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マルティヌー



交響曲

交響曲全集
ヤルヴィ指揮 バンベルク交響楽団

レビュー日:2010.10.16
★★★★☆ 多方面にオールマイティな活躍をしているヤルヴィらしい録音
 ボフスラフ・マルティヌー(Bohuslav Martinu 1890 ' 1959)の全6曲の交響曲を収録。ネーメ・ヤルヴィ指揮バンベルク交響楽団の演奏で、1987年から88年にかけて録音されたもの。
 マルティヌーはスーク(Josef Suk)、ルーセル(Albert Roussel)に師事したチェコの作曲家で、大戦中はアメリカに渡り活躍した。大変な多作家で、この時代にしては圧巻の400を超える作品を書いている。作風は「新古典主義」と形容されることが多く、同時代の多の作曲家より保守的である。メロディーに訴えるタイプではないが、チェコの民俗音楽の取り入れがある。また、印象派やジャズの影響も多く、評価もまちまちと言える。
 遺した作品の多くが「協奏曲」もしくはそれに準ずる形式を持っている点が際立っていて、楽器の奏法に様々な考察を行ったと思える。「交響曲」を手掛けたのはかなり遅く、クーゼヴィツキーの依頼により交響曲第1番を作曲したときはすでに53歳であった。以後続けて計6曲の交響曲を書いた。
 6曲の交響曲はいずれも4楽章か3楽章の古典的な楽章構成を持っているが、主調性が明瞭ではないことが多い。また協奏曲形式を踏襲するように楽器がソロ、もしくは複数のソリストが合奏を奏でるシーンが多い。また第6番以外はピアノを含む編成になっていて、ピアノの効果音的な扱いが面白い。
 全般にオーケストラ技法を駆使した様々な変容を聴かせる重々しい音楽となりがちで、聴く側にもある程度「心得」のようなものが必要に思える。個人的に好きなのは第5番の特に前半2楽章で、ホルストのような音色を踏まえて、人間的な不安や自然への畏怖のようなイメージに彩られた雰囲気が良い。やや派手なオーケストレーションも効果的。大戦の影響を色濃く反映した第3番は悲劇的で、ティンパニ、金管の重々しい強奏が心を打つ。また、戦争終結の喜びが反映されているとされる第4番は陽性の音楽だが、時折パワフルな推進を見せて個性的だ。第6番は「交響的幻想曲」の副題の通り幾分構成の自由な音楽で、思うままに作曲のペンを走らせた感じである。また第1番、第2番は印象派の憧憬を宿した観があり、時折ドビュッシーを思わせる。
 ヤルヴィはバンベルク交響楽団からかなり力強い音色を引き出しており、マルティヌーの交響曲が持っているある種の迫力を追及したものと思う。録音・演奏ともに過不足なく、マルティヌーの交響曲をバランスよく俯瞰できる。

交響曲 第3番 第6番「交響的幻想曲」
ノイマン指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2005.1.15
★★★★☆ マルティヌー入門にうってつけの1枚
 デノンの「クレスト1000」という廉価版シリーズは比較的マイナーな作曲家や作品にもスポットライトを当てている点が特徴的でマニア受けする企画といえるだろう。このCDもそんな一枚だ。
 ボフスラフ・マルティヌー(1890-1959)はチェコの生んだ重要な作曲家の1人と考えられている。最近評価の高まりつつある作曲家の1人。
 その生涯は大戦の影響を大きく受けており、祖国を遠く離れたアメリカ大陸で主に活躍した。その作品群の幹をなすのが6曲の交響曲である。
 全般に暗い重い雰囲気があり、第6交響曲以外はピアノが入っている。サウンドはマーラーの延長戦上と思えるが、武満や伊福部的なサウンドもあり、親しみやすい(曲想は重いが)。
 最高傑作と考えられる第6交響曲も、戦争の印象からか不安さや悲しみを感じる音楽となっている。
 マルティヌーの特徴は重い陰鬱な楽想の合間に挿入されるボヘミア的な情緒である。第6交響曲も特徴的な弦のさざめきで悲劇的な曲想が始まるが、時折はしる経過句がちょっとドヴォルザークを彷彿とさせたりするのだ。独奏ヴァイオリンが哀を奏でたり、木管の重奏が不安を煽ったり・・・なかなか聴き応えがある。第2楽章も慟哭のはてにボヘミアの響きがこだまし、なんとも独特の雰囲気をたたえている。哀しいながらもちょっとスラブ舞曲風のリズムをとってみたり・・・
 第3交響曲はやはりピアノの音色が活躍する交響曲として面白い。瞬間瞬間で伊福部昭を思い起こしてしまう方も多いのではないだろうか。
 値段を考えると、ライブラリ向きに揃えておいていい1枚だ。


