オガーマン
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ファンタシー~サラバンド ヴァイオリンとピアノのための叙情的二重奏 プレリュードと聖歌 ナイトウィングス vn: ダン p: ティボーデ レビュー日:2007.4.20 再レビュー日:2017.8.22 |
★★★★★ オガーマンの作曲家としての力量を知らしめるアルバムです
ボーダレス的に活躍しているティボーデが、これまたジャンル横断的なヴァイオリニスト、ユー・ドン(デング)と組んでクラウス・オガーマン(Claus Ogermann 1930-)の作品を録音した。オガーマンはボサノヴァの開祖として知られるアントニオ・カルロス・ジョビン (Antonio Carlos Jobim 1927-1994)の象徴的なインストゥルメンタル・アルバム「波 wave」のアレンジを手がけた人物としても高名だ。 ボサノバヴァいうジャンルは、サンバ等に象徴的なブラジル音楽と、クラシック印象派音楽の結節点に誕生したようなジャンルであり、ジョビンもまた、クラシック音楽をベースとした音楽的教養を豊かに持ち合わせた人物であった。オガーマンの立ち位置も同様であり、クラシック音楽の背景を持ちながら新たなジャンルを開発した存在といっていい。 マックス・レーガーとスクリャービンの影響を受けながらも、そのソノリティは印象派やメシアンに通ずるもので、ここに収められた楽曲も、そのようなスタンスで楽しむことができる。いわゆる「ジャズ的」な雰囲気ともちょっと異なると思うこれらの作品だが、「デュオ・リリコ」の第4楽章はリズミックなピアノのコード進行に支えられてヴァイオリンが軽快にメロディを変容させていく即興的性格の濃い音楽で、今回の収録曲の中ではもっともジャズ的な要素を感じさせる。また第3楽章のどことなく幽かな情緒は品がよく美しい。一方で、「ファンタシー~サラバンド」や「前奏曲と聖歌」のような規模の大きい単一の楽曲では、明確な旋律性を持たず、幻惑的とも言える味わいをかもし出している。ティボーデのピアノの美音は特筆すべき。この人はドビュッシーやサティのアルバムでも、多彩なペダリングのマジックで様々な和音の響きを楽しませてくれたが、ここでもその特性をさりげなく発揮しており、ドンのヴァイオリンのやや細身の音色といい、実にハマッている。注目の録音と言っていい。 |
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★★★★★ 作曲家、オガーマンの姿を伝えるブルーな色彩を感じさせる1枚
ユー・デング(Yue Deng)のヴァイオリンとティボーデ(Jean-Yves Thibaudet 1961-)のピアノによるクラウス・オガーマン(Claus Ogermann 1930-)の作品集。オガーマンの名は、バーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand 1942-)やダイアナ・クラール(Diana Krall 1964-)のグラミー賞受賞アルバムのアレンジを務めた人としても知られるが、その音楽的功績として最も象徴的なのは、ボサノヴァの開祖として知られるジョビン (Antonio Carlos Jobim 1927-1994)の高名なインストゥルメンタル・アルバム「波 wave」のアレンジャーとしてのものだろう。ボサノバヴァいうジャンルは、サンバ等に象徴的なブラジル音楽と、クラシック印象派音楽の結節点に誕生したようなジャンルであり、ジョビンはクラシック音楽をベースとした音楽的教養を豊かに持ち合わせた人物であったであったが、オガーマンも然りである。当盤には、そのオガーマンによる4つの作品が収録されている。 1) サラバンド-ファンタジー 2) デュオ・リリコ 3) 前奏曲と聖歌 4) ナイトウィングス 2006年の録音。当録音以前に3)についてはクレーメル(Gidon Kremer 1947-)の録音も存在した。 オガーマンはレーガー(Max Reger 1873-1916)やスクリャービン(Alexander Scriabin 1872-1915)の影響を受けたとされるが、そのソノリティは印象派や、あるいはヒンデミット(Paul Hindemith 1895-1963)に近いものが感じされる。当盤に収録された曲たちも、そのようなスタンスで楽しむことができる。 「ファンタシー~サラバンド」は規模の大きい単一の楽曲で、やや暗いトーンのピアノの支えから自由な趣を持ったヴァイオリンの旋律が幻想的に行き交う。曲の進捗と共に明るさを増して帰結に向かうが、その簡素な明るさは、曲が進むにつれて暖かみを帯びたデングのヴァイオリンが全体を覆って行き、あわせてピアノが高音域に進出していくことによって得られる印象。そのように音楽が帰結に結びゆくさまは、なかなかに美しい。 「デュオ・リリコ」は4つの楽章からなる作品。後半の2楽章が特に性格的で、第3楽章は特有の乾いた情感があり、ピアノとヴァイオリンの音の分担が平素なようでいて、ほのかな味わいを感じさせるあたりに作曲家の妙を感じさせる。幽玄な美しさのある楽章だ。続く終楽章は、どこかジャズ的な要素があり、定型的でここちよいピアノのコード進行にしたがって、ヴァイオリンが軽快にメロディを変容させながら歌っていく。とても楽しい。 「前奏曲と聖歌」も冒頭曲同様に単一の楽曲で、明確な旋律性というより、どこかつねに変化する者を追い求めるような音楽だ。「ナイトウィングス」は夜というより、どこか孤独を感じさせる透明な響きがある。 ティボーデのピアノの美音は特筆すべきものがあり、全体にブルーな、「明るい夜の情感」を感じさせるベースを巧みに敷きつめている。デングのヴァイオリンは、楽曲のためか、やや細身の音色であり、そでがオガーマンの作品に最高といいたいほどの雰囲気を与えている。オガーマンという作曲家の魅力を十分に伝えてくれる一枚となっている。 |