マスネ
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歌劇「ウェルテル」 シャイー指揮 ケルン放送交響楽団 ケルン児童合唱団 T: ドミンゴ Ms: オブラスツォワ グルントヘーバー モル オジェー レビュー日:2012.12.19 |
★★★★☆ 甘美なる旋律と音響で縁取られたマスネの音楽
フランスの作曲家、マスネ (Jules Massenet 1842-1912)の代表作、歌劇「ウェルテル」全曲。リッカルド・シャイー(Riccardo Chailly 1953-)指揮ケルン放送交響楽団とケルン児童合唱団の演奏。1979年の録音で、CD2枚組。主な配役は以下の通り。 ウェルテル: プラシド・ドミンゴ(Placido Domingo 1941- テノール) シャルロット: エレーナ・オブラスツォワ(Elena Obraztsova 1939- メゾソプラノ) アルベール: フランツ・グルントヘーバー(Franz Grundheber 1937- バリトン) 大法官: クルト・モル(Kurt Moll 1938- バス) ソフィー: アーリーン・オジェー(Arleen Auger 1939-1993 ソプラノ) この歌劇の原作はかの文豪ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe 1749-1832)の小説「若きウェルテルの悩み」である。しかし、いきなりで恐縮だが、私の感覚では、しょうもないストーリー(失礼!)で、要は主人公の勝手な恋の話である。主人公(ウェルテル)はある機会に、結婚の決まっているシャルロットに熱を上げてしまう。ウェルテルは何度となくシャルロットに愛を迫り、シャルロットもその気がありながら、夫のアルベールと別れることはしない。最終的にウェルテルは自殺を図り、死にぎわにシャルロットが駆けつけて、気持ちだけ通じました、というもの。私は恋愛に悲壮感を漂わせる重たいストーリー自体には、正直胃もたれするところがあり、その点でロッシーニなんかの明るいノリの方が好きなのだが、もちろん、この作品が客観的・歴史的に高く認められ、かつ芸術的に高い価値のあるものであるということは否定しない。その通りだろう。 現代では、マスネの作曲家としての名声は、二つのオペラ「マノン」「ウェルテル」と「タイスの瞑想曲」の3曲のみによっている。私もこれ以外ではピアノ協奏曲くらいしか聴いたことがないが、「ウェルテル」は見事な旋律の宝庫であり、マスネ一代の傑作といったところ。ただし、マスネの芸風は甘い旋律に特徴があり、このようなオペラを聴いていると、やや食傷気味になるところもある。オーケストレーションはドイツ的で、むしろワーグナーあたりの影響を感じさせ、ライト・モティーフの使用もあるが、とにかく甘美な味付けが濃厚の極みである。 しかし、この演奏はこの作品のある種の下品さを可能な限り浄化しており、聴きやすい。堅実なドイツのオーケストラという選択が良かったかもしれない。さて、聴きどころだが、有名なアリア二つが外せないので書いておこう。シャルロットの「手紙の歌(Werther! Qui m'aurait dit /Ces lettres!) CD2 トラック2」とウェルテルの「オシアンの歌(Pourquoi me reveiller) CD2 トラック8」である。 歌手陣では、やはりドミンゴの歌唱に注目したい。甘い音楽にこの美声であるから、相当な効力を持って響き渡っていて、洗脳されるくらいの圧力を感じてしまう。こういう存在感のある人というのは、どの世界でも限られるものだ。 たっぷりした情感で蒸せるような部分もあるが、この濃厚さを適度に緩和したシャイーの指揮によって、適度な接しやすさを保っている当演奏が、私にはふさわしく感じられる。 |