめるのかが唯一難しいところだと思うけれど、ドホナーニの引き締まった表現は良い方向に作用しているだろう。
 ブルックナーの第3交響曲は非常にオーソドックスな通力を備えた解釈で、そのためむしろブルックナーの純朴な一面が、素直に表現されるような好ましさを感じる。金管の響きは、金属的な光沢があるが、その合奏音の階層的な響きの印象は、音の立体的な彫像性を確保し、音楽を古典的に構成する要素となる。後半2楽章であるが、ワーグナーの引用がこれほどわかりやすい演奏というのも、なかなかないのではないか。前述の効果で、聴き手からの「音の見通し」が良くなっているためだ。それもあって、トリスタンの引用の残るエーザー版を取り上げたのではないか、と考えたくなるような気持にさえさせてくれる。これは私には魅力的な効果である。
 ブルックナーの第8交響曲では「死の予告」と表現された第1楽章のフィナーレ、それはまるでマーラーのような内因的表題性であるが、これをドホナーニは実に余計な感情を交えないような、オーケストラの機能性で押し通した演奏効果を実現している。第2楽章などそれが逆に単調さにつながる部分もあるが、アダージョの潤いに満ちた美観はまさに「壮麗で、まるで蒸留されたかのような無垢な音の洪水に強い感動を覚えさせてくれる。
 マーラーでは第6交響曲。一聴してパーカッションや弦楽器のきわめて瑞々しい鮮明な響きに驚かされる。オケの距離感がきわめて適切に再現されており、理想的な録音と言って良い。力強くストレートに進む解釈が心地よく、透明な中にも音楽的な薫りが織り込まれていて、聴き味も決して淡泊ではない。見事な「締まり」のある名演である。
 他にもブルックナーの第5交響曲は近代演奏の模範と言えるものであろう。触れたもの以外のものも含めて、いずれの録音も、この時代のドホナーニとクリーヴランド管弦楽団、そしてデッカの優れた録音技術によって記録された見事な芸術品となっている。

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ハイティンク


Bernard Haitink Royal Concertgebouw Orchestra Live
ハイテンク指揮 コンセルトヘボウ管弦楽団

レビュー日:2014.1.30
★★★★★ コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者を28年間務めた巨匠の記録
 オランダの巨匠、ベルナルド・ハイティンク(Bernard Haitink 1929-)が70歳となった2009年に、これを記念してNm ClassicsからリリースされたCD14枚からなるコンセルトヘボウ管弦楽団とのライヴ録音集。
 ハイティンクは、前任のベイヌム (Eduard van Beinum 1901-1959)の後を継ぐ形で、1961年に、32歳という若さでコンセルトヘボウ管弦楽団首席指揮者に就任し(1964年までは、ヨッフム(Eugen Jochum 1902-1987)と共同という形)、以来なんと28年間に渡り1988年までその地位を務めた。後任をシャイー(Riccardo Chailly 1953-)に譲った後も、良好な関係は続いていると言う。
 当box-setには、そんな首席指揮者時代の、1962年から1985年までのライヴの模様が収められている。商業録音には至らなかったソリストとの共演や楽曲がひしめいていて、なかなか貴重な内容。まずは収録内容の詳細をまとめたい。
【CD1】
1) モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791) ピアノ協奏曲第27番 p: カーゾン(Clifford Curzon 1907-1982)1972年録音
2) フォーレ(Gabriel Faure 1845-1924) ピアノと管弦楽のためのバラードop.19 p: カサドシュ(Robert Casadesus 1899-1972) 1962年録音
3) ラヴェル(Maurice Ravel 1875-1937) 左手のためのピアノ協奏曲 p: ワイエンベルク(Daniel Wayenberg 1929-) 1967年録音
【CD2】
1) プロコフィエフ(Sergei Prokofiev 1891-1953) ピアノ協奏曲第5番 p: アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)1977年録音
2) バーレン(Kees van Baaren 1906-1970) ピアノ協奏曲 p: ブルニウス(Theo Bruins 1929-) 1970年録音
3) バルトーク(Bartok Bela 1881-1945) ピアノ協奏曲第2番 p: アンダ(Anda Geza 1921-1976) 1970年録音
【CD3】
1) プロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第1番 vn: オイストラフ(David Oistrakh 1908-1974) 1972年録音
2) バルトーク ヴァイオリン協奏曲第2番 vn: スターン(Isaac Stern 1920-2001) 1968年録音
【CD4】
1) マルタン(Frank Martin 1890-1974) チェロ協奏曲 vc: ネルソヴァ(Zara Nelsova 1917-2002) 1970年録音
2) ウォルトン(William Walton 1902-1983) チェロ協奏曲 vc: デクロス(Jean Decroos 1932-2008) 1972年録音
【CD5】
1) ワーグナー(Richard Wagner 1813-1883) ヴェーセンドンク歌曲集 MS: ベーカー(Janet Baker 1933-) 1973年録音
2) ムソルグスキー(Modest Mussorgsky 1839-1881) 歌劇「ボリース・ゴドノーフ」より Bs: イ・クゥエイ・シェ(Yi-Kwei Sze 1915-1994) 1964年録音
3) R.シュトラウス(Richard Strauss 1864-1949) 4つの最後の歌 S: ゼーダーシュトレーム(Elisabeth Anna Soderstrom 1927-2009) 1977年録音
【CD6】
1) シェーンベルク(Arnold Schonberg 1874-1951) モノドラマ「期待」 S: ドロウ(Dorothy Dorow) 1975年録音
2) ヴェーベルン(Anton Webern 1883-1945) 管弦楽のための6つの小品 op.6 1968年録音
3) ヴェーベルン 管弦楽のための5つの小品 op.10 1969年録音
4) ベルク(Alban Berg 1885-1935) 室内協奏曲 vn: オロフ(Theo Olof 1924-) p: ブルニウス 1984年録音
【CD7】
1) ヘンツェ(Hans Werner Henze 1926-2012) アンティフォーネ 1964年録音
2) リゲティ(Ligeti Gyorgy 1923-2006) ロンティーノ 1972年録音
3) 武満徹(1930-1996) ノヴェンバー・ステップス 琵琶: 鶴田錦史(1911-1995) 尺八: 横山勝也(1934-2010) 1969年録音
4) リゲティ サンフランシスコ・ポリフォニー 1979年録音
5) ルトスワフスキ(Witold Lutoslawski 1913-1994) ミ・パルティ 1977年録音
【CD8】
1) ドビュッシー(Claude Achille Debussy 1862-1918) 6つの古代の墓碑銘 ~エッシャー(Rudolf Escher 1912-1980)による管弦楽曲版 1968年録音
2) ドビュッシー 遊戯 1968年録音
3) ラヴェル シェヘラザード S: ハーパー(Heather Harper 1930-) 1972年録音
4) ラヴェル ドゥルネシア心を寄せるドン=キホーテ Br: シャーリー=カーク(John Shirley-Quirk 1931-) 1972年録音
【CD9】
1) ルーセル(Albert Roussel 1869-1937) 組曲「くもの饗宴」 1974年録音
2) オネゲル(Arthur Honegger 1892-1955) 交響曲第5番 1967年録音
3) プーランク(Francis Poulenc 1899 -1963) 組曲「牝鹿」 1977年録音
【CD10】
1) ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky 1882-1971) バレエ音楽「オルフェウス」 1962年録音
2) ストラヴィンスキー ピアノと管弦楽のためのムーヴメンツ p: ブルニウス 1972年録音
3) ストラヴィンスキー レクイエム・カンティクルス MS: サンテ(Sophia van Sante 1925-) Bs:ライヒ(Gunter Reich 1921-1989) オランダ室内合唱団 1969年録音
4) ストラヴィンスキー エレミアの哀歌 MS: サンテ T: シュヴェッペ(Reinier Schweppe) T: ゲルヴェン(Wim van Gerven 1920-2008) Bs: ライヒ Bs:フォルディ(Andrew Foldi 1926-) オランダ室内合唱団 1968年録音
【CD11】
1) ディーペンブロック(Alphonsus Diepenbrock 1862-1921) 夜 S: ベイカー(Janet Baker 1933-) 1971年録音
2) ホルスト(Anthon van der Horst 1899-1965) リフレクション・ソノリス op.99 1965年録音
3) フロンティウス(Marius Flothuis 1914-2001) ソネット op.9 MS:ネス(Jard van Nes 1948-) 1962年録音
4) レーウ(Ton de Leeuw 1926-1996) オンブレス 1967年録音
5) ケウリス(Tristan Keuris 1946-1996) シンフォニア 1980年録音
【CD12】
マーラー(Gustav Mahler 1860-1911) 交響曲第6番「悲劇的」 1968年録音
【CD13】
ブルックナー(Josef Anton Bruckner 1824-1896) 交響曲第7番 1972年録音
【CD14】
ショスタコーヴィチ(Dmitrii Shostakovich 1906-1975) 交響曲第10番 1985年録音
 さて、これらの曲目をご覧になって、どのような感想を持たれるだろうか。私の場合、最初に感嘆したのは「レパートリーの多彩さ」である。おそらく、これこそがハイティンクが28年間も同じオーケストラを振ることが出来た大きな要素であろう。ルーチン・ワークに陥らず、オーケストラも常に新しい曲に挑戦し続けることができたに違いない。ちなみに、これらの収録曲のうちで、ハイティンクの正規録音が商業的にリリースされたものは、後半の交響曲3曲の他では、ドビュッシーの「遊戯」くらいだと思う。そういった点で、この企画は、ハイティンクという人が、無辺とも言える広大なレパートリーを持っていたことを示している。
 なお、14枚のCDは、それぞれテーマ毎に編集されている。協奏曲、声楽曲といったジャンル分けのほか、フランスもの、祖国オランダものなどによっている。
 共演者の幅広さも印象的だ。カーゾン、カサドシュ、ワイエンベルク、アンダ、オイストラフ、スターンといった往年の名手から、若き日のアシュケナージまで多士済々。また歌手陣でも、ベイカー、ハーパー、ゼーダーシュトレームといった人たちは、おそらくそれぞれ演奏家として、一番脂ののった時期の頃だし、他にもフランスのバリトン、シャーリー=カークや、中国のバス歌手、イ・クゥエイ・シェといった人もいて、興味は尽きない。なお、シェのムソルグスキーについては、第2幕のボリスのモノローグと時計の場面及び第4幕のボリスの死の場面が選ばれている。チェロのネルソヴァ、ヴァイオリンのオロフと言った人たちも、知る人ぞ知る名人で、それらが一編に聴けるのだからありがたい。
 個人的に印象深かった録音としては、まずマルタンのチェロ協奏曲、私はこの曲を初めて聴いたというのもあるけれど、楽曲自体とても面白い曲だし、オーケストラの深みを感じる響きとあいまって、重厚な聴き応えがあった。ルーセルの「くもの饗宴」は、シンフォニックなアプローチで、この楽曲にある中央ヨーロッパ的な味わいを如実に表した感がある。ラヴェルの「シェヘラザード」は思わぬ名演で、いろいろ録音がある中でも特に優れたものになると思う。実際、ラヴェルはハイティンクにとって重要な作曲家でもある。協奏曲では、アンダとのバルトークがさすがの演奏で、オーケストラの豪快な鳴りっぷりも良い。アシュケナージとのプロコフィエフは、シックにまとめるあたりに、ハイティンクのらしさがある。アシュケナージもプレヴィンとの正規録音に比べて、発色をセーヴし、テンポも速めになっている。ベルクの室内協奏曲は、オロフのヴァイオリンが味わい豊かで印象に残る。オランダものでは、ディーペンブロック、ケウリスを特に興味深く聴いた。
 ブルックナーの第7番は、ハイティンクの得意な楽曲。ハイティンクは、1961年から1988年までコンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者を務めた28年間の間に、ブルックナーの3つの交響曲を頻繁に振っている。第5番を37回、第9番を35回、それに次いで第7番を34回。これらは得意な曲であるというだけでなく、ハイティンクがこよなく愛したオーケストラ曲であったに違いない。確信に満ちたドライヴを聴くことができる。また、ショスタコーヴィチの第10番は、彼のロンドンフィルとの正規録音の9年後の演奏となるが、迫力のある内容だ。
 指揮者とオーケストラの蜜月の関係を証明する14枚組である。

The Philips Years
ハイティンク指揮 コンセルトヘボウ管弦楽団 他

レビュー日:2013.9.1
★★★★★ 堅実な良演が集積されたハイティンクの録音集
 現役バリバリのオランダの大指揮者、ベルナルド・ハイティンク(Bernard Haitink 1929-)が、Philipsレーベルに録音活動を行っていたころの録音を抜粋し、20枚組のBox-Setとした企画もの。PhilipsレーベルはDECCAレーベルとの統合により消滅したため、当盤は、DECCAレーベルからのリリースとなっている。まずは収録内容をまとめたい。
【CD1】バルトーク
1) ヴァイオリン協奏曲第2番 vn: シェリング(Henryk Szeryng 1918-1988) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1969年録音
2) 管弦楽のための協奏曲 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1960年録音
【CD2】ベートーヴェン
1) 三重協奏曲 ボザール・トリオ ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1977年録音
2) ヴァイオリン協奏曲 vn: クレバース(Herman Krebbers 1923-) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団  1974年録音
【CD3】ベートーヴェン
1) 交響曲第1番 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1975年録音
2) 交響曲第3番「英雄」 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1974年録音
【CD4】ブラームス
ドイツ・レクィエム S: ヤノヴィッツ(Gundula Janowitz 1937-) Br: トム・クラウセ(Tom Krause 1934-) ウィーン国立歌劇場合唱団 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1980年録音
【CD5】
1) ワーグナー 「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲と愛の死」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1974年録音
2) ブルックナー 交響曲第3番「ワーグナー」(エーザー版)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1988年録音
【CD6】ブルックナー
交響曲第8番(ハース版) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1969年録音
【CD7】ブルックナー
交響曲第9番 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1981年録音
【CD8】ドビュッシー
1) 夜想曲 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1979年録音
2) バレエ音楽「遊戯」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1979年録音
3) 牧神の午後への前奏曲 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1976年録音
4) 交響詩「海」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1976年録音
【CD9】
1) ドヴォルザーク 交響曲第7番 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1959年録音
2) スメタナ 交響詩「モルダウ」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1961年録音
3) シューベルト 交響曲第8番「未完成」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1975年録音
【CD10】リスト
1) ピアノ協奏曲第1番 p: ブレンデル(Alfred Brendel 1931-) ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1972年録音
2) ピアノ協奏曲第2番 p: ブレンデル ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1972年録音
3) 死の舞踏 p: ブレンデル ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1972年録音
4) メフィスト・ワルツ第1番 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1972年録音
5) 交響詩第3番「前奏曲」 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1968年録音
【CD11】マーラー
交響曲第6番「悲劇的」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1969年録音
【CD12】マーラー
交響曲第9番 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1969年録音
【CD13】
1) モーツァルト 序曲集(「魔笛」、「ドン・ジョヴァンニ」、「コジ・ファン・トゥッテ」、「フィガロの結」、「後宮からの誘拐」、「イドメネオ」、「劇場支配人」、「ルーチョ・シッラ」) ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1976年、1980年録音
2) ハイドン 交響曲第99番 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1964年録音
【CD14】ラヴェル
1) バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲 タングルウッド祝祭合唱団 ボストン交響楽団 1989年録音
2) 道化師の朝の歌 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1971年録音
3) ラ・ヴァルス ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1975年録音
【CD15】
1) ハイドン 交響曲第96番「奇蹟」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1964年録音
2) シューベルト 交響曲第9番「グレイト」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1964年録音
【CD16】R.シュトラウス
1) 交響詩「英雄の生涯」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1970年録音
2) 交響詩「死と変容」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1981年録音
【CD17】
1) チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 vn: グリュミオー(Arthur Grumiaux 1921-1986) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1960年録音
2) メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 vn: グリュミオー ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1960年録音
3) ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番 vn: グリュミオー ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1962年録音
【CD18】チャイコフスキー
1) 交響曲第1番「冬の日の幻想」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1979年録音
2) 交響曲第2番「小ロシア」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1977年録音
【CD19】
1) ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1974年録音
2) ワーグナー 「パルジファル」第1幕への前奏曲 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1974年録音
3) ワーグナー 「ローエングリン」第1幕への前奏曲 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1974年録音
4) ワーグナー 「ローエングリン」第3幕への前奏曲 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1974年録音
5) ブラームス 交響曲第3番 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1970年録音
【CD20】
1) アンドリーセン(Louis Andriessen 1939-) 交響的練習曲 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1960年録音
2) ストラヴィンスキー 組曲「火の鳥」(1919年版) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1961年録音
3) 武満徹(1930-1996) ノヴェンバー・ステップス 尺八:横山勝也(1934-2010) 琵琶:鶴田錦史(1911-1995)  ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1969年録音
4) メシアン さればわれ死者のよみがえるを待ち望む ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1969年録音
 個人的な思い出話で恐縮だが、そもそも私がクラシック音楽を聴くようになったのは、アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)とハイティンク指揮コンセルトヘボウ管弦楽団によるラフマニノフのピアノ協奏曲を聴いて大きな感銘を受けたからだ。以来、アシュケナージのレコードを増やすことで、私の聴く音楽の裾野は広がったが、ハイティンクもまた、気になる存在となった。
 実際、このころのハイティンクのレコーディング・レパートリーは広大で、例えば、ブルックナーとマーラーの双方の交響曲全集をレコーディングしたのは、この人が最初だったのではないか、と思う。ハイティンクは1961年から1988年までアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団で、1967年から1979年までロンドン・フィルハーモニー管弦楽団で首席指揮者を務めた。この2つの世界的オーケストラを、これだけ長く振っていたというのも、特徴的なキャリアであるし、この時期というのは、いろいろと積極的な録音が展開された時期にも重なっている。
 一方で、ハイティンクの才能が当初から広く認識されていたかと言うと、そうではない。特に日本の批評は彼に対して芳しいものではなく、いわゆる「粗製乱造」とまでは言わないまでも、それに近いもの言いをされていたし、それは当時の関連書物のいくつかに目を通せばあきらかである。
 しかし、いま改めてこれらの録音を聴いてみると、そのオーソドックスで暖かい音色と、豊かな中声部のふくらみを持った響きは、紛れもなく中央ヨーロッパのオーケストラ・サウンドを体現していて、無理のないテンポ設定や、堅実な解釈と併せて、普遍的とも言える価値を有しているものであったと思う。
 いくつか、私の好きな録音を挙げよう。【CD7】のブルックナーの交響曲第9番は、内的調和を重んじながら、外向的力感を打ち出した強固なバランス感覚が魅力だ。【CD10】のリストはブレンデルの独奏と併せて、シックな重量感に溢れた名演。【CD20】の武満の名作への、ハイティンクの感性を活かしたアプローチは興味深い。【CD19】のブラームスはほとんど話題になったことがないが、内省的な深みがあり、滋味豊かな好演。また、今回初めて聴いた【CD9】のドヴォルザークの交響曲第7番は、思わぬ熱演で、若きハイティンクの膂力が秘められた影の名演と思う。
 それにしても、20枚セットでこの価格というのは、CD初期を考えると隔世の感がある。私は【CD4】に収録してされているブラームスの「ドイツ・レクィエム」については、90年過ぎ頃に購入したのだが、(一応「運命の歌」が併録された2枚組とはいえ)それだけで、5,600円もしたものだ。それを考えると、今のこのアイテムはお買い得以外のなにものでもないだろう。
 ちなみに、当ボックスセットに収録されなかったものにも、ハイティンクの特に70~80年代の録音には名演・良演が溢れているので、機会があったらそちらも聴いていただきたく思う。

