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マデルナ



現代音楽

クァドリヴィウム アウラ ビオグランマ
シノーポリ指揮 北ドイツ放送交響楽団

レビュー日:2012.8.1
★★★★☆ 「専門家が専門家のために」書いたような音色の技法を可能な限り再現
 イタリアの指揮者、ジュゼッペ・シノーポリ(Giuseppe Sinopoli 1946-2001)による同郷の現代音楽作曲家ブルーノ・マデルナ(Bruno Maderna 1920-1973)の作品集。収録曲は、「クァドリヴィウム(Quadrivium)」「アウラ(Aura)」「ビオグランマ(Biogramma)」の3曲。北ドイツ放送交響楽団の演奏で1979年の録音。
 マデルナは、不確定性を取り入れたアナーキズムに傾倒した作曲家である。彼は、ドイツのヘッセン州南部の都市ダルムシュタット(Darmstadt 2012年の人口はおよそ15万人)で1947年より行われている現代音楽の名高い講習会「ダルムシュタット夏季現代音楽講習会」に所縁のある作曲家の一人として知られる。この講習会を経た主要な作曲家として、ベリオ(Luciano Berio 1925-2003)、ブーレーズ(Pierre Boulez 1925-)、リゲティ(Ligeti Gyorgy 1923-2006)、ノーノ(Luigi Nono 1924-1990)、シュトックハウゼン(Karlheinz Stockhausen 1928-2007)、クセナキス(Iannis Xenakis 1922-2001)といった名が上がるが、マデルナの名が彼らと同等かというと、微妙なところかもしれない。
 マデルナの作風は、現代音楽家の分類に際してもなかなか置き所のないもので、また不確定性を重視したテープ音楽などへのこだわりは、逆に彼の作品に時間の経過により喪失する性格を与えた。評価が一様ではない要因と言えよう。
 「クァドリヴィウム」は名の通り4つの分断された管弦楽集団にそれぞれ指示を与え、音楽を構成する書法によっている。当然のことながら指揮者の負担は尋常ならざるものとなる。楽曲は7か所の速度標記に従ったパーツから構成されていて、ここで、マデルナは音のブロックをいかに構築していくかといったメロディと無縁の主眼を目指す。音色だけで、例えば「喜び」といった感情を表現する方法論を模索する。
 一方、「アウラ」はやや感傷的な素質をもった作品で、トランペットの響きが印象的だ。
 「ビオグランマ」は後期の作品で、あらゆる楽器が打楽器的な「点」の音を演出する。中にあってオーボエとイングリッシュホルンにより断片的で心象的なフレーズが聴かれる。
 これらの音楽は、音楽の要素の一つであるメロディを極限まではぎ取ったもので、現代音楽的な、リズムと音色の構成を突き詰めたものと考えられる。演奏会で取り上げられることはほとんどないであろうし、このようなCDで興味の対象として接するのが唯一の機会と言っていいだろう。音響的にはホラー映画のサウンドトラックのようにも聴こえるので、聴く者の自由でそういう風に楽しむことも出来ると言えば出来そう。
 しかし、私も現代音楽の理論的背景に詳しいとは言えず「専門家が専門家のために」書いたようなこれらの楽曲の多くを理解するのは難しい。
 シノーポリは極限まで音色を追求し、楽器バランスも熟慮されていると思われる。これらの作品の再現としては、まずは理想的な環境であったに違いない。


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