リュリ
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ディヴェルティスマン集 センペ指揮 cemb: センペ カプリッチョ・ストラヴァガンテ レビュー日:2016.6.6 |
★★★★★ リュリの音楽の深刻な気高さを表現した好録音
スキップ・センペ(Skip Sempe 1958-)指揮、カプリッチョ・ストラヴァガンテの演奏、ギレメッテ・ローレンス(Guillemette Laurens 1957-)のメゾ・ソプラノ独唱による、ジャン=バティスト・リュリ(Jean-Baptiste Lully 1632-1687)のディヴェルティスマン集。1990年の録音。 ディヴェルティスマンはディヴェルティメントと共通の語源を持つ音楽用語で、訳すと「喜遊曲」となる。その意図は、歌劇の中で物語の進行とは別に聴衆を楽しませるために挿入された舞踏音楽ということになる。当盤に収録された楽曲は以下の通り。 ディヴェルティスマン1 1) 「アマディス」序曲 2) 「シャンボールのディヴェルティスマン」~魅惑の夜よ 3) 「ミューズ」から「オルフェの朗唱」 4) 「ヴェヌュスの誕生」から「バッキュスとアドリアヌのためのアントレ」 5) 「ヴェヌュスの誕生」から「岩々よ、お前たちは耳が聞こえない」 6) 「花の女神」から「アドニスの死に対するヴェヌュスの嘆き」 7) 「ヴェヌュスの誕生」から「地獄の神」 ディヴェルティスマン2 8) 「プシシェ」序曲 9) 「プシシェ」からイタリアの嘆き 10) アマディスのシャコンヌ ディヴェルティスマン3 11) 「愛の勝利」から「アポロンのアントレ」 12) 「強いられた結婚」から「もし愛があなたたちを従えるなら」 13) 「アルミード」から「あの人はついに私の手の内に」 14) 「アマディス」から「悪魔と怪物たちのためのエール」 15) アルミードのパッサカーユ CD表記では1,2,3と分かれているが、この分類は、センペによって、組曲ふうの見立てをもって、あらたに編算された楽曲の配列による。この配列がなかなか巧みで、聴き手は最初から一つの目的を持って書かれた作品であるかのような気持ちを味わうだろう。 リュリの楽曲は、「喜遊曲」らしい伸びやかさがある一方で、芸術的な格調を感じさせるもので、センペ以下による合奏も、その点で実に好ましいものと感じられる。各楽器の凛々しい響きと、厳格な基礎リズムの明示は、とてもまじめなものであり、現代において芸術的に再現された響きとして徹底している。また、ローレンスの歌唱も気高さや厳かさを感じさせるもので、ディヴェルティスマン1の後半の歌唱の見事さは、このアルバムの重要な聴きどころとなっている。 楽曲では、各組曲の終曲に抜粋された作品に、特に普遍的な価値の高さを感じさせるものがあり、シャコンヌやバッカサーユの持つ崇高さは、当時のフランス様式の一つの究極的なものを提示していると言える。 選ばれた楽曲たちが、リュリの喜劇におけるエンターテーメント性豊かなバレエの中にあって、深刻さを感じさせるものたちであり、それゆえに、厳格さを背景としたセンペらの演奏が、ふさわしく響くのは、当然と言えば当然かもしれない。とはいえ、リュリの音楽の持つ“ある一面”を中心に抽出しながら、リュリの作品に触れる絶好の一枚として出来上がっている。 |