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ネーメ・ヤルヴィ


Neeme Jarvi / Gothenburg Symphony Orchestra
ヤルヴィ指揮 エーテボリ交響楽団 他

レビュー日:2018.12.19
★★★★★ 既発版からの再構成を含むネーメ・ヤルヴィとエーテボリ交響楽団のBox-set
 広大なレパートリーをもち、数多くの作品に優れた解釈を施したネーメ・ヤルヴィ(Neeme Jarvi 1937-)が、エーテボリ交響楽団とグラモフォン・レーベルに録音した北欧系音楽作品から、CD8枚分を抽出し、Box化したもの。まず収録内容をまとめよう。
【CD1】
1) アルヴェーン(Hugo Alfven 1872-1960) スウェーデン狂詩曲 第1番 「夏至の徹夜祭」 op.19 1995年録音
2) ハルヴォルセン(Johan Halvorsen 1864-1935) ロシア領主たちの入場行進曲 2002年録音
3) ヤルネフェルト(Armas Jarnefelt 1869-1958) 子守歌 2002年録音
4) シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957) 劇音楽「クオレマ」 op.44より 「悲しきワルツ」 1995年録音
5) ヴィレーン(Dag Wiren 1905-1986) セレナード op.11より 「行進曲」 2002年録音
6) ラーション(Lars-Erik Larsson 1908-1986) 田園組曲 op.19より 「ロマンス」 2002年録音
7) ラウタヴァーラ(Einojuhani Rautavaara 1928-2016) カントゥス・アークティクス(鳥と管弦楽のための協奏曲)より 「The Bog」 2002年録音
8) ステーンハンマル(Wilhelm Stenhammar 1871-1927) カンタータ「歌」より 「間奏曲」 2002年録音
9) ニールセン(Carl Nielsen 1865-1931) 歌劇「仮面舞踏会」 序曲 1995年録音
10) ロンビ(Hans Christian Lumbye 1810-1874) コペンハーゲンの蒸気機関車のギャロップ 2002年録音
11) ヤルネフェルト 前奏曲 2002年録音
12) グリーグ(Edvard Grieg 1843-1907) 2つの悲しき旋律 op.34より 第2曲 「過ぎにし春」 1992年録音
【CD2】
1) ベルワルド(Franz Adolf Berwald 1796-1868) 交響曲 第3番 ハ長調 「サンギュリエール」 1985年録音
2) ベルワルド 交響曲 第4番 変ホ長調 1985年録音
【CD3】
グリーグ 劇音楽「ペール・ギュント」 op.23 抜粋 1987年録音
【CD4】
1) グリーグ ノルウェー舞曲 op.35 1986年録音
2) 抒情小品集 op.54 1986年録音
3) 交響的舞曲 op.64 1986年録音
【CD5】
1) ニールセン 交響曲 第5番 op.50 1991年録音
2) ニールセン 交響曲 第6番「素朴な交響曲」 1992年録音
【CD6】
1) シベリウス カレリア組曲 op.11 1992年録音
2) シベリウス 交響詩「大気の精(ルオンノタール)」 op.70 1992年録音
3) シベリウス アンダンテ・フェスティーヴォ 1994年録音
4) シベリウス 交響詩「大洋の女神(海の精)」 op.73 1995年録音
5) シベリウス 組曲「クリスチャン二世」 (夜想曲、エレジー、ミュゼット、セレナード、バラッド) op.27 1995年録音
6) シベリウス 交響詩 「フィンランディア」 op.26 1992年録音
【CD7】
1) シベリウス 交響曲 第5番 変ホ長調 op.82 2002年録音(ライヴ)
2) シベリウス 交響曲 第6番 ニ短調 op.104 2005年録音
【CD8】
1) ステーンハンマル セレナード ヘ長調 op.31 1993年録音
2) ステーンハンマル 交響曲 第2番 ト短調 op.34 1993年録音
 【CD3】の合唱はエスタ・オーリン・ヴォーカル・アンサンブルとプロ・ムジカ室内合唱団。独唱はバーバラ・ボニー(Barbara Bonney 1956- ソプラノ)、ウルバン・マルムベルイ(Urban Malmberg 1962- バリトン)、マリアンヌ・エクレーヴ(Marianne Eklof 1956- メゾ・ソプラノ)、カール・グスタヴ・ホルムグレン(Carl Gustaf Holmgren1959- バリトン)、シェル・マグヌス・サンヴェー(Kjell Magnus Sandve テノール)。【CD5】2)の独唱はソイレ・イソコスキ(Soile Isokoski 1957- ソプラノ)。
 当boxの特徴として、収録曲の顔合わせという点で、既発盤から変更されたものが多いことが挙げられる。全部確認したわけではないが、既発盤で同内容のものがあるのは【CD4】と【CD6】だけではないだろうか。ニールセンやシベリウスの交響曲も、あえて既発盤と異なる組み合わせにしたのだろうか。ニールセンの交響曲では、あえて有名な第4交響曲を外したのか。とにかくそのような編集が場合、自分が所有する音源との半端な重複が生じるなど、消費者にとって、当アイテムの価値判断に悩ましさが増す傾向になると思うのだが、あえて労力をかけて構成を変更したのはそれなりの意図があるのだろう。ちなみに【CD1】は2枚組オムニバスアルバムからの抜粋版、【CD3】は全曲盤からの抜粋版ということになる。
 そのようなわけで、ライブラリの穴埋めには微妙に適さないところはあるのだけれど、内容は素晴らしいといって良い。ヤルヴィの着実で良心的なアプローチが全編で活きており、どれも安定して好演奏だ。ヤルヴィの国際的な芸術家としての学術的な視点と、北欧系音楽への愛情が、絶妙なバランスで機能した演奏とも言えるだろう。
 例えば、グリーグの作品では、特有のメロディや、フレーズのこなし方、リズム感に満ちた音節処理など、実にチャーミング。「ノルウェー舞曲」では、的確な間合いを保ちながらの整理されたスマートな響きが印象的であるが、リズムを活かした熱血的な力強さも不足なく、引き締まった運びが鮮やかに決まる。「抒情小品集」は「鐘の音」や「夜想曲」といった曲で、深い情感を醸し出し、夜の清浄空気を導くような気配がある。雰囲気に満ちた弦楽器陣の響きがこよなく美しい。「小人の行進」は迫力に満ちて壮観だ。「交響的舞曲」は、グリーグには珍しい規模の大きな作品であるが、ここでもそれを構成するのはメロディとリズム処理であることは明白で、この視点に基づいた明瞭な処理は、全曲を分かりやすく明るく照らし出す。そのような中で民俗的な高揚感に満ちた主題が鳴るのは感動的である。
 シベリウスの管弦楽曲も、その魅力を的確に伝える明晰な解釈が光る。「カレワラ組曲」の冒頭のインテルメッツォから、聴き手はシベリウスの世界に誘われる。幻想的な奥行きを感じさせる弦のトレモロから、次第に鮮明になってリズムを刻みはじめるメロディは、朝霧の中、波打つ海岸での出航風景のよう。あるいは、朝日に照らし出される森の川辺に建つ古城の風景?。様々な想像力をかきたててくれる増幅力のある音楽であり、演奏である。続くバラッドの素朴なメロディは瑞々しく歌われ、終結部の行進曲はとにかく明朗で楽しい。
 交響詩「大気の精(ルオンノタール)」ではイソコスキの精緻にコントロールされた美声が圧巻であるが、その雰囲気を存分にサポートしたオーケストラも素晴らしい出来だ。弦楽四重奏から、弦5部とティンパニの合奏作品に編曲されたアンダンテ・フェスティーヴォは、シベリウス・フアンの間では特に人気の名品だが、当盤では、その豊かな旋律が、脈々と豊かな幅をもって流れるように表現されていて、その様は、どこか「永遠」という言葉を連想させる。
 交響詩「大洋の女神(海の精)」では「穏やかさ」と「激しさ」の対比が劇的な高揚感とともに描かれる。その色彩感に印象派的な音の使用を感じ取ることができるだろう。組曲「クリスチャン二世」も名作といって良いものだ。当盤では、夜想曲の洗練された響きにまず魅了されるが、その後も自然描写的とも讃歌的とも言える豊かな音の造形は、様々な場面でシベリウスが書いた7編の交響曲を連想させる。
 シベリウスの交響曲もある意味普遍性のある解釈で、特に交響曲第6番の細やかな機微のある繊細な表現が美しい。これらの楽曲の底流にある自然謳歌的なおおらかで明瞭な歌を熱く、輝かしく歌い上げた名演奏といって良い。
 アルヴェーン、ベルワルド、ステーンハンマルといった作曲家たちの魅力を、ヤルヴィの演奏で知った人も多いに違いない。いまなお、音楽の魅力を伝えると言う気概にみちた輝かしいドライヴは、豊かな情緒を聴き手に伝えてくれる。私の好きなラウタヴァーラのカントゥス・アークティクスを取り上げてくれているのもうれしい。
 全編に輝かしいサウンドで詩情豊かに描きあげた名演奏が並んでいる。

Neeme Jarvi / Gothenburg Symphony Orchestra
ヤルヴィ指揮 エーテボリ交響楽団 他

レビュー日:2018.12.19
★★★★★ 既発版からの再構成を含むネーメ・ヤルヴィとエーテボリ交響楽団のBox-set
 広大なレパートリーをもち、数多くの作品に優れた解釈を施したネーメ・ヤルヴィ(Neeme Jarvi 1937-)が、エーテボリ交響楽団とグラモフォン・レーベルに録音した北欧系音楽作品から、CD8枚分を抽出し、Box化したもの。まず収録内容をまとめよう。
【CD1】
1) アルヴェーン(Hugo Alfven 1872-1960) スウェーデン狂詩曲 第1番 「夏至の徹夜祭」 op.19 1995年録音
2) ハルヴォルセン(Johan Halvorsen 1864-1935) ロシア領主たちの入場行進曲 2002年録音
3) ヤルネフェルト(Armas Jarnefelt 1869-1958) 子守歌 2002年録音
4) シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957) 劇音楽「クオレマ」 op.44より 「悲しきワルツ」 1995年録音
5) ヴィレーン(Dag Wiren 1905-1986) セレナード op.11より 「行進曲」 2002年録音
6) ラーション(Lars-Erik Larsson 1908-1986) 田園組曲 op.19より 「ロマンス」 2002年録音
7) ラウタヴァーラ(Einojuhani Rautavaara 1928-2016) カントゥス・アークティクス(鳥と管弦楽のための協奏曲)より 「The Bog」 2002年録音
8) ステーンハンマル(Wilhelm Stenhammar 1871-1927) カンタータ「歌」より 「間奏曲」 2002年録音
9) ニールセン(Carl Nielsen 1865-1931) 歌劇「仮面舞踏会」 序曲 1995年録音
10) ロンビ(Hans Christian Lumbye 1810-1874) コペンハーゲンの蒸気機関車のギャロップ 2002年録音
11) ヤルネフェルト 前奏曲 2002年録音
12) グリーグ(Edvard Grieg 1843-1907) 2つの悲しき旋律 op.34より 第2曲 「過ぎにし春」 1992年録音
【CD2】
1) ベルワルド(Franz Adolf Berwald 1796-1868) 交響曲 第3番 ハ長調 「サンギュリエール」 1985年録音
2) ベルワルド 交響曲 第4番 変ホ長調 1985年録音
【CD3】
グリーグ 劇音楽「ペール・ギュント」 op.23 抜粋 1987年録音
【CD4】
1) グリーグ ノルウェー舞曲 op.35 1986年録音
2) 抒情小品集 op.54 1986年録音
3) 交響的舞曲 op.64 1986年録音
【CD5】
1) ニールセン 交響曲 第5番 op.50 1991年録音
2) ニールセン 交響曲 第6番「素朴な交響曲」 1992年録音
【CD6】
1) シベリウス カレリア組曲 op.11 1992年録音
2) シベリウス 交響詩「大気の精(ルオンノタール)」 op.70 1992年録音
3) シベリウス アンダンテ・フェスティーヴォ 1994年録音
4) シベリウス 交響詩「大洋の女神(海の精)」 op.73 1995年録音
5) シベリウス 組曲「クリスチャン二世」 (夜想曲、エレジー、ミュゼット、セレナード、バラッド) op.27 1995年録音
6) シベリウス 交響詩 「フィンランディア」 op.26 1992年録音
【CD7】
1) シベリウス 交響曲 第5番 変ホ長調 op.82 2002年録音(ライヴ)
2) シベリウス 交響曲 第6番 ニ短調 op.104 2005年録音
【CD8】
1) ステーンハンマル セレナード ヘ長調 op.31 1993年録音
2) ステーンハンマル 交響曲 第2番 ト短調 op.34 1993年録音
 【CD3】の合唱はエスタ・オーリン・ヴォーカル・アンサンブルとプロ・ムジカ室内合唱団。独唱はバーバラ・ボニー(Barbara Bonney 1956- ソプラノ)、ウルバン・マルムベルイ(Urban Malmberg 1962- バリトン)、マリアンヌ・エクレーヴ(Marianne Eklof 1956- メゾ・ソプラノ)、カール・グスタヴ・ホルムグレン(Carl Gustaf Holmgren1959- バリトン)、シェル・マグヌス・サンヴェー(Kjell Magnus Sandve テノール)。【CD5】2)の独唱はソイレ・イソコスキ(Soile Isokoski 1957- ソプラノ)。
 当boxの特徴として、収録曲の顔合わせという点で、既発盤から変更されたものが多いことが挙げられる。全部確認したわけではないが、既発盤で同内容のものがあるのは【CD4】と【CD6】だけではないだろうか。ニールセンやシベリウスの交響曲も、あえて既発盤と異なる組み合わせにしたのだろうか。ニールセンの交響曲では、あえて有名な第4交響曲を外したのか。とにかくそのような編集が場合、自分が所有する音源との半端な重複が生じるなど、消費者にとって、当アイテムの価値判断に悩ましさが増す傾向になると思うのだが、あえて労力をかけて構成を変更したのはそれなりの意図があるのだろう。ちなみに【CD1】は2枚組オムニバスアルバムからの抜粋版、【CD3】は全曲盤からの抜粋版ということになる。
 そのようなわけで、ライブラリの穴埋めには微妙に適さないところはあるのだけれど、内容は素晴らしいといって良い。ヤルヴィの着実で良心的なアプローチが全編で活きており、どれも安定して好演奏だ。ヤルヴィの国際的な芸術家としての学術的な視点と、北欧系音楽への愛情が、絶妙なバランスで機能した演奏とも言えるだろう。
 例えば、グリーグの作品では、特有のメロディや、フレーズのこなし方、リズム感に満ちた音節処理など、実にチャーミング。「ノルウェー舞曲」では、的確な間合いを保ちながらの整理されたスマートな響きが印象的であるが、リズムを活かした熱血的な力強さも不足なく、引き締まった運びが鮮やかに決まる。「抒情小品集」は「鐘の音」や「夜想曲」といった曲で、深い情感を醸し出し、夜の清浄空気を導くような気配がある。雰囲気に満ちた弦楽器陣の響きがこよなく美しい。「小人の行進」は迫力に満ちて壮観だ。「交響的舞曲」は、グリーグには珍しい規模の大きな作品であるが、ここでもそれを構成するのはメロディとリズム処理であることは明白で、この視点に基づいた明瞭な処理は、全曲を分かりやすく明るく照らし出す。そのような中で民俗的な高揚感に満ちた主題が鳴るのは感動的である。
 シベリウスの管弦楽曲も、その魅力を的確に伝える明晰な解釈が光る。「カレワラ組曲」の冒頭のインテルメッツォから、聴き手はシベリウスの世界に誘われる。幻想的な奥行きを感じさせる弦のトレモロから、次第に鮮明になってリズムを刻みはじめるメロディは、朝霧の中、波打つ海岸での出航風景のよう。あるいは、朝日に照らし出される森の川辺に建つ古城の風景?。様々な想像力をかきたててくれる増幅力のある音楽であり、演奏である。続くバラッドの素朴なメロディは瑞々しく歌われ、終結部の行進曲はとにかく明朗で楽しい。
 交響詩「大気の精(ルオンノタール)」ではイソコスキの精緻にコントロールされた美声が圧巻であるが、その雰囲気を存分にサポートしたオーケストラも素晴らしい出来だ。弦楽四重奏から、弦5部とティンパニの合奏作品に編曲されたアンダンテ・フェスティーヴォは、シベリウス・フアンの間では特に人気の名品だが、当盤では、その豊かな旋律が、脈々と豊かな幅をもって流れるように表現されていて、その様は、どこか「永遠」という言葉を連想させる。
 交響詩「大洋の女神(海の精)」では「穏やかさ」と「激しさ」の対比が劇的な高揚感とともに描かれる。その色彩感に印象派的な音の使用を感じ取ることができるだろう。組曲「クリスチャン二世」も名作といって良いものだ。当盤では、夜想曲の洗練された響きにまず魅了されるが、その後も自然描写的とも讃歌的とも言える豊かな音の造形は、様々な場面でシベリウスが書いた7編の交響曲を連想させる。
 シベリウスの交響曲もある意味普遍性のある解釈で、特に交響曲第6番の細やかな機微のある繊細な表現が美しい。これらの楽曲の底流にある自然謳歌的なおおらかで明瞭な歌を熱く、輝かしく歌い上げた名演奏といって良い。
 アルヴェーン、ベルワルド、ステーンハンマルといった作曲家たちの魅力を、ヤルヴィの演奏で知った人も多いに違いない。いまなお、音楽の魅力を伝えると言う気概にみちた輝かしいドライヴは、豊かな情緒を聴き手に伝えてくれる。私の好きなラウタヴァーラのカントゥス・アークティクスを取り上げてくれているのもうれしい。
 全編に輝かしいサウンドで詩情豊かに描きあげた名演奏が並んでいる。

