ニールセン
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交響曲 第4番「不滅」 パンとシリンクス ラトル指揮 バーミンガム市交響楽団 レビュー日:2015.8.21 |
★★★★★ ロマン派的な解釈で、オーケストラを鳴らしきった見事なニールセン
サイモン・ラトル(Simon Rattle 1955-)指揮、バーミンガム市交響楽団の演奏による、デンマークの作曲家、ニールセン(Carl Nielsen 1865-1931)の以下の2作品を収録したアルバム。 1) パンとシリンクス op.49 2) 交響曲 第4番「不滅」 op.29 1984年の録音。 ニールセンは、同い年のシベリウス(Jean Sibelius 1865-1957)とともに北欧を代表するシンフォニストで、いずれも2015年に生誕150年を迎えたわけでが、関連する企画などはあまりなく、今現在も渋い存在の作曲家である。 そんなニールセンの作品の中で、唯一高い知名度を誇るのが、「不滅」のタイトルで知られる交響曲第4番。ニールセンは、もともと歩兵連隊のトランペット奏者であったが、1884年コペンハーゲン音楽院に入り、ガーゼ(Niels Wilhelm Gade 1817-1890)に学んだのち、1886年には王立管弦楽団でヴァイオリン奏者をつとめ、さらに1908年よりスヴェンセン(Johan Svendsen 1840-1911)のあとを次いで同団の楽長となった。多作家であり、その作風は伝統的対位法と民族的旋律に裏付けられたものだったが、次第に革新的な手法を見出し、多調性を用いるようになる。6曲書いた交響曲でいえば、この第4交響曲以後の3曲については、代表的な調性をもたない他調性様式で書かれた。そのようなわけで、交響曲第4番は、ニールセンがはじめて多調性のスタイルで書いた交響曲作品である。 交響曲第4番は、全曲が連続して演奏され、単一の楽章によって構成されている。その内容は大きく4部に分かれていて、このCDでも各部にトラック・ナンバーが振られているので、4楽章構成のように感じられる。なんといっても有名なのは第4部で派手に打ち鳴らされる2群のティンパニの共演で、当曲の最大の聴かせどころとなっている。 ラトルの演奏は、この交響曲をきわめて攻撃的に解釈したもので、聴き味のカッコよさという点で際立っている。特に第1部と第4部にその劇的な効果が明瞭に表れていて、躍動的でエネルギッシュな音色に満ちている。壮大に膨らませて歌われる主要主題は、クライマックスで壮麗に鳴り渡り、その後の下降音型の中で吹き鳴らされるブラスは見事な彫像性をもって響き渡る。力強い推進力に満ちた表現は、多調性をもつ革新的作品というより、より人々の馴染んだロマン派の名交響曲として、この作品を扱ったものと言えそうだ。中間部分は、両端部に比べてやや原曲の魅力が乏しいのであるが、木管の美しい気配が凛々しく、経過を楽しませてくれる、第4部のティンパニはとにかく白熱の一語で、合いの手を入れる弦もスリリング。 こうして聴くと、この演奏は、この作品の革新性を追求したサロネン(Esa-Pekka Salonen 1958-)の解釈とは、まったくといって異なるものと言えるだろう。透明な響きで線を描き出した、名盤として知られるブロムシュテット(Herbert Blomstedt 1927-)とも印象は異なる。オーケストラの機能を全開に鳴らし切ったという点で、従来の録音の中ではカラヤン(Herbert von Karajan 1908-1989)に近いかもしれない。いずれにしても、疑いなく同曲の名演に数え上げられるべき内容だ。 併せて収められている8分程度の管弦楽曲、「パンとシリンクス」は、録音がほとんどないだけに貴重。管楽器を中心に色彩豊かなオーケストレーションが楽しめる。 なお、いま現在では、当盤の内容に、さらにシベリウスの交響曲第5番を併せて収録した規格のCDが流通しているので、当アイテムより、そちらを入手される方が、適切と思われますので、購入を考えられる方は、併せて検討することをおすすめします。 |
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交響曲 第4番「不滅」 カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 レビュー日:2025.3.31 |
★★★★★ 80年代のカラヤンの録音レパートリーに加わった貴重な1枚