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協奏曲

ピアノ協奏曲 第2番 第4番「呪文」 ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画 序曲
p: コリンスキー アシュケナージ指揮 バーゼル交響楽団

レビュー日:2010.1.25
★★★★★ マルティヌーの傑作群を収録した名演
 ボフスラフ・マルティヌー(Bohuslav Martinu 1890-1959)は、チェコの作曲家。当ディスクはマルティヌーの没後50年のアニヴァーサリー・イヤーにリリースされたもの。収録曲は順に「序曲」「ピアノ協奏曲第2番」「ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画」「ピアノ協奏曲第4番『呪文』」となる。アシュケナージ指揮バーゼル交響楽団の演奏で、ピアノ独奏はロバート・コリンスキー(Robert Kolinsky)。録音は2005年と2007年にライヴ収録されたもの。
 マルティヌーの作品がこのような形で紹介されることが喜ばしい。その作風は「新古典主義」と形容されることがある。そのネオ・バロックスタイル(neo-baroque style)とも呼ばれる作品を代表するのがここに収録されている最初の2曲であろう。「序曲」は祝典行事のために書かれた作品で、合奏協奏曲の色彩が小気味のテンポ、瀟洒な展開で炸裂する。「ピアノ協奏曲第2番」は、そこに更にモラヴィアを髣髴とさせる特有のメロディラインが加わる。メロディーの処理方が面白く、千変万化と言った趣。第2楽章の郷愁も美しい。南フランスのアレッツォの教会のフレスコ画からインスピレーションを受けたとさせる「ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画」は傑作として知られる管弦楽曲。印象派的な色彩が魅力である一方で、R.シュトラウスを思わせる典雅なオーケストレーションであり、オネゲルを髣髴とさせる躍動感がある。ことに神秘と情熱の入り混じる第2楽章が力作だ。最後に収録されている「ピアノ協奏曲第4番」は「呪文」という名が与えられている。近代社会への警鐘的なメッセージが込められていると言うが、それほど暗い曲ではない。第2楽章の瞑想的な雰囲気が印象深い。後に作曲者自身が「真実の果てしない探求と人生の意義、および音楽への尊敬」を表現したとしている。
 演奏が良い。アシュケナージのサウンドはエクストンのソリッドなものより、オンディーヌのソフトなものの方がよく捕らえられているかもしれない。バーゼル管弦楽団の素晴らしい技量とあいまって、きわめて高い演奏効果を獲得している。コリンスキーのピアノも技巧豊かでありながら、ほどよい柔軟性があり、ぺダリングの妙で暖色系の響きになっていると思う。マルティヌーの音楽世界を良く体現した素晴らしい録音だ。

二重協奏曲「2つの弦楽合奏,ピアノとティンパニのための」 弦楽四重奏とオーケストラのための協奏曲 3つのリチェルカーレ ピエロ・デ・ラ・フランチェスカのフレスコ画 シンフォニエッタ ラ・ホヤ トッカータと2つのカンツォーナ
コンロン指揮 フランス国立管弦楽団 p: エッセール ブランディス四重奏団

レビュー日:2005.5.4
★★★★★ ルティヌーの管弦楽ワールドを堪能できます
 エラートの2枚組みCDで、1890年生まれのチェコの作曲家、マルティヌーの作品を収めている。1990年ごろので全曲デジタル録音。
 弦楽四重奏とオーケストラのための協奏曲が重厚な響きながら、運動的な迫力もあり、たいへん面白く聴ける。四本の弦楽器がオーケストラと張り合う様に楽器を力強く響かせるさまはなかなかすごい。
 ピエロ・デ・ラ・フランチェスカのフレスコ画はちょっとヒンデミットを思わせる多様さがある・・・汎ヨーロッパ的作風とでもいえばいいのか。
 シンフォニエッタ ラ・ホヤはラ・ホヤという町のアマチュア・オーケストラのために作られた作品らしい。ここではマルティヌーお得意の「ピアノを含むオーケストラ」が鳴る。
 コンロンの自信みなぎる指揮ぶりと、オーケストラのキレのいいサウンドは特筆される。これらの作品の貴重な録音ともいえる。なお、一部タイミングの表記が入れ替わって誤植されています。


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