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コンヴィチュニー


Art of Konwitschny
コンヴィチュニー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

レビュー日:2011.7.5
★★★★★ 正当ど真ん中の素晴らしいベートーヴェンとシューマン
 フランツ・コンヴィチュニー(Franz Konwitschny 1901-1962)は往年の東ドイツの名指揮者。フルトヴェングラー時代のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団でヴィオラ奏者を務めた後に指揮者となり、同管弦楽団の首席指揮者を担った。当盤はそのゲヴァントハウス管弦楽団との録音との集大成とも言える11枚組のBOXセット。
 収録内容を書いておく。
1) ベートーヴェン 交響曲全集、「プロメテウスの創造物」序曲、「レオノーレ」序曲第1番、第2番、第3番、「フィデリオ」序曲、「コリオラン」序曲 1959-61年録音
2) シューマン 交響曲全集、「序曲、スケルツォとフィナーレ」、「ゲノヴェーヴァ」序曲、4本のホルンのためのコンチェルトシュトゥック、「マンフレッド」序曲 1960-61年録音
3) バッハ 2台のヴァイオリンのための協奏曲 ヴァイオリン協奏曲ニ短調BWV.1052 ヴァイオリン協奏曲第2番 ヴィヴァルディ 調和の霊感第8番 vn: ダヴィッド・オイストラフ イーゴリ・オイストラフ(「2台の~」とヴィヴァルディ) 1956-58年録音
4) モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」 ベートーヴェン ロマンス第1番、第2番 ヴィエニアフスキ ヴァイオリン協奏曲第2番 vn: ダヴィッド・オイストラフ、イーゴリ・オイストラフ(ベートーヴェンとヴィエニアフスキ) 1954-56年録音
 ただし、4)のモーツァルトのみオーケストラはドレスデン・シュターツカペレ。ダヴィット・オイストラフ (David Oistrakh 1908-1974)は、ソ連生まれの世界的ヴァイオリニストで、イーゴリ(Igor 1931-)はその息子。1)と2)ともにステレオ録音が残されたのがうれしい。
 さて、このベートーヴェンとシューマン、私としては「歴史的名盤」に推したいものの一つ。当時ライプツィヒではコンヴィチュニーのベートーヴェンは熱狂的に歓迎されたとされるが、このスタジオ録音からもリアルに雰囲気が伝わってくる。
 威風堂々たる正当ど真ん中の解釈が素晴らしい。自然発生的な高揚感に溢れ、確かな権威に裏打ちされたような一貫性がある。古典的な伝統の王道を堂々たる風格で歩む。中央ヨーロッパでは、コンヴィチュニーのベートーヴェンが、フルトヴェングラー、クレンペラー、ワインガルトナーと並び称されることがあるのも肯ける。と言うより、私は上記3人のうち、ワインガルトナーはほとんど聴いたことがないけれど、他の2人のベートーヴェンよりコンヴィチュニーが好きである。また、シューマンも当時の録音技術を駆使した精度で記録されており、演奏・録音から体感的な迫力が伝わってくる。オイストラフ親子のヴァイオリンも、いかにも本格志向といった風雅さと暖かみがあり、ゲヴァントハウスの音色によくマッチしている。この歴史的名盤11枚組が廉価版となった現在では、ぜひともライブラリに揃えておきたいところ。まさにヨーロッパの音楽文化の大本線と思い入るBOXセットだ。

フランツ・コンヴィチュニーの芸術
コンヴィチュニー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

レビュー日:2013.9.20
★★★★★ これはオススメ!コンヴィチュニーの名演BOX
 東ドイツの往年の名指揮者、フランツ・コンヴィチュニー(Franz Konwitschny 1901-1962)が、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団と録音した貴重な音源を集めた13枚組のBox-set。すべてステレオでセッション録音されたもの。まずは収録内容をまとめよう。カッコ内に録音年を併せて示す。
【CD1】
シューマン(Robert Schumann 1810-1856) 交響曲第1番「春」・第2番(1960-61年)
【CD2】
シューマン 交響曲第3番「ライン」・第4番(1960-61年)
【CD3】
シューマン 「序曲、スケルツォとフィナーレ」 歌劇「ゲノヴェーヴァ」序曲 「コンツェルトシュテュック」 「マンフレッド」序曲(1960-61年)
【CD4】
ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827) 交響曲第1番・第2番 バレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲 (1959-60年)
【CD5】
ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」 「レオノーレ」序曲第1番 「レオノーレ」序曲第2番(1960-61年)
【CD6】
ベートーヴェン 交響曲第4番・第5番「運命」(1960-61年)
【CD7】
ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」 「レオノーレ」序曲第3番 序曲「フィデリオ」 序曲「コリオラン」(1959-60年)
【CD8】
ベートーヴェン 交響曲第7番・第8番(1959,61年)
【CD9】
ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付」(1959,61年)
【CD10】
ベートーヴェン 合唱幻想曲 ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897) 交響曲第1番(1960,62年)
【CD11と12】
ブルックナー(Josef Anton Bruckner 1824-1896) 交響曲第5番(1961年)
【CD13】
メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn 1809-1847) 交響曲第3番「スコットランド」  モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791) アダージョとフーガ  ベートーヴェン 大フーガ(1962年)
 【CD9】では、ライプツィヒ放送合唱団の他、インゲボルク・ヴェングロル(Ingeborg Wenglor 1926- ソプラノ)、 ウルズラ・ゾレンコップ(Ursula Zollenkopf アルト)、ハンス=ヨアヒム・ロッチェ(Hans Joachim Rotsch 1929- テノール)、テオ・アダム(Theo Adam1926- バス)の独唱陣が加わる。また【CD10】の合唱幻想曲では、ライプツィヒ放送合唱団と、ギュンター・コーツ(Gunter Kootz 1929-)のピアノ独奏が加わる。
 私は、先にedeレーベルからリリースされたコンヴィチュニーの11枚組のBox-set(0002172CCC)を所有している。そちらは、当アイテムの【CD1】~【CD9】と内容が重複し、別の2枚にいくつか協奏曲などが収録されていた。しかし、当アイテムが登場してしまったからには、断然当アイテムの方が「買い」である。なんといっても私が同曲中最高の演奏と考えるブルックナーの交響曲第5番が、本当に久しぶりに現役版として復刻したのが大きい。正直言って、それだけでも、このアイテムの価格は元が取れるくらいだと思う。そこにまた伝説的名演であるシューマンとベートーヴェンの全集が合わさっているのだから、これはもう、例えようがないくらいに、超大推薦のアルバムと言える。
 そのベートーヴェンとシューマンも私としては「歴史的名盤」に推したいものの一つ。当時ライプツィヒではコンヴィチュニーのベートーヴェンは熱狂的に歓迎されたとされるが、このスタジオ録音からもリアルに雰囲気が伝わってくる。
 さて、以下、感想をあらためて書くと、いわゆるドイツ・オーストリアものに対する威風堂々たる正当ど真ん中の解釈が素晴らしい。自然発生的な高揚感に溢れ、確かな権威に裏打ちされたような一貫性がある。古典的な伝統の王道を堂々たる風格で歩む。中央ヨーロッパでは、コンヴィチュニーのベートーヴェンが、フルトヴェングラー(Wilhelm Furtwangler 1886-1954)、クレンペラー(Otto Klemperer 1885-1973)、ワインガルトナー(Felix Weingartner 1863-1942)と並び称されることがあるのも肯ける。と言うより、私は上記3人のうち、ワインガルトナーはほとんど聴いたことがないけれど、他の2人のベートーヴェンよりコンヴィチュニーのものが好きである。また、シューマンも当時の録音技術を駆使した精度で記録されており、演奏・録音から体感的な迫力が伝わってくる。
 また、ブルックナーで素晴らしいのは、まずは「素朴さ」である。いっけん、“ぶっきらぼう”とも思える、淡々たる辛口の指揮ぶりであるが、オーケストラが抜群にうまくて、一つ一つの音にたいへんコクがあり、語られる音楽に神妙な味わいをもたらしている。次いで、「快適なテンポ」が良い。この交響曲は、ブルックナーの中でも特に巨大な音の伽藍を築き上げる荘厳さがあるのだけれど、コンヴィチュニーは前述の指揮振りで、ほとんどタメを設けず、朴訥にまっすぐと突き進む。それなのに、それなのに音楽は素晴らしく良く鳴るのである。まさにブルックナーの音楽をもってブルックナーの音楽そのものを語らせたかのような、おおらかな自然さに満ちている。もう一点挙げさせていただくと、「金管の合奏音の見事さ!」、これに尽きる。第1楽章冒頭の序奏が終わったあとの、気風の良い屹立とした鳴りっぷり、まさにヨーロッパの音楽史の本流がそこにあるというリアリティーに満ちた、必然的な美観だ。音響そのものに、強く人の心を揺さぶる効果がある。
 以上の名演のパレードに、さらにはブラームス、メンデルスゾーンの名曲まで収録した当アイテムは、限定版ということもあり、是非にも入手をオススメしたい。

フランツ・コンヴィチュニーの芸術 2
コンヴィチュニー指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽 合唱団 Br:F=ディースカウ T: ヴンダーリヒ B: フリック ベルリン放送交響楽団 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 p: コーツ ツェヒリン ヴェーバージンケ vn: オイストラフ

レビュー日:2019.8.9
★★★★★ コンヴィチュニーの名演が揃ったBox-set、第2弾です
 Corona Cl.collectionからリリースされた、東ドイツの名指揮者フランツ・コンヴィチュニー(Franz Konwitschny 1901-1962)の録音を集めたCD11枚からなるBox-set。当盤は第1弾に引き続いての第2弾となり、収録内容は以下の通り。
【CD1】
1) ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827) 交響曲 第3番 変ホ長調 op.55 「英雄」 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1955年録音 Mono
2) ベートーヴェン 合唱幻想曲 ハ短調 op.80 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 ライプツィヒ放送合唱団 p: ギュンター・コーツ(Gunter Kootz 1929-) 1960年 Stereo
【CD2】
3) ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 op.37 p: ディーター・ツェヒリン(Dieter Zechlin 1926-2012) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1960年録音 Stereo
4) ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 op.58 p: アマデウス・ウェーバージンケ(Amadeus Webersinke 1920-2005) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1961年録音 Stereo 
【CD3】
5) ブルックナー (Anton Bruckner 1824-1896) 交響曲 第2番 ハ短調 ベルリン放送交響楽団 1951年録音 Mono
【CD4,5】
6) ブルックナー 交響曲 第5番 変ロ長調 op.67 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1961年録音 Stereo
【CD6】
7) ブルックナー 交響曲 第7番 ホ長調 op.92 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1958年録音 Mono
【CD7】
8) メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn 1809-1847) 交響曲 第3番 イ短調 op.56 「スコットランド」 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1962年録音 Stereo
9) メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64  vn: イーゴリ・オイストラフ(Igor Oistrakh 1931-) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1956年録音 Mono
【CD8】
10) ショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovich 1906-1975) 交響曲 第10番 ホ短調 op.93 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1954年録音 Mono
【CD9】
11) ショスタコーヴィチ 交響曲 第11番 ト短調 op.103 「1905年」 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 1959年録音 Mono
【CD10,11】
12) ワーグナー(Richard Wagner 1813-1883)の歌劇「さまよえるオランダ人」 (1幕形式 全曲) ベルリン国立歌劇場管弦楽団&合唱団 1960年録音 Stereo
 Br: ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau 1925-2012)(オランダ人)
 S: マリアンネ・シェヒ(Marianne Schech 1914-1999)(ゼンタ)
 B: ゴットロープ・フリック(Gottlob Frick 1906-1994)(ダーラント)
 T: ルドルフ・ショック(Rudolf Schock 1915-1986)(エリック)
 コントラルト: ジークリンデ・ヴァーグナー(Sieglinde Wagner 1921-2003)(マリー)
 T: フリッツ・ヴンダーリヒ(Fritz Wunderlich 1930-1966)(舵取り)
 素晴らしい内容だ。第1巻と併せて、是非揃えておきたい内容。
 ことに、ブルックナーの交響曲第5番は、私にとってこの曲のベストと言える録音。長く聴いてきた愛聴盤だ。いっけん、“ぶっきらぼう”とも思える、淡々たる辛口の指揮ぶりであるが、オーケストラが抜群にうまくて、一つ一つの音にたいへんコクがあり、語られる音楽に神妙な味わいをもたらしている。快適なテンポも良い。この交響曲は、ブルックナーの中でも特に巨大な音の伽藍を築き上げる荘厳さがあるのだけれど、コンヴィチュニーは前述の指揮振りで、ほとんどタメを設けず、朴訥にまっすぐと突き進む。それなのに、それなのに音楽は素晴らしく良く鳴るのである。まさにブルックナーの音楽をもってブルックナーの音楽そのものを語らせたかのような、おおらかな自然さに満ちている。さらに、金管の合奏音の見事さも特筆したい。第1楽章冒頭の序奏が終わったあとの、気風の良い屹立とした鳴りっぷり、まさにヨーロッパの音楽史の本流がそこにあるというリアリティーに満ちた、必然的な美観だ。音響そのものに、強く人の心を揺さぶる効果がある。
 また、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」も、私にとって当曲の代表録音だ。1960年の録音とは信じがたいほどに録音状態が良いこともあるが、コンヴィチュニーのいかにも気風の良いドイツ王道を感じさせるスタイルと、それに男声陣の充実には目を見張るものがある。個人的に、この歌劇では、なんといっても男声が重要だと思うが、全盛期といって良いフィッシャー=ディースカウによるオランダ人は圧巻といって良い。声量、声質ともに素晴らしいが、オランダ人の心情に沿った機微豊かな感情表現は、さすがの一語に尽きる。コンヴィチュニーの指揮について、粗いという意見もあるのだが、私はまったくそんなことを感じない。もちろん、壮大で、ロマン派の伝統を強く受けた解釈であることはその通りであるが、決して粗いわけではなく、むしろ力強い表出力に長けた解釈であり、管弦の咆哮も、その解釈に沿ってのことであり、結果として音楽的で見事な迫力が獲得されている。特に後半、合唱とオーケストラが混然一体となって、劇的な効果を起伏豊かに盛り上げているところは見事の一語。フィッシャー=ディースカウ以外でも、フリック、ショックと素晴らしい歌唱である。暗さ、逞しさといった印象が強く伝わる歌唱であり、ひたすら巧いフィッシャー=ディースカウとあいまって、見事な相乗効果を挙げている。それに比べると、女声がいまひとつなのが、当盤の弱点か。より強さとハリの欲しいところが残る。とはいえ、全体の評価を下げるまでのことではなく、何と言ってもコンヴィチュニーのドライヴの力強さに聴き惚れてしまう。
 コンヴィチュニーのベートーヴェンが素晴らしいのは、いまさら言うまでもないが、当盤ではさらにコーツ、ツェヒリン、ウェーバージンケといった人たちのコクのある独奏を併せて楽しむことが出来る。力強い膂力に満ちた英雄交響曲は、この楽曲は本来このように奏でられるべきという強い説得力を感じさせる。
 ショスタコーヴィチは、当時の模範的解釈かと思う。オーケストラの響きの見事さは、録音が古くなった今でも十分に伝わってくる。メンデルスゾーンでは、イーゴリ・オイストラフの芸術を味わうことが出来る。
 ドイツ王道に相応しい名演揃い。録音も比較的状態の良いものでまとまっており、オススメ・アイテムである。

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その他


Great Conductors of the 20th Century カール・ベーム
ベーム指揮 ケルン放送交響楽団 ドレスデン国立管弦楽団 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 フィルハーモニア管弦楽団

レビュー日:2006.1.15
★★★★★ 巨匠ベームにふさわしい気宇の大きいサウンドを堪能
 巨匠カール・ベームの貴重な音源を集めた良心的な2枚組みアルバム。収録内容は以下の通り。
1) モーツァルト コシ・ファン・トゥッテ 序曲 フィルハーモニア管弦楽団 録音 1962年
2) ブルックナー 交響曲第8番 ケルン放送交響楽団 録音 1974年 (Live Studio Recording)
3) ハイドン 交響曲第91番 ウィーンフィル 録音1973年
4) シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレイト」 ドレスデン国立管弦楽団 1979年 (Live Recording)
 中にあって特に聴きモノと思われるのがブルックナーとシューベルト。
 ブルックナーの第8番をベームは1976年にウィーンフィルと正規録音しているが、この時期にベームがよく取り上げていた曲の一つである。強力なパワーを前面に押し出した正規録音に比べて、当録音はベームの素朴な音楽表現がよりリアルなスケールで表現されている。
 とは言っても、描かれる世界はやはり壮大で、いかにも気宇の大きいオーケストラ表現である。特に金管楽器陣の生々しい音色は、ブルックナーの音楽の持つ一種荒削りな魅力を鮮やかに表現していて、聴くものを酔わせる。
 シューベルトもベームらしいスローテンポで大きな音楽をつくっている。第1楽章のフィナーレで、金管陣が開放的に大きく鳴らすところなど、現代のオーケストラ演奏ではめったにお目にかかれないのでは?また、全般に録音がふくよかで、聴きやすいのもありがたい。
 ベーム・ファン以外にも多いに歓迎される録音に違いない。

Sir Charles Mackerras: A Portrait
マッケラス指揮 イギリス室内管弦楽団 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ウェルシュ国立歌劇場管弦楽団 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 vn: フランク

レビュー日:2006.2.11
★★★★★ マッケラスらしさの出る曲たちが集まっています
 英デッカによるサー・チャールズ・マッケラスの貴重な録音集である。収録されている曲目も特徴的なので、詳細を示しておく。
CD1 ヴォルジーシェク 交響曲(イギリス室内管弦楽団・1969年録音)  ドヴォルザーク チェコ組曲(イギリス室内管弦楽団・1969年録音)  ロマンス(チェコフィル・1997年録音 vn:パメラ・フランク)  スーク 幻想的スケルツォ(チェコフィル・1997年録)
CD2 ヤナーチェク 序曲「嫉妬」(ウィーンフィル・1982年録音) スーク ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲(チェコフィル・1997年録音 vn: パメラ・フランク)  交響詩「夏の物語」(チェコフィル・1997年録音)
CD3 ディーリアス 春初めてかっこうを聞いて(ウェルシュ国立歌劇場管弦楽団・1990年録音)  ブリッグの定期市(ウェルシュ国立歌劇場管弦楽団・1989年録音) 高原の歌(ウェルシュ国立歌劇場管弦楽団・合唱団・1993年録音) エルガー エニグマ変奏曲(ロイヤルフィル・1992年録音)
比較的最近の録音が多く、音質は安定している。マッケラスらしい洗練された野趣といったものを感じさせる名演が揃っている。ヴォルジーシェク(Jan Vaclav Vorisek 1791-1825)の交響曲は録音自体が少なくて貴重だが、古典的なスタイルによる佳曲で捨てがたい魅力にあふれている。ドヴォルザークのチェコ組曲もなかなか聴けないが、この作曲家らしいスラヴ舞曲ふうの音楽で親しみ易い。ディーリアスの合唱曲である「高原の歌」はヴォカリーズによる合唱が印象的。エルガーの大変奏曲であるエニグマ変奏曲は壮麗なオーケストレーションを見事に活かしていて、オルガンの音色もよく溶けこんでいる。
なかなか面白い曲がそろっており、手元に置いておいて時々聴くと楽しい構成だ。