カラヤン(Herbert von Karajan 1908-1989)指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏によるニールセン(Carl Angust Nielsen 1865-1931)の 交響曲 第4番 op.29 「不滅」。1981年の録音。 カラヤンのレパートリーには、他の独墺系の巨匠とはまたちがったものがあって、面白いが、このニールセンの「不滅」はそういった意味でも印象的なもの。1981年にカラヤンは、同じくベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と、ショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovich 1906-1975)で唯一レパートリーとしていた「交響曲第10番」をしたし、さらに、サン=サーンス(Camille Saint-Saens 1835-1921)の「交響曲第3番」も録音している。1981年というのは、カラヤンのディスコグラフィを見ているとなかなか興味深い年である。圧倒的と言って良いベルイン・フィルと作り上げた関係のもつ可能性を、思い切り試してみたというようにも思える。 また、ニールセンという作曲家は、(こういう仮定にあまり意味のないことは承知のうえで)「不滅」という作品を遺していなかったら、後にそこまで注目されることはなかったかもしれないし、また「不滅」にこのカラヤンの録音がなければ、いま現在ほどには「名作」としての評価を定着させていなかったかもしれない。そう考えると、この録音は、いよいよ様々な意味で、重要なマイルストーンであったように思えてくる。 私が持っているCDは、ニールセンの「不滅」1曲が収録されている。収録時間は38分で、いかにも短い。ただ、それを欠点と感じさせないほどの存在感がある。ちなみに、後年になって再発売されたものは、収録時間の短さを補うためシベリウス(Jean Sibelius 1865-1957)の交響詩「タピオラ」と組み合わせたものがある。なので、今から入手しようという場合、その点も比較した方がいいだろう。ニールセンの交響曲第4番は、Allegro- Poco allegretto- Poco adagio quasi andante – Allegro という4つの部分から構成されているが、当CDは、1トラック目にAllegro- Poco allegretto、2トラック目にPoco adagio quasi andante – Allegroとされている。これはできれば4つに分けてほしかったが、これも再発売版では改善されている。 そのような仕様上の注文はあるのだが、演奏はいまさら私が付け加えるところもないほど、立派なもので、カラヤンはベルリンフィルのスペックを最大限に用い、生命力にあふれ、推進力の強い演奏を繰り広げる。特にAllegro部分では、ほとばしるエネルギーの奔流が圧巻で、パワフルな金管の咆哮とともに、絢爛たる音の絵巻を作り上げている。第1部のクライマックスでは、ワーグナー(Wilhelm Richard Wagner 1813-1883)を彷彿とさせるゴージャスなサウンドが練り上げられる。中間の緩徐楽章は、静謐で神秘的だ。これは同じ時期にカラヤンが録音したホルスト(Gustav Holst 1874-1934)の「惑星」の静謐な部分を想起させる。そして、最後のAllegroでは、有名な2対のティンパニが繰り広げる圧倒的な燃焼性が見事。オーケストラの輝かしい響きは、この作品が最後に「凱歌」を高らかに歌い上げたことを確信させる。当録音ののちの1987~89年にブロムシュテット(Herbert Blomstedt 1927-)がサンフランシスコ交響楽団と素晴らしい全集を録音したこともあって、このカラヤン盤がダントツというわけではなくなったが、それでも、この作品の存在感を決定づける圧倒的な燃焼度をともなった解釈をもたらした名演として、当録音の価値は、今もしっかりと刻まれているだろう。 |
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交響曲 第4番「不滅」 第5番 C.デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団 レビュー日:2019.7.23 |
★★★★☆ 80歳を過ぎてからニールセンに取り組んだ、C.デイヴィスの成果
