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ミヨー



管弦楽曲

バレエ音楽「世界の創造」 「ブラジルの郷愁」より「コルコバード」「スマレー」「ティジューカ」「ラランジェイラス」 「屋根の上の牛」
バーンスタイン指揮 フランス国立管弦楽団

レビュー日:2011.9.9
★★★★★ ミヨー一流のフランス的洒脱を存分に楽しめる痛快なアルバム
 ダリウス・ミヨー(Darius Milhaud 1892-1974)のバレエ音楽「世界の創造」、「ブラジルの郷愁」から4曲(第7曲「コルコバード」、第9曲「スマレー」、第8曲「ティジューカ」、 第11曲「ラランジェイラス」)、バレエ音楽「屋根の上の牛」を収録。バーンスタイン指揮フランス国立管弦楽団の演奏で1976年の録音。
 ミヨーは、ジャン・コクトー(Jean Cocteau 1889-1963)の音頭によって、印象派以後の新しいフランス音楽を創造することを目的として結成された「フランス6人組」とよばれる作曲家集団の1人である。ちなみに他の5人はルイ・デュレ(Louis Durey 1888-1979)、アルテュール・オネゲル(Arthur Honegger 1892-1955)、ジェルメーヌ・タイユフェール (Germaine Tilleferre 1892-1983)、フランシス・プーランク(Francis Poulenc 1899-1963年)、ジョルジュ・オーリック(George Auric 1899-1983)である。私は、プーランク、オネゲル、ミヨーの音楽に関しては、いろいろ聴いたことがあるが、他の3人の作品はほとんど聴いたことがない。それでもオネゲルとプーランクを比べただけでも、両者の作風はまったく異なっており、6人組と呼ばれた彼らが一つの方向性を目指したわけではないことは明白だろう。
 中にあって、ミヨーの音楽は、サティ流の洒脱と、ラテン的なリズムを併せ持った楽しい作風で、いかにもこの時代のパリの音楽のように思える。少なくとも、サティが好きな人なら、とても楽しめるに違いない。このディスクには、ミヨーの代表作と言える管弦楽曲が収録されていて、「ミヨー入門」のリスナーにも、とてもいいと思う。 
 「世界の創造」は、ミヨーがアメリカを訪れた際に接したジャズからのインスピレーションが顕著な作品。6つの楽曲からなるが、冒頭に聴かれるサキソフォーン・ソロによるなめらかで典雅な主題は、全曲を通じて、展覧会の絵のプロムナートの様に繰り返し奏されることから、大変印象に残る。加えて中間部にはラテン的なはじけっぷりのある曲もあり、独特のウキウキ感がある。ピアノや打楽器を交えたリズミックな盛り上がりも痛快。バーンスタインのアプローチは、いかにもユーモアのテイストを助長していて、この曲の性格を色濃く表現している。
 ミヨーはブラジルにも滞在しており、その印象から、「ブラジルの郷愁」、バレエ音楽「屋根の上の牛」といった作品が生まれる。ブラジルの大衆音楽からの引用、サンバなどのリズム処理も加わりながら、フランスらしいエスプリでまとめたミヨーならではの彩色が堪能できる。日本にはサティが好きな人が多いが、そういった人たちには、ぜひミヨー(それにプーランク)といった作曲家たちの世界に足を伸ばして欲しいと思う。