Passion for Music
ショルティ指揮 シカゴ交響楽団 ロンドン交響楽団 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ブダペスト祝祭管弦楽団 ハンガリー放送合唱団 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

レビュー日:2007.8.27
★★★★★ ショルティの生涯をかけた情熱を(一部ながら)俯瞰できます
 Passion for Music と題されたショルティ指揮の5枚組のアルバムである。一応収録曲を書いておくと、
1) ベートーヴェン「エグモント序曲」、R.シュトラウス「交響詩 ドン・ファン」「交響詩ティル・オイレンシュピーゲルのゆかいないたずら」、グリンカ「ルスランとリュドミラ序曲」、ボロディン「だったん人の踊り」、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、シカゴ交響楽団、ロンドン交響楽団、47,66,73,75年録音
2) ストラヴィンスキー「バレエ音楽 春の祭典」「3楽章の交響曲」「詩篇交響曲」、74年録音
3) ワーグナー「ヴァルキューレの騎行」「ヴァルハラへの入城」「ヴォータンの告別と魔の炎の音楽」「森の囁き」「ジークフリートの葬送行進曲」「フィナーレ」、ウィーン・フィル、83年録音
4) バルトーク「カンタータ・プロファーナ」、ヴァイネル「小管弦楽のためのセレナード」、コダーイ「ハンガリー詩編」、ブダペスト祝祭管弦楽団・ハンガリー放送合唱団、97年録音
5) マーラー「交響曲第5番」、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、97年録音
 3)、4)、5)についてはそれぞれ単発売されている。なぜこれらの録音がチョイスされたのかよくわからないが、どれも演奏の質は高いので、割安な本盤はオススメである(バラバラで買うよりははるかに安い・・・でもすでに所有している音源と重複したりしますよね)。エグモント序曲はショルティのデッカへのはじめてのレコーディングであり、マーラーの第5は巨匠の最後のライヴなので、デッカにおけるショルティという偉大なアーティストの歴史を、前後を閉じながら俯瞰するアルバムと言える。個人的には詩篇交響曲(できれば「春の祭典」より、当初のカップリング通り「ハ調の交響曲」を収録してほしかった~手に入り難い曲だから)、それにブダペスト祝祭管弦楽団との一連の録音にもっとも感慨が深いけれど、全編を通してその力強い表現は脈々と生きていて、生涯を通じて厳しく凛々しい音楽を作りつづけたショルティの音楽への姿勢が確かによく伝わってくると思う。

Schubert / Mendelssohn / Schumann: Complete Recordings on Deutsche Grammophon
バーンスタイン指揮 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 コンセルトヘボウ管弦楽団 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 p: フランツ vc: マイスキー

レビュー日:2011.12.14
★★★★★ この時代のバーンスタインの「熱さ」を伝えるBOXセット
 アメリカの名指揮者、レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein 1918-1990)の晩年の独グラモフォンへの充実したレコーディング・ラインナップから、シューベルト、シューマン、メンデルスゾーンの作品をまとめたBOXセット。シューマンのピアノ協奏曲でソリストを務めているユストゥス・フランツ(Justus Franz 1944-)はドイツのピアニスト。バーンスタインとの共演が比較的多かったが、あまり多くの録音が日本で紹介されているわけではないので、やや、意外な人選の趣もある。ここで聴く演奏は、「堅実なピアニズム」といったところ。
 ところで、私は、バーンスタインの音楽というのはそれほど聴いてこなかったように思う。独グラモフォンとのマーラーは全集を聴いたし、モーツァルトも何点か聴いた。しかし、その肉厚の音楽作りが、現代の感性に照らした時、妙に大時代的で、重々しい雰囲気を残しているところが気がかりで、私の好みとはちょっと違っていたのである。他方、シューマンの交響曲第1番と第4番を収録したアルバムは、バーンスタインの「これでもか」という気迫、前進性がことごとく良い方向に決まった(と私には感じられる)爆演で、これは私にとって好きな演奏だった。
 けれども、今回、このアルバムを購入して、いろいろとまとめて聴いてみると、概して良い印象だった。むしろ、モーツァルトやマーラーより、私はバーンスタインのシューマン、シューベルト、メンデルスゾーンの方がずっと気に入った。
 まず太く歌われる旋律線の確かさ、手ごたえが良い。例えば、シューベルトの交響曲第9番、前半2楽章の勇壮な響きは概して力強く、トロンボーンの鳴りなども最低限の抑制のみで、思い切った響きがあり、それが音楽の「踏み込み」として効果的に作用している。だから、聴いていても、演出を意識せずに、音楽のエンディングに向けて自然に気持ちを預けられるのだ。総じて「主体的な」音楽。恰幅があり、饒舌であり、積極的に展開されながら、異質感が少ない。
 久しぶりにシューマンを聴いたけど、やはり良い。この時代のバーンスタインの代表的録音と言って差し支えないのではないか。オーケストラ全体の息のあった大きな踏み込みや、加速減速の俊敏性、それらが一体となってドラマティックな音楽の奔流を作り上げている。まさに息つく間もないような迫力に満ちている。もちろん、一面では下品な表現にも思われるけれど、それでもここまでぶっちぎれば「芸術」に到達するのだ。メンデルスゾーンでは交響曲第3番の前半など思いのほか普通だったが、後半の節回しは「いかにも」で、彼らしい熱が満ちている。交響曲第4番も終楽章が良い。縦線を揃えながら、肉厚の音をスピーディーに刻む躍動感に溢れている。また序曲「フィンガルの洞窟」においては、描写的な弦の動きが力強く表現されている特徴もこの人ならではで、これに慣れると他の演奏では物足りなくなるかもしれない。いずれにしても、この時代のバーンスタインのすばらしい功績といえる録音たちだ。

Summer Night Concert Schoenbrunn 2010-Moon Planet
ヴェルザー=メスト指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 p: ブロンフマン

レビュー日:2011.9.26
★★★★☆ ウィーンフィルでスター・ウォーズをやってみました!
 毎夏、ウィーンフィルは、シェーンブルン宮殿で野外コンサートを開催している。このアルバムは、フランツ・ウェルザー=メスト(Franz Welser-Most 1960-)が指揮をした2010年のコンサートの模様を収録したもの。収録曲は以下の通り。
1) J.ウィリアムズ スター・ウォーズ・メイン・タイトル
2) ヨーゼフ・シュトラウス ワルツ「天体の音楽」
3) リスト ピアノ協奏曲 第2番
4) J.ウィリアムズ 「レイア姫のテーマ」と「帝国のマーチ」
5) ヨーゼフ・ランナー ワルツ「宵の明星」
6) オットー・ニコライ 歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」から月の出の合唱
7) グスターヴ・ホルスト 火星
8) ヨハン・シュトラウス2世 ワルツ「ウィーン気質」
 3)のピアノ独奏はイエフィム・ブロンフマン(Yefim Bronfman 1958-)。オットー・ニコライ(Otto Nicolai 1810-1849)はドイツの作曲家・指揮者で、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の創設者として高名。ヨーゼフ・ランナー(Josef Lanner 1801-1843)はオーストリアの作曲家・ヴァイオリン奏者。ウィンナ・ワルツを確立させた功績で知られる。
 さて、いずれにしても一夜の夢のようなコンサートということで、(テーマはご覧の通り、宇宙ですね)かしこまった論評をするのは無粋なアルバムかもしれない。とにかく、各々が楽しんで、それぞれ思うことを思う、ということでいいのでしょう。しかし、とりあえず、さしあたっての注目は、天下のウィーンフィルが奏するスター・ウォーズのテーマではないだろうか。
 スター・ウォーズという映画は私も幼少のころに観た。今では神格化されているくらいのSF古典だが、その分り易いストーリーとともに、冒頭の圧倒的な全管弦楽の合奏によるテーマ曲が、人心への浸透に計り知れない効果をもたらしたに違いない・・・と思う。これほど映画音楽として、その機能を果たし、多くの人に共有されるイメージとなった例はないだろう。それで、それを、あらためてウィーンフィルが演奏した、というわけで、これは正直私も興味津々なのでした(笑)。聴いてみると、やはりすごいですね。ウィーンのブラスの深さは。この曲からこれほど「コク」を感じることになるとは・・。またシンバルなんかも、ただのお祭りではなく、そこにウィーンの刻印を押すかのように、重々しい存在感を持って鳴ります。いや見事見事。いいものを拝ませていただきました。
 他の曲もなかなか心地よい佳演揃い。野外録音として品質の限界はあるけれど、ブロンフマンのピアノも「きら星」の様な輝きがきれいでしょう。合唱が入るのも楽しいですし、いかにもキラクに聴けるプログラムというのも穏当至極でしょう。楽しく聴きましょう。

オイゲン・ヨッフム・ザ・シンフォニーズ(Eugen Jochum The Symphonies)
ヨッフム指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 バイエルン放送交響楽団 他

レビュー日:2014.7.15
★★★★★ 20世紀半ば、ドイツ音楽芸術の真髄を感じさせるBox-set
 ドイツの指揮者、オイゲン・ヨッフム(Eugen Jochum 1902-1987)が1951年から66年にかけて、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と、バイエルン放送交響楽団を振ってグラモフォン・レーベルに録音した、ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827)、ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897)、ブルックナー(Anton Bruckner 1824-1896)の交響曲全集をすべてまとめて、16枚組の廉価Box-setとしたもの。まずは、詳しい収録内容を書こう。
【CD1】 ベートーヴェン
1) 交響曲 第1番 ハ長調 op.21 バイエルン放送交響楽団 1959年録音
2) 交響曲 第3番 変ホ長調 op.55「英雄」 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1954年録音 モノラル
【CD2】 ベートーヴェン
1) 交響曲 第2番 ニ長調 op.36 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1958年録音
2) 交響曲 第4番 変ロ長調 op.60 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1961年録音
3) 歌劇「フィデリオ」序曲 op.72b バイエルン放送交響楽団 1959年録音
【CD3】 ベートーヴェン
1) 交響曲 第5番 ハ短調 op.67「運命」 バイエルン放送交響楽団 1959年録音
2) 交響曲 第6番 ヘ長調 op.68「田園」 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1954年録音 モノラル
【CD4】 ベートーヴェン
1) 交響曲 第7番 イ長調 op.92 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1952年録音 モノラル
2) 交響曲 第8番 ヘ長調 op.93 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1958年録音
3) 「レオノーレ」序曲 第2番 op.72 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1961年録音
【CD5】 ベートーヴェン
1) 交響曲 第9番 ニ短調 op.125「合唱付」バイエルン放送交響楽団&合唱団 1952年録音 モノラル
  クララ・エーベルス(Clara Ebers 1902-1997 ソプラノ)
  ゲルトルーデ・ピッツィンガー(Gertrude Pitzinger 1904-1997 アルト)
  ヴァルター・ルートヴィヒ(Walther Ludwig 1902-1981 テノール)
  フェルディナント・フランツ(Ferdinand Frantz 1906-1959 バス)
2) 「アテネの廃墟」 op.113から「序曲」 バイエルン放送交響楽団 1958年録音
3) 「プロメテウスの創造物」 op.43から「序曲」 バイエルン放送交響楽団 1958年録音
【CD6】 ブラームス
1) 交響曲 第1番 ハ短調 op.68 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1953年録音 モノラル
2) 交響曲 第3番 ヘ長調 op.90 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1953年録音 モノラル
【CD7】 ブラームス
1) 交響曲 第2番 ニ長調 op.73 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1951年録音 モノラル
2) 交響曲 第4番 ホ短調 op.98 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1953年録音 モノラル
【CD8】 ブルックナー
交響曲 第1番 ハ短調(リンツ版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1965年録音
【CD9】 ブルックナー
交響曲 第2番 ハ短調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 1966年録音
【CD10】 ブルックナー
交響曲 第3番 二短調「ワーグナー」(ノヴァーク版 第3稿) バイエルン放送交響楽団 1967年録音
【CD11】 ブルックナー
交響曲 第4番 変ホ長調「ロマンティック」(ノヴァーク版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1965年録音
【CD12】 ブルックナー
交響曲 第5番 変ロ長調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 1958年録音
【CD13】 ブルックナー
交響曲 第6番 イ長調(ノヴァーク版) バイエルン放送交響楽団 1966年録音
【CD14】 ブルックナー
交響曲 第7番 ホ長調(改訂版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1964年録音
【CD15】 ブルックナー
交響曲 第8番 ハ短調(ノヴァーク版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1964年録音
【CD16】 ブルックナー
交響曲 第9番 二短調(ノヴァーク版) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1964年録音
 全てスタジオ録音である。
 指揮者ヨッフムの多くの功績の中でも特筆すべきは、ブルックナー作品の啓発で、自身も国際ブルックナー協会の会長を務めながら、世界各地で多くのオーケストラを振って、その交響曲を演奏した。
 当Box-setに収められたのは、そんなヨッムフの渾身のタクトによるブルックナーの全集。ヨッフムは晩年の1975年から80年にかけて、ドレスデン国立管弦楽団とEMIに全集を録り直しているが、全体的なクオリティは、このグラモフォン盤がやや上回ると思う。
 また、ベートーヴェンの全集については、しばらくたいへんに入手が困難だったもので、当企画による復刻は歓迎される。モノラル録音を含むが、第9番などを聴くと、モノラル末期の録音品質がここまで向上していたのだと改めて気づかされるほどの内容だ。
 ヨッフムのスタイルはドイツ的とよく称される。それは、中央ヨーロッパの、落ち着いた色合いの響きから、奥行きの深い、しかし溶け合ったサウンドを引き出し、ここぞという所では勇壮な迫力を導いたことを表している。そういった意味で、ベートーヴェンの第3番、第7番、アテネの廃墟、ブラームスの第1番など、この指揮者の手腕が発揮された、当時のもっとも良質な音楽芸術が記録されたものだと考えられる。
 しかし、やはり記録されたという以上に高い価値を備えるのは、(幸いにもすべてステレオ録音された)ブルックナーということになるだろう。このころのヨッフムのスタイル全般に言えることだけれど、テンポの揺らしが大きい浪漫的でスケールの大きい表現が特徴だ。おそらくフルトヴェングラー(Wilhelm Furtwangler 1886-1954)の影響があっただろう。ベルリン・フィルにも、そのような表現方法が染みついていたのではないだろうか?それにしても、当時あまり取り上げられる機会の少なかったブルックナーの第1、第2、第6交響曲といった「渋い」作品にも、強い共鳴と共感から、実に情熱的で美しい演奏が繰り広げられている点は、見逃せない当全集の価値だろう。ブルックナーに関して言えば、後年の深いアダージョの表現などは、EMIのドレスデンとの録音にさらなる深みを感じさせるところもあるが、全体的な前進性、野趣性、それらを踏まえたドイツ音楽らしい雄渾な迫力に満ちている点で、この旧全集は見事なものだと思う。そういった意味で、今なお聴き劣りのない、現役の名演として、指折るべき全集として、このブルックナーは「記録以上の」価値を有している。
 ベートーヴェン、ブラームスを含めて、ドイツ的と称されたヨッフムの、壮年期のドイツ王道のレパートリーを収めた当廉価Box-setは、買って間違いのないものだと思う。

