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ミチャンス



現代音楽

ピアノ五重奏曲 ドラヴィダ・ムーズ 弦楽八重奏のためのディヴェルティメント
ユトレヒト弦楽四重奏団 p: エッカードシュタイン ob: オーステンレイク ロイスダール四重奏団

レビュー日:2021.7.15
★★★★☆ 様々な音楽文化の影響を感じさせるミチャンスの室内楽曲集
 アルゼンチンで生まれ、オランダに移住して作曲家として活動しているカルロス・ミチャンス(Carlos Michans 1950-)の室内楽作品集。下記の3作品を収録している。
1) ピアノ五重奏曲
2) ドラヴィダ・ムーズ
3) 弦楽八重奏のためのディヴェルティメント
 全曲を通じて、オランダに拠点をおくユトレヒト弦楽四重奏団による演奏。1)ではセヴェリン・フォン・エッカードシュタイン(Severin von Eckardstein 1978-)のピアノが、2)ではパウリーネ・オーステンレイク(Pauline Oostenrijk 1967-)のオーボエが、3)ではロイスダール四重奏団が演奏に加わる。
 2011年の録音。
 ミチャンスは、自身の家系が世界的に様々な地域に血脈をもっており、また自身も、世界各地を旅したり、講義や演奏等を通じて交流していることから、そのインターナショナルな背景を自身の音楽素養の源として、活動を行っているという。当盤に収録された中では、「ドラヴィダ・ムーズ」が、象徴的な作品で、南インドのドラヴィダの文化に触れた経験を作品に還元している。この曲は、5つの楽章からなるが、後半3つの楽章に、それぞれ「タミルの詩(Tamil Lyric)」、「ミーナクシの歌(Meenakshi's Song)」、「マラヤーラムの民謡(Malayalam Folk Song)」といったタイトルが付されている。タミル語は、南インドのタミル・ナードゥ州の公用語である。
 この「ドラヴィダ・ムーズ」がエスニックな要素を持った面白い作品。ただし、音楽作法としては、ヨーロッパの伝統音楽の方法に則っていて、聴き味としては、オーソドックスな近現代の書法に沿ったものなのだが、リズムとメロディの配合に新鮮味と個性があって、面白い。特に後半の楽章にその点が強く感じられ、この作曲家の精神性が明瞭に伝わってくる。
 「弦楽八重奏のためのディヴェルティメント」は急緩の抑揚が明瞭で、これも分かりやすい。途中から始まる瞑想的な部分は、退廃的な美観があって、少しペッテション(Allan Pettersson 1911-1980)の交響曲を思わせるところがある。また、この曲は、ミチャンスの作品が、難しい現代曲ではなくて、十分に聴き手の側に近づいてきてくれる親しみやすさを持っているものでもあると思う。
 冒頭に収録された「ピアノ五重奏曲」は、純ヨーロッパ的作風と言って良く、第1楽章の衝撃性から、この時代のクラシック作品をいくつか聴いた人にとっては、十分に馴染みのあるものと言えるだろう。いずれにしても、ミチャンスが、現代の作曲技法を十分に身に着けており、それを自身の作品に昇華させる能力を持っていることを示している。中間楽章では、バルトークを思わせるソノリティーがあるところも、分かりやすい。
 ユトレヒト弦楽四重奏団を中心とした各演奏は、いずれも誠実に楽曲にふさわしい響きのテンポを突き詰めたと感じられるものであり、これらの曲のオーソドックスな解釈としてふさわしい。奇才エッカードシュタインのピアノは、ここでもセンスを感じさせるものとして印象的だ。


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