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マルタン



協奏曲

管楽器のための協奏曲集
シャイー指揮 コンセルトヘボウ管弦楽団 fl: ズーン  sax: ハール p: ブラウティハム tb: リンドベルイ

レビュー日:2015.11.12
★★★★☆ スイスの作曲家、マルタンの作風を知る一枚
 リッカルド・シャイー(Riccardo Chailly 1953-)指揮、コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏による、スイスの作曲家、フランク・マルタン(Frank Martin 1890-1974)が書いた管楽器のための協奏的作品を集めたアルバム。
 収録内容は以下の通り
1) フルート、ピアノと弦楽のためのバラード 1992年録音
2) サクソフォン、ピアノと管弦楽のためのバラード 1994年録音
3) ピアノと管弦楽のためのバラード 1994年録音
4) トロンボーン、ピアノと弦楽のためのバラード 1994年録音
5) 7つの管楽器、ティンパニ、打楽器と弦楽のための協奏曲 1991年録音
 また、主な独奏者は以下の通り。
 フルート: ジャック・ズーン(Jacques Zoon 1961-)
 サクソフォン: ジョン・ハール(John Harle 1956-)
 ピアノ: ロナルド・ブラウティハム(Ronald Brautigam 1954-)
 トロンボーン: クリスチャン・リンドベルイ(Christian Lindberg 1958-)
 マルタンは1890年にスイスのジュネーブで生まれ、大学で数学と物理学を専攻したが、音楽の道を歩み、ピアニスト兼作曲家として活動した。その作品は協奏曲や舞台音楽といったものが中心で、その作曲技法は、十二音技法を引用しながらも、調性から乖離しないものであった。
 これらの作品を聴くと、同郷の作曲家、オネゲル(Arthur Honegger 1892-1955)やショスタコーヴィチ(Dmitrii Shostakovich 1906-1975)を思わせる音色の傾向を感じる。楽曲の構成はわりと平明であるが、旋律がどことなく陰鬱であり、多くの人に愛好される楽曲からは遠いだろう。実際、現在でも、マルタンの作品が録音されることはほとんどない。
 しかし、そんなマルタンを比較的積極的に取り上げていたのがシャイーであり、当録音も彼の20世紀音楽への適応力の高さを示す一枚だと思う。
 個人的に美しいと感じるのは「ピアノと管弦楽のためのバラード」で、その中間部の表情を押さえた楽器間でのフレーズの交換に、不思議な秘めやかさが漂っている。映画音楽的とも言えるが、十二音音楽の使用に由来する響きが、音の緊張感を高めている。
 収録曲の中では、末尾に収録された「7つの管楽器、ティンパニ、打楽器と弦楽のための協奏曲」のみがはっきりと急緩急の3楽章構成によっていて、その第3楽章はティンパニの華やかな効果で外向的な音楽となっている。この部分でニールセン(Carl Nielsen 1865-1931)の不滅を想起する人もいるだろう。
 「サクソフォン、ピアノと管弦楽のためのバラード」は、サクソフォンの音色が興味深いが、旋律は弦楽器のために書かれたようなところもあり、サクソフォンという楽器の特徴を、それほど強く印象付ける楽曲ではない様に思う。
 各奏者の優れた技巧による演奏の安定感は高く、シャイーの指揮の精妙なこととあいまって、非常に高品質な録音作品となっている。そういった意味で、マルタンの音楽を知るには、現在流通しているものの中で、もっとも適切な一枚と言っていいだろう。


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