Mozart: the Recordings
ブリュッヘン指揮 18世紀オーケストラ vn: ツェートマイヤー 他

レビュー日:2015.11.9
★★★★★ ブリュッヘンが遺してくれたモーツァルト
 ブリュッヘン(Frans Bruggen 1934-2014)が晩年にスペインのグロッサ(Glossa)レーベルに遺した一連のモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)録音をまとめた9枚組のBox-set。その収録内容の詳細は以下の通り。いずれもブリュッヘンが育て上げた18世紀オーケストラによる演奏。
【CD1,2】
1) ヴァイオリン協奏曲 第1番 変ロ長調 K.207 2002年録音
2) ヴァイオリン協奏曲 第4番 ニ長調 K.218 2000年録音
3) ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ長調 K.219「トルコ風」 2000年録音
4) ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364 2005年録音
5) ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調 K.216 2005年録音
6) ヴァイオリン協奏曲 第2番 ニ長調 K.211 2005年録音
vn: トーマス・ツェートマイヤー(Thomas Zehetmair 1961-)
va: ルース・キリウス(Ruth Killius 1968-)
【CD3】 1998年録音
1) アリア「いいえ、いいえ、あなたにはできません」 K.419
2) アリア「私は知らぬ、どこからこの愛情が来るのか」 K.294
3) アリア「私はあなたに明かしたい、おお、神よ!」 K.418
4) アリア「ああ、情け深い星たちよ、もし天にいて」 K.538
5) レチタティーヴォ「わが憧れの希望よ」と ロンド「ああ、あなたはいかなる苦しみか知らない」 K.416
6) レチタティーヴォ「テッサリアの民よ」とアリア「不滅の神々よ、私は求めず」 K.316(300b)
7) アリア「わが感謝を受けたまえ、やさしい保護者よ」 K.383)
ソプラノ: シンディア・ジーデン(Cyndia Sieden 1961-)
【CD4】 2006-08年録音
1) ホルンのための12の二重奏曲 K.487より 第8番 アレグロ
2) ホルン五重奏曲変ホ長調 K.407
3) ホルンのための12の二重奏曲 K.487より 第7番 アダージョ
4) ホルンのための12の二重奏曲 K.487より 第2番 メヌエット(アレグレット)
5) 歌劇「ポントの王ミトリダーテ」 K.87 第2幕より シーファレのアリア「あなたから遠く離れて」
6) ホルンのための12の二重奏曲 K.487より 第3番 アンダンテ
7) ホルンのための12の二重奏曲 K.487より 第12番 アレグロ
8) ホルン協奏曲第3番変ホ長調 K.447
9) ホルンのための12の二重奏曲 K.487より 第9番 メヌエット
10) ホルンのための12の二重奏曲 K.487より 第5番 ラルゲット
11) 音楽の冗談 K.522
12) ホルンのための12の二重奏曲 K.487より 第4番 ポロネーズ
ナチュラル・ホルン: トゥーニス・ファン・デァ・ズヴァールト(Teunis van der Zwart 1964-)、エルヴィン・ヴィーリンガ(Erwin Wieringa 1974-)
vn: マルク・デストリュベ(Marc Destrube)
vn,va: スタース・スヴィールストラ(Staas Swierstra)
va: エミリオ・モレーノ(Emilio Moreno)
vc: アルベルト・ブリュッヘン(Albert Bruggen)
cb: ロベルト・フラネンベルグ(Robert Franenberg)
ソプラノ: ラロン・マクファデン(Claron McFadden 1961-)
【CD5】
1) クラリネット協奏曲 イ長調 K.622 1998年録音
2) 歌劇「皇帝ティートの慈悲」 K.621 より 序曲 1986年録音
3) 歌劇「皇帝ティートの慈悲」 K.621 より アリア「私は行くが、君は平和に」 1998年録音
4) 歌劇「皇帝ティートの慈悲」 K.621 より アリア「夢に見し花嫁姿」 1998年録音
5) アダージョ 変ロ長調 K.411(2つのクラリネットと3つのバセット・ホルンのための) 1998年録音
バセット・クラリネット、バセット・ホルン: エリック・ホープリッチ(Eric Hoeprich 1955-)
メゾソプラノ: ジョイス・ディドナート(Joyce DiDonato 1969-)
【CD6,7】 2010年録音
1) 交響曲 第39番 変ホ長調 K.543
2) 交響曲 第40番 ト短調 K.550
3) 交響曲 第41番 ハ長調 K.551 「ジュピター」
【CD8】 1998年録音
1) フリーメイソンのための葬送音楽 ハ短調 K.477
2) 2つのクラリネットと3つのバセット・ホルンのためのアダージョ 変ロ長調 K.411
レクイエム ニ短調K.626
イントロイトゥス(入祭唱)
 3) グレゴリオ聖歌(Introitus~入祭唱)
 4) レクイエム・エテルナム(永遠の安息を)
 5) キリエ(憐れみの賛歌)
セクエンツィア(続唱)
 6) ディエス・イレー(怒りの日)
 7) トゥーバ・ミルム(奇しきラッパの響き)
 8) レックス・トレメンデ(恐るべき御稜威の王)
 9) レコルダーレ(思い出したまえ)
 10) コンフターティス(呪われ退けられし者達が)
 11) ラクリモーサ(涙の日)
 12) グレゴリオ聖歌(Tractus~詠唱)
オッフェルトリウム(奉献文)
 13) ドミネ・イエス(主イエス)
 14) オスティアス(賛美の生け贄)
 15) グレゴリオ聖歌(Offertorium~奉献唱)
サンクトゥス(聖なるかな)
 16) サンクトゥス(聖なるかな)
 17) ベネディクトゥス(祝福された者)
アニュス・デイ(神の小羊)
 18) アニュス・デイ(神の小羊)
コムニオ(聖体拝領唱)
 19) ルックス・エテルナ(永遠の光)
オランダ室内合唱団
 ソプラノ: モーナ・ユルスナー(Mona Julsrud)
 アルト: ヴィルケ・テ・ブルンメルストルテ(Wilke te Brummelstroete)
 テノール: ゼーハー・ヴァンデルステイネ(Zeger Vandersteene)
 バス: イェレ・ドレイエル(Jelle Draijer 1951-)
【CD9】 2011年録音
歌劇「後宮からの逃走」 K.384(ハイライト)
 ソプラノ: レネケ・ルイテン(Lenneke Ruiten 1977-)、シンディア・ジーデン
 テノール: アンデシュ・ダーリン(Anders Dahlin 1975-)、マルセル・ビークマン(Marcel Beekman 1969-)
 バス: ミヒャエル・テーフス(Michael Tews)
 カペラ・アムステルダム
 【CD1~8】はそれぞれ分売がある。【CD9】は当アイテムのみに収録されたボーナス・ディスク。
 いずれもピリオド楽器による演奏に大きな功績を挙げたブリュッヘンが辿りついたに相応しい豊かな含みを感じさせる演奏。基本的に柔らかなトーンで、過度に刺激的にならず、暖かな音響が作られている。
 特に印象深かったものを挙げると、まず【CD3】のウェーバー家の次女、アロイジア・ヴェーバー(Aloysia Weber 1760-1839)のために書かれた様々なアリア集が、このようにまとまったアルバムが少なく、かつ楽曲が聴き逃すには惜しい佳作揃いであることから、本セットでも特に重要なものだと思う。
 次いで【CD5】のバセット・クラリネットによるアルバム。モーツァルトが書いたアントン・シュタードラー(Anton Stadler 1753-1812)の特注バセット・クラリネットのための音楽を、シュタードラーが1794年3月にラトビアのリガで行ったコンサートのプログラムに沿って収録しているのだが、このプログラムと付随したイラストが、1992年にアメリカの音楽学者パメラ・ポーリン(Pamela Poulin)によって発見されることによって、シュタードラーの用いていたバセット・クラリネットの形状の復元が可能となった。本アルバムは、その経緯を踏まえ、形状を復元したバセット・クラリネットを用いた録音であることが大きな特徴。とても柔らかな音色で、暖かくもほの暗い情感の通った名演だ。
 【CD8】は1998年3月20日東京芸術劇場でライヴ収録されたもの。レクイエムはジュスマイヤー版だが、イントロイトゥスの前、ラクリモーサの後、オッフェルトリウムの後にそれぞれグレゴリオ聖歌の「Introitus~入祭唱」「Tractus~詠唱」「Offertorium~奉献唱」が挿入されるというブリュッヘンの発案に基づく独自の演奏を行っていて、演奏会当時の空間が見事に再現されている。演奏は、全体に流線型のなめらかさでありながら、音の表面が細やかなに磨き上げられていて、かつ適度に刺激成分を湛えているから、聴いていてなにか物足りないところはなく、力強さも十分にある。一つ一つの音色に生気がある。入祭唱におけるユルスナーの独唱など、まるで木管楽器を思わせるような均一な光沢を感じさせるし、その後も微に入り細に入り、すべての音は精密にコントロールされている。余韻を湛えたデクレッシェンドの美しさは絶品だろう。音楽的に劣る後半も、巧みな手腕で高貴な響きに満ちている。
 【CD6,7】は演奏が行われたロッテルダムのデ・ドゥーレン・ホール特有の豊かな残響によってたいへんマイルドな味わいになっているが、特に交響曲第41番が見事な成果となっている。冒頭の細切れの簡単なフレーズの繰り返し一つ一つに、柔らかな輪郭があり、しかしその一方で芯のある安定感が音楽を補完している。ティンパニはしっかりと鳴るけれど、決して刺激的でなく、むしろ暖かみをともなって聴き手に伝わる。とても落ち着いた、しかし生き生きとした力感が十分に備わった表現だ。全管弦楽による勇壮な主題提示における流麗にしてしなやかな表現は、この楽団がいかにこの演奏法を練り込んできたかがよくわかる。美しく深みのある響きで、ブリュッヘンの芸術活動の完成を感じさせる。
 他に特典版ディスクも含めて、いずれもブリュッヘンの楽才が如何なく発揮され、かつ大家らしい香りの高さを感じさせるものばかり。モーツァルトの世界に、いくつかの切り口から入ることが出来るという点でも、充実した内容で、お買得の9枚組となっている。

Smetana/Liszt:Orchestral Works
バレンボイム指揮 シカゴ交響楽団

レビュー日:2016.3.28
★★★★☆ 高性能オーケストラによる豪壮な名管弦楽曲集です
 バレンボイム(Daniel Barenboim 1942-)指揮、シカゴ交響楽団による、いわゆる管弦楽名曲集的アルバム。収録曲は以下の通り。
1) スメタナ(Bedrich Smetana 1824-1884) 連作交響詩「わが祖国」から 第2曲「ヴルタヴァ(モルダウ)」
2) ドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904) スラヴ舞曲 第1番 ハ長調
3) ドヴォルザーク スラヴ舞曲 第8番 ト短調
4) ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897) ハンガリー舞曲 第1番 ト短調
5) ブラームス ハンガリー舞曲 第3番 ヘ長調
6) ブラームス ハンガリー舞曲 第10番 ヘ長調
7) ボロディン(Alexander Borodin 1833-1887) だったん人の踊り
8) リスト(Franz Liszt 1811-1886) 交響詩 第3番「前奏曲」
 録音は7)が1978年で、他は1977年。7)は声楽を含まない管弦楽版で、冒頭部分に「だったん人の娘の踊り」を含む。
 いわゆるクラシック入門的な楽曲が多く、親しみやすいメロディ、簡単でわかりやすい展開で、気楽に聴くことが出来る。また、その一方で、当盤の特徴としてシカゴ交響楽団のブラス・セクションを中心とした力強い圧力のある音響を楽しむことができる。
 バレンボイムの指揮は、管弦楽の光沢のある響きを、衒いなく解放させたもの。抒情的な旋律には巨匠的なタメをたっぷり設けるし、そうでないところも、重量感とスピード感で、こってりした味わいを盛っている。シカゴ交響楽団の朗々とした音色は、時にメタリックな光沢が目立ちすぎる感もあるが、おおむね良好な効果をもたらしていて、聴き手の満足度は高いだろう。
 聴きどころとしては、冒頭に収録された「ヴァルタヴァ」の冒頭部。水源を描写する木管の交錯がなんとも清らかで透明感に満ち溢れた響き。この曲では、全般に静謐なシーンが夢見るような美しさで描かれていて、シカゴ交響楽団の器楽奏者たちの能力の高さを実感させられる。その一方で、婚礼のダンスなどは、もっと暖かみがあっても良いように思うが、逆に当演奏は、一つの解釈として完成度を高めたものとも言える。
 ドヴォルザークの舞曲では、豪壮なパワーがさく裂して実に見事。ブラームスも典雅さがある。これらの楽曲は、全曲通して聴くよりも、これぐらいの数で抜粋されていた方が聴きやすいとも思う。
 ボロディン、リストともに、管弦楽の祭典といった雰囲気。バレンボイムのケレン味の効いた演出がよく映える楽曲たちで、いかにも相応しく響いてくれる。

Giulini & Wiener Philharmoniker
ジュリーニ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2018.10.24
★★★★★ 巨匠ジュリーニが、ウィーン・フィルと遺したブラームスとブルックナー
 名指揮者、カルロ・マリア・ジュリーニ(Carlo Maria Giulini 1914-2005)がウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と1984年から1991年にかけて録音したブラームス(Johannes Brahms 1833-1897)とブルックナー(Anton Bruckner 1824-1896)の交響曲を集めて8枚組のBox-setとしたもの。収録内容は以下の通り。
【CD1】 ブラームス 交響曲 第1番 ハ短調 op.68 1991年録音
【CD2】 ブラームス 交響曲 第2番 ニ長調 op.73 1991年録音
【CD3】 ブラームス 交響曲 第3番 ヘ長調 op.90 1990年録音(ライヴ) ハイドンの主題による変奏曲 op.56a 1990年録音
【CD4】 ブラームス 交響曲 第4番 ホ短調 op.98 1989年録音(ライヴ) 悲劇的序曲 op.81 1989年録音(ライヴ)
【CD5】 ブルックナー 交響曲 第7番 ホ長調 1986年録音
【CD6,7】 ブルックナー 交響曲 第8番 ハ短調 1984年録音
【CD8】 ブルックナー 交響曲 第9番 ニ短調 1988年録音(ライヴ)
 名盤として誉れ高いブルックナーの第8番をはじめ、当時の巨匠によるロマン派の交響曲の録音として、象徴的な録音群と言えるだろう。また、ジュリーニという指揮者の個性が強く発揮された録音群でもある。個人的には、ブラームスの第1、第4、ブルックナーの第8、第9を特に推したいと感じるが、以下各曲の感想を書かせていただこう。
 ブラームスの第1交響曲は、荘重かつ明るく歌われる。ジュリーニが基本的に遅めのテンポを好むこともあるが、この時期のジュリーニは、中でもゆったりしたテンポを用いることが多かった。第1楽章の冒頭から、いかにもすそ野が広がっているような雄大な音作りだ。かといって、豪快一辺倒というわけではない。第1楽章であれば、第1主題の提示から弦楽器が歌う第1主題に宿された濃厚なカンタービレ、ひたすら「音楽を歌わせるんだ」という意志に満ちたその響きは、流麗であり、それに沿えられる様々な楽器も、その歌を大きくしようという方向性で、一貫している。その様は、高らかな凱歌といった印象だ。また、テンポがスローではあるが、十分な計算が感じられる展開で、モチーフも統一感があって、即興的なものではない。それによって、ある種の冗長さを引き締めるところが、ジュリーニの手腕であろう。第2楽章はウィーン・フィルの音色を存分に堪能させてくれるところで、明るく、輝かしく、歌に溢れた表情が好ましいし、テンポが遅くても、沈滞とは無縁の活力が息づいている。独奏ヴァイオリンの艶やかな音色、オーボエの典雅さなど忘れがたい。第3楽章も優美である。この楽章の特徴であるクラリネットの活躍は、さすがウィーンと思わせる柔らかく、かつ豊かな響きで再現されている。第4楽章は序奏部の深々とした音色が印象的。迫力と優美さの双方を追及しながら、手際よくまとめた手腕が光る。テンポは、他の楽章同様ゆったりとしているが、弛みのない進行で、聴かせる。全合奏において、しばしば、音の緩みのようなものはあるけれど、全体の起伏の中で溶け込んでおり、強い違和感を感じさせない。こういったところは、ジュリーニの巧さなのか、オーケストラの優秀さなのか、もしくはその双方なのか。高名なフィナーレでも、普通はもっとテンポを速めたいようなところであっても、しっかりと手綱を弾くような制御があって、高級感がある。
 ブラームスの第2交響曲を、ジュリーニは3回録音している。最初はフィルハーモニア管弦楽団と、1962年。次にロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団と1991年の録音。そして、当盤である。このうち、おそらく名盤としてもっとも名高いのは、ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団との録音ではないだろうか。私は学生時代に、父のLPコレクションでクラシック音楽に親しんだのだが、父はブラームスの第2交響曲のLPをずいぶん何枚も持っていた。いや、今の私のCD所有数と比較したらさほどのことはないのだけれど、当時はLP1枚が高価なものであったし、10種くらいあったと思う。アバド(Claudio Abbado 1933-2014)、セル(George Szell 1897-1970)、ザンデルリンク(Kurt Sanderling 1912-2011)、ベーム(Karl Bohm 1894-1981)、ワルター(Bruno Walter 1876-1962)・・・。そんな中に並んでいたジュリーニ盤も、ロサンゼルスとの録音。父は「好きな曲なのだが、これだという録音がなくて増えてしまった」「中ではセルの録音が一番いい」、と言っていたものだ。さて、このウィーンろの録音、ロサンゼルスとの録音と比べると、ひときわゆったりしたテンポが特徴的だ。両者の全4楽章の演奏時間を参考までに記載する。
・ロサンゼルス盤 22'31 10'41 5'42 9'45
・ウィーン盤   18'00 12'20 6'02 11'04 (第1楽章はリピートなし)
 こうして見てみると、長大化を避けるため、ロサンゼルスとの録音では行っていた第1楽章のリピートを、当録音においては省略したように感じられる。とにかく、当録音で聴かれるブラームスの第2交響曲は、全体を通してスローなテンポで、音楽が熟しきり、時にそれを通り過ぎるほど、と感じるほどに、思いのこもった表現に満ちている。第1楽章の第1主題は悠然と鳴るが、呼吸が大きく、クライマックスまでうねるように盛り上がる。そのエネルギーは大きい。音色も美しいが、饒舌であり、たっぷりしたカンタービレが含まれる。強奏部分では、テンポが遅いため、ための部分で、スマートではなく、やや仰々しさを感じるところもあるのは致し方ないだろう。この熟した雰囲気は、なぜか思索的で、後期のブラームスを思わせる味わいを示す。第2楽章は優美だが、弦のたっぷりした歌に、やや耽溺気味と感じるところもある。とにかく、歌えるところはすべて歌ったという衒いのない演奏とも言える。第3楽章は比較的普通にまとまっている。終楽章も実にゆったりとし、大きく練り上げるような起伏を描きあげていて、クライマックス、特に終結部の音の壮麗さは見事なものだ。金管の豪壮な響きも心がこもる。他方で、やはりこの楽章では、全曲をまとめ上げる推進力を、より強く打ち出してほしいところがあり、そのような点で、やはりロサンゼルス・フィルとの旧盤の方が、ふさわしい解決が付けられていたように感じる。この時期のジュリーニとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ならではの、爛熟したブラームスであるが、他の演奏と比べると、どうしても弛緩を感じさせるところが残る。
 ブラームスの第3交響曲もゆったりしたテンポで、熱く、明るく描かれたもの。スローテンポなブラームスの第3交響曲というと、同じウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したバーンスタイン (Leonard Bernstein 1918-1990)の録音が思い出されるが、当盤もそれと同じくらいのテンポである。ジュリーニは、交響曲第2番においては、設定するスローなテンポを鑑みて、第1楽章のリピートを省略したのであるが、この第3番ではリピートも行っているので、やや長さを感じさせる。ただ、前述のバーンスタインがあまりにも冗長で弛緩を感じざるを得なかったのに対し、当ジュリーニ盤は、適度な緊張感があって、メリハリが明瞭であり、そこまでスローなテンポによる負荷を感じさせない点でうまくいっていると思う。第1楽章は熱血的で、金管も朗々と鳴るが、分厚い弦のカンタービレが有効に作用し、迫力として伝わる。ところどころ、全合奏はライヴゆえか不揃いなものを感じさせる。それは、あるいは現代の整えられた演奏に慣れ過ぎたせいで、目立つように感じるだけかもしれない。不揃いゆえの迫力として、それを是とするおおらかさに接するようにも思う。第2楽章は意外と標準的な響きで、クライマックスでリタルダントがあるほかは、穏当に流れて、歌われる。有名な第3楽章は、スローなテンポで、独自の強弱感を与えたメロディが歌われる。その情緒は濃い味わいだが、現代の感覚では、全般にやや甘美が過ぎるかもしれない。第4楽章は第1楽章と同じ印象で、浪漫的。強奏の迫力は見事なもので、ここでも多少のゆらぎはあるものの、表現として芸術的に消化された感があるし、やや人工的な味わいを残すものの、構築性を十分キープしながら力感を編み出していて、巨匠の描く音楽に相応しい厚みを感じさせてくれる。ただ、ところどころ、ブラームスの音楽に目立つある種の「うるささ」を、顕在化し過ぎた感もある。ある種の自由さを感じさせながらも、全曲の造形がほどよくキープされており、指揮者とオーケストラの練達さを感じさせる。濃厚で浪漫的な表現への好みによって、聴き手の評価に幅が出来るだろう。
 ハイドンの主題による変奏曲も、序盤はわりと普通ながら、中途以降はスローなテンポを基本とし、浪漫的に描いている。冒頭の木管の主題は、ウィーン・フィルらしい典雅さがあって、魅力十分。ウィーンの木管の魅力は、当盤の当曲録音全体の印象の主だったものを形成するといって良いくらい、影響力を感じさせる。中間部の哀愁や郷愁を感じさせる味わいも、着色が濃く、かつ明るい。この明るさにみちた表出力は、ジュリーニの特質の代表的なものと言っていいだろう。終曲に向けた盛り上がりは圧巻で、力強く感動的なものとなっている。
 ブラームスの第4交響曲はことにユニーク。おそらく、この演奏で再現されているものは、ブラームスが意図したような響きとはまったく別のものだろう。とにかくテンポがゆっくりしていて(特に第2楽章以降)、それでいて、歌謡性に満ちた艶やかさ、特に弦楽器の響きが麗しさに満ちている。それは、この交響曲が、後期ロマン派の、夢見るようなものが結実した芸術品であると確信しているかのようだ。ブラームスの音楽をどのような美学的位置づけとして認識するのかの論争は置いておくとしても、ジュリーニの回答はその極端なものであり、それゆえに他の演奏と比較した場合、それは特徴的に感じられる。第1楽章は、中では比較的普通といって良く、テンポはやや遅いくらい。ただ、旋律を歌わせることにはっきりと重点を置いて、全体が揺蕩(たゆた)うようなドライヴ感は、なかなか陶酔的で、美しい。静謐も耽美的で、添えられる木管の音色も実に香しい。第2楽章からはいやがうえにもスローなテンポが印象を支配するが、そこには独特の感傷と美が覆うような魅力がある。表面的な美しさと内省的な美しさの双方を突き詰めた表現をこころみた結果、そこにはどこか世紀末的な退廃感にも通じるものが生まれている。最初聴いたときにはそこまで感じなかったのだが、何度か聴き込んでいるうちに、私はその点に気が付き、面白いと感じるようになった。第3楽章も他の当該楽章の演奏とはあきらかに違ったものが引き出されている。ゆったりとしていて、何かを謳歌しているような雰囲気で、さながら讃歌が奏でられるような趣だ。終結部に向けて、ティンパニの強靭な響きにより、恰幅豊かに閉じられる。第4楽章も遅い。劇性は強調されず、なめらかかつのびやかに表現されるメロディが、自在な伸縮性を伴って、歌われる。その伸縮は、弛緩を警戒して、よく計算された感じがする。だから、すそ野の広がりを感じはするが、無辺というイメージではない。しかし、おおらかな歌謡性は、全編を満たし、明るく輝かしい響きを尽くすかのように、全曲の結末を描く。
 悲劇的序曲も第4交響曲と同様のアプローチといって良いが、この曲では、楽曲の性格がジュリーニの解釈を吸収しきれずに、やや表現が余っているように感じられるところもある。
 ブルックナーの第7交響曲の奇数楽章は平均的なテンポといって良い。第1楽章の第1主題は存分に歌われて、明るい発色を示すが、少し早めに感じられるテンポが功を奏してタメに不自然さがなく、心地よく流れる。常に存分に歌われる弦が紡ぎだすカンタービレは、豊かで、歌謡性にあふれることこの上ないが、ブルックナーらしい朴訥さとは、やや異質なものも感じるところはある。とは言え、絶対的な美観は見事なもの。第2楽章はゆったりとしたテンポとなる。息の長い起伏を通じて盛り上がるクライマックスは、華やかで音量も豊かだ。やや人工的な気配はあるものの、艶の出せる部分は出し尽くしたというやりきった表現が潔い。この楽章の演奏でも、もっとも輝かしく明るいものの一つといって良いだろう。つねに馥郁たる香りがたちこめるような、濃厚な気配がうごめいている。そしてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団も、その音色を存分に発揮して、歌に尽くしている。ただ、私個人的には、ややあざとさが勝ち過ぎた印象を持つのだが、どうだろうか。後半2楽章は、第2楽章ほど濃厚ではないが、当然のことながら、やろうとしている傾向は共通だ。ただ、第3楽章は楽想の影響が強く、そこまでジュリーニの意図が支配的には響かない。ロマン派の芳香を煮詰めた一つの極致と言えるブルックナーがここで完成していると言って良く、見事な成果と思える。ただ、個人的に、どうしても異質性(と思えるもの)を繰り返し楽しむまではいたらず、かと言ってぬぐえず、といったところもあり、第7交響曲については、是非とも推したいというまでには至らなかった。
 ブルックナーの第8交響曲の録音は、いまさら私が何か付け足す必要のないほど有名な録音で、ブルックナーの第8の録音史においても、ひとつの里程標と言える芸術作品だろう。この録音がリリースされたころ、私はまだ10代の半ばだったのだが、ブルックナーの音楽に目覚め始めたころだった。当時、父がいくつかこの曲のLPを所有していた。ベーム、シューリヒト(Carl Schuricht 1880-1967)、セルといったものが棚に並んでいたのを思い出す。私が当時聴いていたのはシューリヒトの演奏で、特にクライマックスで鳴る低い金管の響きが好きだった。そのような状況で、このジュリーニ盤が急に話題になってきたのである。私も、情報誌を読みながら、「いったいどんな演奏なんだろう」と思っていたのだが、そのうち知人から当演奏が入ったカセットテープを貸りる機会があり、これを聴くことになったのだ。当時の印象は今も覚えているが、とにかく聴いた感触は、「シューリヒトと全然違う」というものに帰結する。シューリヒトはどちらかと言えば早めのテンポで、颯爽とまとめ、淡めの音響で、とても線的かつ古典的にまとめていた。対するにジュリーニの録音は、熱的で、壮大。テンポはスローで、浪漫的。私は特にその第2楽章のレガート主体の表現や、第3楽章の長く時間をかけて熱するような表現に、当時「とてもついていけない。これがそんなに名演とは思えない」と思ったものである。だが、様々な音楽や演奏を聴いてきた今の自分は、それと異なる印象を持つ。むしろシューリヒトの演奏は、淡泊に過ぎる傾向を感じ、最近ではしばらく聴いていない(それはそれでいい演奏だとは思うけれど)。ジュリーニのブルックナーの第8交響曲は、楽曲の巨大さを真正面から向かい合い、明るい音色でまとめ上げたものだ。その輝かしさに、ブルックナーの交響曲としての異質性を指摘することも可能であるとはいえ、圧倒的といって良い強靭さで成り立つ完成度があって、まるで荘厳な歴史的建築物のように、接する人に威風を感じさせるものである。また、その表現の中で、感情表現も豊かであり、その発色性が「美しさ」に繋がっている。クライマックスにおけるエネルギーの開放量は大きい。これは音量が豊かであるとともに、そこに向かう過程で「溜め」が存分に効いているためで、全般にはゆったりしたテンポでありながら、濃密な練り上げがあるがゆえにもたらされる効果である。オーケストラの音色も当然のことながら立派なものであるが、中でも金管の絢爛たる響きは聴き手に支配的な力をもたらす。弦楽器は、高音部でときおりソリッドな感じはあるが、過不足を感じさせるところのない中庸さが維持されているだろう。あらためて聴いてみると、この演奏が登場する以前の録音とは、まったくちがった、しかし見事な完成度を誇る価値観で示されたブルックナーであり、聴き手や以後の演奏家にもたらした影響の大きかったことは、十分に推察されるのである。
 ブルックナーの第9交響曲でも、ある種の異質さを感じてしまうのは同じ。それは、ブルックナーの作品が持つ美学的価値に関して、私なりの固定観念があるためかもしれないが、ジュリーニの濃厚なカンタービレを感じるブルックナーは、明るく、麗しく、壮大で、それは、ブルックナーの音楽が、素朴な信仰心や自然愛から発生したもののような観念に照らすと、やはりちょっと違うのでは、との思いにとらわれる。しかし、ジュリーニのブルックナーの第9番、じっくりと聴くと、なかなか味わい深い。第1楽章冒頭から深遠さを感じる厳かなテンポで音楽が始まる。このテンポは変動するが、常にゆっくりしたものというベース上での変動である。豊かなホールトーンを踏まえて、音量豊かに達するクライマックスは高らかで、壮大だ。第2主題の弦の歌にジュリーニは思いのたけをすべて込めて歌い上げる。繰り返されるたびに高揚があり、やがて、その頂点で壮麗に輝かしく歌い上げられる。そのさん然たる輝きは、例え異質なものであったとしても、抗いがたい魅力に満ちている。これこそ、ジュリーニのブルックナーの醍醐味にほかならない。第2楽章は思いのほか快速進行といって良い。この不思議なスケルツォを、ジュリーニは、やはり暖かく、明るく、全管弦楽の包容力をもって歌うのである。結果的に終楽章となった第3楽章のアダージョは、一層極端に遅いテンポをとり、この楽章だけで30分近い演奏時間を費やす。だが、聴いていて不思議とその長さを感じない。瞬間瞬間の音の美しさ、その減衰の末尾まで磨き上げた光沢が、聴き手に常に届けられる。その心地よさが、長さを緩和してくれるのだ。一つ一つの楽器の音色に込められた慈愛の情感を聴いていると、あるいはブルックナーは、この楽章で、いままでと違ったものを訴えていたのかもしれない、とさえ感じさせてくれる。末尾のホルンはことさら長い。ひたすら呼吸が続くように、と思えるその余韻は、感動的に彼らの演奏を締めくくる。