コリン・デイヴィス(Colin Davis 1927-2013)指揮、ロンドン交響楽団による演奏で、ニールセン(Carl Nielsen 1865-1931)の以下の2つの交響曲を収録したアルバム。 1) 交響曲 第4番 op.29 「不滅」 2) 交響曲 第5番 op.50 第4番は2010年、第5番は2009年、それぞれライヴ録音されたもの。 シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957)やベルリオーズ(Hector Berlioz 1803-1869)を精力的に手掛けたデイヴィスであれば、ニールセンの音楽にも共感性は高そうに思う(というのは素人考えかもしれないが)のだが、80歳を越えてから、やっと手掛けたというイメージである。 当録音はシリーズの一環で、全6曲がリリースされたのだが、当盤にはニールセンの代表作である第4番、それに次ぐ傑作と考えられることの多い第5番が収録されている。 さて、その演奏であるが、まず第4番を聴いて驚いた。とにかく壮絶な「早さ」である。この曲の代表的な録音としてはブロムシュテット(Herbert Blomstedt 1927-)、それにカラヤン(Herbert von Karajan 1908-1989)といったところかと思うが、彼らが全曲の演奏に36~39分を費やしていたのに比べて、このデイヴィスの演奏は31分台の前半である。この「速さ」は、まぎれもなく当盤を聴いた瞬間の第一印象であるが、第4交響曲を通じて、その印象は、一貫する。オーケストラとしても、おそらく演奏可能なレベルで最速の部類であるのではないだろうか。その結果、とても燃焼度の高い音楽が再現されているわけだが、その一方で、急峻さを尊ぶあまり、バランスに緩みを感じる部分も残る。ライヴ録音なのでなおさらだ。緩徐的な部分でも、どこか急くようなものが感じられる。ティンパニ、金管の迫力は見事。この楽曲について、個人的には、構成感云々より、パーツごとの描写力で押し通すのは、十分アリと思うが、当演奏はそれを徹底した感がある。人によっては疑問を感じるだろうが、人によっては胸のすく演奏といったところだろうか。 それに比べると第5番はかなり平常運転を感じさせる解釈で、テンポも平均的と言って良いだろう。ただ、その激しさ、時代の不穏さを反映させた意味深なパーカッションなど、明晰なテクスチャーの中で、きれいに描写されていて、この楽曲の本質的なものを聴いているという実感を味わわせてくれる。ただし、楽曲の性格を反映したこともあるが、ダイナミックレンジは広めで、再生環境を選びそう。また、音色はややソリッドでメタリックな感じであるため、ところどころ冷たい印象を受けるが、近代史における暗い側面を感受して書かれた楽曲としては、これが相応しいとも思える。デイヴィスの演奏では、特に前半部分の緊張感に研ぎ澄まされた感性を感じさせた。 特に第4番が個性的な解釈であり、ライヴならではの燃焼とともに、不完全さも感じてしまうが、ニールセンの代表的作品2作を収録した一枚として、一定以上の品質を感じさせるものとなっている。 |
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ニールセンの「管楽器のための作品」集 fl: パユ cl: マイヤー ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 bsn: シュヴァイゲルト ob: ケリー hrn: バボラーク レビュー日:2008.2.23 |
★★★★★ ニールセンの「管楽器のための作品」集
カール・ニールセン(Carl Angust Nielsen 1865-1931)はデンマークを代表する作曲家。同年生まれの作曲家として同じ北欧のシベリウスがいるが、ニールセンは多調性を用いるなどより革新的手法を取り入れていた。その一方で伝統的対位法や民族的旋律も重視している。とはいえ交響曲第4番「不滅」を除けばその作品はまだあまり日本で知られているとは言えない。私の場合、最近ではアンスネスによるこの作曲家のピアノアルバムを聴き、このような魅力的な作品も残していたのか、と感慨を深めたが、ここに収録された管楽器を主眼とした作品群も実に面白い。これらの楽曲がいずれも作曲者の50代後半以降の作品であり、なぜここにきて楽器面で新しいジャンルに取り組んだのかも興味深い。 ニールセンの最後の交響曲など、「シンプル」という副題があるほど簡素さのあるものだったが、これらの管楽器のための作品にはそのようなニュアンスをあまり感じない。むしろ若々しい野心とでも言うか精力的なものが感じられた。特にフルート協奏曲は、終始力の漲る音楽で、それも一様ではないエネルギーの発散過程を示している。パユのフルートはもちろんきわめて高品質な音色で、楽曲の不可思議さとでもいう魅力を的確に伝えている。オーケストラにフルート、トランペットは使用されていないが、冒頭すぐに独奏フルートに木管が重ねられるシーンがあり、個性的だ。(でも実際、この曲を実演でやるのは難しいのでは。それほどオーケストラパートの比重は重い)。ラトルも力感溢れる指揮ぶり。 クラリネット協奏曲は自由な散漫さもあり即興的であり、しかし簡単にはできていない複雑な面白みがある。小太鼓も効いている。「管楽五重奏曲」ではバズーン、オーボエ、ホルンが加わり、不思議な郷愁と喜遊曲的な遊びに満ちている。またここではバボラークのホルンの雰囲気豊かな音色も注目される。 |