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器楽曲

ブラジルの思い出 家庭のミューズ ボヴァリー夫人のアルバム(映画音楽「ボヴァリー夫人」より)
p: タロー ナレーター: マドレーヌ・ミヨー

レビュー日:2008.5.7
★★★★☆ ミヨーの「ラテンのエスプリ」が楽しめる一枚
 ダリウス・ミヨー(Darius Milhaud 1892-1974)のピアノ作品集。ミヨーはユダヤ系フランス人の作曲家。地中海的精神やラテン的な明るさが特徴的。ここで収録されているのは以下の3曲。(1) ブラジルの思い出 (2) 家庭のミューズ (3) ボヴァリー夫人のアルバム。ピアノはアレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud)、録音は1995年。(2)と(3)ではミヨー夫人(マドレーヌ・ミヨー Madeleine Milhaud)の英語のナレーションが入る。
 ミヨーは第一次世界大戦中、外交官詩人ポール・クロデル(Paul Claudel)の秘書としてブラジルに滞在していた。戦後帰国し、プーランク、オネゲル、オーリック、タイユフェール、デュレと「6人組」と称されるサティ以後の音楽活動に取り組むメンバーに数えられることになる。だが、ミヨーの芸風は、「6人組」の旗手ともいえるコクトー(「雄鶏とアルルカン」などで有名)の美学に必ずしも合致していない。ミヨーはストラヴィンスキー的な調性の重なりとともに、古典的和声をも重んじている。もっともコクトーの美学に沿ったのはプーランクであり、オーリックであったのだろう。
 「ブラジルの思い出」は民謡、既存音楽の旋律を用いた12の舞曲から構成される組曲で、自由でエスプリの利いた雰囲気に満ち、時としてラテン的な熱が発せられる。明るい気風に満ちた音楽だ。「家庭のミューズ(ムサ)」は15の小曲から成っており、当アルバムでは曲頭に曲名がナレーションされる。あってもなくてもいいような感じだが、どことなく中学校の視聴覚室で受けた英語のヒアリングの授業を思い出す。家庭内描写の音楽であり、ほほえましい雰囲気が伝わってくる。「ボヴァリー夫人のアルバム」は映画音楽「ボヴァリー夫人」から編まれたもので、もっとも古典的で情緒的な旋律が支配する。ナレーションもここではもう少しながいセンテンスを受け持っている。古典的なメロディーのモチーフは、私にはシューベルトやグリーグを思い起こさせるがどうだろうか?タローのピアノはさわやかなで、適度に香味がある。ミヨーのこれらの楽曲を演奏するのに実に適切だと思う。

スカラムーシュ マルティニック島の舞踏会 パリ(4台のピアノのための6つの小品) エクスの謝肉祭 フランス組曲 プロヴァンス組曲
p: イヴァルディ リー ベロフ コラール プレートル指揮 モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2011.9.9
★★★★★ ミヨーならではの色彩感溢れる楽曲たちが集められています
 ダリウス・ミヨー(Darius Milhaud 1892-1974)の作品集。2種の音源が再編集されたもので、まず収録内容を書こう。
(1) スカラムーシュ(2台のピアノ曲版)
(2) マルティニック島の舞踏会(2台のピアノによる)
(3) パリ(4台のピアノのための6つの小品)
 ピアノは、中国、南京生まれのアメリカ人ピアニスト、ノエル・リー(Noel Lee 1924-)とフランスのピアニスト、クリスティアン・イヴァルディ(Christian Ivaldi 1938-)。(3)ではさらにミシェル・ベロフ(Michel Beroff 1950-)とジャン=フィリップ・コラール(Jean-Philippe Collard 1948-)が加わる。(1)~(3)は1971年の録音。
(4) エクスの謝肉祭(ピアノと管弦楽のための作品)
(5) フランス組曲
(6) プロヴァンス組曲
 (4)~(6)は、オーケストラのための作品で、ジョルジュ・プレートル(Georges Pretre 1924-)指揮モンテカルロフィルの演奏。ピアノ独奏はミシェル・ベロフ。(4)~(6)は1983年の録音。
 ミヨーは、ジャン・コクトー(Jean Cocteau 1889-1963)の音頭によって結成されたフランス6人組とよばれる作曲家の1人で、印象派後のフランスの新しい音楽を探求した1人とされる。中にあってミヨーの作風は、プーランク(Francis Poulenc 1899-1963)とともに6人組以前の象徴的作曲家であるサティ(Erik Satie 1866-1925)のエッセンスを継いだ者と思われるが、日本ではサティの人気が爆発的だったのに比し、プーランク、ミヨーへの反応はほとんど皆無のようなものだったと思う。しかし、両者の音楽は、聴いてみると、実に色彩鮮やかで楽しいのである。
 ミヨーの音楽には魅力的なリズムやメロディーがあり、前述の色彩とあいまって聴き手に喜びをもたらす性格のものだ。「スカラムーシュ」はモリエール(Moliere 1622-1673)の「空とぶお医者さん」の付随音楽として作曲されたもので、明るい活力に満ちた躍動感溢れる音楽。2台のピアノが繰り広げるマジカルな響きが楽しさの極致。「フランス組曲」は代表作の一つとして知られる。フランスの民謡を素材とした5曲からなる管弦楽曲で、5つの小曲には「ノルマンディー」「ブルターニュ」「イル・ド・フランス」「アルザス・ロレーヌ」「プロヴァンス」の名が与えられている。終曲ではプロヴァンス太鼓が登場することでも有名だ。
 ミヨーの作風は、時代背景を考えると、調性的で保守的とも言える。しかし、手法は保守的であっても、そこから編み出した生命力は、清新な力を秘めたものだった。ここに収録された楽曲と演奏は、その価値を、輝きを持って伝えてくれている。


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