RHYTHM & COLOURS
ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 他

レビュー日:2019.3.16
★★★★☆ ラトルがベルリン・フィルと2002~12年に録音したものから抜粋した廉価box-set
 2002年から2018年までベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者兼芸術監督を務めたサイモン・ラトル(Simon Rattle 1955-)が、その前半に録音したものを抜粋し、CD7枚組の廉価のBox-setとしたもの。収録内容は以下の通り。
【CD1】
1) ベルリオーズ(Hector Berlioz 1803-1869) 幻想交響曲 2008年録音
2) ベルリオーズ カンタータ「クレオパトラの死」 2008年録音
【CD2】
3) マーラー(Gustav Mahler 1860-1911) 交響曲 第5番 嬰ヘ短調 2002年録音
【CD3】
4) ドビュッシー(Claude Debussy 1862-1918) 牧神の午後への前奏曲 2004年録音
5) ドビュッシー 交響詩「海」 2004年録音
6) ドビュッシー バレエ音楽「おもちゃ箱」 ;アンドレ・カプレ(Andre Caplet 1878-1925)編 2004年録音
7) ドビュッシー 前奏曲集から ;コリン・マシューズ(Colin Matthews 1946-)編 オーケストラ版 2004年録音
・第1巻 第7曲 「西風が見たもの」
・第2巻 第2曲 「枯葉」
・第2巻 第12曲 「花火」
【CD4】
8) ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky 1882-1971) バレエ音楽「春の祭典」 2012年録音
9) ストラヴィンスキー 管楽器のための交響曲 2007年録音
10) ストラヴィンスキー バレエ音楽「ミューズを率いるアポロ」 2011年録音
【CD5】
11) ホルスト(Gustav Holst 1874-1934) 組曲「惑星」 op.32 2006年録音
12) コリン・マシューズ 冥王星 2006年録音
【CD6】
13) ムソルグスキー(Modest Mussorgsky 1839-1881)/ラヴェル(Maurice Ravel 1875-1937)編 組曲「展覧会の絵」 2007年録音
14) ボロディン(Alexander Borodin 1833-1887) 交響曲 第2番 ロ短調 2007年録音
15) ボロディン だったん人の踊り 2007年録音
【CD7】
16) オルフ(Carl Orff 1895-1982) カルミナ・ブラーナ 2004年録音
 いずれも複数のライヴ録音からベストテイクを集める方式でメディア化したもの。
 2)のソプラノは、スーザン・グラハム(Susan Graham 1960-)
 4)のフルートは、エマニュエル・パユ(Emmanuel Pahud 1970-)
 6)のピアノは、マイエラ・シュトックハウゼン=リーゲルバウアー(Majella Stockhausen-Riegelbauer 1961-)
 11)の合唱は、ベルリン放送合唱団
 16)の合唱はベルリン放送合唱団とベルリン大聖堂国立合唱団少年合唱団員、独唱はソプラノがサリー・マシューズ(Sally Matthews 1975-)、テノールがローレンス・ブラウンリー(Lawrence Brownlee 1972-)、バリトンがクリスティアン・ゲルハーヘル(Christian Gerhaher 1969-)。
 15)は声楽を含まない純器楽版。
 いずれも当該CD発売時の内容のままであるが、【CD5】に関しては、原版は2枚組で、2枚目に様々な作曲家が宇宙を題材に書いた管弦楽曲を収録していたのだが、当アイテムでは、その2枚目が割愛される形になっている。
 私は2019年になって、これらのラトルとベルリン・フィルの録音を、初めて聴いているのだけれど、概して「理解できる(ような気がする)が、腑に落ちないところがある」という印象がある。以下、感想を書いてみる。
 「幻想交響曲」は、かなり挑戦的な演奏である。つまり、この楽曲は、ロマン派の幕開けの頃に書かれた気宇壮大な管弦楽曲で、表題性があり、しかもその表題性は、薬物による幻覚をテーマとした、熱的かつグロテスクなものであるので、この楽曲にアプローチする際には、そのような土壌から情熱的・夢想的なものを、如何に描き出すが、という視点がある程度重視されるわけであるが、このラトルの演奏はそれらの演奏と完全に一線を画しているのである。私の感覚で行ってしまえば、ラトルはこの演奏によって、聴き手の「情」より、まず「知」に働き替えることを念頭に置いている。例えば、第4楽章。この楽章は、(夢の中で)恋人を殺害した芸術家が断頭台に引き立てられ、その周囲で悪鬼たちが乱舞する様を描いているので、通常、かなり情熱的で推進力みなぎらせて、劇的な演出を施すわけであるが、ラトルの演奏はまったく違う。非常に緻密に音楽構成を区分化し、線的な処理を繰り返していく。打楽器は正確であるが、全般に音量が抑制されているのは、ラトルの解釈として意外なものを感じさせるが、それだけに指揮者の考え方が明瞭に伝わる面白さがある。第1楽章も緻密だ。透明感のある音であるが、後半に待ち構えるクライマックスめがけて高揚感を高めていくよりは、機能的な処理に徹し、その中で聴こえてくる「新しいもの」に目ざとくスポットライトを当てる。カチカチと光が切り替わっていくような不思議な感覚を覚える。第2楽章は弦の圧倒的といってもよいシームレスな運びが凄い。処理法としては機械的なのかもしれないが、完成された響きの完全性は高いし、他の演奏とはまったく違う配色を感じる。第3楽章は木管の独立性をことのほか際立てた解釈がユニーク。第5楽章も、情熱的表現から明瞭に一線を画し、金管、打楽器ともに音の大きさを緊密な制御下において、隙のない造形性を気づきあげる。なかなか面白い、特徴的な演奏で、(私が)録音から10年を経て初めて聴いたラトルの幻想交響曲は、思っていたものとかなり異なるものであった。その評価は一概にはし難いものがある。一つはっきりと言えることは、好悪のはっきりわかれる演奏であり、当盤を、幻想交響曲を聴く際のファースト・チョイスにはオススメできない、ということであろう。ただ、楽曲をいくつかの録音で知った後で聴くことで、知的な刺激を様々に受ける演奏という感じ。
 カンタータ「クレオパトラの死」は聴く機会の少ない作品だろう。レリオを思わせるダークな側面を感じる楽曲だが、ここでもラトルの指揮ぶりは解析的で、時にやや奥まった印象を感じる。後半の「瞑想」と題された部分で、グラハムの独唱とともに、独特の深刻な雰囲気を描き出している点が魅力的だ。ただ、私はこの曲については、他の録音で聴いたことがないので、比較検討は出来ない。
 マーラーの「交響曲第5番」、なるほど、これはなかなか見事な演奏だろう。とにかくラトルの「コントロールしよう」という意志が明瞭で、隅々までその設計に基づいた音響が構築されている。ダイナミックレンジは広く、テンポもある程度自在。そして、瞬間瞬間の全体的なソノリティを、きめこまかく調節して、立体的で鮮明な音像が築き上げられている。第1楽章はややゆったりとしたテンポで開始。その後、コントラストを明瞭にしながら、テンポにある程度の変動をあたえつつ、激しいものと静謐なもののギャップを描き出していく。楽章全体として「序奏」の性格を強く引き出そうとしたのではないだろうか。第2楽章に入ると、いよいよ動きが活発化し、様々な強弱の対比が描かれるが、概して指揮者の強い制御を感じさせる。ハーモニーの光沢感や、メカニカルな冴えは鮮やかであり、この楽章のスコアを克明に照らし出すという点で立派な成果になっている。だが、このスタイルだと、第3楽章にはやや長さを感じてしまうところがある。オーケストラの自発的な要素、自然発揚的な情感を活かして引き出していくような要素が欲しくなるのだ。ただ、この楽章だけスタイルを変えるというのも実際問題難しいだろうし、やったところで、解決のつかない別のことが持ち上がってくるようにも思えるから、難しいのかもしれない。終結部の全管弦楽による推進の力強さは見事で、結びでうまく締めたといったところだろうか。第4楽章のアダージェットはとてもなめらかで透明。この音楽は、とくに後半は熱を帯びたようになってくるのだが、ラトルは冷静で、常に一定の距離感が保たれている。ベルリン・フィルの弦楽器陣のゴージャスな響きが、淡々と流れていく様は、不思議と即物的な感覚を催させてユニークだ。第5楽章は運動的な展開が心地よいが、ここでもラトルの制御は緻密と言ってよい。そのため、これは3楽章でもそうだったのであるが、どこかユーモラスなフレーズや、ちょっと風合いを感じさせるような音型が、きわめて無表情に感じられるところがあり、ときおり思わぬメタリックな感触を味わう瞬間がある。全体的に全合奏の彫像性、克明な描写力は見事。その一方で、マーラーらしい情念的なものが、時折抜けたように響くのが、当演奏のスタンスを考えると、「ないものねだり」なのかもしれないが、やや物足りなさを感じさせる。
 初めに「私にとって腑に落ちないところがあるという印象」と書いたが、例えば、ドビュッシーの「海」の第1楽章であるが、ラトルは、きわめて機能的な音楽作りを目指し、達成している。こまやかな音型やフレーズをきれいに洗いだした上で、透明な容器のきれいに配置し、その音の骨格から印象派的な、モザイク的な文様を作り上げる。実に鮮やかで、微細な個所までくっきりと表現されたすみやかさがあるのだが、必然的に全体の起伏感が制御されるため、この楽曲の描写的な側面があまりにも淡泊に感じられる。解析的な面白味や、楽器間の巧妙、精密なバランスが興味深いが、音楽としてのハートの部分がいまいち伝わってこないように感じるし、音楽の移り変わりに即して発揮してほしいインスピレーションのようなものが、少なくとも私には掴みにくい。一言で言うと、単調に過ぎる。
 そういった意味では、収録されているドビュッシー作品では、「海」より、他の楽曲の方が私には親しみやすい。これは楽曲の「規模」という観点も影響するだろう。時間軸に沿った1日の海の描写であった「海」に比べると、「牧神の午後への前奏曲」はよりスポット的な作品だ。パユの品の良いルバートを効かせたフルートの絶対的な美しさを、管弦楽の透明な色彩のパレットの上にトレースした響きは、単純に美しく、かすかな気だるさを残すところも私には良い。
 「おもちゃ箱」は、私が以前聴いてきたマルティノンやデュトワの録音と比べると、やや即物的な音色にも思えるが、音の階層を明瞭にした上で、伸縮やダイナミクスをコントロールする動きは、刺激があって面白い。新しい感触を味わうことが出来る。  マシューズ編による「前奏曲集の管弦楽編曲作品」から3曲が収録されている。ちなみに、マシューズは、ドビュッシーの前奏曲全曲について管弦楽編曲を行っている。マシューズの編曲は収録された3曲を聴くかぎりパーカッションの響きを活かした特徴がある。パーカッションの表現に精通したラトルならではのソノリティを楽しめるし、どこかストラヴィンスキーを思わせる響きが現れるところも面白い。  私が当アイテムの中で抜群に良いと感じたのが【CD4】のストラヴィンスキー。
 「春の祭典」では冒頭のファゴットの音色から実に雰囲気が良い。この楽曲の初演の席にいたサンサーンス(Camille Saint-Saens 1835-1921)は、冒頭の限界の高音を絞り出すファゴットの旋律を聴いたとたんに「楽器の使い方さえ知らない奴が書いた曲なんて聴くまでもない」と離席したのは有名なエピソード。だけれど、楽器の限界に近い音をあえて奏させることで、音楽の感情的な効果を高めることは、すでにマーラーらがいろいろ試みてきたことなので、今となっては、このエピソードは、むしろサンサーンスがいかに保守的な芸術家だったかを示すものとなっている。それに現在のオーケストラは、概して技術水準が高く、意外にあっさりと音が出たりするものでもある。だが、この演奏には、冒頭のファアゴットから、かなりの緊張感というか、どこかただならない気配の含みが感じられる。そして、その予兆は裏切られない。ことに第1部の「大地の礼賛」では、木管陣の音色の生々しい迫力が随所で活きていて、この楽曲特有の自然の凄みが感じられる。ラトルの棒の下、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、その機能を活かして、時に野蛮と言ってよいほどのエネルギーの噴出を見せる。その熱量が凄い。この時期のラトルとベルリンの録音には、どこか澄ましたようなものを感じることが多いのだが、このストラヴィンスキーは、つねに内燃性の活動脈があって、それが引き絞られるようにして溢れてくる様がある。また、それを美しく描きつくしたオーケストラの素晴らしさは言葉で表現できるものではない。
 「管楽器のための交響曲」は、ストラヴィンスキーが、親交の深かったドビュッシーの追悼のために書いた作品で、それに相応しい悲しい色あいを感じさせる音響が風通し良く表現されている。春の祭典ほどにインパクトのある演奏ではないけれど、もちろん悪くはない。
 バレエ音楽「ミューズを率いるアポロ」は、ストラヴィンスキーの新古典主義的な側面が出た作品で、ラトルはその特徴を明瞭に示す。弦楽セクションに明瞭なスポットが当たり、かつその暖かい響きが支配的だ。第2場の前段の部分において、その効果はいっそう音楽に鮮やかなコントラストをもたらしている。テルプシコーレの踊りのしなやかで弾力的な合奏音に酔い、終曲アポテオーズでみずみずしさを保ちながら静謐に向かっていく。楽曲が移り変わる過程も美しく、この楽曲に馴染みのない人は、是非、当盤で聴いてほしいとも思う。
 ホルストの「惑星」も良演。ベルリン・フィルのスペックを活かした弦楽器陣のつややかな響きが美しく、俗に落ちない高貴な響きを保ちながら、迫力や神秘を巧みに表出している。マシューズの「冥王星」は、「この時代には、冥王星という惑星があったんだな」という里程標になりそう。
 「展覧会の絵」は、すごく鳴りは良く洗練された演奏であるとは思うのだが、今一つ聴き手に働きかけるものに欠けた印象がある。この華やかな楽曲で、ラトルは非常に客観的な体制を維持し、オーケストラの音色は隅々まで整えられた輪郭のくっきりしたものとなっている。弦楽器陣の響きの輝きはさすがこのオーケストラで、ヴィドロで主旋律を弦楽合奏が奏でるところなど、これ以上望めないほどの完成度で合奏音が響く。実に見事。ただ、音楽全体の前進力、駆動力といった「力感」、これらは、例え洗練を経たとしても、このムソルグスキーの書いた旋律を表現する上で必要なものだと思うのだが、この演奏ではそこが簡素に過ぎるように感じられる。旋律の表現にもう一つ厚みがほしいし、それを飾るラヴェルのオーケストレーションならではの色彩にも、もう少し見えを切る要素があってもいいのではないか、と思ってしまう。もちろん、演奏の質が良くないというわけではない。細やかなパッセージの滑らかさ、キエフの大きな門での打楽器の存在感、その音色のリアリティなど、確かに聴き味に鋭く、見事なものだと思うけれど、他の名演と比べると、全体に筋肉質になり過ぎたようなイメージである。
 その点で、ボロディンの「交響曲第2番」の方が私には良く思えた。といっても、こちらも、ロシア的な濃厚さとは別の、機敏でシャープなソノリティに徹した現代的演奏。第2楽章冒頭の金管や、第3楽章のホルンなど、美しいところはいっぱいある。この楽曲の緩徐楽章に顕著なノスタルジーに関しては、たっぷり歌い上げると言うスタンスではなく、スマートにこなしている。その結果、この楽曲から泥臭さを抜き去ったような淡い辛みがそれなりに効いていて、なかなか感興を催してくれる。「だったん人の踊り」もシャープで陰影くっきりした運び。旋律を奏でるクラリネットの美しさはさすが。  「カルミナ・ブラーナ」は、この曲に何を求めるかで評価が異なってくる演奏だろう。ラトルの指揮はリズム感が鋭くこれを表現する楽器が前面に出る。ティンパニをはじめとする打楽器群の鋭角的な音色が全体の印象を支配的に形作る。ダイナミックレンジは広く、静寂は息を殺すようだ。冒頭の「おお、運命の女神よ」は壮烈なティンパニ強打で開始されるが、それに続く緊張は、静謐な中でひたすら正確なリズムを刻むことで達せられ、均質化された背景の中でファゴットが生々しく浮き立つ。演奏の完成度は高い。明晰かつ慎重。テノールのブラウンリーは「昔は湖に住まっていた」で光沢ある高音を響かせ、バリトンのゲルハーエルは「わしは僧院長さまだぞ」で闊達自在な響きを見せる。また合唱も立派に制御されていて、鋭い金管陣と間断ない応答を聴かせてくれる。ラトルのスタイルは徹底していて、オーケストラ、声楽ともその要求にほぼ完ぺきに応えた演奏となっている。
 ただ、私はそれと同時に、この演奏にどこか味気無さを感じてしまう。確かに音の迫力はあり、時に鳥肌がたつような凄まじさがあるのだが、音楽の内燃的な熱血性にどこか背を向けたような金属質な感触が常につきまとっていて、音楽的感動と異なる冷たさを同時に感じるところがある。これは熱血性を持たすものが、リズムと音の強弱の他に、フレーズにルバートでどのような思いを込めるか、加えてフレーズの表現の中でいかにエネルギーの伸縮を持たせるかといった作法により導かれるわけだが、そのような要素があいまいさとともに洗われてしまった感があり、力強さの中に熱さを感じにくいのである。確かにみごとな完成度を誇る音響が聴かれるが、陰影のくっきりした完璧な演奏にありがちな「淡さ」は、私をいまひとつ夢中にさせてくれない。
 以上が私の感想だが、全体としては、完成度の高いオーケストラの響きが満ちており、この価格であれば、アイテムとして十分な購入対価を満たすものには違いないだろう。ストラヴィンスキーが素晴らしいことも手伝って、アイテム全体の価値としては十二分なものがある。ただ、いくつかの曲で、私の「どこか腑に落ちない」印象を反映させるため、星4つの評価にとどめさせていただく。

RAFAEL KUBELIK THE MUNICH SYMPHONIC RECORDINGS(ドヴォルザーク 交響曲 第6番 第7番 第8番「イギリス」 第9番「新世界から」 弦楽セレナード 管楽セレナード  ハイドン 交響曲 第99番  モーツァルト 交響曲 第25番 第38番「プラハ」 第40番 第41番「ジュピター」  ベートーヴェン 交響曲 第9番「合唱付」  ブラームス 交響曲 全曲   ブルックナー 交響曲 第8番 第9番  ベルリオーズ 幻想交響曲 序曲「海賊」  スメタナ 連作交響詩「わが祖国」  ヤナーチェク シンフォニエッタ  ハルトマン 交響的讃歌  バルトーク 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽  管弦楽のための協奏曲)
クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団

レビュー日:2019.8.7
★★★★★ クーベリックとバイエルン放送交響楽団による熱いライヴ録音の記録
 チェコの名指揮者、ラファエル・クーベリック(Rafael Kubelik 1914-1996)の功績は様々にあるが、その大きなものの一つは、1961年に首席指揮者に就任し、1979年までその地位にあったバイエルン放送交響楽団との関係から生まれた数々の名演である。その関係を通じ、クーベリックは巨匠となり、ミュンヘンにあったラジオ・オーケストラは、世界でも指折りの名交響楽団へと飛躍していった。
 当盤は、そんなクーベリックとバイエルン放送交響楽団による、脂の乗ったライヴ音源全15枚分がまとめられたBox-setである。録音詳細については記載があるので省略するが、CD15枚のうち、10枚相当については、すでにオルフェオから同内容のものがリリースされている。そららのCD番号は以下の通りである。
【DISC 1】 C206891DR
【DISC 2】 C498991DR
【DISC 3】 C207891DR
【DISC 4~6】 C070833
【DISC 10】 C203891DR
【DISC 12】 C499991DR
【DISC 13】 C115841
【DISC 15】 C551011DR
 当盤の価値を高めているのは、上記以外の初出音源ということになるだろう。また、上記の既出音源についても、投稿日現在入手が困難となっているものもあるため、いずれにしても再発売という形で入手可能となることは歓迎されるだろう。すべてライヴ録音であるが、録音状況は、概して当該年代における平均以上のレベルで安定しており、聴き易い。
 クーベリックのスタイルは、第一に厚い旋律線の豊かな表現性にあると思う。オーケストラのサウンドを、恰幅良く響かせる中で、旋律には存分なカンタービレを与え、濃厚な表情付けを施していく。ロマン派の延長線上を感じさせる歌と情熱を感じさせる演奏だ。単に「熱い」と表現しても良い。テンポは速めを主体とすることが多いが、楽曲や楽想に応じた能弁な使い分けがある。
 ハイドン(Joseph Haydn 1732-1809)やモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)は、この時代らしい編成の大きなオーケストラを用いて、輝かしい弦楽器陣の響きを縦横に響かせた演奏であるが、特にモーツァルトが素晴らしい。もちろん、これは彼らの当該曲の正規スタジオ録音が素晴らしいことと同義な素晴らしさなのではあるが、心地よいリズム、しなやかな躍動感を踏まえて、叙情性、運動性ともに過不足なく、かつ凛々しさを感じさせる響きが見事である。
 ドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904)やスメタナ(Bedrich Smetana 1824-1884)は、言わずもがなのクーベリックの十八番であり、駄演凡演であるわけもなく、見事である。スメタナの「わが祖国」など、これ以上ないほどの豪壮さを備えた演奏であり、そこにはカントリー・スタイルというよりも、ヨーロッパ文化の王道を行くような気風にみちた格式を感じさせる。
 初出関連では、ブルックナー(Anton Bruckner 1824-1896)の交響曲第9番、ヤナーチェク(Leos Janacek 1854-1928)のシンフォニエッタ、ハルトトマン(Karl Amadeus Hartmann 1905-1963)の交響的讃歌など、いずれも聴きごたえ豊かなものだ。
 もちろん、ライヴ特有の肌理の粗さが、ところどころで表出するところはあるし、クーベリックの濃厚な音作りが、時に重いと感じてしまうところもあるのだが、そこまで指摘しても、ないものねだりの感が出てくる気もする。  というわけで、世界を代表するオーケストラの、練熟のライヴを立て続けに聴けるということで、なかなかに熱いBox-setであると思う。

Colin Davis Staatskapelle Dresden Live Box
C.デイヴィス指揮 ドレスデン・シュターツカペレ 他

レビュー日:2018.4.20
★★★★★ 巨匠コリン・デイヴィスと、名オーケストラ、シュターツカペレ・ドレスデンによる貴重なライヴ音源をまとめたBox-set
 イギリスの指揮者、コリン・デイヴィス(Colin Davis 1927-2013)の追悼企画盤としてリリースされた6枚組Box-set。デイヴィスが1990年から名誉指揮者としてたびたびタクトを振ったシュターツカペレ・ドレスデンとのライヴ録音を集めたもの。いずれも同内容の単品が発売済であり、新しい内容はないが、すでに廃盤となったものも含まれており、廉価再発売は歓迎される。収録内容は以下の通り。
【CD1】
1) エルガー(Edward Elgar 1857-1934) 交響曲 第1番 変イ長調 op.55 1998年録音
2) ベルリオーズ(Hector Berlioz 1803-1869) 序曲「リア王」 op.4 1997年録音
3) ベルリオーズ 「ベアトリスとベネディクト」 op.9 から 序曲 1997年録音
【CD2】
1) メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn 1809-1847) 交響曲 第3番 イ短調 op.56 「スコットランド」 1997年録音
2) メンデルスゾーン 交響曲 第5番 ニ長調 op.107 「宗教改革」 1997年録音
【CD3】
1) シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957) 交響曲 第2番 ニ長調 op.43 1988年録音
2) シベリウス 交響詩「エン・サガ」 op.9 2003年録音
3) シベリウス 交響詩「ルオンノタール」 op.70 2003年録音 ソプラノ: ウテ・ゼルビク(Ute Selbig)
【CD4】
1) シューベルト(Franz Schubert 1797-1828) 交響曲 第8番 ロ短調 D.759 「未完成」 1992年録音
2) ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897) 交響曲 第3番 ヘ長調 op.90 1992年録音
【CD5,6】
ベルリオーズ(Hector Berlioz 1803-1869) レクイエム(死者のための大ミサ曲) op.5 1994年録音
ドレスデン国立歌劇場合唱団、ドレスデン・シンフォニー合唱団、ドレスデン・ジングアカデミー テノール: キース・イカイア=パーディ(Keith Ikaia-Purdy)
 いずれも、ドイツの正統的な伝統を引き継いだオーケストラの響きを、実感・堪能させてくれる演奏だ。特に、エルガー、ベルリオーズ、シベリウスなど、じゅうらい従来このオーケストラが主要なレパートリーとしてこなかった作曲家の作品が聴けることが興味深い。
 【CD1】のエルガーは、荘厳な主題が提示される冒頭から、音楽は大きく闊歩するように進むが、その壮大なエネルギーは内奥から湧き出るように溢れてきて、次第に全編を包んでいく。展開とともに管弦楽は太い厚みと十分な音量をもって主題を扱うとともに、これを保持し、色づける楽器たちが、いずれもその装飾の限りを尽くすように響き渡り、圧巻を言って良いほどの音の絵巻を作り上げる。この第1楽章の雄大な恰幅には圧倒される。次いで第2楽章の目覚ましい迫力も特筆ものだ。重量感とスピード感の双方に満ち、熱血的に畳み込むようにして進む音楽はすさまじい力強さを見せる。耽美的と言っても良い第3楽章は、弦楽器の暖かい優美さがすばらしい聴き心地。そして第4楽章。フィナーレに向かって一気果敢になだれ込む良いな、熱い熱いオーケストラである。これぞドイツ流エルガー!見事。ベルリオーズも素晴らしい。エルガーにしても、ベルリオーズにしても、指揮者の確信に満ちたリードを実感する。流れの良さ、漲る力感。特に「ベアトリスとベネディクト」の素朴さと輝かしさを併せて表現する弦楽器陣の響きに魅了される。
 【CD2】のメンデルスゾーンの交響曲第3番の第1楽章は平均的なテンポで開始されるが、主部ではやや速度を落とし、しっかりと内面を深く、暖かく描くようにオーケストラをリード。各声部の響きに厚みがあって、常に豊かな感覚が供給される。それは雪で閉ざされた海とはずいぶん異なるイメージであるが、メンデルスゾーンのこの交響曲が、優れた古典的な構造を持っていることを端的に示すものでもある。オーケストラの太い音量がつねに心強いが、強烈なティンパニが加えられるシーンでの音圧は見事なものとなる。第2楽章は快速、第3楽章は落ち着く、という対照性も劇的な効果を生み出しており、それは一つの交響曲としての優れたフォルムの形成につながる。第4楽章は劇的で苛烈だが、長調に転調した後の幸福感に満ちたコーダの盛り上がりは感動的なものとなっている。交響曲第5番も素晴らしい内容。特に第1楽章、オーケストラの響き自体の豊かなヴォリューム感は、この交響曲の数々の録音の中でも、特に豊穣な質感をもたらすものと言って良い。演奏によっては簡素に過ぎると感じることのある第2楽章も、音に込められた情感の深さで「聴かせる」音楽となっている。メンデルスゾーンの交響曲に、このような骨太な味わいがあったのか、と改めてその音楽解釈の多様性に感嘆させられる。
 【CD3】のシベリウスは、北欧や英米のオーケストラが響かせるシベリウスと「音色」が異なる点が興味深い。概して、シベリウスの音楽は、その透明感、北国の空気感にも通じるような一種の淡さをベースとするところがあるのであるが、この演奏はだいぶちがっており、いかにも中央ヨーロッパ的な、中音部に厚みのある音色である。高音の独立性は強調されず、むしろ他の音にいかに溶け込ませるかという点で配意があって、その結果、音は暖かみと柔らかみに満ちた豊穣さがある。そのために部分的には木管やティンパニが背景色と混ざりこむ部分があり、透明感や各楽器の独立性にシベリウスらしさを見出す人(割と多いのでは)には、違和感を与えるかもしれない。しかし、さすがはコリン・デイヴィス。そのようなトーンを前提に、非常に素晴らしい音響を築き上げている。私はこの録音を聴いて、この指揮者は、オーケストラによって、これほど音楽のイメージを変容させることが出来る人だったのか、とあらためて感じ入った。
 【CD4】のシューベルトの未完成交響曲では、シュターツカペレ・ドレスデンの深みのある弦の響きが、この交響曲にふさわしいコントラストを描き出している。非常に落ち着いた音楽の運びで、全体的な印象は内省的な厳かさを感じさせるが、クライマックスでは十分な慟哭があって、感動は大きい。デイヴィスのシューベルトへのアプローチは、全般にオーソドックスで、古典的なものと言って良い。すべてが、こうであろうという、きちんと記憶を踏襲するような折り目正しさに満ちている。第2楽章は、のちにセッション録音されたものと比べると、やや速めのテンポを主体とするが、合奏音の美しさはあいかわらずさすがであり、情緒が途切れることなく供給される。クラリネットの物憂い響きは特に忘れがたいものだが、ほかの楽器も含めて、豊かな響きに満ちている。なお、第1楽章はリピートを行っている。ブラームスも正統的なアプローチであるが、ややタメの「間」に人工的な感覚を残すところがあり、それ自体が悪いというわけではないが、両端楽章におけるその繰り返しがどこかフラットな印象に結び付くように感じた。もっとドラマチックな揺れがあってもいいのではないだろうか、と。とはいえ中間楽章に流れる暖かくやわらかな情感は、自然な美観に溢れているし、金管の力強い響きの呼応は、随所で聴きごたえに溢れた効果を導いている。全体としてみれば、さすがドレスデンはいい音を出す、という感想は、多くの人に共通するものとなるだろう。
 【CD5,6】のベルリーズのレクイエムは、この作品の巨大性が鳴動するような名録音だ。ことに凄いのは「怒りの日」と「涙の日」だろう。この2編は、巨大編成が全体に躍動する部分でもあるのだが、ティンパニの雷鳴のようなド迫力と、金管の壮麗な伽藍が、いくら見上げても頂きを認めることのできない山脈を思わせるような、圧倒的なパワーで聴き手に迫ってくる。巨大で壮麗であるだけでなく、そこには燃焼度の高い熱気が存分に含まれていて、その力強い咆哮は、楽曲の持つ鎮魂の作用を越え、どこか宇宙的、創造的な世界観をみせる。合唱、弦楽器陣も含めて、すさまじい音。もちろん、聴きどころはそれだけではない。「そのとき憐れなるわれ」で聴かれる静謐な安寧、「恐るべき御稜威の王」の情熱的な合唱、「われをさがしもとめ」の敬虔さを感じさせるアカペラなど、ベルリオーズの音楽の神髄といって良いものが、しっかりした手ごたえで伝わってくる。「賛美の生贄」の木管と金管のやりとりには十分な細やかさがある。「聖なるかな」のイカイア=パーディの独唱はかなり情熱的で、ベルカントという表現が合致しそう。これはライヴの雰囲気に燃え立つものが多かったかもしれない。そして、「神羊唱」で意味深な導きの音、静謐に帰っていく。ベルリオーズが、巨大な編成を用いて、様々に要求した音楽的効果を、高いレベルで、熱血的に表現した見事な名演といって良い。録音もこれだけの音をよく拾っている。同曲の代表的な録音であり、ベルリオーズ作品を広く手掛けてきたデイヴィスのたどり着いた一つの模範が示されたものとも言えるだろう。

NAXOS 30周年記念BOX - 30th Anniversary Collection
V.A.

レビュー日:2017.10.5
★★★★★ これはお得!ナクソス30周年を記念した廉価Box-set
 ドイツの実業家、クラウス・ハイマン(Klaus Heymann 1936-)とその妻でヴァイオリニストである西崎崇子(1944-)によって、1987年に香港で立ち上げられたクラシック・レーベル「ナクソス」の30周年を記念した廉価Box-set。まだ知られていないアーティストや作曲家、楽曲を発掘し、低価格でリスナーに音源を届けるという徹底した理念により、一気に発展し、現在では、そのクラシックCDの売上げが世界一となるレーベルに急成長した。
 廉価レーベルというイメージから、敬遠するフアンもいるかもしれないが、まったくそんな心配はない。素晴らしい演奏、録音に溢れ、素敵な楽曲との出会いがある。まずはこのBox-setからいかがだろうか。
 このレーベルで世界に紹介されたと言っても良い、ヤンドー、ビレット、カーラー、ペトレンコ、ネボルシンなど逸材が揃っている他、ミュラー=ブリュールのバッハ、スラトキンのコープランド、エンゲセトのグリーグ、マロンのヘンデルなど、いずれもその楽曲の代表する現代の名録音と言っても良いものだ。ドアティ、グリエール、グレツキなどの「ちょっと珍しい楽曲」を知るのにも絶好。少なくとも、この内容で、コスト・パフォーマンスに不満を抱く人は、ほとんどいないのではないだろうか。収録内容の詳細を書いておく。
【CD1】
バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)
1) 管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV1066
2) 管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV1067
3) 管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068
4) 管弦楽組曲 第4番 ニ長調 BWN1069
ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Muller-Bruhl 1933-2012)指揮 ケルン室内管弦楽団 fl: カール・カイザー(Karl Kaiser 1934-) 1998年録音
【CD2】
ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827)
1) ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 op.13「悲愴」
2) ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 op.27-2「月光」
3) ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 op.57「熱情」
p: イェネ・ヤンドー(Jeno Jando 1952-) 1987年録音
【CD3】
ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897)
1) チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 op.38
2) 4つの歌 op.43 第2曲「5月の夜」
3) 5つの歌曲 op.47 第1曲「便り」
4) 5つの歌曲 op.47 第2曲「愛の炎」
5) 5つの歌 op.72 第4曲「失望」
6) 6つの歌曲 op.85 第1曲「夏の夕べ」
7) 6つの歌曲 op.97 第1曲「ナイチンゲール」
8) チェロ・ソナタ 第2番 ヘ長調 op.99
vc: ガブリエル・シュヴァーベ(Gabriel Schwabe 1988-) p: ニコラス・リンマー(Nicholas Rimmer 1981-) 2014年録音
【CD4】
ブルックナー(Anton Bruckner 1824-1896) 交響曲 第5番 変ロ長調
ゲオルク・ティントナー(Georg Tintner 1917-1999)指揮 ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団 1996年録音
【CD5】
ショパン(Frederic Chopin 1810-1849)
1) ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 op.11
2) ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 op.21
p: イディル・ビレット(Idil Biret 1941-) ロベルト・スタンコフスキー(Robert Stankovsky 1964-2001)指揮 スロヴァキア国立コシツェ・フィルハーモニー管弦楽団 1990年録音
【CD6】
コープランド(Aaron Copland 1900-1990)
1) バレエ音楽「ロデオ」全曲(カウボーイの休日、畜舎の夜想曲、ランチハウス・パーティ、土曜の夜のワルツ、ホーダウン)
2) ダンス・パネルズ
3) エル・サロン・メヒコ
4) キューバ舞曲
レナード・スラトキン(Leonard Slatkin 1944-)指揮 デトロイト交響楽団 2012年録音
【CD7】
マイケル・ドアティ(Michael Daugherty 1954-)
1) メトロポリス・シンフォニー(レックス/クリプトン/MXYZPTLK/オー、ルイ!/レッド・ケープ・タンゴ)
2) ピアノと管弦楽のための「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」(早送り/涙の列車/夜の蒸気)
ジャンカルロ・ゲレーロ(Giancarlo Guerrero 1969-)指揮 ナッシュヴィル交響楽団 2007年録音
【CD8】
ドビュッシー(Claude Debussy 1862-1918) 前奏曲集 第1巻、第2巻;ピーター・ブレイナー(Peter Breiner 1957-)編曲オーケストラ版
準・メルクル(Jun Markl 1959-)指揮 ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団 2011年録音
【CD9】
ドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904)
1) ピアノ三重奏曲 第3番 ヘ短調
2) ピアノ三重奏曲 第4番 ホ短調「ドゥムキー」
vn: イリヤ・カーラー(Ilya Kaler 1963-) p: アーロン・ゴールドスタイン(Alon Goldstein 1970-) vc: アミット・ペルド(Amit Peled 1973-) 2013年録音
【CD10】
ドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904)
1) 交響的変奏曲 op.78
2) 交響曲第9番 ホ短調 op.95「新世界より」
マリン・オールソップ(Marin Alsop 1956-)指揮 ボルティモア交響楽団 2007年録音
【CD11】
1) ドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904) チェロ協奏曲 ロ短調 op.104
2) エルガー(Edward Elgar 1857-1934) チェロ協奏曲 ホ短調 op.85
vc: マリア・クリーゲル(Maria Kliegel 1952-) ミヒャエル・ハラース(Michael Halasz 1938-)指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1991年録音
【CD12】
エルガー(Edward Elgar 1857-1934)
1) 戴冠式行進曲 op.65
2) 劇音楽「グラニアとディアルミド」から「葬送行進曲」 op.42-2
3) 行進曲 威風堂々 第1番 op.39-1
4) 行進曲 威風堂々 第2番 op.39-2
5) 行進曲 威風堂々 第3番 op.39-3
6) 行進曲 威風堂々 第4番 op.39-4
7) 行進曲 威風堂々 第5番 op.39-5
8) カラクタクス op.35から「凱旋行進曲」
9) 宮廷仮面劇「インドの王国」op.66からモガル士侯たちの行進曲 
10) イギリス帝国行進曲
11) 交響的前奏曲「ボローニア」 op.76
ジェイムス・ジャッド(James Judd 1949-)指揮 ニュージーランド交響楽団 2003年録音
【CD13】
グリエール(Reinhold Gliere 1875-1956) 交響曲 第3番 ロ短調「イリヤ・ムーロメツ」
ジョアン・ファレッタ(Joann Falletta 1954-)指揮 バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団 2013年録音
【CD14】
グレツキ(Henryk Gorecki 1933-2010)
1) 交響曲 第3番「悲歌のシンフォニー」
2) 3つの古い様式の小品
アントニ・ヴィット(Antoni Wit 1944-)指揮 ポーランド国立放送交響楽団 S: ゾフィア・キラノヴィチ(Zofia Kilanowicz 1963-) 1993年録音
【CD15】
グリーグ(Edvard Grieg 1843-1907)
1) 「ペール・ギュント」組曲 第1番 op.46(朝、オーセの死、アニトラの踊り、山の魔王の宮殿で)
2) 「ペール・ギュント」組曲 第2番 op.55(イングリットの嘆き、アラビアの踊り、ペール・ギュントの帰郷、ソルヴェイグの歌)
3) ビョルンソンの「漁夫の娘」による4つの詩 op.21 から 第1曲「初めての出会い」
4) 「山の精にとらわれし者」 op.32
6つの歌
 5) 第1番 ソルヴェイグの歌
 6) 第2番 ソルヴェイグの子守唄
 7) 第3番 モンテ・ピンチョから
 8) 第4番 白鳥
 9) 第5番 最後の春
 10) 第6番 ヘンリク・ヴェルゲラン
ビャルテ・エンゲセト(Bjarte Engeset 1958-) マルメ交響楽団 S: インガー・ダム=イエンセン(Inger Dam-Jensen 1964-) パレ・クヌーセン(Palle Knudsen) 2006年録音
【CD16】
ヘンデル(Georg Friedrich Handel 1685-1759)
1) 「水上の音楽」組曲 第1番 ヘ長調 HWV348
2) 「水上の音楽」組曲 第2番 ニ長調 HWV349
3) 「水上の音楽」組曲 第3番 ト長調 HWV350
4) 王宮の花火の音楽 HWV351
ケヴィン・マロン((Kevin Mallon 指揮)アラディア・アンサンブル 2005年録音
【CD17】
ハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809)
1) 弦楽四重奏曲 第78番 変ロ長調 op.76-4「日の出」
2) 弦楽四重奏曲 第79番 ニ長調 op.76-5「ラルゴ」
3) 弦楽四重奏曲 第80番 変ホ長調 op.76-6
コダーイ四重奏団 1989年録音
【CD18】
リスト(Franz Liszt 1811-1886)
1) ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
2) ピアノ協奏曲 第2番 イ長調
3) 死の舞踏
p: エルダー・ネボルシン(Eldar Nebolsin 1974-) ワシリー・ペトレンコ(Vasily Petrenko 1976-)指揮 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団 2007年録音
【CD19】
モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)
1) フルート協奏曲 第2番 ニ長調 K.314 (285d)
2) フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299
3) フルート協奏曲 第1番 ト長調 K.313 (285c)
fl: パトリック・ガロワ(Patrick Gallois 1956-) hp: ファブリス・ピエール(Fabrice Pierre1958-) カタリナ・アンドレアソン(Katarina Andreasson 1963-)指揮 スウェーデン室内管弦楽団 2002年録音
【CD20】
1) オールセン(Sparre Olsen 1903-1984 ノルウェー) ロムの6つの民謡 op.2 (ヴァイオリンと管弦楽編)
2) アッテルベリ(Kurt Atterberg 1887-1974 スウェーデン) 組曲 第3番 op.19-1 (2つのヴァイオリンと弦楽オーケストラ編)
3) ステンハンマル(Wilhelm Stenhammar 1871-1927 スウェーデン) 2つの感傷的なロマンス op.28
4) ブル(Ole Bull 1810-1880 ノルウェー) ハバナの思い出
5) ブル セーテル訪問(ヴァイオリンと弦楽オーケストラ編)
6) ハルヴォルセン(Johan Halvorsen 1864-1935 ノルウェー) ノルウェー舞曲 第3番
7) シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957) ユモレスク 第1番 ニ短調 op.87-1
8) シベリウス ユモレスク 第2番 ニ長調 op.87-2
9) シベリウス ユモレスク 第3番 ト短調 op.89a
10) シベリウス ユモレスク 第4番 ト短調 op.89b
11) シベリウス ユモレスク 第5番 変ホ長調 op.89c
12) シベリウス ユモレスク 第6番 ト短調 op.89d
13) シンディング(Christian Sinding 1856-1941 ノルウェー) 夕べの気分 op.120a
vn: ヘンニング・クラッゲルード(Henning Kraggerud 1973-) ビャルテ・エンゲセト(Bjarte Engeset 1958-) ダーラ・シンフォニエッタ 2011年録音
【CD21】
ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943) 
1) 練習曲集「音の絵」op.39
2) 楽興の時 op.16
p: ボリス・ギルトブルグ(Boris Giltburg 1984-) 2015年録音
【CD22】
リムスキー=コルサコフ(Nikolai Rimsky-Korsakov 1844-1908)
1) 歌劇「雪娘」組曲
2) 交響的絵画「サトコ」 op.5
3) 組曲「ムラダ」
4) 歌劇「金鶏」組曲
ジェラード・シュウォーツ(Gerard Schwarz 1947-) シアトル交響楽団 2011年録音
【CD23】
1) ロドリーゴ(Joaquin Rodrigo 1901-1999) アランフェス協奏曲
2) ヴィラ=ロボス(Heitor Villa-Lobos 1887-1959) ギター協奏曲
3) カステルヌォーヴォ=テデスコ(Mario Castelnuovo-Tedesco 1895-1968) ギター協奏曲 第1番 op.99
g: ノーバート・クラフト(Norbert Kraft 1950-) ニコラス・ウォード(Nicholas Ward 1952-)指揮 ノーザン室内管弦楽団 1992年録音
【CD24】
ロッシーニ(Gioachino Rossini 1792-1868) 歌劇「セヴィリャの理髪師」 ハイライト
ヴィル・ハンブルク(Will Humburg)指揮 ファイローニ室内管弦楽団 ハンガリー放送合唱団
フィガロ: ロベルト・セルヴィーレ(Roberto Servileバリトン)
ロジーナ: ソニア・ガナッシ(Sonia Ganassi 1966- メゾ・ソプラノ)
アルマヴィーヴァ伯爵: ラモン・バルガス(Ramon Vargas 1960- テノール)
バジリオ: フランコ・デ・グランディス(Franco de Grandis バス)
ベルタ: イングリット・ケルテシ(Ingrid Kertesi ソプラノ)
医師バルトロ: アンヘル・ロメロ(Angelo Romero バス)
1992年録音
【CD25】
サラサーテ(Pablo de Sarasate 1844-1908)
1) カルメン幻想曲 op.25
2) グノーの「ロメオとジュリエット」による演奏会用幻想曲 op.5
3) ロシアの歌 op.49(ヴァイオリンと管弦楽版)
4) ナイチンゲールの歌 op.29(ヴァイオリンと管弦楽版)
5) 狩り op.44
6) ホタ・デ・パブロ op.52(ヴァイオリンと管弦楽版)
vn: ヤン・ティエンワ(Yang Tianwa 1987-) エルネスト・マルティネス=イスキエルド(Ernest Martinez Izquierdo 1962-)指揮 ナヴァール交響楽団 2008,09年録音
【CD26】
シマノフスキ(Karol Szymanowski 1882-1937)
1) スターバト・マーテル op.53
2) 来たれ創り主なる精霊 op.57
3) 聖母マリアの典礼 op.59
4) デメーテル op.37b
5) ペンテジレア op.18
アントニ・ヴィット(Antoni Wit 1944-)指揮、ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団・合唱団 S: イヴォナ・ホッサ(Iwona Hossa 1973-)、MS: エヴァ・マルシニク(Ewa Marciniec) B: ヤロスラフ・ブレク(Jaroslaw Brek 1977-) 2007年録音
【CD27】
タリス(Thomas Tallis 1505-1585)
1) 汝のほかにわれ望みなし
2) めでたし清らかなおとめ
3) ミサ曲「めでたし清らかなおとめ」
4) 全ての心と口にて
5) おお主よ、彼らを苦しめよ
6) おお主よ、私は汝によびかけ
ジェレミー・サマリー(Jeremy Summerly 1961-)指揮 オックスフォード・カメラータ 2005年録音
【CD28】
チャイコフスキー(Pyotr Ilich Tchaikovsky 1840-1893)
1) マンフレッド交響曲 ロ短調 op.58
2) 交響的バラード「地方長官」 op.78
ワシリー・ペトレンコ(Vasily Petrenko 1976-)指揮 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団 2007年録音
【CD29】
チャイコフスキー(Pyotr Tchaikovsky 1840-1893)
1) ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
2) 憂鬱なセレナード op.26
3) 懐かしい土地の思い出 op.42   グラズノフ(Aleksandr Glazunov 1865-1936)によるヴァイオリンと管弦楽版
4) ワルツ・スケルツォ
vn: イリヤ・カーラー(Ilya Kaler 1963-) ドミトリー・ヤブロンスキー(Dmitry Yablonsky 1962-)指揮 ロシア・フィルハーモニー管弦楽団 2004年録音
【CD30】
ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi 1678-1741)
1) 合奏協奏曲 ホ長調「春」 op.8-1 RV269
2) 合奏協奏曲 ト短調「夏」 op.8-2 RV315
3) 合奏協奏曲 ヘ長調「秋」 op.8-3 RV293
4) 合奏協奏曲 ヘ短調「冬」 op.8-4 RV297
5) 弦楽のための協奏曲 ト長調「アラ・ルスティカ」 RV151
vn: 西崎崇子(1944-) スティーヴン・ガンゼンハウザー(Stephen Gunzenhauser 1942-)指揮 カペラ・イストロポリターナ 1987年録音



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